ナチュログ管理画面 釣り 釣り 近畿 アウトドア&フィッシングナチュラムアウトドア用品お買い得情報

2009年10月18日

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

土地の有効利用のための土壌汚染情報等に関する検討会中間とりまとめ

一部追加しています。

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

目 次
1.はじめに
2.土壌汚染関連情報の提供に係る現状と諸問題・取組
 2.1 土壌汚染関連情報の提供に係る現状認識
  2.1.1 土壌汚染関連情報の提供の現状
  2.1.2 土壌汚染調査と情報収集
 2.2 土壌汚染関連情報
  2.2.1 人為的汚染
  2.2.2 自然的原因による土壌の基準値超過
  2.2.3 その他
 2.3 土壌汚染関連情報の提供の目的と期待される効果
  2.3.1 情報提供によるリスクの回避・低減
  2.3.2 土壌汚染調査の効率化と標準化への貢献
  2.3.3 土壌環境に係る土地の制度的管理
  2.3.4 自治体の業務効率化
  2.3.5 土壌汚染地に係る保険の普及
  2.3.6 土壌汚染地の資産評価
 2.4 国内における土壌汚染関連情報の提供に係る制度・取組
  2.4.1 土壌汚染対策法
  2.4.2 自治体の取組
  2.4.3 その他
 2.5 諸外国における土壌汚染関連情報の提供に係る制度・取組
  2.5.1 アメリカにおける取組
  2.5.2 ドイツにおける取組
3.事業所立地履歴マップ
 3.1 マップの作成方法
  3.1.1 作成手順概要
  3.1.2 作成方法
  3.1.3 収集データの種別
  3.1.4 データの収集例
 3.2 マップの表現方法
  3.2.1 事業所立地履歴マップの表示種別
  3.2.2 事業所立地履歴マップの表示方法についての考え方
 3.3 事業所立地履歴マップの公開・活用
  3.3.1 事業所立地履歴マップの全体像
  3.3.2 マップの活用方法
  3.3.2 事業所立地履歴マップを公開・活用する際の論点整理
4.自然由来重金属類分布マップ
 4.1 マップの作成方法
  4.1.1 マップ作成の目的
  4.1.2 作成手順
  4.1.3 作成方法
  4.1.4 表現方法
 4.2 マップの活用方法
  4.2.1 マップの活用方法
  4.2.2 自然由来重金属類分布マップの活用マニュアル(案)
  4.2.3 自然由来重金属類分布マップ例(仮想案)
5.関係者等意見
 5.1 検討会委員意見
 5.2 ヒアリング結果
6.汚染された土地の有効利用促進等に向けた情報提供の方向性と課題
 6.1 土壌汚染情報のデータベース化
  6.1.1 人的活動に起因する土壌汚染データベース構築の方向性と課題
  6.1.2 自然的原因による土壌の基準値超過に係るデータベースの構築の方向性と課題
 6.2 土壌汚染の正確な知識の周知とリスクコミュニケーション



1 はじめに

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

 我が国の限られた国土において、 土地は国民共通の財産といえるものであり、その適正かつ有効な利用を実現することが不可欠である。そのためには、土地を有効利用しようとする者が円滑に土地を取得し、利用を開始しやすくすることが必要である。
 しかしながら、高度成長期を経て我が国の社会経済情勢が安定化する中で、産業構造の変化に伴う工場跡地の他用途利用
や、住商混在型のまちづくり、事業所等が相当程度点在する街なかの再開発等の増加が見られ、これらの局面で土壌汚染が判明し、しばしばトラブルとなった結果、当該土地の有効利用が阻害されるケースが生じている。

 土壌汚染問題については、国民の健康保護を目的として、平成14 年5月に土壌汚染対策法が制定(翌年2月施行)され、また、土地取引市場においても、そのリスクが強く意識されるようになっていたことから、国土交通省では、平成14 年10 月に「宅地公共用地に関する土壌汚染対策研究会」を設置し、翌年6 月、土地取引の安全性と円滑化の確保を目的とした土地売買契約に当たっての留意事項や、土地建物取引業者の留意事項に関する基本的な事項等を体系的にとりまとめ、公表した。

 しかしながら、土壌汚染の判明した土地については、依然として土地取引が忌避され、土地の有効利用や再開発、まちづくりにおいて支障が生じる事態になっている。この最大の要因として、国民や市場が土壌汚染問題について正しい認識を有しないことによる過剰な反応・対応が指摘されているところであり、それが土地所有者を汚染事実の公表について消極化させ、市場にそれらの情報が集積されない結果、さらに国民の過剰反応を促すという悪循環にあると思われる。

 こうした問題意識を踏まえ、国土交通省において、土地取引の円滑化による土地の有効利用促進等の観点から、土壌汚染土地について現状と課題を整理し、具体的な方策につながる検討を行うことを目的として、平成20 年に「土壌汚染地における土地の有効利用等に関する研究会」が設置され、同年4月、土壌汚染地における土地の有効利用方策を検討する際の様々な課題等について、「中間とりまとめ」として整理が行われた。

 その中で土壌汚染に関する情報の提供が、土壌汚染に対する国民の理解を改善し得るものであるとともに、それが根幹的な課題であることから、本年度は、土地の有効利用促進の観点からの土壌汚染に関する情報の提供のあり方に焦点を当て、特に土壌汚染に関連する情報のマッピングについて試作・検討することを目的として「土地の有効利用のための土壌汚染情報等に関する検討会」を設置し、4回の会合を開催した。
 今般の「中間とりまとめ」はその成果であり、この種のマップを作成・公表することについての意義や課題、作成方法等を整理したものである。本年は土壌汚染対策法の改正が議論されており、その成立と政省令の整理の状況も考慮し、今後、自治体あるいは市場において積極的な情報提供を進める際の参考となることを期待する。

2.土壌汚染関連情報の提供についての現状と諸問題・取組

2.1 土壌汚染関連情報の提供に係る現状認識

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

2.1.1 土壌汚染関連情報の提供の現状

 土壌汚染問題に対する一般的理解が不足していることから、我が国においては土壌汚染に関する情報は秘匿されがちであり、容易に公にはならず、一般社会では土壌汚染が特別なものだと認識されている。
 その結果として、土壌汚染が報道等で取り上げられた場合、その汚染の程度が重篤なものでなくとも、世の中においては過剰に反応される傾向がある。
 また、この風潮により土地所有者等は公表を拒みがちとなり、結果的に悪循環となっている。

 しかしながら、我が国が火山国であることに由来する、重金属の自然含有レベルの高い土壌の存在や、過去の人為的活動により重金属等が河川などを通じて移動・濃縮した底泥などで構成されていることが多い臨海の埋立地の存在、水質汚濁防止法等公害対策が講じられる以前の工場等の跡地利用など、土壌汚染は決して特別なものではない。
 それらの土地を健康リスクの観点から見た場合、多くは過剰反応するほどの大きなものでなく、合理的な対策により十分対応可能なレベルであると考えられる。
 土壌汚染が社会問題化するのは、土壌汚染自体が比較的新しい概念であり、これまで通常存在するリスクの一つとして扱われなかった商習慣等の下で土地利用や土地取引が行われてきたことが背景にある。すなわち、対象とする物質が工場内等で取り扱われてきたことについて一般的には積極的にオープンにされていなかったにもかかわらず、近年土地利用や土地取引において急速にそれらの情報を求める局面が増加したためである。

 前述したとおり、基本的な土壌汚染関連情報が不在又はアクセス困難であるため、マンション購入後に土壌汚染が発覚し問題となるケースや、再開発計画を着手後に見直さざるを得なくなるケース等の支障が生じている。
 しかしながら、土壌汚染関連情報は、土壌汚染地の周辺住民や購入者にとっても利害関係を有するという意味では、土地の安全性に関する情報として公益的な側面を有するものであるため、広く共有されることが望ましい。

 これを踏まえると、我が国でも、全国的な土壌汚染関連情報をデータベース化し、インターネット等によりその時点の状況を誰もが閲覧できる仕組が存在すれば、土地取引の円滑化や浄化措置の促進・早期化等に資することになるとも考えられる。
 一方でこのようなデータベースの構築には様々な課題が存在するとともに、データ量も膨大となること等から、実現に相当の時間を要することが想定される。そこで、現実的に対応が可能と考えられる手法の一つとして、過去に工場が立地していた等の理由により、汚染されているおそれが高いサイトや地区を地図上に記載した「事業所立地履歴マップ」等を作成することが有効であると考えられる。

 「事業所立地履歴マップ」等の作成・公表により土壌汚染関連情報の一部が世の中に浸透すれば、土壌汚染に関する情報を公開することに抵抗を感じにくい風土の醸成につながり、土地取引・土地利用における土壌汚染の存在を特別視しないで行えることが期待される。
 結果として、比較的スムーズに土壌汚染情報データベースが世の中に受け入れられ、より効率的な土壌汚染への対応が可能になるものと考えられる。

 ただし、こういったデータベースを構築・公表する場合、そもそも情報の入手手段が限られており、また、情報の正確性に細心の注意を図る必要があることから、引き続き、関係行政機関が連携し、情報の入手源や入手方法について検討するとともに、その情報の元となる調査の信頼性及び正確性をいかに担保するかという点や万が一公表した情報が誤っていた場合に、当該データベース作成者の責任の射程及び当該情報を利用した結果他者に危害を与えてしまった者の責任の射程についても併せて検討しておく必要がある。

 なお、土壌汚染情報データベースの一類型として、浄化が完了したサイトに関し、当該サイトの土質や浄化が完了した旨を公表するようなデータベースを構築することも、土地取引の円滑化等に資すると考えられることから、こうした点についても検討する必要がある。


土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

2.1.2 土壌汚染調査と情報収集
 土壌汚染調査は、土壌が汚染されているかどうか、汚染されている場合にどの程度の汚染であるかを把握するために行われるものである。しかし、土地取引や対策計画立案など、調査実施主体が調査結果を使用する目的に応じて、調査の内容・手法や必要とする精度は異なる。
 このため、法や条例に基づかない民間の自主的な土壌汚染調査は、法令に基づく調査に準拠して進められることが多いが、必ずしも統一された基準のもとに実施されているわけではない。一般的な土壌汚染調査のフローを図2.1.1 に示す。

 地歴等調査(フェーズ?)は、土地利用履歴調査(登記簿、閉鎖謄本、古地図、空中写真等)、地形・地質に関する調査(ボーリングデータ、地形図等)、現地視察調査(周辺状況や対象地の現況を把握)などに基づき、土壌汚染のおそれの有無について定性的に判断する調査である。

 我が国では、(社)建築・設備維持保全推進協会(BELCA)が土地取引時に作成されるエンジニアリングレポート(ER)のガイドラインを定め、その中で土壌汚染のフェーズ?調査手法を提案するなどの取組があるが、統一された土壌汚染調査仕様が規定されるに至っていない。
 法令等に準じたフェーズ?調査を実施することによって、土壌汚染リスクが回避されるという一般認識が存在している。簡易なフェーズ?調査で土壌汚染の可能性が完全に否定される場合を除き、フェーズ?調査による評価が求められる傾向が強い。

地歴等調査(フェーズ?)
 ・既存資料調査
 ・現地踏査
 ・ヒアリング等調査

概況調査(フェーズ?)
 ・重金属等は表層部分での試料採取・試験
 ・VOCs は土壌ガス調査
 ・1,000 ?で1 地点調査

詳細調査(フェーズ?)
 ・ボーリング調査
 ・地下水調査
 ・ヒアリング等調査
 ・汚染範囲内100 ?で1 地点調査対策の策定と工事

モニタリング
・汚染の有無を判定
 汚染の可能性のない場合は終了
 汚染のない場合は終了

・汚染の平面的な広がりを調査
・汚染の範囲・深さ・程度を調査
・汚染の広がりを3 次元的に把握
・対策の必要性・範囲の設定
・汚染の可能性を調査

土壌汚染対策法に基づく汚染状況調査
(土壌汚染対策法に基づく調査及び措置の技術的手法の解説)
・土壌含有量調査
・土壌溶出量調査
・土壌ガス調査
・汚染のおそれのあるエリアは100 ?で1 地点調査

図2.1.1 一般的な土壌汚染調査フロー

フェーズ?調査を実施する際には現地踏査やインタビュー、依頼者から提供される書類記録等のレビューの他に、公的機関が保有する環境情報を精査する。アメリカでは、汚染サイトや浄化中のサイト、埋立地や処分場、貯蔵タンク等の情報が法令等によって登録されており、フェーズ?調査の実施時にはこれらの情報を評価の材料としている。

 一方、我が国でも同様の手法でフェーズ?調査が実施されているが、アメリカのような法令等がない。環境省と一部の自治体は、それぞれ土壌汚染対策法と条例が適用された土壌汚染地の調査・改善措置に関する情報を収集し、情報提供しているケースもあるが、これらの情報を制度的に集約する機関がないため、公的機関から多くの環境情報を得ることは困難である。
 また、法や条例の適用を受けず、自主的に実施された調査や改善措置が、土壌汚染調査実施数の大半を占めているものの、それらに関する情報を共有できる仕組が構築されていないことも課題である。
 土壌汚染に関して参照できる情報、資料の蓄積が少ないため、調査の案件毎に始めから調査を実施する必要が生じているのが現状である。
 調査を実施して汚染が判明すると、対策の実施や公表を迫られ、企業の会計への影響やイメージの低下につながる事態をおそれて、調査を実施しないケースも存在する。土壌汚染に対する社会的な見方は変わりつつあるとはいえ、自主的な調査の結果の提供については、企業サイドも消極的となることが想定される中で、効果的な情報収集を図ることが重要である。

 フェーズ?調査を実施する際には、住宅地図、不動産登記簿、土壌汚染に係る地域の基礎的情報(土地利用履歴、過去の地形図、漏出事故・汚染記録、潜在的汚染源の位置、地下水水質等の環境情報など)のほか、地方自治体や各省庁が所管する基礎的情報が活用される。

 これらの情報は、未整備もしくは個別に収集・管理されているために、データ収集の非効率が生じており、アクセスしやすいように整備されることが望ましい。

 土壌汚染に関する情報インフラが整備されることによる効果は、前述のとおりフェーズ?調査の品質確保や効率的な調査に資するものであり、生産性の向上にも結びつくものである。
 そして、土地取引等に当たっての保険活用や担保評価に資する有用な情報となる。また、情報インフラが整備されることにより、土壌汚染地の譲渡等があった場合でも、次の管理者等が当該土地の情報を円滑に引き継ぐことができる。これにより土壌汚染による環境リスクの管理についても、次の管理者等へ承継できることとなる。

2.2 土壌汚染関連情報
2.2.1 人為的汚染
人為的な土壌汚染の代表的な発生原因としては、以下の5つである。
? 工場等で使用していた有害物質が、不適切な取扱いや老朽化等による施設、設備の破損により漏えい、流出、飛散して土壌に浸透するという、事業活動が原因の汚染
? 産業廃棄物が埋立処分された土地で発生するという、廃棄物が原因の汚染
? 事故や災害により施設、設備が故障、破損等することにより有害物質が漏えい、流出、飛散等して土壌に浸透するという、事故や災害が起因の汚染
? 土地造成により上記の汚染土壌を搬入したことが原因の汚染
? 土地造成により自然の土壌中に存在する自然由来の汚染を搬入したことが原因の汚染

 上記の?、?については、土地利用履歴に関する情報が重要となる。立地した事業所の業種、使用化学物質、操業時期等が当該情報を構成する。
?については、同様に廃棄物処分場の立地履歴等が情報となる。
 一方、?のケースの土壌汚染については、関連する情報の収集が困難である。事業所としての土地利用履歴が確認されないケースにおいて、造成盛土内から土壌汚染が検出されている事例も多い。
?については、過去に埋め立てられた臨海部の土地について、砒素などが含まれる河川や浅海域の底質の浚渫土砂等が埋め立てに使われていることが多いことから、基準値超過の可能性が指摘されている。また、臨海部以外の低・平地部の埋立造成地においても、持ち込まれた土が原因の基準値超過が見つかっている。
 なお、浚渫された水底土砂による埋立地については、海洋汚染防止法の規定により、昭和48 年3月以降は、同法に基づく基準を満たした水底土砂とそうでない水底土砂を分けて埋め立て、後者については海水の流出防止措置や放流水の処理を講じることが義務付けられている。

 また、土壌汚染は1 箇所にとどまるものではないため、隣接地を発生源とするもらい汚染の可能性がある。したがって、調査対象敷地のみならず、隣接地や周辺土地の利用履歴等についても、人為的汚染に係る情報として有用である。

2.2.2 自然的原因による土壌の基準値超過
 自然に存在する岩石や地層に含まれる重金属が風化や水の流出に伴って拡散し、低・平地部に自然堆積した場合や、これらを含む河床や海底での堆積土砂などにより埋め立てられた場合であって、基準値を超過しているときは、自然的原因による土壌の基準値超過とみなされる。自然的原因の可能性のある物質として、砒素、鉛、フッ素、ホウ素、水銀、カドミウム、セレン、六価クロムなどがある。
 自然的原因による土壌の基準値超過を判断することは技術的には不可能ではないが、人為的汚染と混在した場合にそれを区分することは相当の作業が必要となる。その区分を把握するためには、自然的原因による土壌の基準値超過は含有量が一定の範囲内にあり、広域で観測されて局在性がないなどの特色を持っていることから、広域的な視点からバックグラウンド濃度などのデータを収集して分布特性等を見て判断していくことが必要である。
 こうした観点で、環境省や一部の自治体では、自然状態の土壌のレベルを把握するために、データの収集を始めている。

2.2.3 その他
上記の情報のほかに、土壌汚染の状況把握のためには、地盤の地層構成、有機物含有量、地下水面の位置など地下水に関する情報が、汚染の広がりを評価する場合には重要である。
 また、土壌汚染が確認された土地について、土壌汚染対策法に基づく区域指定の有無、調査結果、対策の進捗状況なども収集し、一括整理することが望ましい。

2.3 土壌汚染関連情報の提供の目的と期待される効果

2.3.1 情報提供によるリスクの回避・低減

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

 土壌汚染によるリスクについては、人の健康リスクが重要であることは言うまでもない。
 しかしながら、土壌汚染地の取引に関連して、その資産価値に係るリスクも予測が困難であり、そのリスクが顕在化した場合の影響は大きい。土壌汚染の程度によっては、浄化費用が土地価格を上回るケースもある。汚染を完全に除去しなければ、土地に残る土壌汚染の管理が必要となり、将来、想定外のコストが発生したり、将来売却する場合に想定以上の減価が生じる懸念もある。
 さらに将来の法改正で、規制対象物質が増えたり、基準が強化され、予測できない大きな負担が生じる可能性がある。実際の土地取引においては、人の健康リスクよりも、むしろ資産価値に係るリスクが問題となることが多い。

 行政が土壌汚染に関連して知り得る情報を提供することによって、国民や企業は土壌汚染によるリスクを特別なコストなしに概略把握することが可能となり、土地利用や土地取引を安心して行うことができる。
 企業であれば、事業構想初期段階で、ER作成前の概略情報として活用することも可能である。すなわち、土壌汚染によるリスクを、効果的に回避・低減することができる可能性が高くなるものと期待される。

2.3.2 土壌汚染調査の効率化と標準化への貢献
 土壌汚染対策法の規定に基づく調査は、環境大臣(地方環境事務所長)が指定する指定調査機関が実施することとされており、平成20 年12 月5 日現在、1,639 機関が指定されている。東京都等自治体の条例に基づく土壌汚染状況調査についても、原則として土壌汚染対策法に基づく指定調査機関に実施させることが定められている。
 ただし、指定調査機関の認定要件は届出による簡易な書面審査が中心であることに加え、土壌汚染対策法や条例が適用さ
れない調査では、土壌汚染の専門家以外でも調査の実施が可能なことから、調査結果の信頼性を問題視する意見もある。
 2.1.2で述べたようにアメリカなどでは、汚染サイトや浄化中のサイト、埋立地や処分場、貯蔵タンク等の情報が法令等によって登録されており、フェーズ?調査の実施時にはこれらの情報を評価の材料としている。情報が提供されることによって、調査者が情報を収集整理するコストを低減できる。
 加えて、最低限確認されるべき情報を調査発注者も容易に確認できるため、最低限の水準を満たさないような調査結果を排除し、上述のような問題点の解決に資するものと期待される。

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

2.3.3 土壌環境に係る土地の制度的管理



 土壌汚染が発見された場合、そこに土地取引が絡む場合には、売り手側や買い手側の要望から実態として完全除去されることが多いが、土壌汚染対策法や条例では、すべてのケースについて完全な除去まで求めているわけではない。
 当該敷地及び敷地以外の周辺環境において、人の健康に係る被害が生じ、または生じるおそれが顕在化していなければ、完全除去ではなく、土壌汚染が周辺環境に影響を及ぼさないように汚染拡散防止措置を実施することで足りる。そして、法や条例の適用対象とならない場合にも、この基本的な考え方は適用できる。
 土壌汚染を残置することによって、土地所有者は土壌汚染リスクを将来にわたって適切に管理することが求められるが、経済合理的な対策を選択できる余地が広がることとなる。
 掘削除去以外の対策により汚染が残存している場合、汚染土壌の継続的なリスク管理が必要となり、所有権の移転があれば、その役割は新しい所有者に適切に引き継がれなければならないが、個人レベルでは不安のあるところである。また、個人レベルで、土壌汚染の存在することによる土地資産の減価リスクの適切な判断が求められる。
 これらの点においても、土壌汚染に関する情報の整備・提供というシステムは重要な役割を果たし得る。

2.3.4 自治体の業務効率化
 特定の土地の土壌汚染に関する問い合わせに自治体が対応する際に参照可能な情報となるものであり、業務の効率化に資することが期待される。上記の土壌汚染土地の管理に加え、飲用井戸の管理体制の構築にも活用可能である。
 また、都市計画や公共施設の計画において、初期の事業構想段階で環境情報、コスト要因を概略把握することも可能となり、事業進捗後の予期しない深刻なコストオーバーランのリスク回避に繋がるものと期待される。

2.3.5 土壌汚染に係る保険の普及
 日本国内では、土壌汚染に関連した保険の普及が進んでいない。普及が進まない最大の理由は、保険料の高さと保険引受条件の厳しさにあるようである。仮に数を集めたところで発生要件の規則性が見いだせない(=大数の法則が成立しない)からこそ保険料が高くなり、加えて、逆選択(土壌汚染のリスクを抱えているのが明確な人ほど保険に入ろうとする)が生じ、最悪の場合モラルハザードにつながるため、保険の利用が進まないという側面がある。

 そして、保険の利用が進まないために、大数の法則の適用が困難となり、結果として保険料が高くなり、引受条件が厳しくなるという悪循環が生じている。さらに、保険料に加えて、保険引受のための高額の調査費用も被保険者において負担することが一般的となっており、このことも保険が利用されていない一因となっている。
 リスクを定量化するためのデータの蓄積は、保険商品の開発にとって重要である。土壌汚染リスクに関する情報が提供・整備されることにより正しい理解が進むことになるであろうことから、保険市場の創出に繋がる可能性もあるものと考えられる。
土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ
2.3.6 土壌汚染地の資産評価
 資産除去債務の導入に伴い、融資や企業買収に際しての調査や、企業自らの資産評価を目的として、企業所有不動産の土壌汚染に係る状況を概略把握するニーズは増すものと想定される。土壌汚染に係るデータベース構築は、土壌汚染地の資産評価を必要とするシステムが適切に運用されるための前提条件ともなり得るものであり、概略情報を把握する目的で重要
な役割を果たすものと期待される。

2.4 国内における土壌汚染関連情報の提供に係る制度・取組

2.4.1 土壌汚染対策法
 土壌が有害物質により汚染されると、汚染土壌の直接摂取や、汚染土壌から有害物質が溶出した地下水の飲用等により人の健康に影響を及ぼすおそれがある。汚染原因者等の責任の明確化と土壌汚染による健康被害の防止が求められる中、土壌汚染対策の法的な拠り所として、平成15 年に土壌汚染対策法が施行された。
 同法のもとでは、次のとおり、特定の有害物質を取り扱った工場や事業所の敷地であった土地の所有者に対し、土壌汚染の調査とその結果の報告が義務づけられている。しかし、土壌汚染対策法は、民間の事業者が自主的に行った調査結果の届け出を義務付けていない。

【土壌汚染対策法に基づく調査の概要】
(目的) 国民の健康保護
(対象物質) 特定有害物質(重金属、揮発性有機化合物等25 項目)
(対象:調査の契機)
? 使用が廃止された「特定有害物質の製造、使用または処理をする水質汚濁防止法の特定施設」に係る工場・事業所の敷地であった土地
? 都道府県知事が土壌汚染により人の健康被害が生じるおそれがあると認める土地

2.4.2 自治体の取組
 土壌汚染対策法が平成15 年2 月に施行されて以後、多くの自治体で条例や要綱等が制定・改正され、その中に土壌汚染に関する調査・対策の実施義務や届出措置が盛り込まれた。
 また、独自に条例において、土壌汚染調査に関して、より厳格な規定を設けている自治体もある。例えば、東京都は、環境確保条例において土壌汚染に関する規定を設け、3000 ?以上の土地の改変を行う場合又は有害物質取扱事業者が事業を廃止若しくは主要な部分を除却する場合、調査を実施し報告することを義務付けている。しかし、土壌汚染の自主調査結果については、汚染が確認された場合の届け出を義務付けた上で公開するところ(三重県等)、できるだけ届け出るよう指導するところ(名古屋市等)、そもそも届け出を義務付けていないところなど、自治体によって取扱いが異なっている。

2.4.3 その他
(1)土地利用マップの公開・頒布
 大阪市では土地利用現況の情報をマッピングして頒布するとともに、図2.4.1 に示すようにインターネットを通じて無償公開している。当該情報は、各土地利用を土壌汚染リスクと関連付けて読み取り、理解した場合には、土壌汚染リスクを示すマップとして機能するものと考えられる。

土地利用状況  一戸建て住宅  長屋住宅  共同住宅  販売商業施設  業務施設  文教施設
医療厚生施設  遊興・娯楽・サービス施設   宿泊施設  工業施設     供給施設  運輸通信施設
官公署施設    その他施設   公園・緑地・お墓  建物のない土地
【出典】大阪市土地利用現況情報提供インターネットサービス

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ
図2.4.1 事業所位置情報の提供例

(2)自然的原因による土壌の基準値超過に係る情報提供の取組
 自然的原因による土壌の基準値超過については、種々の資料もあり、データがあれば正確な判断と基準設定も可能であると考えられる。例えば、鉱床地帯・その周辺などの鉱染地帯や変質岩帯の地域から道路工事等により発生し得る基準値超過土壌については、広域地質図、一部の地域の鉱染マップ、採石資源分布図を使って類推できる。一方、都市部の土壌を考えると、本来の自然的原因による基準値超過土壌と、過去の人為(不特定多数の人為を含む。)に起因する汚染者特定不可能な汚染土壌などが混在しており、汚染者負担の観点からは慎重な判断が求められる。

 前述のとおり、自然的原因による基準値超過土壌の判断基準については、さらなる科学的データの蓄積・公開が重要である。こうした視点で、地質情報、自然起源汚染情報、人為汚染情報などの全国規模の各種地圏情報をGIS 化して情報提供するシステムである「地圏環境インフォマティクス」の構築が東北大学を中心に進められている。この中では、日本の重金属バックグラウンドの把握、地域によるバックグラウンドの差異の把握方法の開発、地質と環境因子との関連性の把握と、これらを共通のプラットフォームで把握する取組が進められている。

(3)各種ハザードマップの作成・公表
 土壌汚染に関する情報ではないが、同様の安全に係るリスク情報として、自治体では、様々なハザードマップを整備、公表している。国土地理院が整備するハザードマップポータルサイトによれば、洪水、内水、高潮、津波、土砂災害、火山、そして地震防災に関するハザードマップが整備、公表されている。
 洪水ハザードマップを例にとれば、全国で878 の市町村が印刷物の配布等により公表しており、社会的な認知が進んでいる。

2.5 諸外国における土壌汚染関連情報の提供に係る制度・取組

2.5.1 アメリカにおける取組

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

 アメリカでは、土壌汚染情報は土地の安全性に係る公益的な情報と位置づけられ、多くの州が自ら情報を収集し、届け出や問い合わせがあった情報を元にして、土壌汚染情報のデータベースを作成し、ウェブサイトでの一般公開を行っている。

(1)ニューヨーク市
 ニューヨーク市のブラウンフィールド問題への取組の一つとして、次の目的で「潜在的なブラウンフィールドを把握するための過去からの土地利用のテータベースの作成」が掲げられる。
 ・ 潜在的でかつ優先的な取組が必要なブラウンフィールドを見つけること
 ・ 地区毎のブラウンフィールドの再開発計画への基本的な情報を提供すること
 ・ すべての土壌汚染地の浄化と再利用活動の目標を明確にすること

データベースは、以下の2つの方法で作成されている。
 ・ 各種情報の収集(環境関連の発行物・データベース、歴史的な地図、電話帳、財務記録などからの情報収集)
 ・ 年毎のブラウンフィールド関連環境アセスメントへの要望についての問い合わせ

(2)オクラホマ州
 社会環境の保全のためにブラウンフィールドの制度的管理が重要であるとの認識の下に、オクラホマ州環境局では、ブラウンフィールドを含めた土地利用の管理に向けて法制度を整備している。
 土地利用管理の具体的な内容として、ブラウンフィールドの制度的管理についてのデータベースをくまなく蓄積している。

(3)マサチューセッツ州
 マサチューセッツ州では、全米でもいち早く土壌汚染の制度的管理手法を導入している。AUL(Activity and Use Limitations)と呼ばれている活動用途制限を設けている。このAULは、現在及び将来の土地所有者に対してその土地で許容される活動や利用が示されており、許容されていない用途に変更する場合は、新しい用途に応じたリスクの評価と追加的な浄化
が求められる。
 用途制限されている土地のAUL に係る情報は、州環境保護局のほかに自治体と郡不動産登記所で管理しており、この土地の再開発や土地取引に際しては、環境通知書によって土壌汚染の扱いが確認されている。

(4)カリフォルニア州
 カリフォルニア州毒物管理局(DISC)では、すべての浄化修復活動を長期間管理する方針であり、以下の事項について実施している。
 浄化修復用地の用途制限については、いろいろなメディアを用いて、情報を公表しており、もし、用途制限をする必要がないレベルまで浄化修復された場合は、用地リストから除外し、逆に用途に見合ったレベルまで浄化修復されていない場合は、必要なレベルまでの浄化修復を行う財政的な裏付けを要求する。
 また、浄化修復活動が完了していない場合は、継続的に浄化修復活動を行っているかどうか定期的に検査する。

(5)ルイジアナ州
 ルイジアナ州環境管理局(DEQ)では、用途制限のある自主的な浄化修復活動については、インターネット上で公表できるデータベースにより追跡的に監視している。
 このデータベースでは、当該サイトの住所、用途制限、過去からの土地所有者、用途の履歴とともに危険物取扱いの有無の情報が、土地所有者からの届出に基づき登録されており、DEQ の承認が無ければデータベースから除外できない。
 また、正確な情報が登録されていない場合は、当該サイトの取引契約を買い手側が解約できる根拠ともなる。

(6)ウースター市
 ウースター市においては、プロジェクトに応じて様々なスキームでブラウンフィールド再生に取り組んでいる。その一つとして、2002 年から市役所の技術サービス部門を中心に、ブラウンフィールド再開発データベース構想としてデータベースの整備が行われている。
 データベースは図2.5.1 のような3つの段階に分けて構築された。ウースター市役所は、2005 年までに200 以上のブラウンフィールド・サイトを確認している。これらのブラウンフィールド情報のデータベース構築によって、市役所は、より強固な情報基盤を持つことが可能となり、計画立案の過程において的確な意思決定が行えるようになると考えている。

2.5.2 ドイツにおける取組
 ドイツにおいては、土壌汚染が存在するために開発がストップしているサイトに関する情報のみならず、産業跡地である等の理由により土壌汚染が存在するおそれがあるサイトに関する情報も収集し、地図上に落とし込んで公表している。
 ドイツにおいては、都市計画決定の権限や土壌汚染地の浄化修復についての自治体の役割は極めて大きい。このため、土地利用計画の安定性を担保するためにも、土壌汚染情報の収集は重要となっている。土壌汚染情報の把握の段階では、都市計画制度と密接に連動しているため、基礎自治体である市町村が大きな役割を果たしている。
 具体的には、自治体レベルで土壌汚染の可能性のあるサイトを把握して土壌汚染情報をマップに落として公表しており、また、土壌汚染に関する統計データも自治体から、州、連邦政府へと段階的に上げられて整備され、公表されている。
 統計によれば、ドイツにおいては、ブラウンフィールドは最終処分場跡地と産業跡地という広い意味で用いられている。

【統計データにおける「土壌汚染」の分類】
 ・ ブラウンフィールドが疑われるサイト
 ・ ブラウンフィールドが疑われるサイトのうち旧堆積場
 ・ ブラウンフィールドが疑われるサイトのうち産業跡地
 ・ ブラウンフィールド
 ・ 浄化完了サイト
 ・ リスク評価完了サイト
 ・ 浄化中サイト
 ・ モニタリング中サイト

第一段階(基本的な情報を収集してGIS化する)
 ・情報収集(州政府・自治体・その他の情報源) ・データベースの構築
 ・データベースをGI Sへ移行・サイトプロフィールの設計
 ・データの分析・維持・更新手順の設計

第二段階(サイトの開発可能性を指標化)
 ・技術的なブラウンフィールドの定義・格付けの指標を検討
 ・時間軸による分析・詳細なケース・スタディを実行
 ・調査された補助金・パートナーシップ・イニシアチブ

第三段階(再開発の可能性を詳細に調査)
 ・土地利用分析・情報資源を再生プロジェクトと結びつける
 ・環境面の課題を評価・再開発の可能性を決定
 ・開発を誘引・再開発可能なサイトを突き止める

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

図2.5.1 ウースター市のGIS を用いたブラウンフィールド情報の整理と評価

face08土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

3.事業所立地履歴マップ
 前述したとおり、現時点において、自主調査結果など直接的な土壌汚染情報を全国網羅的に収集・整理することは極めて困難であるため、フェーズ?調査の一過程でもある事業所立地履歴をマッピングすることについて検討・整理した。なお、事業所立地履歴マップは、土壌汚染の可能性を示唆する情報であり、土壌汚染そのものの状況を示すものではない。

3.1 マップの作成方法

3.1.1 作成手順概要
 マップの作成手順の概要を下のフローに示す。

基図の用意  現状の立地事業所  リストの作成  廃止事業所のリストへの追加  住所から緯度経度の取得
重複データの整理等
● 自治体が把握する届出施設
【水濁法(下水道法)特定事業場、PRTR届出施設、廃棄物処理業者等】
基図上へのプロット  プロット位置の調整  作図

● 取得した緯経度は、街区レベルのデータであり、街区中心に位置するため、各敷地にデータを移動調整する。

● 住宅地図とリストに不整合がある場合は、Web情報などを活用して確認する。土壌汚染対策法 指定区域のリスト化

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

図3.1.1 マップ作成手順フロー

3.1.2 作成方法

(1)作成範囲

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

 市町村単位で作成するものとする。人的活動が土壌環境に与える影響可能性を示すマップであるため、原則として市街地を対象とする。

(2)対象物質
 「土壌汚染」状況は千差万別であり、サイト毎に最適な調査・対策方法を検討し、実施していくことが重要である。また、「土壌汚染対策法」が対象とする土壌汚染は、特定有害物質25 項目(鉛、砒素など重金属等14 項目 、及びトリクロロエチレンなど揮発性有機化合物11 項目)であるが、その他の規制物質や規制はされていなくとも土地利用の障害となり得る物質もあり、注意が必要である。
 ガソリン、重油、潤滑油、灯油等の油分、ダイオキシン類、その他の化学物質(条例等において特に規制されている物質、臭気の強い物質及び色のある物質等)、要監視項目(22 項目)等の規制対象候補の物質などが調査対象となり得る。土地取引に際しての調査では、購入用途が住宅系である場合、履歴にかかわらず「特定有害物質(農薬類を除く)」「油分」「ダイオキシン類」を調査対象とするケースが多い。
 不動産鑑定評価基準等を踏まえて策定された(社)日本不動産鑑定協会の「土壌汚染に関わる不動産鑑定評価上の運用指針」では、「特定有害物質を中心に各自冶体の条例等及びダイオキシン類対策特別措置法において対象とする有害物質が各法令等の基準値を超えて存在すれば価格形成に大きな影響があるものとする。」とし、法令等による調査義務がないことのみで土壌汚染が無いとはできないとしている。

 したがって、土壌汚染対策法の対象とする特定有害物質26 項目に限定せず、広く影響可能性を把握することとする。特定有害物質以外の人の健康や資産価値に対するリスク要因となる物質も念頭に置き、マップ作成のための事業所情報等を収集、整理する。

(3)基図の用意
 基図としては、自治体が庁内で使用するGIS地図データの都市計画基図(1/2500 データ)を活用する。

(4)データ収集
【事業所データ】
 土壌環境に影響を及ぼすおそれのある事業所のデータを収集・整理の対象とし、公表されている次のデータを活用するものとする。
? 水質汚濁防止法(下水道法)に係る特定事業場(ただし、し尿処理施設と指定浄化槽は含まない)
? PRTR届出施設
? 廃棄物処理・運搬業(一般廃棄物は廃棄物処理業のみ)
? 消防法に係る届出給油施設
? 日本工場通覧、工場名鑑、事業所リスト

【土壌汚染調査結果、措置状況データ】
 土壌汚染対策法に基づく指定区域や調査猶予地についての情報、さらには届け出のあった土壌汚染調査結果及び措置の状況について、随時整理・更新する。GISシステムを活用することによって、マップ上の位置情報と詳細な調査結果を関連付けることも可能である。※

※ 自治体が庁内での使用を前提に、包括的な情報管理を目的として非公表のデータ(例えば措置対策が終了し指定区域が解除された土地に関する情報)をマップに表示することも可能である。しかしながら、この場合、当該マップについての情報公開請求への対応に留意しておくことが重要である。

 なお、収集したデータについては、可能な限り実態と乖離しないように定期的に更新することが望ましい。異なる部局が管理するデータ更新状況を集約する体制の構築は、マップ情報の効率的な更新に資するものである。

3.1.3 収集データの種別
? 水質汚濁防止法(下水道法)に係る特定事業場
 自治体が把握する水質汚濁防止法(下水道法)に係る特定事業場を整理する。特定事業場は、現状に加え、過去の立地状況も調査する。
 特定事業場に関する情報としては、特定施設番号、特定事業場名、届出者、住所、放流先、排水量、有害物質排出の有無などのデータが、河川等の公共用水域の水質を管理する自治体の担当課に届け出られており、利用可能である。

 水質汚濁防止法は、工場及び事業場から公共用水域に排出される水の排出及び地下に浸透する水の浸透を規制するものである。したがって、公共用水域への排出水のない施設は規制の対象とならない。また、環境省中央環境審議会土壌農薬部会第3回土壌制度小委員会によると、有害物質使用特定施設以外で194件の土壌汚染が顕在化したとしている。これらを把握するためには、他の情報源からデータを入手整理する必要がある。

 なお、ここでは、し尿処理施設(特定施設番号72)と指定浄化槽については土壌汚染と直接の可能性が小さいことから整理対象外とした。
 また、特定有害物質の使用が届けられていない事業場を図示するかの議論はあるが、有害物質使用特定施設以外においても土壌汚染が顕在化していることを踏まえ、表示する方針とする。

? PRTR届出施設
 PRTR届出制度は、下記の23業種、354物質が対象となる。データベースが提供されており、これを活用することができる。ただし、従業員数が21人未満の事業所は対象とならない。
 なお、PRTR届出が制度化されてから年数も浅い(法律制定は平成11年7月)ため、現状データの整理のみとする。

 個別事業所のPRTRに関する情報(化学物質排出把握管理促進法第11条に基づき開示するファイル記録事項)は、環境省のホームページ(http://www.env.go.jp/chemi/prtr/kaiji/index.html)からダウンロード可能である。企業名、事業所名、住所、産業分類、排出物質、排出量などのデータを入手することができる。

【有害物質使用特定施設】
 有害物質の製造、使用又は処理をする水質汚濁防止法の特定施設のことをいう。水質汚濁防止法は、工場等から排出される水の排水及び地下に浸透する水の浸透を規制する法律であり、工場排水が川や海などの公共用水域に排出される場合に適用される。公共下水道が普及し、工場排水の排出先が下水道となる場合は、下水道法が適用される。下水道法でも水質汚濁防止法上の特定施設をそのまま規制対象の施設として規定されている。
 土壌汚染対策法は、有害物質使用特定施設が廃止された場合は、当該土地の土壌汚染の状態を指定調査機関に調査させて、 その結果を都道府県知事に報告しなければならないと規定している。

 土壌汚染対策法で規制されていない物質について整理し、マップに表現することが適切であるかが論点となる。PRTR制度は環境への排出を把握するための制度であり、人の健康を対象とした土壌環境対策法とは法の趣旨が異なる。しかし、土地取引という視点では、資産価値の低減に繋がる物質の存在は表現する方針とする。

? 廃棄物処理・運搬業
 自治体が把握する一般廃棄物処理業許可業者(ごみ処分業に限る)、及び産廃事業所の立地を整理する。情報は、業者名、所在地、区分(処理業、収集運搬業、処分業の区分)から構成される。

 し尿処理運搬業などは、土壌汚染と直接の可能性が小さいと考えられるため、除外することが適切であると考えられる。PRTR届出制度の対象と同様に、一般廃棄物処理業は、ごみ処分業に限る。

 なお、警察等が把握する廃棄物の投棄箇所に関するデータなども、それが明確なものであれば、自治体の判断で収集整理することができる。

? 消防法に係る届出給油施設
 給油施設を把握するために消防法に係る届出施設リストを活用する。データは、自治体の消防担当が管理している。

? 工場名鑑、事業所リスト
 戦後発行されている工場名鑑、商工名鑑、事業所リストに基づき、工場、事業場の位置、業種などのデータを、過去に遡り収集、整理する。日本工場通覧は従業員数が10人以上の製造業を掲載しており、1931年以降1997年までほぼ毎年発行されており、国会図書館で閲覧できる(図3.1.2 参照)。
 工場名鑑は自治体単位で作成されている場合があり、一定以上の規模の工場を掲載している(図3.1.3 参照)。しかしながら、整理した事業所の位置関係を確認するための資料として活用する住宅地図については1970年より前のデータが入手困難となっている市街地も多いので、それ以前の正確な場所の特定に困難を生じる場合がある。

【PRTR届出制度】
 「化学物質排出把握管理促進法」にて定義されている第一種指定化学物質(揮発性炭化水素、有機塩素系化合物、農薬、金属化合物、オゾン層破壊物質、アスベスト等の計354 物質)を使用する以下の対象23 業種の中で、従業員数が21 人以上で、対象化学物質の年間取扱量が1トン以上(カドミウム及びその化合物、六価クロム化合物、ダイオキシン類、砒素及びその無機化合物、ベンゼン等、12 の特定第一種指定化学物質は0.5 トン以上)となる事業所は、環境への排出量(大気、公共水域、土壌)及び廃棄物や下水に含まれて移動する量を届け出ることが義務付けられている。
 ・金属鉱業 ・原油・天然ガス鉱業 ・製造業 ・電気業
 ・ガス業 ・下水道業 ・熱供給業 ・鉄道業
 ・倉庫業 ・石油卸売業 ・鉄スクラップ卸売業 ・自動車卸売業
 ・燃料小売業 ・洗濯業 ・写真業 ・自動車整備業
 ・機械修理業 ・商品検査業 ・計量証明業(一般計量証明業を除く。)
 ・一般廃棄物処理業(ごみ処分業に限る) ・産業廃棄物処分業(特別管理産業廃棄物処理業含む。)
 ・高等教育機関(付属施設を含み、人文科学のみに係るものを除く。) ・自然科学研究所


土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

図3.1.2 日本工場通覧(1992 年)より抜粋

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

図3.1.3 千葉県工場名鑑平成15 年度版より抜粋

整理した事業所データの関係を以下の図に示す。

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

3.1.4 データの収集例
産業立地の見られる都市部の自治体として、札幌市西区と市川市を対象に、前記のデータ収集を試行した。次表に整理されたデータ数を示す。


土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ


上記には今回の資料調査で廃止が確認された事業所(市川市83 事業所、札幌市125 事業所)を含む。

?有害物質使用
特定事業場
日本工場通覧、工場名鑑、
事業所リスト
水濁法(下水道法)特定事業場
【し尿処理施設と指定浄化槽を除く】
消防法届出給油施設
PRTR 届出施設
廃棄物処理・運搬業
(産業廃棄物処理、運搬業、一般廃棄物処理業)
【一般廃棄物収集・運搬業を除く】


3.2 マップの表現方法

3.2.1 事業所立地履歴マップの表示種別
 データの表示については、次の表示方法が考えられる。
  1)事業所の立地履歴をシンボルで表示
  2)事業所立地履歴のシンボルに加え、事業所の立地街区を網掛けで表示
  3)事業所立地履歴のシンボルに加え、事業所の立地したメッシュを表示
  4)事業所の立地街区を網掛けで表示
  5)事業所の立地したメッシュを表示

3.2.2 事業所立地履歴マップの表示方法についての考え方
○ マップには土壌汚染対策法の指定区域を示すものとする。条例により土壌汚染に係る区域が指定され公開される場合には、当該土地についても表示する。なお、土壌汚染対策法第3 条第1項但書で調査が猶予されている土地、及び調査対策済みの事業所については、個別事業所の情報開示に係る自治体ごとのスタンスに応じて記載の可否を判断することになると思われる。

 また、過去に自治体への報告があった自主調査結果については、原則として公定法(平成3年環境庁告示第46 号別表の測定方法の欄に掲げる方法をいう。)に基づいて行われた調査の結果であって、公開されているものに限り表示することが望まし
く、それ以外の情報の表示については自治体の判断によるものと考えられる。

 なお、中央環境審議会「今後の土壌汚染対策の在り方について(答申)」(平成20 年12月)においては、「土壌汚染に関する情報について、埋没させることなく、関係者が容易に入手し、適切に活用することができ、適切に承継される仕組みが必要である。
 また、対策が行われて解除がなされたという情報や調査の結果土壌汚染が発見されなかったという情報も含め、地方公共団体において、土壌汚染の状況を把握し、汚染原因の解明、汚染状況の履歴調査等に有効に活用すべきである。」としている。

○ 使用(保管)物質の届出を行っている事業場が少ないため、届出使用(保管)物質を示すマップの表示は行わない。ただし、十分な注意書きを付す等により、有害物質の使用(保管)届出記録の無い施設について、業種から潜在的汚染を想定し表示する方法も代替案として考えられる。

○ 事業所については、マップの対象物質を直接的に使用する業種や、間接的に使用する業種がある。表3.2.1 は、自治体が把握する業種別の土壌汚染調査基準値超過事例数を整理したものである。
 このように、業種によって汚染原因者となる可能性は大きく異なるが、環境省中央環境審議会土壌農薬部会第3回土壌制度小委員会によると、直接的に使用する業種だけ汚染原因者となっているわけではない。
 したがって、フェーズ1調査の支援というマップの位置づけを踏まえ、製造業は全ての業種を表示する方針とし、リスクの大小に応じて異なる表示方法を用いる。(本調査では、製造業について、総事業所数に対する累積基準超過件数が0.1%未満の食料品製造業等を、土壌汚染リスクは小さいと評価した。)
 同様に、水質汚濁防止法の施行以前に事業所が立地した土地は、土壌汚染リスクが高くなると考えられるので異なる表示をする。?

○ 注意喚起を目的として、事業所が存在する区域を網掛けして表示する場合の境界は、街区レベルを基本とするが、対象区域を碁盤目状にメッシュで区切り、その中に存在する事業所の数で色の濃淡を変えて表示することなども可能である。メッシュで表示する場合には、事業所立地履歴がある街区とは異なる周辺土地まで表示範囲となり得ることについて
使用上の配慮を要する。

○ GIS を活用してマップを作成することによって、事業所に関する様々な情報(事業所名、使用物質名と使用量、設立・廃止時期、事業所連絡先、関係条例の届出の有無と内容など)を付随データとして記録する。これらのデータは、アクセス権限があれば必要に応じて参照することができる。

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

3.3 事業所立地履歴マップの公開・活用

3.3.1 事業所立地履歴マップの全体像
事業所立地履歴マップ活用の方法や管理のあり方について、作成過程も含め、図3.3.1 に図示する。

3.3.2 マップの活用方法
 事業所立地履歴マップについては、「2.3土壌汚染関連情報の提供の目的と期待される効果」で整理した事項を踏まえ、以下に示すような活用方法が考えられる。自治体の判断によっては、マップの公開は行わず、?に示す目的で、行政内部に限定して活用することも想定される。
? 行政による活用
・ 市民や事業者からの土地の土壌汚染に関する問い合わせに対応する際に参照可能な情報となるものであり、業務の効率化に資することが期待される。
・ 土壌汚染土地の管理、特に制度的管理を行う土地の情報の承継において重要な役割を担う。加えて、飲用井戸の管理体制の構築に活用できる。
・ 民間から提出された土壌調査報告書に対して、内容をチェックする際のサポート資料としての活用が想定される。
・ 都市計画や公共施設の計画において、初期の事業構想段階で環境情報、コスト要因を概略把握するために活用できる。

? 土地所有者による活用
・ 企業であれば、自社所有不動産の売却等に絡む事業構想初期段階で、ER作成前の概略情報として活用することも可能である。

? 不動産取得を検討する者による活用
・ 国民や企業は土壌汚染によるリスクを特別なコストなしに概略把握することが可能となり、土地利用や土地取引を安心して行うことができる。

? デベロッパー等による活用
・ 事業構想初期段階で、ER作成前の概略情報として活用することも可能である。

? 調査会社及び調査発注者による活用
・ 調査者が情報の収集整理を効率的に行うことができる。加えて最低限確認されるべき情報を調査発注者も容易に確認できるため、最低限の水準を満たさないような調査結果を排除し、調査結果の信頼性向上が期待される。

? 金融機関及び保険会社による活用
・ 資産価値評価の予備的な検討に活用されるものと期待する。

3.3.3 事業所立地履歴マップを公開・活用する際の論点整理
 事業所立地履歴マップに関する論点は、大局的には
?「作成の是非」、
?「公開の是非」、
?「公開する場合のプロセス、留意点」に整理することができる。
 以下、これらに係る内容について、想定される主要な論点を整理する。
土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

?「作成の是非」
ア) マップ活用の可能性
 マップの使用者と活用方法が適切に想定されるべきである。また、行政が作成する場合は、一部特定企業の商目的使用が、マップ活用の主用途となるべきではないと考える。

イ) 費用対効果
 マップの精度向上は重要である。一方、特定の土地の取引は頻繁に行われるものではないにも関わらず、全体を網羅し情報の精度向上を図ると、マップ作成コストが増大する。マップ作成に適正な費用対効果の見通しが求められる。

ウ) 土壌汚染対策法改正の動きとの関連性
 中央環境審議会「今後の土壌汚染対策の在り方について(答申)」(平成20 年12 月)は、「土壌汚染に関する情報について、埋没させることなく、関係者が容易に入手し、適切に活用することができ、適切に承継される仕組みが必要」としており、マップの作成、公開が有効となる。

?「公開の是非」
エ) 知らずに不動産を取得する事態の回避
 事業所立地履歴マップを公開することは、土壌汚染リスクのあることを知らずに土地を購入する等の可能性の低減に資するものである。

オ) 代替物出現の可能性
 マップの作成に当たって使用した情報は、届出給油施設等の一部の情報を除き、一般に公開されている。したがって、行政でなくとも、研究目的や営利目的で大学や企業が同様のマップを作成することは難しくない。(同じ論拠により、一般市民でも土壌汚染に係る情報を入手する意志さえあれば、マップはなくとも情報入手が可能。)

カ) 自治体の責任の範囲

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ
 マップに示された情報の不完全性あるいは誤記が原因となり、マップ活用者に損失が生じた場合について、作成者や公開者の責任の範囲について留意する必要がある。

キ) 資産価値への影響可能性
 マップの公開が、不動産価格に対して影響を与える可能性は否定できない。マップを公開することによる資産価値への影響が社会的に認容できる範囲であることが求められる。(ただし、汚染土地の資産価値がリスクや対策費を織り込んだ値まで低下する状況については、その原因をマップの公開に帰するべきではなく、過剰な影響について論点とすべき。)

ク) 貸し渋りの可能性
 マップを公開することによって、土壌汚染そのものを表すものと誤解された場合には、金融機関が不動産の担保価値を低く査定し、いわゆる貸し渋りのような状況が生じ得ることも否定できない。

ケ) 自主調査の公開と所有権移転
 仮に調査時点で所有者が、自主調査を行った土地について、情報のマップ表示を許諾しても、別の者に当該土地の所有権が移転することもある。新しい所有者が情報の開示を認める保証はなく、自主調査の情報についてマップ表示する場合には、慎重に対応する必要がある。

?「公開する場合のプロセス、留意点」
コ) 公開のタイミングとリスクコミュニケーションの必要性
 公開を前提とした場合、適切な体制と手順で公開することによって、負の影響を低減することも可能であると考えられる。マップの公開に当たって、行政は、いたずらに住民の不安を煽らないよう、土壌汚染のもたらす意味、リスク等を正確に説明することが必要。

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

事業所立地履歴
データベース
住宅地図

? 水質汚濁防止法(下水道法)特定事業場ただし、し尿処理施設と指定浄化槽含まず
? PRTR届出施設
? 廃棄物処理・運搬業(一般廃棄物は廃棄物処理業のみ)
? 消防法に係る届出給油施設
? 日本工場通覧、工場名鑑、事業所リスト事業所立地履歴マップ(網掛け表示)
事業所立地履歴マップ
(シンボル表示)
基図
● 土壌汚染の潜在的原因者となる事業所が立地する(した)エリアを網掛け表示
● 該当するエリアの表示方法
  【1案】 街区を表示
  【2案】 100メートルメッシュの碁盤目表示
● 事業所の立地履歴をシンボルで表示
● 土壌汚染対策法に基づく指定区域、調査済み土地、対策済み土地、調査猶予土地を表示
【一般への公開を想定】
● 不動産業者、不動産購入予定の一般市民による利用
◇ 不動産取引に際しての土壌汚染リスクの概略把握
● 土地所有者による利用
◇ 所有地の土地改変検討にあたっての状況把握
● 金融機関、保険会社による利用

【自治体が公開情報として管理】
● 年1回程度の定期的な更新

【行政内部の利用を想定】
● 土壌汚染担当部局による利用
◇ 一般からの特定の土地に関する問合せ対応
◇ 汚染土地(土壌)の管理、飲用井戸の規制
● 都市計画部局、建設関連部局等による利用
◇ 都市計画や事業計画を策定する上での概略の環境情報、コスト情報
◇ 土壌汚染リスクに応じた土地利用の推奨

【自治体が内部情報として管理】
● データベース更新時にマップも更新するシステムの構築
● 調査対策済み情報を反映
作図処理
作図処理
(位置情報取得)
土壌汚染調査、
対策実施状況
データベース
位置確認
土壌汚染対策法等に係る情報追加
? 土壌汚染対策法指定区域
? 調査猶予施設
? 自主調査結果届出施設
? 調査、対策済み施設

図3.3.1 マップの作成、管理、利用方法(案)

【期待される効果】
● 土壌汚染土地に関する情報管理、及び適正な都市計画、公共施設配置に向けた検討の効率化
● 公共事業コストの低減
● 完全掘削除去以外の対策と制度管理の普及

【期待される効果】
● 事業構想段階でのフィージビリティ検討の効率化
● 不適切なERの減少
● 不動産入札における逆選択の減少
● 安心感の創出

4.自然由来重金属類分布マップ

4.1 マップの作成方法

4.1.1 マップ作成の目的
 自然由来重金属類分布マップは、地盤の中に自然に存在する重金属類の濃度等を基に、表層地質区分別に、今後の調査等において確認を必要とするレベルを表示したものである。
 このマップ作成の目的は、地下水の適正な管理と土壌の移動の管理にあり、エリア内で情報がないままに地下水を利用し続けることを防止することや、自然由来の含有量が元々高い土壌が他のエリアに安易に移動してしまうことを防止することにある。

 自然由来重金属類分布マップは、ここでは4つのランク区分で表示することとしているが、その土壌の重金属含有量の絶対値を示すものでない。
 このマップを活用することにより、今後の土地改変や何らかの調査の機会を捉え、土壌を適正に管理をすることや、更なる情報の蓄積を促進しようというものである。
 本マップは、上記の目的以外の、現状の土地利用、周辺住民、土地価格などに影響を与えることを意図するものではない。

以上のことを、土地所有者や住民に対して十分に周知するとともに、開発業者、建設業者等に対して土地改変等の機会を捉えて地歴調査や簡易な土壌分析を実施すること等を推奨するものである。

4.1.2 作成手順
 自然由来重金属類分布マップの作成の手順を図4.1.1 に示す。

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

図4.1.1 自然由来重金属類分布マップ作成の手順
マップ作成の対象物質、対象区域設定
基図及び地質図の準備
対象物質に係る土壌調査データ収集
対象物質に係る地下水調査データ収集
対象物質に係る土壌調査データ整理・分析
対象物質に係る地下水調査データ整理
対象物質の含有量及び溶出量の基準の超過データ整理
対象物質の地下水基準の超過データ整理
基図及び地質図へ基準超過場所のプロット
基準超過物質に係るランク区分の考え方・基準の検討
自然由来重金属類分マップの作成

4.1.3 作成方法
(1)マップ作成の対象区域
 自然由来重金属類分布マップを作成するエリアを設定する。自然界に存在する有害物質については、広域的な視野から状況を把握する必要があるため、行政区域等を参考に可能な限り広域エリアを対象区域として設定する。

(2)対象物質
 土壌汚染対策法に基づく有害物質のうち、自然界に存在する物質として、砒素(As)、鉛(Pb)、水銀(Hg)、カドミウム(Cd)、セレン(Se)及びクロム(Cr)の重金属、及びふっ素(F)、ほう素(B)を対象とする。

(3)基図
 基図は地形図及び地質図との重ね図を用いる。
 地形図は、対象物質が地質構造と深く関係していることから地質図と重ね合わせの可能な1/5 万のスケールの国土地理院発行の数値地図を用いる。
 地質図は、独立行政法人産業技術研究所地質調査総合センター作成の「20 万分の1 日本シームレス地質図」のデータが収納されている東北大学大学院環境科学研究科が作成した「地圏環境インフォマティクス(GENIUS)」を用いる。この地圏環境インフォマティクスは、地質情報、重金属等の各種地圏情報を全国規模でGIS 化して情報提供するシステムである。
 また、国土交通省で土地分類調査として1/5 万表層地質図、土壌図等の基礎情報が整備されており、市町村レベルのエリアであればこれらの活用も可能である。

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

図4.1.2 基図(1/5 万地形図と地質図との重ね図)の例
地形図:国土地理院の数値地図50000(地図情報)
地質図:東北大学大学院環境科学研究科「地圏環境インフォマティクス(GENIUS)」

(4)データ収集
 対象区域において、過去に実施された対象物質に係る土壌調査結果及び地下水調査結果のデータを収集する。(表4.1.1 及び表4.1.2 に例を示す。)
 また、参考として、地域において対象物質に係るバックグラウンドレベルを表すと考えられている産業技術総合研究所地質調査総合センター発行の「日本の地球化学図」(2004 年)を用いる。
 この資料では、砒素、カドミウム、鉛、水銀など有害物質を含む約50 元素について、日本全国の約3,000 試料(試料は河川堆積物、1 試料10km×10km)を用いて地球化学図(元素の濃度分布図)を作成しており、全国的な濃度分布が把握できる。(表4.1.3 に例を示す。)


土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ



土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ


土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ


土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ


土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

(5)土壌調査データの整理及び分析
 土壌調査データについては、土地改変の可能性の高い地下0〜3m の表層地質を対象範囲とし、地質図の表層地質区分別に土壌調査データを整理した上で、対象物質に係る含有量、溶出量の平均値と標準偏差、及びそれぞれの自然的原因による含有量の上限値の目安及び溶出量基準の超過頻度等について検討する。

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

 なお、重金属類に係る基準超過については、自然的原因と人為的原因とに判別する必要があるが、判別するには十分な資料と検討が必要であることから、ここでは判別は行わない。これまでの検討資料等において、自然由来と考えられているデータを取り上げる。

(6)地下水調査データの整理
 地下水調査結果から、地下水基準を超過している地点の濃度データを整理する。土壌汚染は地下水汚染の原因の一つとなっており、地下水汚染がある場合には近傍での土壌汚染の存在が疑われるが、地下水は複雑な地下の中を広い範囲で流動していることから、その汚染の原因を特定することは相当に困難である。

 地下水汚染がある場合には周辺での土壌汚染のあるおそれがあることから、参考として地下水汚染の位置及び濃度をマップに表示することとする。

(7)基準超過地点のプロット図の作成
 土壌汚染対策法の指定基準等と照らして、重金属類の自然的原因による含有量の上限値の目安及び溶出量基準の超過地点、地下水基準の超過地点をそれぞれ抽出して、基図にプロットする。

(8)自然由来重金属類のランク区分の考え方
 基準超過の見られる対象物質について、表層地質別に自然由来重金属類のランク区分の考え方・基準について検討する。
例えば、砒素の場合、表層地質別にランク区分を行うために、
?全含有量の平均値、
?自然的原因による含有量の上限値の目安(39mg/kg)の超過率、
?溶出量基準の超過の有無、
?地下水基準の超過の有無、の4 つの指標を用いることとする。
 4 つの指標について、表4.1.4 に示すように配点し、表層地質別にそのスコアを合計する。この配点については、砒素の全含有量の平均値を基本指標として、その他の指標について基準超過の有無等により加点する方式としており、リスク面を考慮している。

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

表4.1.4 砒素に係るランク区分に用いる指標とスコア
全含有量の指標
?平均値
?自然的原因による上限値の目安(39mg/kg)の超過率
?溶出量指定基準の超過の有無地下水基準超過の有無

 砒素の場合、表層地層別のスコア合計値により、表4.1.5 に示すとおり区分する。

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

(9)自然由来重金属類分布マップの作成
 自然由来重金属類分布マップの作成については、一般に土地改変の深さは地上から−3mまでの範囲が大部分であることから、深さ0〜3mの表層地質を対象とする。
 対象区域の表層地質別に(8)に示す基準に基づいて検討を行い、マップを作成する。

4.1.4 表現方法
 自然由来重金属類分布マップは、1/5 万地形図及び地質図の重ね図を用いて以下のように表現する。
? 自然由来重金属類分布マップにおいては、ランク区分別に表層地質を色分けする。

? 土壌調査地点や地下水調査地点をプロットし、また土壌環境基準や地下水基準を超過している場合や自然的原因による上限値の目安の値を超過している場合は、その地点を○印で表示することがマップをよりわかりやすくするため、このような表示を行うこととする。

? さらに、基準超過地点においては、含有量や溶出量、地下水濃度を数値で表示することが考えられる。

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

表4.1.6 自然由来重金属類分布マップの色区分の例
ランク区分 ランク区分の考え方

A 自然由来の含有量が高いレベルで予想され、かつ基準超過のリスクが考えられる地層エリア

B 自然由来の含有量が中程度に予想され、かつ基準超過のリスクが少し考えられる地層エリア

C 自然由来の含有量が低く、自然由来の上限値の目安の超過や基準超過が低い頻度で予想される地層エリア

表示なし 自然由来の上限値の目安の超過がほとんどないと予想される地層エリア

4.2 マップの活用方法

4.2.1 マップの活用方法
 自然由来重金属類分布マップについては、以下に示すような活用方法が考えられる。
? 行政のサポート資料
・ 地域における土壌環境に係る潜在的なポテンシャルを把握することが可能である。

・ 市民や事業者に対する地域の土壌環境に関する情報提供や啓発に活用するとともに、市民等からの相談等にスムーズに対応することが可能となる。

・ 民間から提出された土壌調査報告書に対して、自然由来の基準超過かどうかの判断の際のサポート資料として活用することが考えられる。

例えば、以下のような要件に適合した場合には、自然由来と判断できる。
1)自然由来の基準超過の可能性のあるエリア内にあること
2)地歴調査の結果、対象物質を使用した経歴がないこと
3)対象物質の検出値が一定の範囲内にあること
? 土地所有者への情報提供による注意喚起
・ 土地所有者に自然由来重金属類分布マップに関する情報を提供することにより、土地所有者は自己所有地のある周辺地域一帯における土壌環境の状況を把握することが可能である。

・ 土地所有者は、あらかじめ所有地の自然由来重金属類の潜在可能性を把握できるため、リスクが比較的高いエリアでは土地改変や用地売却などの際に土壌環境についての留意が必要

である旨の認識を持つことができる。
・ このため、域外へ土壌の搬出を行う際には、リスク評価に応じて土壌調査を実施するなどの対応を行いやすくなる。もし、調査より自然由来の基準超過がみられる場合には、域外へ土壌をできるかぎり持ち出さないように敷地内で封じ込めなどの措置を行い、土壌の拡散や健康被害の発生を防止することにつなげることができる。

? デベロッパー・工事事業者への拡散防止に関する啓発
・ デベロッパーや工事事業者に対して、自然由来重金属類分布マップに関する情報を提供し、開発や工事を実施しようとする土地についての注意喚起を促すことができるため、工事の際の事前の対策や拡散防止に役立つ。

? 市民等への情報提供による理解の向上
 市民や事業者等に自然由来重金属類分布マップに関する情報を提供することにより、市民等は地域一帯における自然由来の土壌環境の状況について把握し、より理解を深めることができる。

4.2.2 自然由来重金属類分布マップの活用マニュアル(案)
(1)行政サイドとしての活用
 土地売買や土地改変の際に、開発事業者、調査業者や土地所有者から土壌調査についての事前相談を受けた場合や、提出された土壌調査報告書に対して、行政サイドとして以下に示すような手順で対応することが考えられる。
 なお、以下に示す推奨、助言等の手続きは、法律の根拠を伴わない行政指導となる場合が多いことに留意する必要がある。

1)A又はBのエリア内にあって調査が行われていない場合
 A又はBのエリア内にあって調査が行われていない場合は、自然由来重金属類分布マップ情報を提供するとともに、調査の目的によって追加の調査(例えば砒素が調査項目に入っていない場合)などの実施を推奨する。
→ 土地取引の際にバックグラウンド調査の実施を推奨する(人為汚染でなく自然由来であると証明した方がよい場合)
→ 工場管理などにおいて、土地改変や土量搬出の際にバックグラウンド調査の実施を推奨する

2)調査が実施され報告されてきた場合
 土壌調査が実施され調査結果が報告されてきた場合に、行政サイドとしては図4.2.1 に示すフローで対応することが考えられる。

(2)各者への周知
 行政サイドとして各者に対して広報誌、HPなどを使って周知していく。

? 開発事業者、調査業者、不動産業者及び土地所有者自然由来重金属類分布マップは、地盤に元来存在する重金属類について、表層の地質単位でのランク区分を表示したものである。このマップ作成の目的は、地下水の管理と土壌の移動管理にあり、エリア内で情報がないままに地下水を利用し続けることを防止することや、元々含有量が高い土壌が他のエリアに安易に移動してしまうことを防止することにある。
 開発業者、調査業者及び土地所有者に対しては、上記の目的を理解していただいて、土地取引や土地改変の機会をとらえ、履歴調査やサンプリング分析等の実施と結果報告を行うことが望ましいことを助言していく。
 また、土地取引の仲介を行う不動産業者に対しても、調査記録の有無等など土壌汚染に関する情報の収集を行うことが望ましいことを助言していく。

? 一般住民(土地売買や形質変更の予定のない土地所有者を含む)住民や土地所有者に対しては、自然的な土壌環境の状況に関する情報を提供して、認識や理解をより深めてもらい、エリア内で情報がないままに地下水を利用し続けることを防止す
ることや、元々含有量が高い土壌が他のエリアに安易に移動しないように防止していく。


土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ


図4.2.1 行政サイドでの活用・対応の手順(土壌調査が実施されている場合)
 土壌調査が実施され、調査結果が報告されてきた場合
 自然由来重金属類のランク区分がA又はBのエリア内
 自然由来重金属類のランク区分がC又は無印のエリア内
 含有量が自然的原因の上限値の目安の範囲内
 含有量が自然的原因の上限値の目安の範囲を超過(明らかに大幅に超過)
 過去に砒素等の使用履歴がなく、土地造成時に持ち込まれていないことを十分に調査している場合
 溶出量基準の範囲内、かつ近傍に地下水汚染がない
ケース1
 指示はなし(搬出土チェック)
ケース2
 認識されない地下水使用の有無の精査と地下水汚染がある場合は詳細調査の実施を指示
 溶出量基準を超過し、その地層で現れる範囲を超えており、かつ近傍に地下水汚染がある
 過去に砒素等の使用履歴がなく、土地造成時に持ち込まれていないことを調査していない場合
ケース3
 人為汚染がある場合はそのボーダーを明確にする調査の実施を誘導
 自然由来かどうかの判断を求められた場合は、過去に砒素等の使用履歴がないこと、土地造成時に持ち込まれていないこ
とを再調査で確認することを指示(調査されている合でも再検討が妥当)
ケース4
 再調査の結果、人為汚染がなければ、行政として地下水管理を実施するエリアとする
 砒素は調査項目に入っていない、又は行われていてもCか無印の範囲内
 特に砒素の使用履歴がないこと、土地造成時に持ち込まれていないことを調査で確認している
 含有量が自然的原因の上限値の目安を超過
 自然由来かどうかの判断を求められた場合は、過去に砒素等の使用履歴土地造成時に持ち込まれていないことをすることを指示(調査されている場合でも再検討が妥当)
ケース6
 再調査の結果、人為汚染がなければ、行政として地下水管理を実施するエリアとする。
 必要に応じて評価図を修正
ケース5
 指示はなし
(溶出量値が極端な異常値でない限り)溶出量基準を超過し、その地層で現れる範囲を超えている使用履歴等の調査を指示

4.2.3 自然由来重金属類分布マップ例(仮想案)

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

【参考資料】

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

参考1.自然由来重金属類の概要と基準等
(1)自然由来重金属類とは
・ 自然的原因により基準超過の可能性のある有害物質として、砒素(As)、鉛(Pb)、水銀(Hg)、カドミウム(Cd)、セレン(Se)及びクロム(Cr)の重金属、及びふっ素(F)、ほう素(B)があり、温泉や鉱染帯地域、岩石中などに含まれて自然界に広く存在している。

・ 海域ではふっ素(F)及びほう素(B)が基準を超過して検出されやすいため、ふっ素(F)及びほう素(B)は海域では環境基準が適用されない。

・ 多くの都市部の浚渫土砂による埋立地では、鉛、砒素、ふっ素が基準を超過して検出されるケースがある。
・ 土壌汚染対策法では、第二種特定有害物質(砒素などの重金属とほう素、ふっ素)の自然由来の基準超過については対象外とされているため、人為的な汚染と識別する必要がある。

(2)特徴
・ 含有量が一定の範囲内である、溶出量も少ない場合が多い
・ 一般に広域で観測され、人為由来を示す局在性がない
・ 平面や深度調査でも同程度の濃度が観測される場合が多い
・ 調査地域の堆積環境と対象物質の因果関係が認められる

(3)自然由来重金属類の基準等
 自然由来重金属類については自然的原因による含有量の上限値の目安や指定基準等がある。

・ 指定基準とは、土壌汚染対策法において土壌汚染がある土地として評価される指定区域の指定に係る基準であり、土壌溶出量基準と土壌含有量基準がある。土壌溶出量基準は環境基本法に基づく環境基準と同じ値である。

・ 第二種特定有害物質(重金属類)については土壌溶出量調査と土壌含有量調査を行う。



土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ



参考2.土壌溶出量基準に適合しない場合の判定基準
環境省「土壌汚染対策法の施行について(環水土第20 号、平成15 年2 月4 日)」における「(別紙1)土壌中の特定有害物質が自然的原因によるものかどうかの判定方法」において、自然地盤上に発見された基準超過であって、土壌溶出量基準に適合しない場合の判定基準として、以下の3 つの観点からの検討を行い、そのすべてについて以下の条件を満たすときは、
自然的原因によるものと判断することとしている。

(1)特定有害物質の種類等
 自然地盤上に存在し、土壌溶出量基準に適合しない可能性のある特定有害物質は、砒素、鉛、ふっ素、ほう素、水銀、カドミウム、セレン、六価クロムの8 種類のいずれかとされ、土地の履歴、周辺の事例や地質的状況、海域との関係等を総合的に勘案し、次の事項を踏まえつつ判断する必要がある。

?)砒素、鉛、ふっ素及びほう素については、自然的原因により土壌溶出量基準に適合しない可能性が高いこと
?)溶出量基準の10 倍を超える場合は人為的原因である可能性が比較的高くなり、自然的原因であるかどうかの判断材料になり得ること(しかし、自然的原因である場合もあり得ることに留意が必要)

(2)特定有害物質の含有量の範囲等
 特定有害物質の含有量が概ね表4.2.2 に示す濃度の範囲にあることとする。その際の含有量の測定方法は、土壌汚染状況調査における含有量調査の測定方法によらず、全量分析による。なお、表4.2.2 に示す濃度の範囲を超える場合でも、バックグラウンド濃度との比較又は化合物形態等の確認から、自然的原因によるものと確認できる場合は、自然的原因と判断する。

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ
表4.2.2 自然的原因による含有量の上限値の目安
特定有害物質
砒素 鉛 ふっ素 ほう素 水銀 カドミウ セレン 六価クロム 上限値の目安 (mg/kg)
39 140 700 100 1.4 1.4 2.0 −

(注)含有量の上限値の目安の値は、全国主要10 都市で採取した市街地の土壌中の特定有害物質の含有量を全量分析によって測定した全量値で、統計解析から求めた値(平均値+3σ)である。なお、鉱脈・鉱床の分布地帯等の地質条件によっては、この上限値の目安を超える場合があり得ることに留意する必要がある。

(3)特定有害物質の分布特性
 特定有害物質の含有量分布に、当該特定有害物質の使用履歴のある場所等との関連性を示す局在性が認められないこととする。

5.関係者意見等
 前掲の3.及び4.で示した作成方法等を基に、本検討会委員や利害の及ぶ可能性のある業界等関係者から意見を聴取したところ、以下に示すとおりであった。

5.1 検討会委員意見
(1)マップ作成の必要性・メリットについて
?マップの作成と活用の必要性
 一般論として、このようなマップが使われることは賛成である。まさにヨーロッパではこのような事業所立地履歴マップが提供されており、また自然由来のマップは作成している最中であるが、それなりに整備している。
 このようなマップがあると、冷静な議論ができ、浄化の目標もすべて掘削除去ではなく、環境リスクの観点からベストな対策の選定についての合理的な判断ができる。また、事業所があれば土地は汚れていて当たり前という世論が醸成されることになる。

?土壌汚染対策法の改正によりマップの必要性が高まる
 土壌汚染対策法の改正による平成22 年からの施行予定に併せて、土壌環境に係るマップの必要性が高まり、全国レベルでこのようなツールを持たなければならないことになる。
 環境行政にとっても、このようなマップが平成22 年以降は一定程度必要になる。

?自然由来のマップの必要性
 自然由来のマップは基本的に歓迎すべきことで、全国中で作成を促進すべきである。これまで、このようなマップがないために現場は非常に困っている。まず、このようなマップが共有化されることが必要で、これを基に議論ができる下地がないと、自治体によっては自然由来というだけでは受け付けないところもある。このような現状を少しでも変えていくために、このようなインフラが必要と考えられる。

 また、工事の掘削土壌に自然由来による基準超過のおそれがあるかどうか事前に把握できるので、基準超過土壌処分に係る工事費の追加発生や工事期間延長といった問題も回避できる。
 公共事業では、自然由来の重金属データがないと頓挫し、余計な経費が大きく発生することはもう目に見えていて、ある地域の地下鉄建設では砒素、カドミウムの問題が事前にわかっていたため、技術検討会で議論した結果を公開して適切な処置を講じたゆえに、工事費が数十億円も圧縮できた例がある。

 現在では、自然由来の重金属データの調査・収集は不可欠となっており、どういう公開の仕方が社会にとって適切なのかという議論を行うべき段階に来ている。

(2)公開のデメリット
?土壌汚染マップと誤解されるおそれ
 事業所の履歴情報をプロットしたはずのマップが、いつの間にか土壌汚染マップと誤解を生じてしまうおそれがあるのではないか。こうしたおそれがあると、このマップが公表された場合にどのような影響が生じるのか全く読めない。

?自然由来の汚染のある地域として悪いイメージが定着するおそれ
 地域一帯が自然由来のリスクの高い地域として悪いイメージが定着すると、域外に土を搬出する場合はすべて色がついたものというレッテルを張られる懸念がある。

?住宅等を購入した土地所有者への影響

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

 土地の履歴を知らずに住宅等を購入した土地所有者にとって、事業所立地履歴マップに色がついていることは全く寝耳に水の話で、調査して基準超過が判明した場合は、直接売主にクレームがいくことになる。このようなケースが多く出てくると、100 ?程度の小さな土地の調査でもリスクコミュニケーションは大変であり、この面で対応できる調査会社や専門家がいると
は思えないので、事業所立地履歴マップにはこのような面でのリスクもある。

?自治体への過度な負担
 土壌汚染対策法の改正で対象範囲が拡大すると、自治体に多くの案件が持ち込まれて負担が大きくなることに加えて、このマップへの対応も求められるため、自治体にとって相当な負担となるおそれがある。
 土地取引では、1週間以内で行政の了解をとって決済する必要がある場合もあり、行政がこれに対応できる容量がなければ売買に支障をきたすことになり、実体マーケットへの影響が懸念される。

(3)公開の是非と理由
【公開に賛成の意見】
?環境問題については情報公開が大切
 環境問題は、基本的に情報公開することが大切という認識であり、情報公開するという姿勢はよいことである。また、情報公開により新規の土地購入者が汚染の可能性のある土地を購入してしまうリクスや、汚染を知らずに地下水を飲み続けるという健康被害を回避することができる。

?事業所立地履歴マップの公開
 事業所立地履歴マップは公開されている既存のデータを用いてわかりやすく表示するものであるので、公開してもよい。

?自然由来重金属類分布マップの公開
 民間の立場からは自然由来重金属類分布マップをどんどん公開してほしい。自然由来の判断についての行政協議のサポート資料となる。

【公開に反対の意見】
?公開請求を受けた場合にデータが一人歩きするおそれ
 情報公開請求等でマップが出ていったときにどのように扱われるのかについても十分留意する必要がある。条例で原則公開となっているので、非公開の資料も請求を受ければそのまま公開される可能性がある。内部資料といえども、データがひとり歩きをしかねない危惧が懸念される。

?今すぐ公開するのは金融面でもリスクがある
 今すぐ公開するのは、金融面からもリスクがあると思われる。金融庁による金融検査マニュアルにより土壌汚染を含めた環境汚染を評価しなければならないが、土壌汚染リスクをどう担保評価に反映するかは、銀行によって差異がある。土壌汚染対策法で指定区域になると相当厳しく差し引くけれども、そうではない土地は、調査等のコストもかかるので、金融機関にとっ
ても対応に差がある。

?公開については土壌汚染対策法が改正された後でよい
 マップを広く知らせることはよいが、いきなり出てしまった場合に土地所有者や近隣の所有者に与えるデメリットはかなりある。土壌汚染対策法が改正され、ある程度整備された後に対応するということでも遅くはない。

?自然由来重金属類分布マップは自治体での検討結果と齟齬が生じるおそれ
 自然的原因の砒素の判定方法の確立のために自治体側で委員会を設けて、表層土壌調査を加えて詳細に検討している最中であるため、自然由来重金属類分布マップが委員会での検討結果と異なる可能性があることから、自然由来重金属類分布マップは非公開とするのがよい。
 また、マップについて、地層のどの深さまで見るかとか、金融面でのリスクとかを厳密に把握・整理してからでないと、かなりの混乱が予想されるので、当面は公開しないのがよい。

?公開については各自治体の判断
 マップを行政内部だけに留保しておくのか、公開するのかは、個々の自治体の事情に応じて判断せざるを得ない部分があり、自治体の判断に任せるのがよい。

(4)公開する場合の条件
?データの信頼性が重要
 マップの公開に際してはデータの信頼性が重要であり、公表されているデータを集約・整理して利用していくことはよい。

?公開に際して市民との十分なリスクコミュニケーションが必要

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ
 この化学物質はどういうものか、土壌、地質はどういう構成をしているのか、こういった面については、市民のみならず不動産業者もきちっと理解していないケースが多々ある。
 土壌汚染についての情報公開の仕方によっては、市民に誤解を与えるおそれがあるため、ただ公開するというだけではなく、その下地として、十分なリスクコミュニケーションを通じて市民に基礎的な知識を提供することも必要である。

?公開するためには行政側の体制整備が必要
 土壌汚染対策法の政令市のように、保健所行政とも一体的に連携できる体制がある場合はよいが、そうでない場合は、情報公開と同時に一体的にやれないという課題がある。
 今後、土壌汚染対策法の改正の動きに併せて行政側の体制を整備する必要がある。

?要調査マップでないことを説明することが必要
 事業所立地履歴マップは、(法律上調査が必要という意味での)土壌汚染の要調査マップではなく、全く土壌汚染対策法の対象になっていないものも含まれる事業所の立地マップであることから、マップに掲載されたとしても調査する義務はない。従って、フェーズ1調査をサポートするマップとして活用できるように、公開していく必要性があると考えられる。
 要調査マップではないことをきちんと明記し、説明していく必要がある。

(5)公開の仕方
?自然由来から情報を公開

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

 自然由来については、情報をある程度公開していく方向が重要で、まず自然由来の堆積状況から伝えていく。地方自治体では、自然由来の堆積物の判断に関していろいろな問題が生じている。日本の国土の地層は大きな特質があることを認識した上で、自然堆積物をはれものにさわるという扱いでなく、きちんと説明した上で土地取引をすべきである。
 土地売買において重要な役割を果たす宅地建物取引主任者が、重要事項説明の中で、日本の国土についてある範囲できちんと説明して、市民も理解することをしていかない限り、土壌汚染リスクに対する過大な反応がいつまでも続くことになる。現場では、土壌汚染を全くゼロにしろといわれるけれども、ゼロにすることは本当にナンセンスなことである。

?行政で一斉に公開するのがよい
 特定の都市のみで先行的に公開してリスクを抱えるよりは、行政側が一斉に実施することがよい。

?公表するタイミングが重要
 マップづくりは大変すばらしいことでも、公表のタイミングは相当に慎重でないと、中小企業に対して、貸しはがしまで及ぶかどうかはわからないが、何らかの影響が出るのは避けられない。

?自然由来重金属類分布マップの公開の仕方
 仮に自然由来重金属類分布マップを公開する場合でも、このマップを踏まえて自治体でも詳細に検討されており、新たにきちんとしたものが自治体から出される形になっていることを注記することが必要である。そうしないと、大変齟齬が生じることになる。

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

?段階的な公開
 マップがいろいろ活用されて新しいビジネスや市場が生まれることは、大変いいことと評価する一方で、どのように使われるかわからない面もあるため、何か悪い影響が生じたら直ちに直していくというように、少しずつ段階的に公開していく方がよい。
いきなり公開するとハレーションがあるとすれば、とりあえず新たな被害を防ぐ観点から始めて、土壌汚染に対する認識が進んだ上で公開していく。

(6)事業所立地履歴マップの作成に関する意見
?街区単位よりもメッシュ単位のマップがよい
 メッシュ又は街区単位で着色したマップは、場所によってかなり面積の大きさに違いがあるので、随分印象が変わる。街区単位よりもメッシュ単位で表した方が、ある意味平等である。

 また、メッシュ図は、街区単位の図と比較して、面積が小さくなっている印象を与えるので、二者択一であれば、メッシュ図のほうがよい。
 なお、100m メッシュ図についてきちんと説明がされないと、土地所有者がなぜ色がついているのか理解に苦しむといった懸念がある。

?目的によって対象とするデータの範囲が異なる
 マップ作成の目的が、土地取引のためか、環境リスク把握のためかによって取り扱う事業所データの範囲が明確に異なってくる。土壌汚染対策法の改正の議論の中で、地歴調査で調べるべき範囲が設定されれば、その範囲の施設に限定してリスト化すればよいが、ここでの情報はそれを超える可能性がある。土壌汚染対策法が今回改正されても、ダイオキシンは対象になら
ないが、土地取引の実態ではダイオキシンまで対象としていると考えられるので、そのギャップをどう扱うかの話は残る。

?マップ作成の精度の問題
 事業所立地履歴マップの精度について、10m メッシュ程度で行えば正確になるが、費用対効果の問題もあるのでどこまで詳細にできるのか、精度の問題がある。

(7)自然由来重金属類分布マップの作成に関する意見
?自然的原因の上限値の目安の全国一律的な基準値の見直し
 環境省において、自然的原因の上限値の目安の全国一律の値を変えることについて現在検討中である。全国一律的な基準値(砒素の場合は39mg/kg)について、札幌市が独自の基準をどう出すかについては非常に興味があるところであるが、全国一律基準がそもそも成り立たないという共通認識を持つべきであり、それに対してどう評価すべきかというふうに発想を変えていかないと、混乱が生じることになる。

?全国的なマップづくりには多くのデータ数が必要
 全国的にマップづくりを進めるには、データを増やすことが不可欠である。今回のように地質図をベースにしてデータを集積して、スコアをつけてリスクをカテゴライズしていく方法論は、おそらくその方向に向かうと考えられる。ただし、詳細な数値をどうす
るかという議論はあるが、例えば、10、20、30 という区切りの数値はこれから経験値を積み上げることによって修正していけばよい。

?担保評価の中に日本の地質的な特性を考慮すべき
 これまで日本の土地の地質的特性を考慮されずに不動産取引をされてきたことの方が異常である。もともとこの地域は砒素が高目に出るところであるから、調査で砒素が高いからといって、この土地の担保は差し引くべきでないというコンセンサスが得られるようにしていくべきである。

?自治体の判断をフォローするガイドラインが必要
 自然由来重金属類分布マップと事業者から提出された土壌調査報告書を踏まえて、自治体が自然由来かどうかを判断することになるので、逆にそれを判断した自治体を守ってあげるような制度設計も必要ではないか。自然由来と判断した責任を行政官がすべて負わなければいけないということは怖いことであり、技術的にここの線でこの地層には出る可能性が高いという整理をしてマップ化することは賛成である。
 それを運用するときに、受け手側の自治体がしっかり判断できるガイドラインをつくらないと、安全サイドに流れて、今と変わらなくなる。

?土壌汚染対策法改正に向けた準備が必要
 改正土壌汚染対策法の平成22 年運用に向けてこれから準備をしていくことが必要であり、行政側が特例区域(*)なのかどうかという判断を迫られるため、環境部局としては自然由来マップを持つことが必要な時を迎えるというふうに認識せざるを得ない。
 実際自然由来については、日本の大都市の多くで砒素や鉛、ふっ素等が確認されており、そこは特例区域として妥当と判断すれば、土地所有者は調査しなくてよいとするのがねらいである。そこのエリアがどの範囲までか、既存の情報や地質図から一定程度類推したものを持っていないと、判断がつかなくなる。

(*)特例区域とは:中央環境審議会答申「今後の土壌汚染対策の在り方について」(平成20 年12 月19 日)において、海面埋立地の敷地はふっ素等の海水に含まれる自然由来成分やその埋め立てられた物質により指定基準を超過することが多いが、汚染土壌の搬出時の措置、形質変更時の土壌の飛散の防止措置を講じていれば、人の健康に被害が生じるおそれがないことから、土地所有者等の申立てにより土壌汚染があると見なす区域として特例区域の指定が盛り込まれていた。しかし、閣議決定された土壌汚染対策法改正案ではこの制度は盛り込まれなかった。

?臨海部埋立地の取り扱いの問題
 例えば砒素の基準(0.01mg/L)はかなり厳しくなっており、海岸部において昭和30〜40 年代頃に埋め立てたときは合法であったが、今では基準超過となっており、埋立地は人為的汚染と考えるべきであろうが、その取り扱いについては明確な結論が出ていない。実際にフッ素の濃度は、海域の土壌による埋立てで、この土地全体が海に近いような値になっている状況もあ
る。

?札幌市では自然的原因の砒素に関して詳細に検討中
 今回の自然由来重金属類分布マップは表層地質ごとであるが、札幌市ではさらに土質区分、河川の流域区分、深度区分、それから行政区区分など、多面的に検討している。
 また、環境省が示している自然的原因の砒素の上限値の目安(39mg/kg)について、札幌市では、道内屈指の温泉や大きな旧鉱山が2つあるという地域特性に合わせた札幌市版の上限値の目安についても検討している。
 この結果について札幌市としての判定区分を公開し、これによって土壌調査結果を判定していくことを考えている。また、併せて圏外に搬出するための札幌市版の搬出基準等に関する事項についても今後検討していく予定である。

5.2 ヒアリング結果
 各業界関係者にマップの公開のメリット、デメリット、公開の是非、公開に際しての要件等についてヒアリングした結果の概要は以下に示すとおりである。

(1)中小企業関係団体
【公開のメリット】
?土地所有者にとって早期から適切な対応が可能
 中小企業にとって事前に所有地の状況を把握することができれば、早期から負担等に適切に対応することができるので、廃業時などに土壌汚染の危惧から土地をそのまま放置することが少なくなる。

?中小企業にとって経営判断やシンビジネスの立ち上げに有力な情報
 中小企業にとって、土地という重要な経営資源についての情報が増えるのは大変よいことで、速く、容易に情報を把握できることは大きなメリットである。とりわけ、転廃業や事業再生等を行う際の経営判断に有益である。
 また、創業者が新ビジネスをスタートアップする際に、土壌汚染リスクの高い土地での創業を回避することが可能である。イメージ戦略で創業する場合に、自然由来による汚染が存する土地に立地しているなどと言われると、いきなりダメージを受けるので、スタートアップ時の経営が大変不安定な状況の中で、このような情報はメリットになる。

【公開のデメリット】
?所有地に係る情報を公開されることに対する抵抗感
 土地所有者にとって、一般の人々が自分の土地についての情報を持つのは大変嫌なことであるという、心理的な抵抗感がある。

?近隣とのトラブル発生など操業への影響のおそれ
 土壌汚染の可能性があると、すぐ近隣問題になって風評被害が生じるおそれがある。マスコミ等から子どもの健康を害するのではという記事が出ると、操業できなくなるおそれや町内会などコミュニティに影響するおそれがある。

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

?業界にとってのイメージダウン
 マップの中に「クリーニング」、「ガソリンスタンド」という固有の業界が特出しされると、業界のイメージダウンになるおそれがある。
 ガソリンスタンドは土壌汚染対策法の対象外であり、施設ごとに土壌汚染の可能性や対象物質が異なるので、他の業種と同じように一律に表示されることについては工夫が必要である。

?土地の担保価値低下による資金繰りの困難性
 今までにない大変な景気悪化の状況下で、中小企業が直面している一番の問題は貸し渋り、要するに資金繰りの問題であり、土壌汚染のおそれにより土地の担保価値が下がって、貸し渋りの一助になることは一番不幸なシナリオである。

【公開の是非】
?当面は行政内部用としての扱い
 マップの公開は時期尚早であり、当面は行政内部用の扱いがよい。

【公開する場合の要件と公開の仕方】
?ディテールも含めた正確な広報が必要
 マップを公開する場合、ディテールも含めた正確な広報が大変重要である。このようなマップは活用の仕方がいろいろ考えられるが、マスコミを中心とする情報のひとり歩きは大変困ることになり、地域住民が土壌汚染として捉えた場合は、健康被害がなくても学校やPTAで大きな問題として取り上げることもあり得る。

?中小企業に対する十分な配慮が必要
 中小企業は地域のコミュニティを維持するためにいろいろ苦労しているので、特に初期の段階で「土壌汚染マップ」などとネーミングされないように、十分な注意を払う必要がある。最初のイメージにとらわれて、そのまま固定観念で流れることを大変懸念する。
 中小企業や家族操業の零細企業に対して十分に配慮しているというメッセージが伝わるような形でマップを公開していくべき。

?段階的な公開
 マップがいろいろ活用されて新しいビジネスや市場が生まれることは、大変いいことと評価する一方で、どのように使われるかわからない面もあるため、何か悪い影響が生じたら直ちに直していくというように、少しずつ段階的に公開していく方がよい。

(2)石油輸送会社
【公開のメリット】
?フェーズ1調査の簡略化が可能
 不動産取引時のフェーズ1 調査で、土地の履歴がわからず苦労しており、費用がかかるとか、結局明確な経歴がわからないことがある。このようなマップがあれば、フェーズ1調査における作業が簡略化できて有効である。
土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ
?自然由来の判定に有力な情報
 自然由来かどうかの証明で、自治体と協議をする際に、このような情報があれば、大変有効に活用できるのではないか。また、工事の掘削土壌に自然由来による基準超過のおそれがあるかどうか事前に把握できるので、汚染土壌処分に係る工事費の追加発生や工事期間延長といった問題も回避できる。

【公開のデメリット】
?ガソリンスタンドへの配慮
 ガソリンスタンドは、現状は土壌汚染対策法の対象外で、施設ごとに土壌汚染の可能性とか対象物が違うので、他の業種と一律同じように表示されることについては工夫が必要である。

?土地評価へのマイナス影響や土壌調査が必要な土地となるおそれ
 マップに色塗りして公開された土地は、土地評価額が下がるとか、必ず土壌調査をしないと売れない土地になる可能性がある。
 街区単位での色塗りの場合は、その隣も同じ色で塗られるので、隣からクレームがつけられる可能性がある。例えば、有害物質の使用経歴がないにもかかわらず、売却の際に土壌調査をしなければならいという場合に、隣から土壌調査費用の負担を求められる可能性が生じる。

?対策済みの土地も一律に色塗りされることは問題
 不動産売買時に自主的な土壌調査・対策を既に実施した土地についても、一律同じ色で塗られることは問題である。調査・対策の実施状況を反映できる仕組みが必要である。

【公開の是非】
?行政内部用として使われるのがよい
 情報公開請求等でその資料が出ていったときにどういうふうに扱われるのか。その辺も十分注意が必要である。マップの公開は時期尚早と考えられる。

【公開する場合の条件と公開の仕方】
?土壌汚染リスクに関する一般への周知が必要
 マップ公開については、土壌汚染のリスクを一般の方に広く十分に周知した上で行うべきである。

?過去の調査・対策の実施結果を反映
 過去の土壌調査・対策の実施結果を反映できるような仕組みとすべきである。

?ゾーン表示よりも施設の種類別表示がよい
 街区やメッシュのエリアの単純な色塗りでは不安を広げることになるので、どういう施設がどこにあったかという実態を示すようにした方がよい。

(3)損害保険会社
【公開のメリット】
?リスク回避に有益な情報
 マップに係る情報が開示されて土地汚染の可能性が示唆されれば、新規の土地購入者が汚染の可能性のある土地を購入してしまうリスクや、汚染を知らずに地下水を飲み続けるという健康リスクを回避することができる。

【公開の是非】
?時期尚早
 事業所立地履歴マップは新しいデータを公表するのではなく、既存のデータを整備して分かりやすくしたものであるが、土壌汚染に対して十分な理解が進んでいない現状の社会環境下でいきなり公開することのデメリットは大きい。
 当面のボトムラインは土壌汚染の存在を知らない新たな被害者の発生を防ぐことにあり、そうであれば当面は不動産売買時に売り手は立地履歴の提示を義務付けるという対策でもよいのではないか。

【公開する場合の条件と公開の仕方】
?行政用と公開用との区分は必要ない
 もともと公開されているデータを整理してマップとして開示しているため、公開に当たって、行政用のものと一般開示用のものとを区分する必要はない。

?自然由来重金属類分布マップについて
 自然由来の重金属類分布マップについては、科学的な検証がされた上でのクラス分けになるべきだろうと考えている。

(4)環境コンサルティング会社
【事業所立地履歴マップについて】
?事業者にとって歓迎であるが、住民にとってはデメリットが大きい
 このマップは、コンサル、不動産関係、金融関係の事業者サイドにとっては非常にありがたく、メリットしか思いつかない。しかし、住民の立場からすれば、健康リスクのみならず経済リスクも負いかねないという意味では、公開することによるデメリットの方が大きい。自然由来重金属類マップ以上に綿密なリスクコミュニケーションが必要である。

 行政内部用と公開用で分けているが、公開用だけあれば良いと思う。土壌汚染対策法の改正により自治体がフェーズ?についての判断を行うことが増えることが想定されるが、行政内部用を作ったにしても、そこに掲載されている情報が100%で無い場合は、結局担当者が調査を行うことになる場合もあると思われる。せっかく作ったマップでも、信頼がないと使われなくなる可能性も考えられる。

【自然由来重金属類分布マップについて】
?自然由来重金属類分布マップは必要
 このようなマップを作成することはすばらしいことであり、行政が整備してくれると助かる。ただし、公開に当たってはリスクコミュニケーションが不可欠である。国土交通省と自治体双方の担当者がマップの意義や趣旨・目的、自然由来の基準超過には通常存在する量では健康リスクが無いこと等をしっかりと住民に対して説明出来る必要がある。
 なお、自然由来については、「掘ったら出てくる」こと、そもそも通常存在する量では健康上のリスクは無いことが重要なのであるから、自然由来と判断されたところについては1色で塗ればよいのではないか。

 このようなマップが全国で整備出来ると良い。ただ、自然由来と判断する基準は(環境省が自然由来と判断する基準である)39mg/kg を基準にするのではなく、地域によって変えた方がいい。この基準自体、全国10 地点くらいの平均値であり、信頼の高いものではないので、現在環境省においても見直しがされている。 
 マップに入っている調査結果の数字については出さない方がよい。不要な誤解を招きかねない。

(5)不動産鑑定士
 色塗りされたエリアに含まれた土地の評価を求められた場合、土壌汚染による影響が無いと言い切るためには、このマップに掲載された情報よりももう少し詳細な調査が必要になるが、それは依頼者の負担で行ってもらう必要がある。そうなると、評価を依頼する人の負担が現状よりも増えるとともに、中途半端な情報の下では鑑定評価の依頼を受けにくいことから、鑑定
評価ビジネスが縮小してしまうかもしれない。
 また、「このマップで色が塗られていないのだから土壌汚染は存在しない」と、このマップに責任を押しつけて悪用する人(特に鑑定士や不動産業者など)が出てくるかもしれない。

6.汚染された土地の有効利用促進等に向けた情報提供の方向性と課題

6.1 土壌汚染情報のデータベース化

6.1.1 人的活動に起因する土壌汚染データベース構築の方向性と課題
 中央環境審議会「今後の土壌汚染対策の在り方について(答申)」(平成20 年12 月)は、「土壌汚染に関する情報について、埋没させることなく、関係者が容易に入手し、適切に活用することができ、適切に承継される仕組みが必要」としており、土壌汚染に係るデータベースの構築が必要とされている。
 データベースの構築は、土壌汚染対策法の一部改正の方向として想定される「都道府県知事による土壌汚染に関する情報の収集、整理、保存及び提供に関する努力義務」に沿った具体策の一つであると位置付けることもできる。

 上記の答申においては、一定規模以上の土地であって土壌汚染のおそれのある土地の形質変更時における都道府県知事による土壌汚染の調査命令や、自主調査において土壌汚染が判明した場合も含め規制対象区域として適切な管理を行うことが謳われている。
 また、汚染物質の掘削除去を行わず、残置して封じ込める対策の採用検討が推奨されている。行政が管理すべき土壌汚染に係る情報量が増加する方向にある中で、情報を効率的に管理し、効果的に施策決定に結びつけるためには事業所立地履歴マップを含めたデータベースの構築が有効である。

 また、行政が知り得た情報を開示せず、土壌汚染リスクの存在を認識することができないままに土地を購入する者がいるとすれば、不幸なことであり、そのような状況の発生を防ぐ必要がある。宅地建物取引業法では、隣地や取引対象土地の過去の使用履歴について、その時点で認識している以上に開示することは求めておらず、一般には積極的にその土地の過去の使用履
歴を調査することは行わない。
 したがって、土地購入者が近傍の土壌汚染の存在を把握したうえでの土地取引を推進できるという意味でも、データベースの構築・公開は求められるところである。

 事業計画当初に調査を実施しなかったり土壌汚染を発見できなかったりした土地について、工事途中など事業が進んだ段階で土壌汚染が発見された場合には、土地取引の契約取消しや想定外のコスト発生などの問題が生じている事例は多い。容易に参照できる情報が存在すれば、土壌環境の概略把握が可能となり、その後の段取りの効率的な進行や調査品質の確保に繋がることが期待される。

 一方で、土壌汚染対策法の改正が検討されている最中であり今後の詳細な制度内容が不確定であるという問題を除いても、事業所立地履歴マップの公開については、次の二つの理由から現時点では避けるべきという意見があったことにも配慮する必要がある。
 第一に、マップの公開の仕方によっては、住民の一部に不安を与えてしまうという可能性を否定しきれないであろうということである。単純にマップの公開のみであると、リスクを正しく認識しないことによるスティグマのため、土地価格に悪影響を与え得ることなどが懸念された。
 第二に、企業活動への影響が懸念された。景気が著しく悪化し、企業の資金繰りが悪くなる中で、土地の担保価値下落に繋がるおそれのあるマップ公開は避けるべきということである。

 このため、今般はマップの作成方法等を示すにとどめることとするが、上記答申を内容とする改正土壌汚染対策法が成立・施行された場合、上記のとおり自治体の負担はかなり増大する可能性があると考えられることから、少なくともそれを軽減し円滑な業務執行を成し得るよう、まずは行政内部での活用を目的として、各自治体において本とりまとめで示した作成方法等を
参考にしつつマップ作成に取り組むことが一助になると考える。

6.1.2 自然的原因による土壌の基準値超過に係るデータベースの構築の方向性と課題
 自然的原因による土壌の基準値超過については、地質的に一定の地域内に幅広く分布する等の事情により、その地域固有の特性と考えて対応する必要がある。
 したがって、人為的な土壌汚染として対策をすべき土地と、そうではない自然的原因による土壌の基準値超過土地の線引きを可能にするため、自然的原因による土壌の基準値超過についてデータベースを構築することは有用であると考えられる。また、これにより、汚染土壌による地下水への影響や残土の処理方法等を調査、検討することも可能になる。
 そもそも自然的原因による土壌の基準値超過は、国土そのものの議論であり、人為的な汚染との区別が明確にできれば、行政的に地下水への影響をコントロールすることや搬出土壌の移動管理を施すべきもので、また、情報の公開によって影響を受ける関係者も少ないことが想定されるため、自然的原因による土壌の基準値超過データベースの構築・公開に対する抵
抗感は少ないものと考える。

 自然的原因による土壌の基準値超過については、前述したようにある地域内の土地全体に当てはまる特性であることから、個別サイトごとの状況を考慮に入れれば足りる一般の土壌汚染の場合とは異なり、面的に土壌の状況を把握する必要がある。
現在、自然的原因による土壌の基準値超過については、環境省主導で全国の土壌のバックグラウンド値が収集整理されているほか、自治体や大学等の研究者により自然的原因による土壌の基準値超過の判定に係る研究が進められている。
 したがって、それらの成果を踏まえ、各自治体の判断により、自然由来重金属類分布マップをデータベースの一つの形として公表することは可能であるとともに適切であると考える。
 また、事業所立地履歴マップの場合と同様に、改正土壌汚染対策法の内容を踏まえれば、自治体の負担が増す可能性がある中で、予め各自治体においてその軽減に資するバックグラウンドデータを整備しておくことが一助になると考える。

6.2 土壌汚染の正確な知識の周知とリスクコミュニケーション 

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

 土壌汚染が社会問題化するのは、土壌汚染自体が比較的新しい概念であり、これまで通常存在するリスクの一つとして扱われなかった商習慣等の下で土地利用や土地取引が行われていることが背景にある。こうした状況下で事業所立地履歴マップを公開した場合に、国民の間に過剰反応が生じる悪影響が懸念された。この課題を払拭するためには、行政主導で公開に先立ち国民に啓発活動を実施するとともに、公開に当たっての体制やシナリオを検討しておく必要がある。

 土壌汚染問題に対する一般的理解の不足により、汚染の程度が重篤なものでなくとも、世の中においては過剰に反応される傾向があり、また、この風潮により土地所有者等は公表を拒みがちとなるという悪循環となっている。
 しかしながら、それらの土地を健康リスクの観点から見た場合、多くは過剰反応するほどの大きなものでなく、合理的な対策により十分対応可能なレベルであると考えられる。
 また、そもそも土壌環境基準が意味する健康被害リスクが一般的に思い込まれている以上に低いレベルであることさえも一般的に認知されておらず、このような土壌汚染に関する正確な知識の欠如が、世の中に土壌汚染に対する過剰な嫌悪「スティグマ」を生んでいる。
 そして、スティグマの存在が風評被害の可能性へとつながるために土壌環境に係るマップの公開の障壁となり、世の中に土壌環境に係る正確な情報が提供されないという悪い連鎖が生じている。

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

 この悪い連鎖を断ち切るためには、土壌汚染リスクに係る正確な知識の普及が必要なことは当然であるが、その普及の見通しが不透明である現状においては、国が主導し、正確な知識の周知と併せて全国の土壌環境に係るマップの公開を促進することが重要である。
 土壌環境基準を超過する土地が日本国中至る所に存在し、そこで人々が何不自由なく生活していることが理解されれば、スティグマも解消し円滑な土地取引が行われるものと期待される。
 土壌環境に係るマップの公開は、土壌汚染に係る有効なリスクコミュニケーションの手段となり得るものである。

 なお、リスクコミュニケーションにおいては、土壌汚染が判明した場合であっても過剰な対策・負担なしに対応が可能であることを認識してもらうことが重要であり、土壌環境に係るマップの公開に伴う上記の懸念を可能な限り低減させるためにもその種の方策を講じることが有効である。
 このため、例えば、掘削除去以外の措置により計画的な土地利用を行っている実在の土壌汚染地について、その成功要因等を分析・研究し、「サクセスモデル」として公開すること等を検討すべきである。





土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ


土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ


土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ


土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ

土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ










同じカテゴリー(土壌汚染と土地取引分科会)の記事
 環境保全上健全な水循環の確保に向けた取組 (2010-01-07 22:35)
 土壌汚染対策法改正で汚染土地の取引は? (2009-11-03 22:30)
 転載マンション事業における土壌汚染対策に関する留意事項等 (2009-10-18 11:56)
 土壌汚染と土地取引分科会 (2009-07-20 14:57)

上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。


削除
土地有効利用の土壌汚染情報検討会中間とりまとめ
    コメント(0)