2009年12月06日
日本弁護士連合会水俣病被害実態調査 結果報告書
水俣病被害実態調査 結果報告書
2008年10月
日本弁護士連合会
第1 調査の概要
1 調査の目的
2 調査の方法
3 調査の概要
4 調査結果を見る上での注意点
第2 調査分析
1 基本情報について
2 現在の健康被害の内容について
3 居住歴,生活歴等について
4 昭和20年代から昭和40年代まで不知火海の魚介類の摂取状況
5 家族構成・同居していた家族について
6 水俣病関係の認定申請について
7 家族の申請状況について
8 胎児性世代,小児性世代の健康被害について
9 平成16年10月15日関西水俣病訴訟最高裁判決後に水俣病認定申請をした方のきっかけ
10 新保険手帳の申請をされた方のきっかけ
11 不知火海沿岸全域の健康調査について
12 水俣病の認定(公健法)基準について
13 今回の調査に関する自由記載
第1 調査の概要
1 調査の目的
日本弁護士連合会は,1977年の人権擁護大会において「公害被害者の救済に関する決議」
を採択し,それ以降,水俣病問題についての調査研究を重ね,被害者の方の即時・完全救済等
を求める決議,具体的方策の提言などを行ってきた。
そして,2007年7月に「与党水俣病問題に関するプロジェクトチーム」が公表した「水
俣病に係る新たな救済策について(中間取りまとめ)」を受け,同年9月14日に「水俣病問
題について抜本的な救済策を求める意見書」を発表した。同意見書では,公健法に基づく救済
策を抜本的に改め,新たに総合的な救済施策を講じるべきであることを提案するとともに,新
たな救済施策の具体的内容として,水俣病認定基準の抜本的改定,水俣病患者に対する十分な
補償,水俣病患者に対する医療面,福祉面に対する恒久対策,国及び熊本県による経済的負担
等の事項を提示した。また,水俣病患者の実効的な救済を図るために,不知火海岸沿岸の健康
調査を早急かつ網羅的に行うべきことを提案した。
その後,与党水俣病問題に関するプロジェクトチームが救済策の実現に向けて検討を重ねて
いるが,依然として公健法に基づく認定基準を堅持する態度を変えておらず,また,一時金の
金額も関西水俣病訴訟最高裁判決の水準額(400万円から800万円)を大幅に下回る金額
(150万円)しか提示していないなど,当連合会が発表している提言からすると未だ不十分
なものにとどまっていると言わざるを得ない。また,国による不知火沿岸の健康調査も未だに
実施されていない。
そこで,当連合会としては,現地を訪れて水俣病患者の被害実態を調査することにより,具
体的なあるべき救済施策を研究し,今後も引き続き国に対して提言をしていく必要があると考
え,九州弁護士会連合会及び熊本県弁護士会の協力を得て,水俣病問題に関する被害実態調査
を実施した。
2 調査の方法
(1)調査対象
水俣病患者団体に実態調査協力の依頼をし,107名から協力を得られた。
(2)調査期間
2008年6月14日から同月15日まで。
(3)調査方法
調査事項書自己記入後,弁護士による個別面接調査。
なお,実態調査に携わった弁護士は,日本弁護士連合会人権擁護委員会委員5名,人権救済
調査室嘱託1名,同公害対策・環境保全委員会委員3名,九州弁護士会連合会人権擁護委員会
委員10名,熊本県弁護士会会員3名の合計22名である。
3 水俣病実態調査の概要
調査結果の概要は以下の通りである。
(1)現在の健康被害の内容について
今回の調査対象者は,実際にはほとんどの者が公健法上の水俣病患者としては認定されてい
ないが,次のとおり,四肢抹消優位の感覚障害,運動失調,視野狭窄のいずれについても異常
を訴えている者が多く存在した。
○感覚の異常である手足のしびれについては,すべての調査対象者が何らかの異常を訴えていた。
○手足の感覚麻痺については,調査対象者107名のうち93名が何らかの異常を訴えていた。
○上下肢の運動症状については,ほとんどの調査対象者が,つまずきやすい,転びやすい,細かい作業がしにくいなど何らかの異常を訴えていた。
○視野狭窄については,調査対象者107名のうち93名が何らかの異常を訴えていた。
このデータから,感覚麻痺の有無だけを基準にするだけでは割り切れない患者が多数存在す
ることが窺われ,また,厳密な診察をすれば相当程度の者が水俣病と認定されるのではないか
と推測されるという結果が得られた。
(2)日常生活や仕事への影響について
日常生活上については,すべての調査対象者が何らかの支障を訴えていた。具体的には,足
のこむらがえり,常時疲れやすい,関節が痛い,耳鳴りがひどいなど身体的な症状を訴えてい
たり,茶碗を落として割ったりする,車の運転をしているとき横がまともに見えない,風呂の
湯加減が分からないなどの日常生活上の支障を訴えていた。
仕事面については,漁業に携わっている人が多い関係から,重い船具を持つことができない,
荷物を運ぼうとすると落としてしまう,網の修理が苦手であるなどの支障を訴える者が多かっ
た。そのほか,立ちくらみ,めまいのため仕事がしにくい,目を使う仕事ができない,補助的
な仕事に限定される,脚立など高い所へあがれないなどの支障も観られた。
日常生活や仕事面での差別等については,特にないと回答した者も多く存在したが,様々な
不利益,差別を受けたことがあると回答した者も多かった。具体的には,「大した症状もない
のにお金をもらっている」と悪口を言われる,医療費を支払わないことについて詐病ではない
かと言われる,見合いをしても水俣病の話が出ると相手から断られるなどの差別が見られた。
(3)病院での診察について
ほとんどの調査対象者がこれまで病院にかかったことがあったと回答しているが,水俣病あ
るいは水俣病の疑いとの診断を受けた者は,60代〜70代では約54%であったが,40代
〜50代では約30%にとどまった。治療内容については,保険適用外となるものも少なくな
く,はり,きゅう,マッサージ,電気治療,湿布,漢方治療薬などを利用している者も多く存
在した。
(4)公健法上の水俣病の認定申請について
公健法上の水俣病の認定申請を行っていた者は56名であり,そのうち,平成16年10月
15日の関西水俣病訴訟最高裁判決まで公健法上の水俣病の認定申請を行っていなかった者は
37名であった。認定申請をしていなかった理由については,「自分や家族に差別(結婚,就
職,近所付き合い)などの不利益が生じると思った」「自分が水俣病であることが分からなか
った」などが多く,依然として差別や偏見が根強く残っていること,水俣病に関する情報が十
分に周知徹底されていないことが窺われた。
(5)不知火海沿岸の健康調査について
調査対象者の約82%が不知火海沿岸の健康調査について,国,県の負担で実施すべきであ
ると回答をし,調査対象者の約72%が,今から調査をすれば健康被害の実態は分かると回答
しており,多くの者が実態調査を希望していることが判明した。
(6)認定基準について
調査対象者の約82%が現行の公健法上の水俣病の認定基準は厳しすぎると回答し,約7
6%が現行の基準を変えるべきであると回答していた。多くの者が,被害状況に応じた救済が
なされていないと感じていることが窺われた。
4 調査結果を見る上での注意点
今回の実態調査にあたっては,無作為抽出的に対象者を選出するのではなく,既存の水俣病
患者団体に実態調査協力の依頼をし,各水俣病患者団体において患者を選定してもらっている。
調査対象者数も僅か107名であることから,今回の調査結果が水俣病患者の全体の実態を反
映しているとは限らない。
また,今回の実態調査では,例えば「公健法上の水俣病の認定申請」について自分が申請を
しているか否かが不明であったり,過去の状況について一部記憶が定かでなかったりする事例
も見られた。限られた時間の聞き取り調査であったため,設問の内容によっては,必ずしも統
計的に正しいデータが得られていない可能性があることを付言しておく。そこで,今回の実態
調査においては,正確な数字よりも,患者の状況や特徴についての傾向を把握する趣旨で見て
いただければ幸いである。
なお,質問項目の中には,「いつ頃から症状が出ているのですか。」というような個々の患
者によって状況が異なり,集計が困難なものもある。そのような場合,集計結果を省略させて
頂いている点をご容赦されたい。
また,集計は,弁護士による個別面談を経て修正,加筆された調査事項書を基にしている。
第2 調査分析
以下,調査事項書の質問事項順に集計結果を記載する。
なお,前述のとおり集計が困難な質問項目については,記載を省略している。
1 基本情報について
<調査結果の補足説明>
?の手足のしびれについて
手足のしびれについては調査対象者107名全員が感覚の異常である手足のしびれを訴え
ていたということになる。40代〜50代の胎児性世代,小児性世代の患者と60代〜70
代の患者とでは,その傾向はほとんど変わらなかった。
?つまずきやすい,転びやすい・?細かい作業がしにくいについて
つまずきやすい,転びやすいは下肢運動症状に,?細かい作業がしにくいは上肢運動症状
に該当する。
つまずきやすい,転びやすいは,年代に関わらず,ほとんどの調査対象者が症状の異常を
訴えている。
また,細かい作業がしにくいという症状についても,年代に関わらず,ほとんどの調査対
象者が症状の異常を訴えていた。
なお,つまずきやすい,転びやすい,細かい作業がしにくいという症状について,いずれ
もなしと答えている者はおらず,すべての調査対象者が何らかの異常を訴えていた。
<コメント>
?の手足の感覚麻痺について
手足の感覚麻痺については調査対象者107名のうち,93名が何らかの異常を訴えてい
た。そのうち,40代〜50代では,感覚麻痺が「常時」と回答した者よりも「時々」と回
答した者の方が多かったが,60代〜70代では,「常時」と回答した者が「時々」と回答し
た者の2倍となっていた。今回の調査だけでははっきりとしたことは言えないが,40代〜
50代と60代〜70代との間で感覚麻痺について「常時」と「時々」との間に差があると
いうことに関して,一定の有意性が認められる可能性がある。
なお,今回の調査では40代〜50代の患者のうち,感覚麻痺についてなしと答えた者が
4名いた。しかしながら,前述した?のとおり,40代〜50代の調査対象者の全てが,つ
まずきやすい,転びやすい,細かい作業がしにくいなどという症状を訴えており,感覚麻痺
はないものの,運動症状に何らかの異常を来している者も相当数存在していると考えられる。
このようなことから,感覚麻痺の有無だけを基準にするだけでは割り切れない症状の患者が
相当数存在することが窺われた。
?の全身の感覚麻痺について
全身の感覚麻痺については調査対象者107名のうち半数近くの者が何らかの異常を訴え
ていた。
但し,例えば手足の先ではなく腕の部分に感覚麻痺を感じた場合に,回答する側からする
と,これが全身性の感覚麻痺なのか,四肢末梢の感覚麻痺なのかは判然としない場合も少な
くなかったようである。全身性か末梢の感覚障害かは厳密に専門の医者の検査によって判断
しないと誤るおそれがあると言えよう。言い換えれば,水俣病の診断基準のうち「感覚障害」
の取り方には十分に注意して行う必要があるということになる。
?視野狭窄について
視野狭窄の何らかの異常を訴えている者の割合は,全部で93名と約87%であり,40
代〜50代でも異常を訴えるのは53名中44名と約83%である。今回の調査では視野狭
窄を訴えている者の割合がかなり高い。これは,調査対象者の選別について比較的重症の患
者が選択されたのではないかと推測される。
○健康被害についての総合的なコメント
前記内容を総合し,40代〜50代の調査対象者で,?感覚障害(感覚麻痺),?運動失調,
?視野狭窄について複数の異常を訴えている人たちがどれくらいいるのかという統計を出し
たところ,次のような結果が得られた。
?の感覚障害については,常時か時々の別はあるものの,全員が手足のしびれを訴えてお
り(?の「手足のしびれ」),また,約87%の人が手足の感覚麻痺を訴えている(?の「手
足の感覚麻痺」)。従って何らかの手足の感覚障害という意味では,全員が異常を訴えている
ということになる。
?の運動失調については,上肢と下肢に若干の違いがあるが,常時,時々を含めて何らか
の運動失調がある者は全員である(?のつまずきやすい,転びやすいが下肢に関する運動失
調。?の細かい作業がしにくいが上肢に関する運動失調)。
?視野狭窄については,40代〜50代の患者の53名のうち44名が常時または時々の
異常を訴えている(?の視野狭窄)。
すなわち,今回の調査対象者については,実際には,ほとんどの者が公健法上の水俣病患
者としては認定されていないが(6項?参照),四肢抹消優位の感覚障害,運動失調,視野狭
窄のいずれについても異常を訴えている者が大多数であることを考えると,厳密な診察をす
れば相当程度の者が水俣病と認定されるのではないかと推測される。
(2)いつ頃から症状が出ているのですか。
症状や回答者によって異なる回答であった。但し,症状の種類を問わず,年齢を重ねるごとに症状が悪化している傾向にあるようであった。
(3)上記の症状による日常生活や仕事への影響についてお聞きします。
? 日常生活においてどのような支障が生じていますか。
今回の調査対象者の全員が,日常生活上の何らの支障を訴えている。以下に,具体例を紹介する。
・足のこむらがえり。
・常時疲れやすい。
・人の支えがないと歩くのが困難。
・関節が痛い。
・手足のしびれ。
・小さい物をうまくつまめない。
・手足のしびれのため,例えば,けがをしてもあまり痛みを感じないので,いつ,どこで怪我をしたのかが分からない。血が出ているのを見て初めて気が付く程度。
・夜よく寝られない。
・カラス曲がりなど日常茶飯事で,ひどいときは30分,40分つりっぱなしの時もある。
・耳鳴りがひどく,人の声が聞こえないので,自分もついつい大声で話してしまう。
・心臓に不整脈がある(ニトロを持っている)。
・茶碗を落として割ったりする。
・1人で布団も干せない。
・箸がうまく使えない。
・言葉がどもり,人に挨拶などができない。
・人間関係が作れない。子ども時代から症状があり友達ができなかった。
・物をつかんでいる感覚がない。
・手がふるえるのでお茶を出すのが嫌。
・味付けが濃すぎたり,薄すぎたりする。
・車の運転をしているとき,横がまともに見えない。
・細かい仕事がつらい(手の震え)。
・脱いだつもりのつっかけが脱げなくて,そのまま上ってしまう。段差に躓いて,転倒し,骨折した。
・一番困るのは眼。手術のしようがないと言われている。新聞は読めない。目薬は1日1本必要。
・風呂に入るとき心臓から下までしか浸かれない。
・風呂の湯加減がわからない。
・怖くて水泳ができない。
・長く座っているのが苦痛。長く座っていると足がしびれて固まって立ち上がれなくなる。あぐらが長時間できない。座敷の食事等がつらく,早く終わってくれないかと思ってしまう。
・忘れてしまって何度も尋ねることがある。
・家の外にはほとんど出ない。テレビも見ない。本も読まない。家では掃除,洗濯をしているが頭が痛かったりだるかったりするので,掃除,洗濯を毎日することはできない。他は何もしていない。
・左右の視力が違い,また,視力も変わってくるため眼鏡が合わない。そのため,頭痛がする。
・何を食べてもおいしくない。等
? 仕事面で何か不都合や被害を受けたりしていますか。
仕事への支障についての訴えのみならず,それによる周囲からの反応について回答するものも見られた。以下に,具体例を紹介する。
・仕事に就いたことがない。
・補助的な仕事に限定される。スーパーのレジの仕事などしかできない。
・目を使う仕事ができない。
・長期間機械を扱うと,調子が悪くなる(腕など)。疲れやすいとは思う。
・指先にとげなどが刺さっていても気づかない。
・仕事中に休むことが多くなった。細かい作業ができないので困ることがある。同じ状態でいられない。重い物を抱えると,つって,しばらく腕をのばせない。
・立ちくらみ,めまいのため仕事がしにくい。県外で仕事しているとき,水俣出身ということがわかると「あなたも泡をふくんじゃないの?」などと言われた。
・パートに出たが,水俣病のことを言われた。私は申請中とは言わず黙っていたが,居づらくなり辞めてしまいまった。農作業も身体が痛く,していない。
・細かい作業が出来ない。文字を書けないのが,一番つらい。
・ひざが曲がらないので座るときは足を投げ出さないといけない。和式トイレが使えない。草むしりができない。
・手に力が入らないので,雑巾が絞れず,仕事の手伝いができなくなった。
・脚立など高い所へ上がれない。
・手が震えてハンダ付けができないときがある。
・手の感覚がないので,痛みを感じない。水俣病報道でよく登場したこともあり,会社から「お前はなぜ自分が水俣病だと言うのか」「お前の血は青いんだろう」「神経が通っていないんだろう」と言われた。
・物忘れ。商品の陳列がうまくできず,時間がかかる。
・高校卒業後,国鉄の試験を受けたが,耳鳴りのために面接,身体検査で落ちた。
・声が聞き取りにくいのですぐに返答できない。電話対応に困る。
・何か言われていることはわかるが,中身がわからないので何度も聞き直す。
・網を引く作業が船の上なので,すぐ転んで青あざができてしまう。手の握力も17〜18kgしかない。
・船の修理の仕事をしている。仕事に関してお客から信用を失いつつある。なくなっているかもしれない。仕事の集中力というか取り組みにむらがある。
・重たい船具(2kg)を持てないことがある。
・海上タクシーの仕事をしているが,荷物を運ぼうとすると落としてしまう。弁償することもあった。
・若い頃から漁業の網の修理が苦手だった。道具に糸が通らない。
・漁は2人でする仕事なので,自分が休めば夫も漁に行けず仕事が出来ない。よって収入減となる。子どもを育てるためには毎日漁に行かねばならない。
・農作業中にハサミ,のこを落とす。
・腰痛や肩こりがひどくなり痛み止めの注射を打つことが多く,通院しながらの農作業で仕事も進まない事も多い。人に代わってもらうことも多い。
・建設関係の仕事をしているが,手足のしびれがあるため測量作業がうまくできないことが多く,他の人から「他の人に代われ」と言われることがある。
・建設関係の仕事なので段差のある足場での作業(上り下り)がきつい。
・靴下工場で細かい作業だったので大変でした。
・手足が自由でないために,作業中に指を切断した。等
? 日常生活や仕事の面で不利益を生じたり,差別を受けたりしたことがありますか。
特にないと回答したものも多く存在したが,様々な不利益,差別を受けたりしたことがあると回答しているものも多かった。具体的な不利益,差別事例についての訴えを紹介する。
・高卒後,大阪で過ごしていたところ,テレビで水俣病のニュースが流れると「あなたの郷里
が映っている」等と言われ恥ずかしかった。夫の母が福岡の病院で手術を受けた。母は医療
手帳を持っていたので医療費がかからないが,看護師は医療手帳を見て,「これ何ですか!」
と驚いた。他の患者は支払をしているのに母だけ払わない扱いを説明するのに大変だった。
・差別についてあるとは思うが「大した症状もないのにお金をもらっている」「お金をほしが
っている」と悪口を言われる。だから自分も友達にもいえない。
・水俣病について活動(ビラ配り)をしていると,通行人の女性から「ニセ患者」と言われた。
・いとこが認定患者で胎児性患者を産んでいるが,差別を受けているのを見てきた。身内に漁
業関係者がいて,迷惑がられた。汽車では水俣で窓を閉めていた。
・自分ではないが,妹が「そんな身体なら家の人も早くいなくなればいいと思う」などと心な
い言葉をかけられた。
・薬剤師から,「認定患者だけが本当の患者だ,薬のありがたみが分かっていない,薬のお金
を払っていない,自分たちが払った税金が使われている」などと言われた。
・医療費を支払わないことについて,詐病ではないかと言われたことがある。「あんた達はよ
かなー,手帳もらえてなー,医療費がただで!」
・子どもが結婚前だったから申請しなかった。差別されるから。それまで手足のしびれはない
と言って隠していた。
・集会場などで声が聞きづらく困る。耳が聞こえないことで「つんぼ」とか言われる。隣家の
人が,結婚が破談になったという話を聞いた。
・お金目当てと言われる。
・水俣病だとお嫁に行けないなどと言われていたし,あえて調べようとは思っていなかった。
今までは,ただの神経痛ではないかと思っていたが,平成16年頃に水俣病のことを知って,
平成7年の政治解決の時もまさか自分が水俣病だとは思わなかった。
・裁判をしているので,「金がほしくてやっている,それくらいは誰でも身体に異常はある」
という悪口を言われる。父が認定されたときもニセ患者と言われた。
・ある人から「指輪など似合わない手だ」と言われた。口をつぐんで通行したり,けがらわし
いなどといわれた。行政からの正確な情報提供がないため。
・自分も見合いをしたが,水俣病の話が出ると,相手が断ってきたりした。結局,水俣病のこ
とをよく知らない外国人の女性と結婚した。
・テレビに出たあと差別を受けた。今の職場もいつ辞めさせられるか分からない。
・実家から送ってくる魚をおすそわけすると,「水俣からきたものだから嫌だ」と言われたこ
とはある。
・今現在はそうでもないが,幼小時期は冷たい目でみられたこともある。島外に出ていて結婚
していた際,県営住宅にいたとき,「笑わない人がきた」とか色々なことをいわれた。
・学校生活のときいじめられた。但し,水俣病との自覚はなく,トロイのが原因でいじめられ
ていると思っていた。
・小学校,中学校のとき悪口を言われた。近所のおばさんに会った際に父,母,妹だけに声を
かけて,自分に声をかけないということもあった。腹も立つし,とても悲しい。今でもそう
である。
・無理な仕事ができなくなった(手先や目を使う仕事ができない)。
・仕事中でもよくころぶことがある。高所のよう壁から足を踏み外して落ちたこともある。そ
のつど,「ボケか」と言われたりして,人からさげすまされているという思いがする。
・表だってはないが,何かを理由にして仕事がどんどん減っている。
・感覚がなく荷物を落としたり壊したりするため,職場の人からすごく言われる。
・仕事ができないことの理由がわかってもらえない。
・チッソの昭和50年度の採用試験を受けたときのこと。筆記試験が終わり,面接試験を受け
ていた時,面接試験の最後の質問で,「チッソが水俣病を起こしたことがよいか悪いか答え
なさい」と言われました。その時に,「それは悪い」と言ったら,面接官が「悪いだな」と
確認し,面接が終わった。結果は不採用だった。
・午前中しか仕事ができない。漁師なので潮加減があるが,夕方までの長時間の仕事ができな
い。
・手に力がなく配送中に店の商品を落とし,ビン類など割って弁償したりしている。
・親が認定されたとたん,縁談が破談になった人が近所にいた(相手は県外の人で,相手の両
親の反対のため)。
・仕事ができないために上司に解雇を申し渡され,職安に行こうとしたこともある。
等
水俣病以外の診断結果としてあげられていたものでは,「手足のしびれ」,「めまい」,「頭痛」,「腰痛」,「関節痛」,「原因不明」,「仕事上の疲労」等の回答があった。
<コメント>
手足のしびれというのは感覚障害の典型的な症状であり,水俣病患者には頭痛や腰痛,関
節痛などを訴える者も多くいる。診察を受けたときに,医師の側に,これらの症状が水俣病
の症状であるという理解がなかった可能性もある。
? いつ頃から病院に通っていますか。
40代〜50代の胎児性世代,小児性世代では子どものころから病院通いをしている人が多い。その一方で,最近になって通院を始めた者もいる。
<コメント>
症状によって発症の時期が異なること,複数の症状を訴える者が大半であるということ等
の事情によるものと思われる。
? どのような治療を受けていますか。
はり,きゅう,マッサージ,電気治療,湿布,漢方治療薬などといった回答が多く見られ
た。
<コメント>
これらの治療方法は保険適用外となることも多く,別途,医療費や医療手当の支給の必要
性が高いものである。
? 病院に通うことでの不都合があれば教えてください。
病院まで遠くて通院に時間がかかる,交通の便が悪いといった病院までのアクセスに関す
る回答や,1人で通院が出来ないという身体面での不都合を訴える回答,交通費や治療費な
どの経済的負担が大きいといった費用面での回答のほか,通院によって仕事に支障が生じる,
仕事を休めないので通院できない,医師の紹介が必要など不便といった回答があった。
<コメント>
未回答にはその年代には出生していなかったり幼児期であったために記憶が定かでなかった
りするものも含まれる。そのため,昭和20年代については未回答の割合が高くなっているも
のの,同年代に魚介類を摂取していないということではない。また,その年代に出生していな
い場合でも,母親が魚介類を摂取していれば胎児性の水銀暴露の問題が生じうる。
汚染地域を離れても家族から魚介類を送られてくることによってその魚介類を多食したとい
う例もあり,汚染地域を離れたことが魚介類の摂食と切り離されるとは一概には言えない。
さらに,地域によっては山間部や汚染地域と離れているような地区に居住していても行商か
ら購入したという例も見られた。
?ほぼ毎日?1週間に1回?1ヶ月に数回?ほとんど食べていない未回答
6 水俣病関係の認定申請について
(1)あなたはこれまで水俣病関係の認定申請をしたことがありますか。
ある 90名
ない 17名
(2)前項で「ある」と答えた方は下記にご回答ください。
? 認定申請(公健法)
水俣病関係の認定申請をしたことがあると回答した90名のうち,56名が公健法上の認
定申請に関しての申請状況を回答した。
結果の内訳は,認定2名,保留12名,棄却16名,申請中(審査中)8名,その他・回
答不明19名であった(1名は2回申請し,1回が棄却,1回が保留)。
? 総合対策医療事業
省略
? 政治解決(平成7年)のときの総合対策医療事業
省略
? 平成16年10月15日関西水俣病訴訟最高裁判決まで認定申請(公健法)をしたことがなかった
(公健法上の認定申請に関しての申請状況を回答した対象者について集計)
したことがない 37名
したことがある 19名
(3)平成16年10月15日関西水俣病訴訟最高裁判決まで申請しなかった理由についてお聞きします。
(公健法上の認定申請に関しての申請状況を回答し,平成16年10月15日関西水俣病訴
訟最高裁判決まで認定申請をしたことがなかったと回答した対象者37名について集計。複
数回答可能。)
? 申請しても認定されないと思ったから。…5名
? 自分や家族に差別(結婚,就職,近所付き合い)などの不利益が生じると思ったから。…18名
? 認定申請についてのやり方がわからなかったから。…7名
? 自分が水俣病であることがわからなかったから。…18名
? 自分が水俣病であることを周囲に知られたくなかったから。…7名
? その他…10名
未回答…2名
<コメント>
?の差別などの不利益が生じると思ったとの回答や,?の自分が水俣病であることを周囲に
知られたくなかったという回答からは,依然として水俣病に対する差別や偏見が根強く残って
いることが窺われる。
?の申請しても認定されないと思ったというのは,現行の認定審査基準の審査が厳しすぎて,
殆どの患者が認定されないという基準の不合理性を患者が感じていることを示していると思わ
れる。
?の認定申請についてのやり方が分からなかったというのは,行政からの情報提供が不十分
であるということを示している。また,?の自分が水俣病であることが分からなかったと回答
する者も多かった(約半数)。
なお,その他の理由として,
・有機水銀による健康被害を受けていることは自覚していたが,救済を受けることができる「水
俣病」とは思わなかった。
・祖母から恥ずかしいから申請するなと言われた。近所から水俣病の人と接触するとうつるか
ら行くな等と言われていた。認定されると子どもまで差別されるかもしれないと思った。
・母親にも,歩行障害,手足のふるえ,よだれ(口回りのしびれ)の症状が強くあったが,差
別のおそれ(妹の結婚など)から申請は拒否していた。(母親自身と妹の意向)
・親戚,友人等にチッソの関係者が多いため対人関係の悪化を懸念して見送っていた。
・認定,申請方法などの制度説明は役所からもされたことは全くない。
・申請が出来ることを知らなかった。もう終わったこと,過去のことと思っていた。
・若かったので重く考えてなかった。歳を増すごとに酷くなった。
・他の都道府県に居住していたので関心を持たなかった。
等の回答があった。(但し,集計対象者外の人の回答も含む)
(4)前項で?(自分が水俣病であることがわからなかった)に○をつけた方にお聞きします。
どうして自分が水俣病であると思わなかったのですか。
(公健法上の認定申請に関しての申請情報を回答し,平成16年10月15日関西水俣病訴
訟最高裁判決まで認定申請をしたことがなく,その理由について「自分が水俣病であること
がわからなかったから」を選択した対象者18名について集計。複数回答可能。)
? 手足のしびれなどの感覚障害を感じなかった。…0名
? 生まれたときから手足のしびれなどの感覚障害があり,自分の症状が水俣病であるとは思わなかった。…4名
? いわゆる急性劇症型の人が水俣病であり,自分は水俣病であるとは思わなかった。…18名
? 魚を多食しておらず,水俣病になったとは思わなかった。…1名
? その他…1名
<コメント>
本項の質問の対象者全員(18名)が,?のいわゆる急性劇症型の人が水俣病であり自分が
水俣病であるとは思わなかったとの理由を選択しており,これは,水俣病に対する情報開示が
不十分であったことを示すものと言える。(なお,集計対象者外の人についても,かなりの人
数がこの選択肢を理由にあげており,有効な回答ではないが,「水俣病=急性劇症型」という
とらえ方がかなり根深く浸透していたことが窺われる。)
?の生まれたときから手足のしびれなどの感覚障害があり,自分の症状が水俣病であると思
わなかったとの回答についても,?と同様に水俣病に関する情報提供が十分になされていなか
ったことを推測させるものである。
なお,その他の理由として,
・症状が出てきたのが後からで,明確な診断がなかった。
・平成7年当時,他県にいたので,政治解決を知らなかった。行政からは何も情報提供はなかった。
・診察に行かなかったから,はっきりわからなかった。
・行政から情報提供もなかったので水俣病であるとの認識がなかった。
・他人と比較しないので,分からなかった。
・テレビで見るひどい状態の人だけが水俣病と思っていた。
等の回答があった。(但し,集計対象者外の人の回答も含む)
7 家族の申請状況について
(1)あなたの家族で,これまで水俣病の申請をした方はいますか。
いる 92名
いない 15名
(2)その方はあなたとはどのような関係の人ですか。
省略
(3)申請した結果はどうでしたか。
省略
(4)申請した時期はいつごろですか。
省略
(5)その家族の症状はどのようなものでしたか。
家族の症状についての回答は,手足のしびれやカラス曲がりなどが主であった。
(6)あなたの症状と具体的に違っていたところを述べてください。
省略
8 胎児性世代,小児性世代の健康被害について
(1)胎児性世代,小児性世代の人たち(40代,50代)と60才以上の人たちとの間で,健康被害に違いがあると思いますか。
?はい 20名
?いいえ 12名
?わからない 70名
未回答 5名
(2)そのように考えられる理由について述べて下さい。
省略
(3)手足のしびれなどについて違いがあると思いますか。
?はい 16名
?いいえ 12名
?わからない 67名
未回答 12名
(4)その理由について述べてください。
省略
(5)胎児性世代と小児性世代には何か違いがあると思いますか。
?はい 7名
?いいえ 4名
?わからない 89名
未回答 7名
9 平成16年10月15日関西水俣病訴訟最高裁判決後に水俣病認定申請をした方のきっかけ
(公健法上の認定申請に関しての申請情報を回答し,平成16年10月15日関西水俣病訴訟
最高裁判決まで認定申請(公健法)をしたことがなかったと回答した対象者37名について集計。複数回答可能。)
?知人,友人に勧められた 14名
?病院,医師に勧められた 3名
?被害者団体に勧められた 9名
?新聞報道やテレビ等を見て 2名
?家族や親戚に勧められた 11名
?その他 3名
未回答 5名
10 新保険手帳の申請をされた方のきっかけ
?知人,友人に勧められた 18名
?病院,医師に勧められた 2名
?被害者団体に勧められた 7名
?新聞報道やテレビ等を見て 0名
?家族や親戚に勧められた 13名
11 不知火海沿岸全域の健康調査について
(1)国,県の費用負担で調査を実施すべきである。(○をつけてください)
?はい 88名
?いいえ 7名
?どちらでもない 12名
(2)今から調査して健康被害の実態はわかると思いますか。(○をつけてください)
?はい 77名
?いいえ 19名
?どちらでもない 11名
(3)また,その理由について答えてください。
? 調査が必要であると回答した理由
早期解決のために国などによる健康調査の必要性に言及するもの,水俣病が未解決であるに
もかかわらず,一般には「終わったもの」と受けとめられているものに言及するもの等が多く
見られた。
・汚染地域の人たちが水俣病ということで差別されると思い,申請さえもできないでいる人が
まだ多くいる。調査をすれば実態が分かる。
・行政が健康診断のように行えば,多くの人が診断を受けると思う。
・現実に被害があって苦しんでいる人がたくさんいる。家庭訪問も取り入れるべきである。
・まだ水俣病であると気づいていない患者も多い。
・診断基準に納得ができない。症状に応じて判断されていないと思う。
・後から症状が出てきている人もいるので,調査には意味がある。
・感覚障害等が水俣病であるという情報は全く得られず,行政からも情報提供はなされなかった。
・あれだけの水銀を食べさせられていても「偽患者」と言われる。きちんと調査をしてほしい。
?調査を実施すべきであるか,健康被害の実態は分かるか,について「いいえ」あるいは「どちらでもない」と回答した理由
・調べる側のさじ加減次第。良くなるとは思わない。
・調査手法に疑問。
・水俣病であると偽った人がいた。本当に水俣病であることが分かるのか疑わしい。
・健康被害のある人は,既に各自が病院で検査済み。
・今頃,という感じ。遅すぎる。
・チッソ関係の仕事をしている人からは嫌がられることがある。
・今になって調査にお金をかけるのではなく,補償に回して欲しい。
12 水俣病の認定(公健法)基準について
(1)基準についてどのように考えていますか。(○をつけてください)
?きびしすぎる 88名
?妥当である 6名
?どちらでもない 13名
(2)そのように考える理由について述べて下さい。
基準がきびしすぎるとする理由としては,ほとんど申請が認められない,昭和52年より以
前の判断基準にすべきである,とするものが多数を占めた。中には,胎児性,小児性について
もっと解明すべきとするものも見られた。
一方,基準は妥当であるとする理由としては,きちんと検査をすれば自分が水俣病であるこ
とは分かるはず(認定審査会の運用の問題点を指摘する趣旨で述べられている)とするものが
見られた。
(3)基準を改訂すべきであると思いますか。
?きびしすぎる(はい) 81名
?妥当である(いいえ) 5名
?どちらでもない 14名
未回答 7名
(4)そのように考える理由について述べてください。
基準を改訂すべきであるとする理由としては,被害状況に応じ被害者を救済すべきとの趣旨
の回答が多数を占め,その他,関西水俣訴訟最高裁判決に準ずべきとの趣旨の回答も見られた。
一方,基準を改訂する必要はないとする理由としては,きちんと検査をすれば自分が水俣病
であることは分かるはず(認定審査会の運用の問題点を指摘する趣旨で述べられている)とす
るものが見られた。
13 今回の調査に関する自由記載
自由記載欄には患者の様々な思いが綴られていた。その内の一部を紹介することとする。
・水俣病はまだ終わっていない。水俣病患者はまだ救済されていないということを全国の皆さ
んに知っていただきたい。劇症型の水俣病で,軽いのはニセ患者だと思っている人が非常に
多いが,正しく水俣病のことを知ってほしい。水俣病の全面救済を1日も早くしてほしい。
全面救済をするには汚染地区の住民の全部の健康調査をしなければならない。
・平成7年の時に申請していない。ちょうどこのころからしびれを感じ始めた。水俣病の症状
を当時あまり知らなかった。水俣病の申請ができるとは思わなかった。
・もっと掘り下げて調べて欲しい。水俣病は終わったと思っている人が多い。多くの人に水俣
病について知って欲しい。
・子どもの頃から水俣病の症状に苦しめられてきた。私の母も同じ。母が水俣病だったか私に
は分かりませんが,私と同じ症状で苦しめられながら亡くなりました。もし,チッソの水銀
が原因でこうなったのであれば,チッソには責任をとってもらいたい。チッソの利益のため
に,私たちは何も知らずに自分の人生を台無しにされました。それを切りがないはないでし
ょう。最後の1人まで補償するのは当たり前のことです。たとえ,過失であっても,もし私
がチッソの立場だったら責任を取らされていますよ。
・この世に生まれる前から母胎の中で水銀にまみれ,生まれ落ちてすぐから命をつなぐため,
水銀に汚染された母親の母乳を飲まされて,生きなければならなかった赤ん坊。何も知らな
いで,愛しいわが子のために毒の入ったお乳を飲ませた母親。何の疑いも持たないで,無心
にお乳を飲み続けた末に水銀に身体をむしばまれて生きるしかない子どもたちが存在してい
るという現状をちゃんと見て欲しいと思う。50年以上の人生を水銀に苦しめられながら生
きてきて,これからもそれはもっと酷くなって続いていくという現実があることをしっかり
と認めて欲しい。
・汚染のことは聞いていたが,魚屋で売っているものだからと思って食べた。症状の重い人は
長年食べているからで,自分は未だ症状は出ないだろうと思った。申請した人に対する中傷
として,「申請されたとよー,まだ若いかモンのそがんことのあるもんか」という話を聞い
ていた。自分も申請したら同じように言われると思った。嫁ぎ先の両親も否定的だった。当
初は劇症型だけが「水俣病」だと思っていたが,新聞等で感覚障害でも「水俣病」であり,
メチル水銀が原因と報道されているので,そうであれば,自分も水俣病ではないかと思うよ
うになった。
・水俣湾だけの話だと思っていた。獅子島でも水俣患者がいることは平成18年になって始めて知った。悔しい,残念,どうして早く教えてくれなかったのかと。水俣病についての知識はあったが,自分の症状が水俣病だとは思っていなかった。昨年の12月に友人が水俣病の話があるので行くように誘われた。その際に「症状」を聞いた所,自分の症状とあっていることに驚いた。市役所に照会し,患者団体を紹介された。それ以前は関心もなかった。水俣病の患者は特別の人だろうと思っていた。
・胎児性世代についてちゃんと検査してほしい。漁師で毎日魚を食べていて「棄却」では納得できない。現在,手足の多少の麻痺(転びやすい),足のしびれ,カラス曲がりなどで障害も多いのに,まったく認定の外とはおかしい。自分が水俣病でないというのはどう考えてもおかしい。どうしても進展しなければ裁判も考えている。将来が不安。症状はひどくなっている感じがする。
・目に見えない症状をもっている人に対してもしっかり理解してあげるべきだ。苦しんでいる人は多くいる。自分でもよく分からないことが多く,判断できない。
・自分は早いうちから水俣病のおそれありと言われていたが,なかなか認定されなかった。同じ症状のある人でも認定に差があるのはおかしいのではないか。会社は責任を認めて,できる限り救済してもらいたい。
・チッソの対応に不満がある。テレビ等で見聞きするチッソの態度や意見に腹が立つ。
・水俣病の調査は行政がすべきものである。行政がきちんと住民の健康調査を行い,水俣病の全面的な救済をすべきである。
・不知火海沿岸の住民の健康調査を実施して,早くすべての人々を救済してほしい。そうしないと再び何回も裁判等の問題が今後起こってくると思う。
・何回も同じような調査をされている。社会に反映されていないのではないか。
・医者の検診の時は2〜3分見ただけで「ここはどうですか」って聞かれて「えぇ」ていったらそれでおしまい。「ここがおかしい」と言ったら 「そのようなことは言わなくてよい。聞いていることだけ答えろ」と言われた。これが実情。これでは検診とは言えない。
・打ち切られても今後水俣病の人が出てくる可能性が極めて高い。水俣病は年をとって気づくことが多いので。
・水俣病の重さによって,例えば5段階で認定して重さに応じて補償をすべきではないか。オール・オア・ナッシングは不当。裁判をしている高齢者は苦しんでいる。国に対策を望む。
・いろいろな調査が度重なっているので,現実的な救済を早期にしてほしい。チッソにはこの問題から逃げることなく,責任をとって救済に取り組んでほしい。
・基準を考え直してほしい。疫学を重視すべきである。行政から情報がきたことはない。行政の怠慢である。高齢化しており,早く解決してほしい。医師も経験がなく,診断能力がない。
・症状は人によって様々である。検査もそれにマッチしたものにしてほしい。今回の調査が,基準見直し,患者切り捨てでない方向に行くためのきっかけとなることを望む。
・被害者も高齢化しており,早く解決し,救済してほしい。救済が進まないことについて,特にチッソの対応については腹立たしい。調査を進め,救済してほしい。
・現在被害者団体に入り少しずつ水俣病のことについて分かるようになったが,若いときから関係があったとは思いもしなかった。いとこたちがたくさんいて,水俣病であったことは知っていたが,自分も同じ水俣病であることが分かったのがあまりにも遅すぎた。残念でならない。でも,この機会に自分たちが水俣病であることが分かったことは幸いであった。遅くなったとはいえ自分たちがやらなければいけないこと,出来ることは進んで参加し,みんなで協力して頑張りたいと思う。
・今,申請している人たちの中にも1800万円に相当する重い被害者はたくさんいる。150万で一律救済ならば全員救済にしてほしい。程度の差に応じて補償する制度を作るべき。行政側が,税金が高くなったのは水俣病患者が多く出てきたせいだとあちこちで言っている。そのせいで町民が水俣病のせいでと思うようになっている傾向もある。
・このままだと地球が危ない。大変苦労してきた。後がない。
・生きているうちに補償してほしい。それが一番。自分が死んだ後に残される娘のことがとても心配。娘は水俣病が一番ひどかったときに生まれた。
・水俣病は終わりではないので弁護士の方も力を貸して下さい。1人でも多くの人を救済してください。
・日弁連の調査はありがたい。この調査結果を国・県は,重く受け止めて水俣病解決に努めてほしい。
・被害者の相談には乗ってくれた弁護士に頑張ってもらっていることで心強い,一緒に頑張ってほしい。チッソの分社化は被害者にとってマイナスになるのでは。
・聞き取りがあったことで,これまで言いにくかったことをみんなに伝えて,理解してもらえることがよかった。以前より,基準が緩和されているように思える。申請しやすくなっているように思える。
以 上
http://www.nichibenren.or.jp/ja/committee/list/data/minamata_houkokusyo_000.pdf
2008年10月
日本弁護士連合会
第1 調査の概要
1 調査の目的
2 調査の方法
3 調査の概要
4 調査結果を見る上での注意点
第2 調査分析
1 基本情報について
2 現在の健康被害の内容について
3 居住歴,生活歴等について
4 昭和20年代から昭和40年代まで不知火海の魚介類の摂取状況
5 家族構成・同居していた家族について
6 水俣病関係の認定申請について
7 家族の申請状況について
8 胎児性世代,小児性世代の健康被害について
9 平成16年10月15日関西水俣病訴訟最高裁判決後に水俣病認定申請をした方のきっかけ
10 新保険手帳の申請をされた方のきっかけ
11 不知火海沿岸全域の健康調査について
12 水俣病の認定(公健法)基準について
13 今回の調査に関する自由記載
第1 調査の概要
1 調査の目的
日本弁護士連合会は,1977年の人権擁護大会において「公害被害者の救済に関する決議」
を採択し,それ以降,水俣病問題についての調査研究を重ね,被害者の方の即時・完全救済等
を求める決議,具体的方策の提言などを行ってきた。
そして,2007年7月に「与党水俣病問題に関するプロジェクトチーム」が公表した「水
俣病に係る新たな救済策について(中間取りまとめ)」を受け,同年9月14日に「水俣病問
題について抜本的な救済策を求める意見書」を発表した。同意見書では,公健法に基づく救済
策を抜本的に改め,新たに総合的な救済施策を講じるべきであることを提案するとともに,新
たな救済施策の具体的内容として,水俣病認定基準の抜本的改定,水俣病患者に対する十分な
補償,水俣病患者に対する医療面,福祉面に対する恒久対策,国及び熊本県による経済的負担
等の事項を提示した。また,水俣病患者の実効的な救済を図るために,不知火海岸沿岸の健康
調査を早急かつ網羅的に行うべきことを提案した。
その後,与党水俣病問題に関するプロジェクトチームが救済策の実現に向けて検討を重ねて
いるが,依然として公健法に基づく認定基準を堅持する態度を変えておらず,また,一時金の
金額も関西水俣病訴訟最高裁判決の水準額(400万円から800万円)を大幅に下回る金額
(150万円)しか提示していないなど,当連合会が発表している提言からすると未だ不十分
なものにとどまっていると言わざるを得ない。また,国による不知火沿岸の健康調査も未だに
実施されていない。
そこで,当連合会としては,現地を訪れて水俣病患者の被害実態を調査することにより,具
体的なあるべき救済施策を研究し,今後も引き続き国に対して提言をしていく必要があると考
え,九州弁護士会連合会及び熊本県弁護士会の協力を得て,水俣病問題に関する被害実態調査
を実施した。
2 調査の方法
(1)調査対象
水俣病患者団体に実態調査協力の依頼をし,107名から協力を得られた。
(2)調査期間
2008年6月14日から同月15日まで。
(3)調査方法
調査事項書自己記入後,弁護士による個別面接調査。
なお,実態調査に携わった弁護士は,日本弁護士連合会人権擁護委員会委員5名,人権救済
調査室嘱託1名,同公害対策・環境保全委員会委員3名,九州弁護士会連合会人権擁護委員会
委員10名,熊本県弁護士会会員3名の合計22名である。
3 水俣病実態調査の概要
調査結果の概要は以下の通りである。
(1)現在の健康被害の内容について
今回の調査対象者は,実際にはほとんどの者が公健法上の水俣病患者としては認定されてい
ないが,次のとおり,四肢抹消優位の感覚障害,運動失調,視野狭窄のいずれについても異常
を訴えている者が多く存在した。
○感覚の異常である手足のしびれについては,すべての調査対象者が何らかの異常を訴えていた。
○手足の感覚麻痺については,調査対象者107名のうち93名が何らかの異常を訴えていた。
○上下肢の運動症状については,ほとんどの調査対象者が,つまずきやすい,転びやすい,細かい作業がしにくいなど何らかの異常を訴えていた。
○視野狭窄については,調査対象者107名のうち93名が何らかの異常を訴えていた。
このデータから,感覚麻痺の有無だけを基準にするだけでは割り切れない患者が多数存在す
ることが窺われ,また,厳密な診察をすれば相当程度の者が水俣病と認定されるのではないか
と推測されるという結果が得られた。
(2)日常生活や仕事への影響について
日常生活上については,すべての調査対象者が何らかの支障を訴えていた。具体的には,足
のこむらがえり,常時疲れやすい,関節が痛い,耳鳴りがひどいなど身体的な症状を訴えてい
たり,茶碗を落として割ったりする,車の運転をしているとき横がまともに見えない,風呂の
湯加減が分からないなどの日常生活上の支障を訴えていた。
仕事面については,漁業に携わっている人が多い関係から,重い船具を持つことができない,
荷物を運ぼうとすると落としてしまう,網の修理が苦手であるなどの支障を訴える者が多かっ
た。そのほか,立ちくらみ,めまいのため仕事がしにくい,目を使う仕事ができない,補助的
な仕事に限定される,脚立など高い所へあがれないなどの支障も観られた。
日常生活や仕事面での差別等については,特にないと回答した者も多く存在したが,様々な
不利益,差別を受けたことがあると回答した者も多かった。具体的には,「大した症状もない
のにお金をもらっている」と悪口を言われる,医療費を支払わないことについて詐病ではない
かと言われる,見合いをしても水俣病の話が出ると相手から断られるなどの差別が見られた。
(3)病院での診察について
ほとんどの調査対象者がこれまで病院にかかったことがあったと回答しているが,水俣病あ
るいは水俣病の疑いとの診断を受けた者は,60代〜70代では約54%であったが,40代
〜50代では約30%にとどまった。治療内容については,保険適用外となるものも少なくな
く,はり,きゅう,マッサージ,電気治療,湿布,漢方治療薬などを利用している者も多く存
在した。
(4)公健法上の水俣病の認定申請について
公健法上の水俣病の認定申請を行っていた者は56名であり,そのうち,平成16年10月
15日の関西水俣病訴訟最高裁判決まで公健法上の水俣病の認定申請を行っていなかった者は
37名であった。認定申請をしていなかった理由については,「自分や家族に差別(結婚,就
職,近所付き合い)などの不利益が生じると思った」「自分が水俣病であることが分からなか
った」などが多く,依然として差別や偏見が根強く残っていること,水俣病に関する情報が十
分に周知徹底されていないことが窺われた。
(5)不知火海沿岸の健康調査について
調査対象者の約82%が不知火海沿岸の健康調査について,国,県の負担で実施すべきであ
ると回答をし,調査対象者の約72%が,今から調査をすれば健康被害の実態は分かると回答
しており,多くの者が実態調査を希望していることが判明した。
(6)認定基準について
調査対象者の約82%が現行の公健法上の水俣病の認定基準は厳しすぎると回答し,約7
6%が現行の基準を変えるべきであると回答していた。多くの者が,被害状況に応じた救済が
なされていないと感じていることが窺われた。
4 調査結果を見る上での注意点
今回の実態調査にあたっては,無作為抽出的に対象者を選出するのではなく,既存の水俣病
患者団体に実態調査協力の依頼をし,各水俣病患者団体において患者を選定してもらっている。
調査対象者数も僅か107名であることから,今回の調査結果が水俣病患者の全体の実態を反
映しているとは限らない。
また,今回の実態調査では,例えば「公健法上の水俣病の認定申請」について自分が申請を
しているか否かが不明であったり,過去の状況について一部記憶が定かでなかったりする事例
も見られた。限られた時間の聞き取り調査であったため,設問の内容によっては,必ずしも統
計的に正しいデータが得られていない可能性があることを付言しておく。そこで,今回の実態
調査においては,正確な数字よりも,患者の状況や特徴についての傾向を把握する趣旨で見て
いただければ幸いである。
なお,質問項目の中には,「いつ頃から症状が出ているのですか。」というような個々の患
者によって状況が異なり,集計が困難なものもある。そのような場合,集計結果を省略させて
頂いている点をご容赦されたい。
また,集計は,弁護士による個別面談を経て修正,加筆された調査事項書を基にしている。
第2 調査分析
以下,調査事項書の質問事項順に集計結果を記載する。
なお,前述のとおり集計が困難な質問項目については,記載を省略している。
1 基本情報について
<調査結果の補足説明>
?の手足のしびれについて
手足のしびれについては調査対象者107名全員が感覚の異常である手足のしびれを訴え
ていたということになる。40代〜50代の胎児性世代,小児性世代の患者と60代〜70
代の患者とでは,その傾向はほとんど変わらなかった。
?つまずきやすい,転びやすい・?細かい作業がしにくいについて
つまずきやすい,転びやすいは下肢運動症状に,?細かい作業がしにくいは上肢運動症状
に該当する。
つまずきやすい,転びやすいは,年代に関わらず,ほとんどの調査対象者が症状の異常を
訴えている。
また,細かい作業がしにくいという症状についても,年代に関わらず,ほとんどの調査対
象者が症状の異常を訴えていた。
なお,つまずきやすい,転びやすい,細かい作業がしにくいという症状について,いずれ
もなしと答えている者はおらず,すべての調査対象者が何らかの異常を訴えていた。
<コメント>
?の手足の感覚麻痺について
手足の感覚麻痺については調査対象者107名のうち,93名が何らかの異常を訴えてい
た。そのうち,40代〜50代では,感覚麻痺が「常時」と回答した者よりも「時々」と回
答した者の方が多かったが,60代〜70代では,「常時」と回答した者が「時々」と回答し
た者の2倍となっていた。今回の調査だけでははっきりとしたことは言えないが,40代〜
50代と60代〜70代との間で感覚麻痺について「常時」と「時々」との間に差があると
いうことに関して,一定の有意性が認められる可能性がある。
なお,今回の調査では40代〜50代の患者のうち,感覚麻痺についてなしと答えた者が
4名いた。しかしながら,前述した?のとおり,40代〜50代の調査対象者の全てが,つ
まずきやすい,転びやすい,細かい作業がしにくいなどという症状を訴えており,感覚麻痺
はないものの,運動症状に何らかの異常を来している者も相当数存在していると考えられる。
このようなことから,感覚麻痺の有無だけを基準にするだけでは割り切れない症状の患者が
相当数存在することが窺われた。
?の全身の感覚麻痺について
全身の感覚麻痺については調査対象者107名のうち半数近くの者が何らかの異常を訴え
ていた。
但し,例えば手足の先ではなく腕の部分に感覚麻痺を感じた場合に,回答する側からする
と,これが全身性の感覚麻痺なのか,四肢末梢の感覚麻痺なのかは判然としない場合も少な
くなかったようである。全身性か末梢の感覚障害かは厳密に専門の医者の検査によって判断
しないと誤るおそれがあると言えよう。言い換えれば,水俣病の診断基準のうち「感覚障害」
の取り方には十分に注意して行う必要があるということになる。
?視野狭窄について
視野狭窄の何らかの異常を訴えている者の割合は,全部で93名と約87%であり,40
代〜50代でも異常を訴えるのは53名中44名と約83%である。今回の調査では視野狭
窄を訴えている者の割合がかなり高い。これは,調査対象者の選別について比較的重症の患
者が選択されたのではないかと推測される。
○健康被害についての総合的なコメント
前記内容を総合し,40代〜50代の調査対象者で,?感覚障害(感覚麻痺),?運動失調,
?視野狭窄について複数の異常を訴えている人たちがどれくらいいるのかという統計を出し
たところ,次のような結果が得られた。
?の感覚障害については,常時か時々の別はあるものの,全員が手足のしびれを訴えてお
り(?の「手足のしびれ」),また,約87%の人が手足の感覚麻痺を訴えている(?の「手
足の感覚麻痺」)。従って何らかの手足の感覚障害という意味では,全員が異常を訴えている
ということになる。
?の運動失調については,上肢と下肢に若干の違いがあるが,常時,時々を含めて何らか
の運動失調がある者は全員である(?のつまずきやすい,転びやすいが下肢に関する運動失
調。?の細かい作業がしにくいが上肢に関する運動失調)。
?視野狭窄については,40代〜50代の患者の53名のうち44名が常時または時々の
異常を訴えている(?の視野狭窄)。
すなわち,今回の調査対象者については,実際には,ほとんどの者が公健法上の水俣病患
者としては認定されていないが(6項?参照),四肢抹消優位の感覚障害,運動失調,視野狭
窄のいずれについても異常を訴えている者が大多数であることを考えると,厳密な診察をす
れば相当程度の者が水俣病と認定されるのではないかと推測される。
(2)いつ頃から症状が出ているのですか。
症状や回答者によって異なる回答であった。但し,症状の種類を問わず,年齢を重ねるごとに症状が悪化している傾向にあるようであった。
(3)上記の症状による日常生活や仕事への影響についてお聞きします。
? 日常生活においてどのような支障が生じていますか。
今回の調査対象者の全員が,日常生活上の何らの支障を訴えている。以下に,具体例を紹介する。
・足のこむらがえり。
・常時疲れやすい。
・人の支えがないと歩くのが困難。
・関節が痛い。
・手足のしびれ。
・小さい物をうまくつまめない。
・手足のしびれのため,例えば,けがをしてもあまり痛みを感じないので,いつ,どこで怪我をしたのかが分からない。血が出ているのを見て初めて気が付く程度。
・夜よく寝られない。
・カラス曲がりなど日常茶飯事で,ひどいときは30分,40分つりっぱなしの時もある。
・耳鳴りがひどく,人の声が聞こえないので,自分もついつい大声で話してしまう。
・心臓に不整脈がある(ニトロを持っている)。
・茶碗を落として割ったりする。
・1人で布団も干せない。
・箸がうまく使えない。
・言葉がどもり,人に挨拶などができない。
・人間関係が作れない。子ども時代から症状があり友達ができなかった。
・物をつかんでいる感覚がない。
・手がふるえるのでお茶を出すのが嫌。
・味付けが濃すぎたり,薄すぎたりする。
・車の運転をしているとき,横がまともに見えない。
・細かい仕事がつらい(手の震え)。
・脱いだつもりのつっかけが脱げなくて,そのまま上ってしまう。段差に躓いて,転倒し,骨折した。
・一番困るのは眼。手術のしようがないと言われている。新聞は読めない。目薬は1日1本必要。
・風呂に入るとき心臓から下までしか浸かれない。
・風呂の湯加減がわからない。
・怖くて水泳ができない。
・長く座っているのが苦痛。長く座っていると足がしびれて固まって立ち上がれなくなる。あぐらが長時間できない。座敷の食事等がつらく,早く終わってくれないかと思ってしまう。
・忘れてしまって何度も尋ねることがある。
・家の外にはほとんど出ない。テレビも見ない。本も読まない。家では掃除,洗濯をしているが頭が痛かったりだるかったりするので,掃除,洗濯を毎日することはできない。他は何もしていない。
・左右の視力が違い,また,視力も変わってくるため眼鏡が合わない。そのため,頭痛がする。
・何を食べてもおいしくない。等
? 仕事面で何か不都合や被害を受けたりしていますか。
仕事への支障についての訴えのみならず,それによる周囲からの反応について回答するものも見られた。以下に,具体例を紹介する。
・仕事に就いたことがない。
・補助的な仕事に限定される。スーパーのレジの仕事などしかできない。
・目を使う仕事ができない。
・長期間機械を扱うと,調子が悪くなる(腕など)。疲れやすいとは思う。
・指先にとげなどが刺さっていても気づかない。
・仕事中に休むことが多くなった。細かい作業ができないので困ることがある。同じ状態でいられない。重い物を抱えると,つって,しばらく腕をのばせない。
・立ちくらみ,めまいのため仕事がしにくい。県外で仕事しているとき,水俣出身ということがわかると「あなたも泡をふくんじゃないの?」などと言われた。
・パートに出たが,水俣病のことを言われた。私は申請中とは言わず黙っていたが,居づらくなり辞めてしまいまった。農作業も身体が痛く,していない。
・細かい作業が出来ない。文字を書けないのが,一番つらい。
・ひざが曲がらないので座るときは足を投げ出さないといけない。和式トイレが使えない。草むしりができない。
・手に力が入らないので,雑巾が絞れず,仕事の手伝いができなくなった。
・脚立など高い所へ上がれない。
・手が震えてハンダ付けができないときがある。
・手の感覚がないので,痛みを感じない。水俣病報道でよく登場したこともあり,会社から「お前はなぜ自分が水俣病だと言うのか」「お前の血は青いんだろう」「神経が通っていないんだろう」と言われた。
・物忘れ。商品の陳列がうまくできず,時間がかかる。
・高校卒業後,国鉄の試験を受けたが,耳鳴りのために面接,身体検査で落ちた。
・声が聞き取りにくいのですぐに返答できない。電話対応に困る。
・何か言われていることはわかるが,中身がわからないので何度も聞き直す。
・網を引く作業が船の上なので,すぐ転んで青あざができてしまう。手の握力も17〜18kgしかない。
・船の修理の仕事をしている。仕事に関してお客から信用を失いつつある。なくなっているかもしれない。仕事の集中力というか取り組みにむらがある。
・重たい船具(2kg)を持てないことがある。
・海上タクシーの仕事をしているが,荷物を運ぼうとすると落としてしまう。弁償することもあった。
・若い頃から漁業の網の修理が苦手だった。道具に糸が通らない。
・漁は2人でする仕事なので,自分が休めば夫も漁に行けず仕事が出来ない。よって収入減となる。子どもを育てるためには毎日漁に行かねばならない。
・農作業中にハサミ,のこを落とす。
・腰痛や肩こりがひどくなり痛み止めの注射を打つことが多く,通院しながらの農作業で仕事も進まない事も多い。人に代わってもらうことも多い。
・建設関係の仕事をしているが,手足のしびれがあるため測量作業がうまくできないことが多く,他の人から「他の人に代われ」と言われることがある。
・建設関係の仕事なので段差のある足場での作業(上り下り)がきつい。
・靴下工場で細かい作業だったので大変でした。
・手足が自由でないために,作業中に指を切断した。等
? 日常生活や仕事の面で不利益を生じたり,差別を受けたりしたことがありますか。
特にないと回答したものも多く存在したが,様々な不利益,差別を受けたりしたことがあると回答しているものも多かった。具体的な不利益,差別事例についての訴えを紹介する。
・高卒後,大阪で過ごしていたところ,テレビで水俣病のニュースが流れると「あなたの郷里
が映っている」等と言われ恥ずかしかった。夫の母が福岡の病院で手術を受けた。母は医療
手帳を持っていたので医療費がかからないが,看護師は医療手帳を見て,「これ何ですか!」
と驚いた。他の患者は支払をしているのに母だけ払わない扱いを説明するのに大変だった。
・差別についてあるとは思うが「大した症状もないのにお金をもらっている」「お金をほしが
っている」と悪口を言われる。だから自分も友達にもいえない。
・水俣病について活動(ビラ配り)をしていると,通行人の女性から「ニセ患者」と言われた。
・いとこが認定患者で胎児性患者を産んでいるが,差別を受けているのを見てきた。身内に漁
業関係者がいて,迷惑がられた。汽車では水俣で窓を閉めていた。
・自分ではないが,妹が「そんな身体なら家の人も早くいなくなればいいと思う」などと心な
い言葉をかけられた。
・薬剤師から,「認定患者だけが本当の患者だ,薬のありがたみが分かっていない,薬のお金
を払っていない,自分たちが払った税金が使われている」などと言われた。
・医療費を支払わないことについて,詐病ではないかと言われたことがある。「あんた達はよ
かなー,手帳もらえてなー,医療費がただで!」
・子どもが結婚前だったから申請しなかった。差別されるから。それまで手足のしびれはない
と言って隠していた。
・集会場などで声が聞きづらく困る。耳が聞こえないことで「つんぼ」とか言われる。隣家の
人が,結婚が破談になったという話を聞いた。
・お金目当てと言われる。
・水俣病だとお嫁に行けないなどと言われていたし,あえて調べようとは思っていなかった。
今までは,ただの神経痛ではないかと思っていたが,平成16年頃に水俣病のことを知って,
平成7年の政治解決の時もまさか自分が水俣病だとは思わなかった。
・裁判をしているので,「金がほしくてやっている,それくらいは誰でも身体に異常はある」
という悪口を言われる。父が認定されたときもニセ患者と言われた。
・ある人から「指輪など似合わない手だ」と言われた。口をつぐんで通行したり,けがらわし
いなどといわれた。行政からの正確な情報提供がないため。
・自分も見合いをしたが,水俣病の話が出ると,相手が断ってきたりした。結局,水俣病のこ
とをよく知らない外国人の女性と結婚した。
・テレビに出たあと差別を受けた。今の職場もいつ辞めさせられるか分からない。
・実家から送ってくる魚をおすそわけすると,「水俣からきたものだから嫌だ」と言われたこ
とはある。
・今現在はそうでもないが,幼小時期は冷たい目でみられたこともある。島外に出ていて結婚
していた際,県営住宅にいたとき,「笑わない人がきた」とか色々なことをいわれた。
・学校生活のときいじめられた。但し,水俣病との自覚はなく,トロイのが原因でいじめられ
ていると思っていた。
・小学校,中学校のとき悪口を言われた。近所のおばさんに会った際に父,母,妹だけに声を
かけて,自分に声をかけないということもあった。腹も立つし,とても悲しい。今でもそう
である。
・無理な仕事ができなくなった(手先や目を使う仕事ができない)。
・仕事中でもよくころぶことがある。高所のよう壁から足を踏み外して落ちたこともある。そ
のつど,「ボケか」と言われたりして,人からさげすまされているという思いがする。
・表だってはないが,何かを理由にして仕事がどんどん減っている。
・感覚がなく荷物を落としたり壊したりするため,職場の人からすごく言われる。
・仕事ができないことの理由がわかってもらえない。
・チッソの昭和50年度の採用試験を受けたときのこと。筆記試験が終わり,面接試験を受け
ていた時,面接試験の最後の質問で,「チッソが水俣病を起こしたことがよいか悪いか答え
なさい」と言われました。その時に,「それは悪い」と言ったら,面接官が「悪いだな」と
確認し,面接が終わった。結果は不採用だった。
・午前中しか仕事ができない。漁師なので潮加減があるが,夕方までの長時間の仕事ができな
い。
・手に力がなく配送中に店の商品を落とし,ビン類など割って弁償したりしている。
・親が認定されたとたん,縁談が破談になった人が近所にいた(相手は県外の人で,相手の両
親の反対のため)。
・仕事ができないために上司に解雇を申し渡され,職安に行こうとしたこともある。
等
水俣病以外の診断結果としてあげられていたものでは,「手足のしびれ」,「めまい」,「頭痛」,「腰痛」,「関節痛」,「原因不明」,「仕事上の疲労」等の回答があった。
<コメント>
手足のしびれというのは感覚障害の典型的な症状であり,水俣病患者には頭痛や腰痛,関
節痛などを訴える者も多くいる。診察を受けたときに,医師の側に,これらの症状が水俣病
の症状であるという理解がなかった可能性もある。
? いつ頃から病院に通っていますか。
40代〜50代の胎児性世代,小児性世代では子どものころから病院通いをしている人が多い。その一方で,最近になって通院を始めた者もいる。
<コメント>
症状によって発症の時期が異なること,複数の症状を訴える者が大半であるということ等
の事情によるものと思われる。
? どのような治療を受けていますか。
はり,きゅう,マッサージ,電気治療,湿布,漢方治療薬などといった回答が多く見られ
た。
<コメント>
これらの治療方法は保険適用外となることも多く,別途,医療費や医療手当の支給の必要
性が高いものである。
? 病院に通うことでの不都合があれば教えてください。
病院まで遠くて通院に時間がかかる,交通の便が悪いといった病院までのアクセスに関す
る回答や,1人で通院が出来ないという身体面での不都合を訴える回答,交通費や治療費な
どの経済的負担が大きいといった費用面での回答のほか,通院によって仕事に支障が生じる,
仕事を休めないので通院できない,医師の紹介が必要など不便といった回答があった。
<コメント>
未回答にはその年代には出生していなかったり幼児期であったために記憶が定かでなかった
りするものも含まれる。そのため,昭和20年代については未回答の割合が高くなっているも
のの,同年代に魚介類を摂取していないということではない。また,その年代に出生していな
い場合でも,母親が魚介類を摂取していれば胎児性の水銀暴露の問題が生じうる。
汚染地域を離れても家族から魚介類を送られてくることによってその魚介類を多食したとい
う例もあり,汚染地域を離れたことが魚介類の摂食と切り離されるとは一概には言えない。
さらに,地域によっては山間部や汚染地域と離れているような地区に居住していても行商か
ら購入したという例も見られた。
?ほぼ毎日?1週間に1回?1ヶ月に数回?ほとんど食べていない未回答
6 水俣病関係の認定申請について
(1)あなたはこれまで水俣病関係の認定申請をしたことがありますか。
ある 90名
ない 17名
(2)前項で「ある」と答えた方は下記にご回答ください。
? 認定申請(公健法)
水俣病関係の認定申請をしたことがあると回答した90名のうち,56名が公健法上の認
定申請に関しての申請状況を回答した。
結果の内訳は,認定2名,保留12名,棄却16名,申請中(審査中)8名,その他・回
答不明19名であった(1名は2回申請し,1回が棄却,1回が保留)。
? 総合対策医療事業
省略
? 政治解決(平成7年)のときの総合対策医療事業
省略
? 平成16年10月15日関西水俣病訴訟最高裁判決まで認定申請(公健法)をしたことがなかった
(公健法上の認定申請に関しての申請状況を回答した対象者について集計)
したことがない 37名
したことがある 19名
(3)平成16年10月15日関西水俣病訴訟最高裁判決まで申請しなかった理由についてお聞きします。
(公健法上の認定申請に関しての申請状況を回答し,平成16年10月15日関西水俣病訴
訟最高裁判決まで認定申請をしたことがなかったと回答した対象者37名について集計。複
数回答可能。)
? 申請しても認定されないと思ったから。…5名
? 自分や家族に差別(結婚,就職,近所付き合い)などの不利益が生じると思ったから。…18名
? 認定申請についてのやり方がわからなかったから。…7名
? 自分が水俣病であることがわからなかったから。…18名
? 自分が水俣病であることを周囲に知られたくなかったから。…7名
? その他…10名
未回答…2名
<コメント>
?の差別などの不利益が生じると思ったとの回答や,?の自分が水俣病であることを周囲に
知られたくなかったという回答からは,依然として水俣病に対する差別や偏見が根強く残って
いることが窺われる。
?の申請しても認定されないと思ったというのは,現行の認定審査基準の審査が厳しすぎて,
殆どの患者が認定されないという基準の不合理性を患者が感じていることを示していると思わ
れる。
?の認定申請についてのやり方が分からなかったというのは,行政からの情報提供が不十分
であるということを示している。また,?の自分が水俣病であることが分からなかったと回答
する者も多かった(約半数)。
なお,その他の理由として,
・有機水銀による健康被害を受けていることは自覚していたが,救済を受けることができる「水
俣病」とは思わなかった。
・祖母から恥ずかしいから申請するなと言われた。近所から水俣病の人と接触するとうつるか
ら行くな等と言われていた。認定されると子どもまで差別されるかもしれないと思った。
・母親にも,歩行障害,手足のふるえ,よだれ(口回りのしびれ)の症状が強くあったが,差
別のおそれ(妹の結婚など)から申請は拒否していた。(母親自身と妹の意向)
・親戚,友人等にチッソの関係者が多いため対人関係の悪化を懸念して見送っていた。
・認定,申請方法などの制度説明は役所からもされたことは全くない。
・申請が出来ることを知らなかった。もう終わったこと,過去のことと思っていた。
・若かったので重く考えてなかった。歳を増すごとに酷くなった。
・他の都道府県に居住していたので関心を持たなかった。
等の回答があった。(但し,集計対象者外の人の回答も含む)
(4)前項で?(自分が水俣病であることがわからなかった)に○をつけた方にお聞きします。
どうして自分が水俣病であると思わなかったのですか。
(公健法上の認定申請に関しての申請情報を回答し,平成16年10月15日関西水俣病訴
訟最高裁判決まで認定申請をしたことがなく,その理由について「自分が水俣病であること
がわからなかったから」を選択した対象者18名について集計。複数回答可能。)
? 手足のしびれなどの感覚障害を感じなかった。…0名
? 生まれたときから手足のしびれなどの感覚障害があり,自分の症状が水俣病であるとは思わなかった。…4名
? いわゆる急性劇症型の人が水俣病であり,自分は水俣病であるとは思わなかった。…18名
? 魚を多食しておらず,水俣病になったとは思わなかった。…1名
? その他…1名
<コメント>
本項の質問の対象者全員(18名)が,?のいわゆる急性劇症型の人が水俣病であり自分が
水俣病であるとは思わなかったとの理由を選択しており,これは,水俣病に対する情報開示が
不十分であったことを示すものと言える。(なお,集計対象者外の人についても,かなりの人
数がこの選択肢を理由にあげており,有効な回答ではないが,「水俣病=急性劇症型」という
とらえ方がかなり根深く浸透していたことが窺われる。)
?の生まれたときから手足のしびれなどの感覚障害があり,自分の症状が水俣病であると思
わなかったとの回答についても,?と同様に水俣病に関する情報提供が十分になされていなか
ったことを推測させるものである。
なお,その他の理由として,
・症状が出てきたのが後からで,明確な診断がなかった。
・平成7年当時,他県にいたので,政治解決を知らなかった。行政からは何も情報提供はなかった。
・診察に行かなかったから,はっきりわからなかった。
・行政から情報提供もなかったので水俣病であるとの認識がなかった。
・他人と比較しないので,分からなかった。
・テレビで見るひどい状態の人だけが水俣病と思っていた。
等の回答があった。(但し,集計対象者外の人の回答も含む)
7 家族の申請状況について
(1)あなたの家族で,これまで水俣病の申請をした方はいますか。
いる 92名
いない 15名
(2)その方はあなたとはどのような関係の人ですか。
省略
(3)申請した結果はどうでしたか。
省略
(4)申請した時期はいつごろですか。
省略
(5)その家族の症状はどのようなものでしたか。
家族の症状についての回答は,手足のしびれやカラス曲がりなどが主であった。
(6)あなたの症状と具体的に違っていたところを述べてください。
省略
8 胎児性世代,小児性世代の健康被害について
(1)胎児性世代,小児性世代の人たち(40代,50代)と60才以上の人たちとの間で,健康被害に違いがあると思いますか。
?はい 20名
?いいえ 12名
?わからない 70名
未回答 5名
(2)そのように考えられる理由について述べて下さい。
省略
(3)手足のしびれなどについて違いがあると思いますか。
?はい 16名
?いいえ 12名
?わからない 67名
未回答 12名
(4)その理由について述べてください。
省略
(5)胎児性世代と小児性世代には何か違いがあると思いますか。
?はい 7名
?いいえ 4名
?わからない 89名
未回答 7名
9 平成16年10月15日関西水俣病訴訟最高裁判決後に水俣病認定申請をした方のきっかけ
(公健法上の認定申請に関しての申請情報を回答し,平成16年10月15日関西水俣病訴訟
最高裁判決まで認定申請(公健法)をしたことがなかったと回答した対象者37名について集計。複数回答可能。)
?知人,友人に勧められた 14名
?病院,医師に勧められた 3名
?被害者団体に勧められた 9名
?新聞報道やテレビ等を見て 2名
?家族や親戚に勧められた 11名
?その他 3名
未回答 5名
10 新保険手帳の申請をされた方のきっかけ
?知人,友人に勧められた 18名
?病院,医師に勧められた 2名
?被害者団体に勧められた 7名
?新聞報道やテレビ等を見て 0名
?家族や親戚に勧められた 13名
11 不知火海沿岸全域の健康調査について
(1)国,県の費用負担で調査を実施すべきである。(○をつけてください)
?はい 88名
?いいえ 7名
?どちらでもない 12名
(2)今から調査して健康被害の実態はわかると思いますか。(○をつけてください)
?はい 77名
?いいえ 19名
?どちらでもない 11名
(3)また,その理由について答えてください。
? 調査が必要であると回答した理由
早期解決のために国などによる健康調査の必要性に言及するもの,水俣病が未解決であるに
もかかわらず,一般には「終わったもの」と受けとめられているものに言及するもの等が多く
見られた。
・汚染地域の人たちが水俣病ということで差別されると思い,申請さえもできないでいる人が
まだ多くいる。調査をすれば実態が分かる。
・行政が健康診断のように行えば,多くの人が診断を受けると思う。
・現実に被害があって苦しんでいる人がたくさんいる。家庭訪問も取り入れるべきである。
・まだ水俣病であると気づいていない患者も多い。
・診断基準に納得ができない。症状に応じて判断されていないと思う。
・後から症状が出てきている人もいるので,調査には意味がある。
・感覚障害等が水俣病であるという情報は全く得られず,行政からも情報提供はなされなかった。
・あれだけの水銀を食べさせられていても「偽患者」と言われる。きちんと調査をしてほしい。
?調査を実施すべきであるか,健康被害の実態は分かるか,について「いいえ」あるいは「どちらでもない」と回答した理由
・調べる側のさじ加減次第。良くなるとは思わない。
・調査手法に疑問。
・水俣病であると偽った人がいた。本当に水俣病であることが分かるのか疑わしい。
・健康被害のある人は,既に各自が病院で検査済み。
・今頃,という感じ。遅すぎる。
・チッソ関係の仕事をしている人からは嫌がられることがある。
・今になって調査にお金をかけるのではなく,補償に回して欲しい。
12 水俣病の認定(公健法)基準について
(1)基準についてどのように考えていますか。(○をつけてください)
?きびしすぎる 88名
?妥当である 6名
?どちらでもない 13名
(2)そのように考える理由について述べて下さい。
基準がきびしすぎるとする理由としては,ほとんど申請が認められない,昭和52年より以
前の判断基準にすべきである,とするものが多数を占めた。中には,胎児性,小児性について
もっと解明すべきとするものも見られた。
一方,基準は妥当であるとする理由としては,きちんと検査をすれば自分が水俣病であるこ
とは分かるはず(認定審査会の運用の問題点を指摘する趣旨で述べられている)とするものが
見られた。
(3)基準を改訂すべきであると思いますか。
?きびしすぎる(はい) 81名
?妥当である(いいえ) 5名
?どちらでもない 14名
未回答 7名
(4)そのように考える理由について述べてください。
基準を改訂すべきであるとする理由としては,被害状況に応じ被害者を救済すべきとの趣旨
の回答が多数を占め,その他,関西水俣訴訟最高裁判決に準ずべきとの趣旨の回答も見られた。
一方,基準を改訂する必要はないとする理由としては,きちんと検査をすれば自分が水俣病
であることは分かるはず(認定審査会の運用の問題点を指摘する趣旨で述べられている)とす
るものが見られた。
13 今回の調査に関する自由記載
自由記載欄には患者の様々な思いが綴られていた。その内の一部を紹介することとする。
・水俣病はまだ終わっていない。水俣病患者はまだ救済されていないということを全国の皆さ
んに知っていただきたい。劇症型の水俣病で,軽いのはニセ患者だと思っている人が非常に
多いが,正しく水俣病のことを知ってほしい。水俣病の全面救済を1日も早くしてほしい。
全面救済をするには汚染地区の住民の全部の健康調査をしなければならない。
・平成7年の時に申請していない。ちょうどこのころからしびれを感じ始めた。水俣病の症状
を当時あまり知らなかった。水俣病の申請ができるとは思わなかった。
・もっと掘り下げて調べて欲しい。水俣病は終わったと思っている人が多い。多くの人に水俣
病について知って欲しい。
・子どもの頃から水俣病の症状に苦しめられてきた。私の母も同じ。母が水俣病だったか私に
は分かりませんが,私と同じ症状で苦しめられながら亡くなりました。もし,チッソの水銀
が原因でこうなったのであれば,チッソには責任をとってもらいたい。チッソの利益のため
に,私たちは何も知らずに自分の人生を台無しにされました。それを切りがないはないでし
ょう。最後の1人まで補償するのは当たり前のことです。たとえ,過失であっても,もし私
がチッソの立場だったら責任を取らされていますよ。
・この世に生まれる前から母胎の中で水銀にまみれ,生まれ落ちてすぐから命をつなぐため,
水銀に汚染された母親の母乳を飲まされて,生きなければならなかった赤ん坊。何も知らな
いで,愛しいわが子のために毒の入ったお乳を飲ませた母親。何の疑いも持たないで,無心
にお乳を飲み続けた末に水銀に身体をむしばまれて生きるしかない子どもたちが存在してい
るという現状をちゃんと見て欲しいと思う。50年以上の人生を水銀に苦しめられながら生
きてきて,これからもそれはもっと酷くなって続いていくという現実があることをしっかり
と認めて欲しい。
・汚染のことは聞いていたが,魚屋で売っているものだからと思って食べた。症状の重い人は
長年食べているからで,自分は未だ症状は出ないだろうと思った。申請した人に対する中傷
として,「申請されたとよー,まだ若いかモンのそがんことのあるもんか」という話を聞い
ていた。自分も申請したら同じように言われると思った。嫁ぎ先の両親も否定的だった。当
初は劇症型だけが「水俣病」だと思っていたが,新聞等で感覚障害でも「水俣病」であり,
メチル水銀が原因と報道されているので,そうであれば,自分も水俣病ではないかと思うよ
うになった。
・水俣湾だけの話だと思っていた。獅子島でも水俣患者がいることは平成18年になって始めて知った。悔しい,残念,どうして早く教えてくれなかったのかと。水俣病についての知識はあったが,自分の症状が水俣病だとは思っていなかった。昨年の12月に友人が水俣病の話があるので行くように誘われた。その際に「症状」を聞いた所,自分の症状とあっていることに驚いた。市役所に照会し,患者団体を紹介された。それ以前は関心もなかった。水俣病の患者は特別の人だろうと思っていた。
・胎児性世代についてちゃんと検査してほしい。漁師で毎日魚を食べていて「棄却」では納得できない。現在,手足の多少の麻痺(転びやすい),足のしびれ,カラス曲がりなどで障害も多いのに,まったく認定の外とはおかしい。自分が水俣病でないというのはどう考えてもおかしい。どうしても進展しなければ裁判も考えている。将来が不安。症状はひどくなっている感じがする。
・目に見えない症状をもっている人に対してもしっかり理解してあげるべきだ。苦しんでいる人は多くいる。自分でもよく分からないことが多く,判断できない。
・自分は早いうちから水俣病のおそれありと言われていたが,なかなか認定されなかった。同じ症状のある人でも認定に差があるのはおかしいのではないか。会社は責任を認めて,できる限り救済してもらいたい。
・チッソの対応に不満がある。テレビ等で見聞きするチッソの態度や意見に腹が立つ。
・水俣病の調査は行政がすべきものである。行政がきちんと住民の健康調査を行い,水俣病の全面的な救済をすべきである。
・不知火海沿岸の住民の健康調査を実施して,早くすべての人々を救済してほしい。そうしないと再び何回も裁判等の問題が今後起こってくると思う。
・何回も同じような調査をされている。社会に反映されていないのではないか。
・医者の検診の時は2〜3分見ただけで「ここはどうですか」って聞かれて「えぇ」ていったらそれでおしまい。「ここがおかしい」と言ったら 「そのようなことは言わなくてよい。聞いていることだけ答えろ」と言われた。これが実情。これでは検診とは言えない。
・打ち切られても今後水俣病の人が出てくる可能性が極めて高い。水俣病は年をとって気づくことが多いので。
・水俣病の重さによって,例えば5段階で認定して重さに応じて補償をすべきではないか。オール・オア・ナッシングは不当。裁判をしている高齢者は苦しんでいる。国に対策を望む。
・いろいろな調査が度重なっているので,現実的な救済を早期にしてほしい。チッソにはこの問題から逃げることなく,責任をとって救済に取り組んでほしい。
・基準を考え直してほしい。疫学を重視すべきである。行政から情報がきたことはない。行政の怠慢である。高齢化しており,早く解決してほしい。医師も経験がなく,診断能力がない。
・症状は人によって様々である。検査もそれにマッチしたものにしてほしい。今回の調査が,基準見直し,患者切り捨てでない方向に行くためのきっかけとなることを望む。
・被害者も高齢化しており,早く解決し,救済してほしい。救済が進まないことについて,特にチッソの対応については腹立たしい。調査を進め,救済してほしい。
・現在被害者団体に入り少しずつ水俣病のことについて分かるようになったが,若いときから関係があったとは思いもしなかった。いとこたちがたくさんいて,水俣病であったことは知っていたが,自分も同じ水俣病であることが分かったのがあまりにも遅すぎた。残念でならない。でも,この機会に自分たちが水俣病であることが分かったことは幸いであった。遅くなったとはいえ自分たちがやらなければいけないこと,出来ることは進んで参加し,みんなで協力して頑張りたいと思う。
・今,申請している人たちの中にも1800万円に相当する重い被害者はたくさんいる。150万で一律救済ならば全員救済にしてほしい。程度の差に応じて補償する制度を作るべき。行政側が,税金が高くなったのは水俣病患者が多く出てきたせいだとあちこちで言っている。そのせいで町民が水俣病のせいでと思うようになっている傾向もある。
・このままだと地球が危ない。大変苦労してきた。後がない。
・生きているうちに補償してほしい。それが一番。自分が死んだ後に残される娘のことがとても心配。娘は水俣病が一番ひどかったときに生まれた。
・水俣病は終わりではないので弁護士の方も力を貸して下さい。1人でも多くの人を救済してください。
・日弁連の調査はありがたい。この調査結果を国・県は,重く受け止めて水俣病解決に努めてほしい。
・被害者の相談には乗ってくれた弁護士に頑張ってもらっていることで心強い,一緒に頑張ってほしい。チッソの分社化は被害者にとってマイナスになるのでは。
・聞き取りがあったことで,これまで言いにくかったことをみんなに伝えて,理解してもらえることがよかった。以前より,基準が緩和されているように思える。申請しやすくなっているように思える。
以 上
http://www.nichibenren.or.jp/ja/committee/list/data/minamata_houkokusyo_000.pdf
Posted by 大阪水・土壌研究会員 at 17:01│Comments(1)
│底質汚染分科会
この記事へのコメント
を訴えている者が多く存在した
Posted by gucci outlet at 2011年08月26日 16:15