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2009年12月22日

岡山の環境裁判例

処分取消請求控訴事件(岡山県岡山市)

○ 土地の埋立てに使用された係争物が産業廃棄物ではないとして市がなした事業停止処分等が取り消された事例

広島高裁 平成16年7月22日判決
事件番号 平成14年(行コ)第16号
事件名   処分取消請求控訴事件
結果    原判決変更
原審   岡山地裁平成12年(行ウ)第24号
出典   最高裁判所ホームページ

【判示要旨】
 土地の埋め立てに使用された本件係争物が,産業廃棄物であるか否かが争点となった事案について,本件係争物が産業廃棄物であるとは認められないとして,被控訴人の控訴人らに対する本件行政処分の取消しを命じた事例

【判決文】(抜粋)

第1 主文
1 原判決主文第2項を次のとおり変更する。
(1) 控訴人らの下記(2)及び(3)の各処分無効確認請求をいずれも棄却する。

(2) 被控訴人が,控訴人エヌエス日進株式会社に対して,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成12年法律第105号による改正前のもの)14条の3第1号及び14条の6に基づき平成12年12月19日付け岡山市指令産廃第544号により行った平成13年1月10日から同月19日までの事業停止処分は,これを取り消す。

(3) 被控訴人が,控訴人有限会社津下建材に対して,同法12条1項及び19条の3に基づき平成12年12月19日付け岡山市指令産廃第545号により行った岡山市ab番c地内及びその周辺への汚泥の搬入中止及びその撤去を命じる処分は,これを取り消す。

2 控訴人エヌエス日進株式会社のその余の控訴を棄却する。

3 訴訟費用は,1,2審を通じて,控訴人エヌエス日進株式会社と被控訴人との間ではこれを2分し,その1を控訴人エヌエス日進株式会社の負担とし,その余を被控訴人の負担とし,控訴人有限会社津下建材と被控訴人との間では全部被控訴人の負担とする。

第2 事案の概要

1 本件は,本件係争物が産業廃棄物に該当するとして被控訴人が控訴人らに対してした各処分(以下「本件各処分」という。)等について,本件係争物は改良土であって産業廃棄物ではない等と主張する控訴人らが,主位的に本件各処分等の無効確認を,予備的にその取消を求めた事案である。

2 争いのない事実及び証拠上容易に認定できる事実

(1) 当事者等

ア エヌエス日進は,昭和52年2月12日に設立され,産業廃棄物収集運搬業(被控訴人平成9年5月28日付け更新許可。乙4の1),産業廃棄物処分業(被控訴人平成9年5月28日付け更新許可。乙4の2)及び特別管理産業廃棄物収集運搬業(被控訴人平成11年3月2日付け更新許可。乙4の3)の各許可を受け,産業廃棄物処理を主な業務とする株式会社である。

イ 津下建材は,産業廃棄物収集運搬業(被控訴人平成10年12月20日付け更新許可)の許可を受け,これを業として行っている有限会社であり,収集運搬車両として,登録番号岡山11こ3145及び岡山11こ3148を含め合計7台のダンプを利用することを被控訴人に届けている(乙8,11,12)。

ウ 訴外株式会社未来(以下「訴外未来」という。)は,重機数台を所有し,土木工事を業として行っている株式会社であり,その代表者は訴外A(以下「訴外A」という。)であるが,同人は,津下建材代表者の夫である(乙11)。

エ 岡山市環境事業局業務部産業廃棄物対策課(平成13年4月1日付け機構改革により現在は岡山市環境局保全部産業廃棄物対策課である。以下「産廃課」という。)は,廃棄物処理法2条4項に定める産業廃棄物の処理等に関する事務を地方自治法2条10項に定める法定受託業務として執行するために設置された被控訴人の組織である。

(2) 本件各処分等に至る経緯

ア 産廃課職員は,平成12年8月24日,エヌエス日進のd事業場に対する立入調査を行った。d事業場には,汚泥の天日乾燥・混練固化施設(以下「ピット」という。),破砕施設などの産業廃棄物中間処理施設に加え,ピットで乾燥固化されたものを原材料として改良土を製造するための施設(以下「改良土プラント」という。)があった。

イ 同年9月11日及び同月14日,灰色の有体物(以下「本件係争物」という。)が,訴外未来所有の10トンダンプにより,d事業場から岡山市a地内の土地(以下「本件土地」という。)に運搬され,本件土地に本件係争物が降ろされた。

ウ 産廃課職員は,同月14日午後5時30分ころ,本件土地への立入調査を実施し,本件係争物を採取して持ち帰った。

エ B(以下「B」という。)は,同月21日午後1時31分ころ,訴外未来所有の10トンダンプに本件係争物を積載してd事業場を出発し,同日午後1時50分ころ,本件土地に到着し,本件土地に本件係争物を降ろした。そこで,産廃課職員が,Bに事情聴取したところ,Bは以下のとおり答えた。また,産廃課職員は,同日,本件係争物を採取して持ち帰った。

(ア) 訴外未来の代表者である訴外Aの指示により,平成12年5月若しくは同年6月ころから,エヌエス日進より改良土として購入したものをd事業場からダンプで本件土地へ搬入し,埋立に使用していた。

(イ) 搬入量は,10トンダンプで1日あたり少ないときは7車分,多いときは50車分である。

オ 産廃課職員は,同日,訴外Aに事情聴取を行い,その際,同人は以下のとおり答えた。そして,被控訴人は,同月22日,訴外Aから,関係書類の提出を受けた。

(ア) 平成12年6月,本件土地のうち,岡山市ae番f及び同所b番cの各土地を重機置場にする目的で,エヌエス日進の代表者であるC(以下「C」という。)から購入した。

(イ) 埋立に利用していた材料は,エヌエス日進から改良土として購入したものである。その価格は,10トンあたり,当初2000円であったが,平成12年5月からは3500円に値上がりした。

カ 産廃課職員は,同日,Cにも来庁するよう求めたが,Cは出張中のため,エヌエス日進の営業課長であるD(以下「D」という。)が訪れ,事情聴取に応じた。

キ 被控訴人は,同月22日付け書面をもって,Cの来庁を求めたところ,同月26日,同人はDとともに訪れ,以下のとおり述べた。

(ア) エヌエス日進が,平成12年4月から7月までの間に受け入れた汚泥の大半は,大本・アイサワ・蜂谷共同企業体(以下「訴外共同企業体」という。)がシールド工事を請け負っている岡山市g町作業所から排出されたものである。

(イ) 訴外共同企業体からの受託開始は,平成10年12月ころであるが,本格的な受入は,平成12年5月以降で,同年4月から8月末までの処分委託実績は,10トンダンプで576車分である。

ク 被控訴人は,同年10月17日付けで,エヌエス日進に対し,以下のとおり,予定している不利益処分,不利益処分の事実となる原因等を記載した弁明の機会付与通知書を送付した(甲23)。

(ア) 予定している不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項

(予定している不利益処分の内容)
? 産業廃棄物収集運搬業及び産業廃棄物処分業の事業の全部停止10日間

? 特別管理産業廃棄物収集運搬業の事業の全部停止10日間

(根拠となる法令の条項)
? 廃棄物処理法14条の3第1号
? 廃棄物処理法14条の6

(イ) 不利益処分の原因となる事実
 平成12年6月上旬から同年9月21日までの間,産業廃棄物中間処理業務に伴って生じた産業廃棄物である汚泥(セメント等により固化したもの)の収集運搬を訴外未来こと津下建材に委託する際,書面による委託契約を行わなかった。

(ウ) 弁明の機会の付与の方式 弁明書の提出

(エ) 弁明書の提出期限    平成12年10月30日

ケ  被控訴人は,同年10月17日付けで,津下建材及び訴外未来に対し,以下のとおり予定している不利益処分,不利益処分の原因となる事実(本件係争物が産業廃棄物であること)等を記載した弁明の機会付与通知書を送付した。

(ア) 予定している不利益処分の内容

? 岡山市ab番c地内及びその周辺への汚泥(セメント等により固化したものを含む)の搬入を中止すること。

? 岡山市ab番c地内及びその周辺に放棄している汚泥(セメント等により固化したもの)を平成13年4月10日までに適正な処分を行うことができる場所へ撤去すること。

(イ) 弁明の機会の付与の方式 弁明書の提出

(ウ) 弁明書の提出期限    平成12年10月30日

コ エヌエス日進,津下建材及び訴外未来ら代理人であった菊池捷男弁護士(以下「菊池弁護士」という。)らは,同月26日,被控訴人に,弁明書と題する書面を提出し,本件係争物は有価物(第3種,第4種改良土建設資材)であるから産業廃棄物ではないと主張し,被控訴人が本件係争物を産業廃棄物であると断定した根拠についてその争点の明確化を求めた(乙27)。

サ これを受けて,被控訴人は,同年11月27日付けで,菊池弁護士に対し,以下の内容を記載した弁明の機会の付与通知書(補充)を送付し,菊池弁護士の元に同月28日到着した(甲24の(1),(2))。

(ア) 不利益処分の原因となる事実の補充部分(産業廃棄物である汚泥と認定した理由)
 以下の事実等を総合的に勘案した結果,本件係争物は「廃棄物」すなわち「不要物」に該当する。   

? 本件係争物は,造成地への搬入直後も泥状を呈し,天日乾燥しなければ,埋め立てることができないことなどから中間処理が不完全である。

? 本件係争物は,中間処理過程においてセメント等を添加している上,中間処理後の粒状も均一でなく,岡山県や岡山市における「改良土」の基準にも該当しない。

? 排出者(工事請負業者)は,汚泥をセメント固化等したのち「建設汚泥(産業廃棄物)」として排出し,エヌエス日進に処理委託している。

? セメント固化後に排出の建設汚泥については,通常,同業者は「改良土として製造できない。」等との理由から,全量管理型最終処分場に処理委託している。

? セメント固化後に排出の建設汚泥を「改良土」に製造・販売している業者は,岡山市内においては他に見当たらない。

? リサイクルを推進している岡山市でさえ,セメント添加による「改良土」は,業者から一切購入していない。

? 同業者に比べ,本件係争物の売買価格がかなり安価である。

? エヌエス日進における「改良土」の販売先は,本年5月以降訴外未来こと津下建材のみである。

(イ) 補充部分についての弁明の機会の付与の方式  弁明書の提出

(ウ) 弁明書の提出期限              平成12年12月11日

シ これに対し,菊池弁護士らは,同年12月1日までに,被控訴人に,弁明書(補充)を提出し,反論した(乙54)。

ス そして,菊池弁護士らは,同月5日付けの証拠開示請求書と題する書面を被控訴人に提出し,上記サ(ア)の根拠となった証拠の開示を求めた(甲25)。

セ さらに,菊池弁護士らは,同月13日付けの弁明の機会の付与と証拠開示の請求と題する書面を送付し,被控訴人に同月14日に到着した(甲26の(1),(2))。

ソ しかし,被控訴人は,エヌエス日進らからの上記ス及びセの求めに応ずることなく,同月19日,エヌエス日進及び津下建材に対し,以下の内容の本件各処分をした。

(ア) エヌエス日進に対するもの(乙29。岡山市指令産廃第544号。以下「本件事業停止処分」という。)
 産業廃棄物収集運搬業,産業廃棄物処分業及び特別管理産業廃棄物収集運搬業の許可に係る事業全部の平成13年1月10日から同月19日までの10日間の事業停止

(イ) 津下建材に対するもの(乙30。岡山市指令産廃第545号。以下「本件中止撤去命令処分」という。)

? 岡山市ab番c地内及びその周辺への汚泥(セメント等により固化したものを含む)の搬入を中止すること。

? 岡山市ab番c地内及びその周辺に放棄している汚泥(セメント等により固化したもの)を平成13年4月10日までに適正な処分を行うことができる場所へ撤去すること。

タ また,被控訴人は,エヌエス日進に対し,平成12年12月19日,産業廃棄物処理業に係る許可証の返納を求める通知をした(乙67。岡山市指令産廃第546号。以下「本件許可証返納通知」といい,本件各処分と併せて述べる場合には「本件各処分等」という。)

3 争点
(1) 本件事業停止処分に係るエヌエス日進の訴えの適法性
(略)
(2) 本件許可証返納通知に係るエヌエス日進の訴えの適法性
(略)
(3) 本件係争物の特定性等
(略)
(4) 本件係争物の産業廃棄物該当性
(略)
(5) 本件各処分等に係る行政手続の違法性
(略)

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件事業停止処分に係るエヌエス日進の訴えの適法性)について
(1) 被控訴人は,本件事業停止処分に係るエヌエス日進の訴えは,本件事業停止期間の経過により,訴えの利益が既に消滅していると主張する。

(2) 行政処分についての取消訴訟あるいは無効確認訴訟は,当該処分の効果が期間の経過等により消滅した場合においても,なお処分の取消しあるいは無効確認をしなければ回復できないような法律上の利益を有する者に限りこれを提起することができる(行政事件訴訟法9条,36条)。したがって,事業停止処分のように,行政処分が一定の期間内に限り,国民の権利利益を制約するものである場合,すわなち,処分に期間が付されている場合,期間経過後においては,処分がされたことを理由として法律上の不利益を受けるおそれがあるのでなければ,その取消し等を求める訴えの利益は消滅する。

(3) 本件の場合に本件事業停止期間が経過していることは明らかであるから,なお,エヌエス日進において,法律上の不利益を受けるおそれがあると認められるかが問題となる。

ア 廃棄物処理法14条2項,5項及び同法14条の4第2項は,産業廃棄物収集運搬業,産業廃棄物処分業及び特別管理産業廃棄物収集運搬業について,5年を下らない政令で定める期間ごとに更新を受けなければ,その期間の経過によって,その効力を失う旨規定しており,その更新許可にあっては,許可に準じる審査基準が適用されるが,同法14条3項等により適用される同法7条3項4号ホは「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」には許可をしてはならない旨規定している。

イ この規定について,被控訴人は,申請者の資質及び社会的信用の面から適切な業務運営が初めから期待できないことが明らかな者をいい,エヌエス日進のように比較的短期間の事業停止処分を受けた者は,上記規定に該当するとされることはあり得ないと主張する。しかし,上記規定には被控訴人主張のような限定は付されておらず,エヌエス日進が,将来産業廃棄物収集運搬業等の許可の更新を申請した場合,本件事業停止処分の存在がエヌエス日進にとって不利益な事由として考慮されるおそれがあるといわざるを得ない。

(4) 以上によれば,本件事業停止処分に係るエヌエス日進の訴えには訴えの利益があると認められるから,当該訴えは適法である。被控訴人の上記主張は採用できない。

2 争点(2)(本件許可証返納通知に係るエヌエス日進の訴えの適法性)について

(1) 被控訴人は,本件許可証返納通知は,これによってエヌエス日進に法律上の作為義務が発生するものではなく,また,これに従わなかったとしても,そのこと自体で不利益を受ける訳ではないから,取消訴訟等の対象となる処分には該当せず,本件許可証返納通知に係るエヌエス日進の訴えは不適法であると主張する。

(2) 取消訴訟等の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは,公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解される(最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁)。

(3) そこで,本件許可証返納通知について検討するに,本件細則(乙34)は,許可証を返納しなければならない場合として業務停止処分が為された場合を規定しているのみであって,本件細則に基づく本件許可証返納通知には,これを強制する手続等に関する規定はない。したがって,本件許可証返納通知は,取消訴訟等の対象となる処分には該当しないというべきである。これに対し,エヌエス日進は,許可証を返納した結果,廃棄物の処理委託契約を一切締結できなくなるという極めて重大な影響を受けると主張するが,これは事業停止処分の結果であって,許可証の返納によるものではないから,エヌエス日進の上記主張は採用できない。

(4) 以上によれば,被控訴人の上記主張は理由がある。したがって,本件許可証返納通知に係るエヌエス日進の訴えは不適法である。

3 争点(3)(本件係争物の特定性)について
(1) 控訴人らは,本件各処分の対象となる本件係争物の特定が不十分又は対象物が不存在もしくは誤認の瑕疵があると主張する。

(2) 本件事業停止処分における不利益処分の原因となる事実は「平成12年6月上旬から同年9月21日までの間,産業廃棄物中間処理業務に伴って生じた産業廃棄物である汚泥(セメント等により固化したもの)の収集運搬を訴外未来こと津下建材に委託する際,書面による委託契約を行わなかった。」というものであり,本件中止撤去命令処分の内容は「岡山市ab番c地内及びその周辺への汚泥(セメント等により固化したものを含む)の搬入を中止すること。岡山市ab番c地内及びその周辺に放棄している汚泥(セメント等により固化したもの)を平成13年4月10日までに適正な処分を行うことができる場所へ撤去すること。」である。

 本件各処分に至る経緯は,前記第2の2(2)で認定したとおりであり,平成12年9月の事情聴取の時点から,本件係争物について,被控訴人は産業廃棄物である汚泥であると主張し,控訴人らは,改良土であって,産業廃棄物ではないと主張し,控訴人らは,被控訴人が本件係争物を産業廃棄物であると断定した根拠についてその争点の明確化等を求めていたことが認められる。控訴人らは,対象の特定性(その性状,搬入期間,搬入量)において不十分であるばかりでなく,エヌエス日進が製造した改良土を本件土地に搬入を開始したのは,平成12年8月中旬以降であると主張する。

 しかし,本件においては,上記のとおり,本件係争物の産業廃棄物該当性については争いがあるところ,本件各処分の対象となる本件係争物が何を意味するのかということについては控訴人らと被控訴人との間に事実上争いはないと認められる上,本件の場合には,搬入期間及び搬入量が本件係争物の特定に不可欠なものであるとまではいうことはできないから,本件係争物の特定性を欠くものとは認められない。

(3) 以上によれば,控訴人らの上記主張は採用できない。
4  争点(4)(本件係争物の産業廃棄物性)について
(1) 産業廃棄物の定義

ア 廃棄物処理法は,2条1項において,「『廃棄物』とは,ごみ,粗大ごみ,燃え殻,汚泥,ふん尿,廃油,廃酸,廃アルカリ,動物の死体その他の汚物又は不要物であって,固形状又は液状のものをいう。」と定義しているが,この規定は,一般に廃棄物として取り扱われる蓋然性の高いものを代表的に例示したものであり,廃棄物とは,占有者が自ら利用し,又は他人に有償で売却することができないために不要となったものをいい,これらに該当するか否かは占有者の意思,その性状等を総合的に勘案して定めるべきものと解される。
 したがって,当該物について,占有者が主観的に他人に有償で売却することができると判断しただけであって,客観的には他人に有償で売却することができないものは,廃棄物に該当するといわざるを得ない。

イ また,廃棄物処理法は,同条4項1号において,「『産業廃棄物』とは,事業活動に伴って生じた廃棄物のうち,燃え殻,汚泥,廃油,廃酸,廃アルカリ,廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物をいう。」と定義している。そして,同法施行令2条は,上記政令で定める廃棄物について,紙くず等12種類のものを規定するほか,13号において「燃え殻,汚泥,廃油,廃酸,廃アルカリ,廃プラスチック類又は前各号に掲げる産業廃棄物を処分するために処理したものであって,これらの産業廃棄物に該当しないもの」と規定している。

ウ 以上によれば,ある産業廃棄物を再利用のために処理をし,他人に有償で売却することができる状態となった場合には,当該産業廃棄物は,その産業廃棄物該当性を失うものと解される。したがって,ある産業廃棄物に何らかの処理がなされても,未だ他人に有償で売却することができる状態に至っていない場合には,その産業廃棄物該当性は失われないものと解される。

(2) 産業廃棄物該当性についての主張立証責任

ア 国民の自由を制限し,国民に義務を課する行政処分の取消しを求める訴訟においては,行政庁がその適法であることの主張立証責任を負担すると解すべきであるところ,エヌエス日進のd事業場に搬入された時点では産業廃棄物である汚泥であったことについては当事者間に争いがない本件の場合,本件係争物が産業廃棄物である汚泥に再利用のための処理をし,他人に有償で売却することができる状態となったことについて,控訴人らが主張立証責任を負担するのか,本件係争物がその産業廃棄物該当性を失っていないことについて被控訴人が主張立証責任を負担するのかが問題となる。

イ そこで検討するに,上記(1)で述べたところによれば,確かに,本件係争物が汚泥の状態にないということだけでは,その産業廃棄物該当性は否定されないものの,被控訴人は,本件事業停止処分にあたっては,エヌエス日進が平成12年6月上旬から同年9月21日までの間,産業廃棄物である本件係争物の収集運搬を津下建材に委託する際,書面による委託契約を行わなかったことを不利益処分の原因となる事実としている以上,上記の期間において,本件係争物が汚泥であったということ又は本件係争物はこれを他人に有償で売却することができないものであったということについて,被控訴人がその主張立証をする責任を負うといわなければならない。また,被控訴人は,本件中止撤去命令処分にあたっては,津下建材が同命令時に産業廃棄物である本件係争物を本件土地に放棄していたことを不利益処分の原因となる事実としたものであるから,同様に,同命令時において,本件係争物が汚泥であったということ又は本件係争物はこれを他人に有償で売却することができないものであったということについて,被控訴人がその主張立証をする責任を負うといわなければならない。

(3) 本件係争物の産業廃棄物該当性の有無

ア まず,被控訴人は,本件係争物は産業廃棄物である汚泥であると主張するので,この点について検討する。

(ア) 汚泥とは,工場排水等の処理後に残るでい状のもの及び各種製造業の製造工程において生ずるでい状のものであって,有機性及び無機性のものをすべて含むとされているところ,旧厚生省生活衛生局水道環境部産業廃棄物対策室作成の建設廃棄物処理指針(平成11年3月。甲30,乙33。以下「本件指針」という。)によれば,「建設汚泥の取扱い」として,以下のとおり記載されていた。

 ? 地下鉄工事等の建設工事に係る掘削工事に伴って排出されるもののうち,含水率が高く粒子が微細な泥状のものは,無機性汚泥として取り扱う。また,粒子が直径74ミクロンを超える粒子をおおむね95%以上含む掘削物にあっては,容易に水分を除去できるので,ずり分離等を行って泥状の状態ではなく流動性を呈さなくなったものであって,かつ,生活環境の保全上支障のないものは土砂として扱うことができる。

? 泥状の状態とは,標準仕様ダンプトラックに山積みができず,また,その上を人が歩けない状態をいい,この状態を土の強度を示す指標でいえば,コーン指数がおおむね200kN/?以下又は一軸圧縮強度がおおむね50kN/?以下である。

? しかし,掘削物を標準仕様ダンプトラック等に積み込んだ時には泥状を呈していない掘削物であっても,運搬中の練り返しにより泥状を呈するものもあるので,これらの掘削物は「汚泥」として取り扱う必要がある。なお,地山の掘削により生じる掘削物は土砂であり,土砂は廃棄物処理法の対象外である。

? この土砂か汚泥かの判断は,掘削工事に伴って排出される時点で行うものとする。掘削工事から排出されるとは,水を利用し,地山を掘削する工法においては,発生した掘削物を元の土砂と水に分離する工程までを,掘削工事としてとらえ,この一体となるシステムから排出される時点で判断することとなる。

(イ) 本件の場合,本件係争物がエヌエス日進のd事業場に搬入された時点で,産業廃棄物である汚泥であったことについては,当事者間に争いがない。しかし,本件各処分においてその産業廃棄物該当性が問題とされる時点は,本件事業停止処分については平成12年6月上旬から同年9月21日までの間であり,本件中止撤去命令処分についてはその処分時である同年12月19日の時点であるから,その各時点で本件係争物が産業廃棄物である汚泥と認められるかを検討しなければならない。

(ウ) この点について,被控訴人は,本件土地へのダンプアウトされた直後の本件係争物について目視,歩行実験した結果及び関係者からの事情聴取(乙11,13,14,49,51,52,証人F,同〔いずれも原審〕)から,本件係争物は,本件土地への搬入時点で泥状を呈しており,本件土地に人工的に掘った穴で天日乾燥して固めた後でなければ埋め立てることができないほどの流動性を有しており,平成12年9月21日に歩行実験を行ったところ,同実験を実施した産廃課職員F(以下「F」という。)は,くるぶしのあたりまで埋まり,歩行困難な状態であったと報告していること等から,本件係争物は産業廃棄物である汚泥であると主張している。

(エ) 証拠(乙11及び13添付の各写真,甲32〜35,39,154,155,証人B)によれば,平成12年9月21日に本件土地へダンプアウトされた直後の本件係争物は,エヌエス日進のd事業場でB運転のダンプに積載され,山道を約20分程度要して運搬されたにもかかわらず,約45度の安息角をもって堆積しており,ダンプの荷台にも粘土状あるいは液状の物体の付着は認められないこと,同月14日の本件係争物もほぼ同様な状態であったことが認められる。
 これらの事実及び前記(ア)の本件指針からすると,本件係争物は産業廃棄物である汚泥であるとは認められないというべきである。なお,本件指針によれば,土質を示すコーン指数も汚泥かどうかを判断する基準の一つとされているところ,産廃課職員は,同月14日及び21日の立入検査の際,本件係争物を採取したが,これらについて,コーン指数についての検査が行われていない(当事者間に争いがない)ため,本件の場合,コーン指数の点から本件係争物の性状を判断することはできない。
 さらに,被控訴人は,泥状物堆積実験を行い,その報告書等(乙81〜83)を提出するが,上記実験に用いられた建設発生土は,その性状,そのダンプアウト中の状態等からして,本件係争物とはその性状を著しく異にするものといわざるを得ないから,上記実験結果によっても,上記結論は左右されない。

(オ) したがって,被控訴人の本件係争物が産業廃棄物である汚泥である旨の上記主張は採用できない。

イ 次に,被控訴人は,本件係争物は建設汚泥として排出された後他人に有償で売却できるものとして再生されたものではない旨主張し,その根拠をあげるので,この点について検討する。

(ア) 被控訴人は,本件の場合,エヌエス日進は,訴外未来に10トンあたり3500円で売却した本件係争物を10トンあたり4750円の運搬賃等を支払って納品しており,控訴人らは,有償での売却を仮装している旨主張し,この点について,弁明書(乙27)添付の訴外未来作成の請求書等から明らかとなったその取引関係から認められるものであって,Cから訴外Aに売却されて所有権移転登記もなされた土地についてCを債務者とする根抵当権設定登記が抹消されないでいたこと(乙44の(3),(4)),埋め立てられた本件土地の全部が訴外Aの土地ではないこと(乙43の(2),44の(5)),本件土地の排水施設をCが管理していること(乙45)などは,これを裏付けるものであると主張する。
 しかし,上記根抵当権設定登記は旧岡山市民信用金庫を根抵当権者とするものであるが,同信用金庫が破綻したことは当裁判所に顕著であり,また,平成14年2月には同登記は抹消されている(甲118,119)のであるから,平成12年の時点において,控訴人らが主張するとおり,同根抵当権は被担保債権も存在しない実体のないものであった可能性は十分にあるものということができる。そして,被控訴人が主張するその他の点を考慮しても,Cと訴外Aが通常のビジネス上の交際を超えて本件係争物の有償譲渡を共謀して仮装するような関係にあったとは認められない。そもそも,被控訴人が主張する上記仮装の根拠は,控訴人ら代理人が被控訴人に提出した弁明書(乙27)に添付された資料であるところ,そこに有償譲渡仮装の証拠資料を誤って混入させてしまうというような事態は想定し難い。これに対して,控訴人らは,上記請求書中の「土工 上高田 8H−3人」(乙27の73頁)等は,本件土地の100メートル南に所在するエヌエス日進の分別場所の工事代金であり,「11t常用 d 8H−2台」(乙27の74頁)等は,dでダンプをチャーターした代金であり,本件係争物のdから本件土地への運搬賃ではないと主張し,Cも,原審において,この主張に沿う供述をしている。そして,控訴人らが主張する分別場所が存在し,その土地の所有者がCであることは,証拠(乙38の(3),43の(2))上これを認めることができ,また,上記請求書中には,「k」という記載もなされており,これはエヌエス日進における営業所の一つであると認められる(Cの原審供述)。
 被控訴人は,エヌエス日進が訴外未来に対し,10トンあたり3500円という極めて安価であるいは原価割れで本件係争物を販売しているとも主張するが,証拠(乙25,甲94)によれば,エヌエス日進は,訴外共同企業体から汚泥の処理を委託され,その委託代金として,ダンプ1台あたり1万8000円を受領しており,石灰代,人件費等の製造費用を差し引いても,10トンあたり3500円で販売すると,1立米あたり約1000円程度の利益を得ることができることが認められる。
 これらの点を総合考慮すると,本件の場合,上記請求書中のエヌエス日進の訴外未来に対する支払が本件係争物の本件土地への運搬賃等であると断定することまではできないといわざるを得ない。

(イ) さらに,被控訴人は,
?改良土は,通常茶色で粒状が均一で小さくさらさらしているはずなのに,本件係争物は,灰色で粒径が40?以上の粒土が混在している,

?本件係争物はpH値が12で,植物の生育に適さない,

?本件係争物のようにセメント添加により粘土状の状態で排出された汚泥は,改良土として加工できない,

?本件係争物が建設汚泥リサイクル指針に定める第3種又は第4種改良土に該当するとしても,岡山県や岡山市の基準には適合しない等公共団体への売却はできず,民間は改良土を利用しないのが通常であるから,その商品価値はなく,商品価値があったとしても,その市場性も極めて狭いものであるから,当然に有価物にはならない,

?平成12年8月24日のエヌエス日進のd事業場への立入検査の際,原料となるべき建設発生土等は全く保管されていなかったし,その際,E工場長は委託処理について述べたが,訴外事業団に対する調査の結果,その発言が虚偽であったことが判明した,

?控訴人らの主張によっても,行方不明の改良土が多く存在する,

?エヌエス日進は,訴外共同企業体には,改良土として道路中央分離帯の工事に使用すると説明していた,などと主張する。

 しかしながら,このうち,?ないし?については,証拠(甲154〜158)によれば,京都大学大学院地球環境学堂のH教授は,根拠として十分でない,あるいは誤った見解であるとの意見を述べていること等が認められ,被控訴人の主張は一つの見解にしか過ぎないといわざるを得ないし,pH値については,当初産廃課職員において,問題とされていなかったことが認められる(原審証人Iの供述)。

 ?については,建設汚泥を材料としてセメント系固化剤を使用して改良土を製造する方法は,一般に行われているものであり(甲65,101),また,?のうち,建設発生土等の保管の点については,控訴人らは,これを否認しているところ,原審証人の供述によれば,同日の立入検査時に直接確認した調査員はおらず,帰りの車の中で話が出たものに過ぎないというのであるから,これを直ちに採用することはできない。?の点については,控訴人らは被控訴人とは異なる計算をしており,これが全く根拠のないものとは認められない。?のE工場長の発言については,控訴人らはこれを否認し,これに沿ったE工場長の陳述書(甲37)を提出しており,また,?については,産廃課職員作成の報告書(乙25)においても「道路の中央分離帯等に使用する」と記載されており,道路の中央分離帯工事のみに使用するとはされていないことからして,これらを直ちに採用することはできない。

(ウ) 一方,証拠(甲161)によれば,本件係争物には,控訴人らが主張するとおり,石灰が添加されていたことが認められるのであって,このことは本件係争物がエヌエス日進d事業場に設置されている改良土プラントで処理されたことを裏付けるものである上,本件係争物によって埋立られた本件土地が3年以上経った時点においても,当初の形状を保持していること(争いがない)は,本件係争物が控訴人ら主張の締め固めの効果を持つことを裏付けるものである。さらに,エヌエス日進は,建設汚泥を材料とした改良土について,他にも販売実績を有している(甲21,67ないし70等。枝番を含む。)

(エ) 以上検討した結果によれば,本件の場合,被控訴人が,本件係争物の売買が仮装ではないかと疑念を持つに至ったことにその根拠が全くなかったとまではいえないものの,本件係争物が有価物ではなく,訴外未来を含む控訴人らの間で売買が仮装されたと断定することはできないといわざるを得ない。したがって,本件係争物については,有価物として再生されていない産業廃棄物であるとも認めることはできない。被控訴人のその他の主張,立証によっても,以上の認定,判断を覆すには足りない。

5 争点(5)(本件各処分に係る行政手続の違法性)について
 上記4によれば,本件各処分は,産業廃棄物とは認められない本件係争物を産業廃棄物として行われたものであるから,違法なものであるといわざるを得ないが,その瑕疵の程度は,前記第2の2(2)で認定した本件各処分に至る経緯及び上記4によれば,明白なものであるとは認め難いというべきであるから,本件各処分の取消事由となるに止まり,無効事由とはならないといわざるを得ない。
 控訴人らは,本件各処分の無効確認を主位的請求とし,前記第2の3(5)のアにおいて,本件各処分に係る行政手続の違法性についての主張をしている。しかし,仮に,本件各処分に係る行政手続に控訴人ら主張の違法性があると認められるとしても,その違法は本件各処分の取消事由とはなるものの,無効事由とはならないと解されるから,上記のとおり既に取消事由があることが認められる本件の場合には,争点(5)についてさらに判断を加える必要はないといわざるを得ない。

6 以上によれば,控訴人らの本件各請求は,本件各処分の無効確認を求める主位的請求は理由がないからこれを棄却すべきであるが,本件各処分の取消を求める予備的請求は理由があるからこれを認容し,エヌエス日進の本件許可証返納通知の無効確認等を求める訴えは不適法であるから却下すべきである。

第4 結論
 よって,結論を異にする原判決を変更し,仮執行宣言については相当でないからこれを付さないこととし,主文のとおり判決する。

http://houmu.h-chosonkai.gr.jp/hanrei/jirei61.htm



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Posted by 大阪水・土壌研究会員 at 20:20│Comments(1)小鳥が丘団地土壌汚染
この記事へのコメント
小鳥が丘の土壌汚染は、何の落ち度も無くマイホームを買った住民が不条理な土壌汚染事件に巻き込まれています。

一般市民が企業相手に裁判を提訴し、公判維持していく負担は想像以上のストレスがたまります。

両備ホールディング・岡山市・岡山県・環境省・国土交通省等は誠意のある適切な対応を行うことを切に希望します。

素人さんを泣かしてはいけません。
Posted by 土壌汚染研究 at 2010年07月17日 18:02
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岡山の環境裁判例
    コメント(1)