2009年10月19日
工事中 水循環基本法要綱案&政策大綱案 意見募集
水循環基本法要綱案(原案)
前文
水は、「生命」の基本である。地球上の水は、海洋と太陽エネルギーによつて絶えず循環を繰り返し、多様な生命に思恵を与え続けてきた。
現代においては、水循環系は人間の営為によって不断に直接的・問接的に影響を受けるという点で社会的システムであると言えよう。私たちは、地球上に人為的影響を受けない水循県系は最早存在しないことに深く思いを致し、改変された水循環系を持続可能なシステムに再生する努力を払わなければならない。
国上の70パーセントが森林で覆われ水に恵まれたわが国でも、かつての高度経済成長にともなう国上開発と都市化、工業化、さらに生活の利便性の追求による水循環系への直接的影響によって、生態系保全を伴う水循環系は撹乱され、国土保全力を極度に弱めてきた。
地球温暖化は、このような直接的影響と相侯つて水循乗系の大変動を誘発させ、異常な洪水や極端な渇水をもたらし、生命と生活を脅かす。化学物質による水の汚染は、微量であっても食物連鎖・生物濃縮によつて生命の危険を増大させ、とくに胎児への悪影響に警告が発せられている。
日本人が様々な水の脅威を克服し、日本の水を大切にし、日本の水を飲み、日本の水を使うようにするためには、水循環系に影響を与える人間の営為そのものを適正に制御することによつて、撹乱された水循環系を水量、水質、生態系の面から持続可能なシステムに再構築し、健全な水循環型社会を創出して、それを将来世代に継承しなければならない。このため、水循環基本法を制定することにした。
第一 総則・目的
この法律は、健全で持続可能な水循環型社会の形成について基本理念を定め、並びに国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにするとともに、水循環総合基本方針の策定その他の水循環型社会の形成に関する施策の基本となる事項を定めることにより、水循環型社会の形成に関する統合的水管理施策を総合的かつ計画的に推進し、もつて現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに、将来の世代に健全な国上を継承することを目的とする。
,定義(注:今後さらに検討を重ねる。必要語句を追加する。)
〈水循環〉
水循環とは、人間の営為の影響を受けつつ地表水及び地下水となり、蒸発し再び降水となり、あるいは地表での滞留や貯留、土壌への浸透など様々な過程を経て絶えず繰り返す水の循県の過程を言う。
〈統合的水管理〉
統合的水管理とは、現在の縦割型水管理を排し、河川流域を一貫した地表水及び地下水の水量管理、水質管理、生態系管理及び水環境管理を統合した総合的な水管理を言う。
〈河川流域〉
河川流域とは、河川及びその集水域を媒介として、森林、農村、都市、海が結ばれたまとまりのある国上の単位を言う。
(水環境〉
統合的水管理によつて形成され、将来の世代に継承され、国民の全てがその思恵を享受する水の環境で、水量、水質、生態系の面から持統可能な水循環系によつてもたらされたものを言う。
第二 基本理念
(1)地表水及び地下水は公共水であること
地表水及び地下水は、共に公共水であり、流域別水循環計画に基づいて統合的に管理されなければならない。
(2)水循環保全義務と水環境享受権
現在の国民は、現在及び将来の国民のために、持続可能な水循環系を保持する義務を担う。現在及び将来の国民は、水量、水質、生態系の面から持続可能な水循環系によつてもたらされる健全な水環境の思恵を享受する基本的権利を有する。
(3)流域圏の統合的管理
水循環管理は、河川流域を原則的単位として統合的かつ地域主権的に行われなければならない。河川流域を構成する地方公共団体は、相互に協力し、河川及び河川流域を上流の森林や農地から河日沿岸域までを含めて統合的かつ地域主権的に管理する主体である「流域連合」を組織しなければならない。ここで、流域圏の範囲については、複数河川流域に亘る広域生活圏においては当該の全河川流域を包含したものとする。
(4)持続可能な水循環型社会の再生と将来世代への継承
持続可能な水循環型社会の形成は、健全な国土とその上に生活する国民の健康で文化的な生活と幸福追求に不可欠である。このため、これを再生し、将来世代に継承しなければならない。
(5)持続可能な水循環系保全のための公平な役割分担
持続的な水循環系の保全のための行動は、国民、事業者、地方公共団体(流域連合)、国等によつて公平な役割分担の下に行われなければならない。
(6)拡大汚染者責任の原則
通常の生活者が処理処分できない有害物質の生産者、通常の生活者の排出する各種の感染症の原因となる病原菌やウイルス、微量な医薬品や有害化学物質を含む排水の処理に当る事業者及び地方公共団体は、汚染防止について第一次的な責任を有する。
(7)未然防止と予防原則
水循環によつて生じる悪影響は、未然に防止されなければならない。このためには、科学的知見の充実を図るとともに、予防原則の適用を躊躇してはならない。
第二 関係者の責務等・国の責務
国は、「第二 基本理念」にのっとり、水循環の道正化に関する基本的かつ総合的な施策の基本方針を策定し、その推進に努める責務を有する。また、流域連合の自主性を尊重することを前提とした上で、流域連合による河川及び河川流域の管理が基本理念に則していないと判断される場合は必要な処置を勧告することができる。
・地方公共団体の責務
地方公共団体は、基本理念にのつとり、国の定める基本方針に基づき、流域連合を組織し、互いに協力して、施策を策定し、及び実施する責務を有する9地方公共団体は、この際、流域内の事業者及び住民の意見を聞かなければならない。
・事業者の責務
事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動に当つては、水循環系の支障とならないよう必要な措置を講じなければならない。支障が生じた場合は、その責は事業者に帰すものとする。
・国民の責務
国民は、基本理念を共有するとともに、水循環系への支障を防止するため、その日常生活に伴う水循乗系を撹乱する恐れのある負荷の低減に努めなければならない。また、国民は、水循環系の適正化に自ら努めるとともに、国及び地方公共団体が実施する施策の推進に主体的に参加する責務を有する。
・関係者相互の連携及び協力
国、地方公共団体、事業者、国民及び水循環系に関わる非営利公益団体その他の関係者は、基本理念の実現を図るため、相互に連携を図りながら協力することに努めなければならない。
このために情報公開の徹底を期すとともに、広く情報が利用されるように広報活動を強化する。
・水循環の日
事業者及び国民の間に広く水循環系の再生と保全についての関心と理解を深めるとともに、積極的に活動を行う意欲を高めるため、O月○ 日を水循環の口とする。
・法制上の措置等
国は、この法律の目的を達成するため、必要な関係法令の制定又は改正を行わなければならない。さらに国は、縦割の制度と組織を廃し、水循環系の道正化に関する施策を実施するため必要な財政上及び金融上の措置その他の措置を講じなければならない。また、地方公共団体においても縦割の制度と組織を廃するために必要な措置を行わなければならない。
・年次報告等
政府は、毎年、国会に基本方針の実施状況を報告し、その促進に必要な措置を明らかにした文書を提出しなければならない。また、国会に報告した内容及び提出した文書を公表する。
第四 基本方針口基本計画等
・水循環総合基本方針
国は、基本理念に基づき「第五基本的施策」の基礎となり、流域連合が策定する「流域別水循環計画」の前提となる基本方針を策定し、流域連合が円滑に実施できるよう支援・調整しなければならない。
基本方針には、基本的施策の推進に関する方針その他の必要な事項を定め、閣議の決定を求め、決定後遅滞無く公表するとともに国会に報告するものとする。
,流域別水循環計画
「流域連合」は、国の基本方針に基づき、河川流域毎に水循環アセスメントを行い、流域別水循環計画を当該流域に適合した最上位計画として策定する。
計画の策定から決定までのプロセスは、下記の通りである。
流域を構成する地方公共団体によつて結成された「流域連合」が「流域水循環審議会」に計画策定を諮問する。計画策定に当つては、流域住民の意見を聞き、誠実に対応しなければならない。流域連合は、答申された計画案を「流域連合議会」に諮り、議決を得て決定する。
第五 基本的施策
国は、下記の基本的施策に関する基本方針を示し、河川流域を構成する地方公共団体は、流域連合を結成し、流域別水循環計画に基づいてこれらの基本的施策を講じるものとする。
(1)流域治水対策の推進
想定した規模の洪水をダム等洪水調節施設と河道で処理するという従来の治水から、森林や農地による保水、流域による貯留、土地利用に応じた浸水の受け入れによる洪水氾濫の分散、河川、下水道、農業用水路等の一体的整備等、河川流域全体で洪水対策を行う流域治水へと転換する。
このため、河川法で想定されている基本高水流量等の設定に基づく治水計画を根本的に見直す。 流域治水へ転換することによつて、河川堤防のかさ上げとダム建設への過度な依存体制が克服でき、今後は、緑のダムとしての森林の持つ保水機能や土砂流出防止機能の活用、保水型・耐水型都市の再生、公園緑地や田畑の持つ遊水機能の活用、さらに雨水の地下浸透、滞留や貯留の計画的推進、水と緑の豊かなネットワーク都市の再生を進めることになる。
流域治水の推進のためには、浸水危険区域、遊水可能区域、水と緑の酒養区域などの土地利用計画を公表し、農業政策や都市計画とあいまった土地利用の適正な規制と誘導を図ることが不可欠になる。国民ひとリー人がこうして、流域治水に参加することになる。
(2)水環境管理の道正化及び水循環系の再生と保全
水環境管理の要諦は、河川管理と水環境管理の統合及びこれに伴う水環境基準と排水基準の適正化の推進である。これまでの縦割制度の下で達成されなかった両者の統合と諸基準の全面的改正を進め、同時に多様な生物の棲息・生育環境の再生・保全やギ硼十1の自然回帰と復元、環境用水の確保とその維持を図る。
さらに水循兵系の再生と地下水の保全のために、雨水の浸透・貯留機能の保全・回復あるいは雨水の利用を進める。何人も、水循環を妨げ、雨水の地下浸透を阻害する行為を行つてはならず、このために適切な土地不1用規制を図る。
(3)第二者機関による公正な水環境監視
縦割の所管部門がそれぞれ水質監視を行うこれまでの監視体制から脱却し、公正な第二者機関が排水源の放流水質及び受容水域の水環境の諸側面(水量、水質、生態系など)を監視する。
この第二者機関が違反者に対する是正勧告権を持つと同時に、法的な処置を講じることを可能にする。
(4)利水システムの合理化の促進
過剰な水利用を誘発したこれまでの利水システムを改め、節水型都市及び産業の創出に努め、新規水資源開発の抑制に向けた構造転換を図る。さらに、農業用水を含めた水利用合理化総合計画の策定、水利権転用(工業用水、農業用水)、水融通の促進、水利用量削減目標設定、水利権システムの整備(譲渡契約の認可主体=流域連合)などを進める。さらに、利水システムの一環として、 雨水利用及び下水処理水の再利用等の促進を図る。
(5)地下水の保全と利用の適正化の推進
地下水の保全と利用の適正化を図るため、同一地下水盆における地下水情報の共有化、モニタリング体制、緊急時体制を整備すると共に、地下水の涵養と保全のため、都市の公園や緑地、農地や森林などを有効に活用する。地方公共団体は、条例の定めるところにより、地下水利用適正化計画の策定、地下水酒養区域及び地下水汚染防止区域の設定並びに地下水採取料の徴収を行うことができる。
(6)河川と森林との統合管理の推進
河川管理と森林管理の統合は、水循環系の健全化の視点から極めて重要である。両者の統合によつて、放置林による山地災害や洪水時の大量の流木流出による被害拡大の防止対策を推進する。
また、地球温暖化は水循県系を撹乱させる元凶であるため、二酸化炭素吸収源としての森林の役割その他の森林の多面的機能を維持拡大させる措置を講じる。これらの対策を進めるために森林の所有者以外の者が管理行為を行うことが出来るようにし、併せて所得補償制度を導入する。
また、水源地域の土地の外国資本に封する売却を禁止する処置を採る。
(7)農地の保全と活用
農地を遊水地として保全し、冠水補償を実施する。体耕農地に湛水し、地下水の涵養及び生物多様性保全のためのビオトープとして活用することについて一定の補償を実施する。
(8)水道及び水循宋保全施設の流域圏統合経営の推進
水道及び下水道・浄化槽・し尿処理施設等の水循環保全施設は、排水源におけるきめ細かな対応とともに、流域圏ベースの広域経営を可能にすることによって経営の合理化とサービス水準の向上を図るとともに、処理水準の高度化を推進し、水環境の更なる清浄を確保する。このため、本来同一の機能を果す下水道、浄化槽、し尿処理等の施設は、一体的に整備と管理を進める。
さらに、これらの施設は、流域住民全ての生活に不可欠な社会的共通資本であることに鑑み、社会的事業としてその設置から維持管理までを含め、一貫した経営の合理化を進める。
(9)老朽化施設の更新と機能の向上並びに異常渇水や震災などに備える非常時対応
戦後60数年、経済復興期、高度経済成長期、安定成長期を通じて莫大な公共投資が進められた結果、治水施設、水資源施設、水道施設及び水循環保全施設等の社会的ストックは膨大な資産となって現在それなりに役割を果している。
今後は、これらの資産の更新と機能の向上が大きな課題となるため、アセットアセスメントを進め、合理的な更新と機能の向上に努める。
さらに、今後予想される異常な渇水や大震災に対応する非常時の水供給、水環境保全対策、環境衛生対策
を進める。
(10)財政制度の見直し
国は、従来の財政処置の方式を抜本的に再検討し、流域連合の創設及び同連合による事業の円滑な推進が可能なように地方公共団体とも協議しつつ、財政制度を再構築する。
流域連合の財源は、分担金、賦課金、課徴金、原因者負担金、水循環目的税、地下水使用料等で構成される。
(11)科学技術の振興及び国際協調の推進
水循環の適正化という視点での技術開発は、ハード、ソフト両面で研究課題が山積している。 縦割体制の下では、技術体系も歪みを生じ、合理性を欠く結果となる。今後は横につながる適正技術が志向される。国際援助においてもかかる技術が望まれるが、この面ではわが国は後進的と言える。
また、後発開発途上国の支援体制を抜本的に見直し、強化する。
第六 中央政府の行政組織及びその再編整備
・中央政府の行政組織
(案1)水循環庁の設置
内閣府の外局として水循環庁を設置し、水循環に関わる全ての行政組織を統合する。(水循環庁設置法を新たに制定)
水循環庁は、基本理念にのっとり、水循環社会の実現に向けて基本的施策の推進のための全ての事務を所掌する。水循環庁は、この任務の達成のため、水循環に関わる現行の個別制度の全てを所管し、統合的水管理体制に移行させる。
ただし、「水循環庁」は、将来の道州制の導入も踏まえ、全国的視野で行うことが求められる政策の企画、調整等に権限を限定し、政策の実施権限の多くを広域連合である「流域連合」に委譲することとする。
(問題点)
・関係各省庁及び族議員の抵抗が予想される。
・抜本的な行政改革になるので、実現可能性を危惧し、消極に流れる恐れがある。
(案2)水循環社会推進委員会の設置
内閣府の外局として、独立した行政委員会を設置し、水循環に関わる基本的な行政を所掌させる。(水循環社会推進委員会設置法を新たに
中央政府に於ける水行政の権能を大胆に簡素化させ、中央政府に残される基本的権限のみを所掌する体制を想定した場合、独立行政委員会の設置は適切であると考えられる。なお、委員長及び委員の人事を国会の承認案件とすることで、独立性を保持するものとする。
(問題点)基本的に(案1)と同じ。
道州制が導入された場合、中央政府が所掌する行政権能の範囲
(注)現行法制上、独立行政委員会は、内閣から一定の独立性の確保が求められる行政事務を処理する場合に設置されている。大臣の分担管理の原則(国家行政組織法第5条、内閣法第3条)に鑑み、水管理行政がこれになじむか否かという問題がある。
(案3)水循環政策本部の設置
水循環政策を推進するため、内閣府に水循秦政策本部を設置する。(内閣府設置法の改正)本部は、水循環政策の推進に関する基本方針の作成及びその実施に関すること、関係行政機関の総合調整にかんすること、その他水循環施策で重要なものの企画、立案及び総合調整に当る。
(問題点)
・縦割制度・体制の打破に限界がある。(現行の制度、組織がそのまま残る)
・結果的に関係各省の出向者によつて組織され、現状と変わらない。
・道州制が導入された場合でも縦割制度と体制とが温存される可能性が高い。
・中央水循環審議会
上記組織とは別に、本法に基づく水循環政策の基本方針の審議、水循環政策の進捗状況その他基本的事項を調査審議するために中央水循環審議会を設置する。なお、審議会は、学識経験者及び国民の代表によつて構成される。(設置法による規定が必要)
第七 「流城連合」の設置等、地方公共団体の行政組織及びその再編整備
・流域連合
河川流域を構成する地方公共団体(市町村と都道府県)は、基本理念に基づき水循環政策を推進するため、河川流域の統合的管理主体(地方公共団体の連合組織)である流域連合を設置しなければならない。(注)中央政府の出先地方組織は廃止される。
国は、速やかに流域連合を結成するよう、関係する地方公共団体に勧告することができる。
・流域連合議会
流域連合に関わる立法機関として予算、組織、人事などに関わる諸議案を議決し、流域水循環条例その他の諸規定を制定するため、地方公共団体及び流域住民代表で構成される流域連合議会を設ける。
・流域水循環審議会
水循環アセスメント、流域別水循環計画の調査審議、流域連合の水循環政策の進捗状況のチェックや各種の勧告を行うため、流域連合に諮問機関として流域水循環審議会を設ける。
・流域連合監理・監査
流域連合及び同議会の業務監理に当る組織として、地方公共団体代表者及び流域住民代表者で構成される流域連合監査機構を設ける。同監査機構は、業務監査、情報公開、住民の苦情対応等にも対応するものとする。
第八 流増住民との協働・流域住民との協働体制/・情報公開と監査への参加
行政と流域住民ネットワークは、連携・協働して政策形成を行うことが望まれる。このため、両者のパートナーシップによる協働体制を倉J出し、地域ガバナンスを確立することが必要であり、水の公共性、コモンズとしての性格及びオーフス条約等を考えれば、当然の措置でもある。
このため、流域水循環審議会、流域連合議会、流域連合監査機構には、一定割合の流域住民代表者の参加が前提条件となる。なお、現行河川法に基づく淀川流域委員会は、8月3日をもつて機能停止した。これは、現行河川法の住民参加規定(河川法第16条の2)の曖昧さ(住民の意見聴取の実施の有無、方法等については河川管理者の裁量に委ねていること)に起因するものである。
第九 雑則
・原状回復命令等
水循乗に悪影響を及ばす行為により、現実に支障が生じた場合、原因者の負担において支障の回復・軽減の措置を講じることを命令し、命令の牌怠、不履行に対しては間接強制、汚染者負担の原則の適用を可能とする制度を設ける。
第十 付則
この法律は、公布の日から施行する。ただし、流域連合など第七、第人に関わる規定は、公布の日から起算して三年を超えない範囲内で、政令で定める日から施行する。
http://mizuseidokaikaku.com/report/report17_tenpu6.pdf
水循環政策大綱案(原案)
1.水循環型社会の再生と将来世代への継承
水は、「生命」の基本である。地球上の水は、海洋と太陽エネルギーによつて絶えず循環を繰り返えし、多様な生命に恩恵を与え続けてきた。
現代においては、水循環系は人間の営為によつて不断に直接的・聞接的に影響を受けているという点で社会的システムであると言えよう。私たちは、地球上に人為的影響を受けない水循環系は最早存在しないことに深く思いを致し、改変された水循環系を持続可能なシステムに再生する努力を払わなければならない。
国上の70パーセントが森林で覆われ水に恵まれたわが国でも、かつての高度経済成長に伴う国上開発、都市化、工業化、さらに生活の利便性の追求による水循環系への直接的影響によつて、生態系保全を伴う水循環系は撹乱され、国土保全力を極度に弱めてきた。
地球温暖化は、このような直接的影響と相侯って水循環系の大変動を誘発させ、異常な洪水や極端な渇水をもたらし、生命と生活を脅かす。化学物質による水の汚染は、微量であつても食物連鎖・生物濃縮によつて生命の危険を増大させ、とくに胎児への悪影響に警告が発せられている。
日本人が様々な水の脅威を克服し、日本の水を大切にし、日本の水を飲み、日本の水を使うようにするためには、水循環系に悪影響を与える人間の営為そのものを適正に制御することによつて、境乱された水循環系を水量、水質、生態系の面から持続可能なシステムに再構築し、健全な水循環型社会の創出を期さなければならない。そこで、水循環系の統合的管理体制を構築し、持統可能な水循兵型社会を創出して、それを将来世代に継承するために水循秦政策大綱を定める。
2.水循環基本法の制定
(1)水循環政策の基本理念
水は、生命の根源であるにもかかわらず、河川等の公共水域の表流水のみを公水とし、その他の水は土地に付随した水として私水と位置づけられてきた。さらに水は、様々な管理者の下で局時的局所的な個別管理に委ねられてきた。河川水が公水であると位置づけられていても、あたかも河サII管理者の私物であるかのように扱われ、そこには国民の姿が全く見えない。 水循環系が歪められ、寸断され、破綻した理由は、一にかかる制度にあつた。
水は、地表水も地下水も水循環系によつて結ばれた一体の存在であり、生命の根源であるという意味において、現在と将来の人々の生存に不可欠な共同資源である。このような水は、水循環系の全ての過程を一体として統合的に管理されなければならない。 全ての人々は、このために水循環系を守る義務を担うべきものである。
この視点に立ち、水循環政策の基本理念は、次の七つの原則的な考え方で構成される。
(1)地表水及び地下水は公共水であること
地表水及び地下水は、共に公共水であり、統合的に管理されなければならない。
(2)水循環保全義務と水環境享受権
現在の国民は、現在及び将来の国民のために、持続可能な水循環系を保持する義務を担う。現在及び将来の国民は、持統可能な水循環系によつてもたらされる健全な水環境の恩恵を享受する基本的権利を有する。
(3)流域圏の統合的管理
水管理は、河)「1流域を原則的単位として統合的かつ地域主権的に行われなければならない。河川流域を構成する地方公共団体は、相互に協力し、河川及び河川流域を上流の森林や農地から河口沿岸域までを含めて統合的かつ地域主権的に管理する主体である「流域連合」を組織しなければならない。
(4)持統可能な水循環型社会の再生と将来世代への継承
持続可能な水循秦型社会の形成は、健全な国土とその上に生活する国民の健康で文化的な生活と幸福の追求に不可欠である。このため、これを再生し、将来世代に継承しなければならない。
(5)持続可能な水循環系保全のための公平な役割分担
持続的な水循環系の保全のための行動は、国民、事業者、地方公共団体(流域連合)、国等によつて、公平な役割分担の下に行われなければならない。
(6)拡大汚染者責任の原則
通常の生活者が処理できない有害物質の生産者、通常の生活者の排出する病原菌やタイルス、微量な医薬品や有害化学物質を含む排水の処理に当る事業者及び地方公共団体は、一次的汚染防止責任を負う。
(7)未然防止と予防原則
水循乗によつて生じる悪影響は、未然に防止されなければならない。このためには、科学的知見の充実を図るとともに、予防原則の適用を躊踏してはならない。
(2)水循環墓本法の制定
わが国の水行政は、これまで経済成長や生活の利便性の向上という観点に立って、水循環系の部分毎に異なる事業制度と組織体制の下で対症療法的に進められて来た。このため、もつばら個別的事業法が存在するのみで、前項の基本理念を定めた基本法は制定されていない。
そこで、水循環基本法を制定し、健全で持続可能な水循環型社会の形成について基本理念を定め、並びに国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにするとともに、基本方針の策定その他の水循環
型社会の形成に関する施策の基本となる事項を定めることにより、統合的水管理施策を総合的かつ計画的に推進し、もつて現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに、将来の世代に健全な国上を継承する制度的処置を講じるものである。
(3〕水循環に関する主要施策
国は、下記の基本的施策に関する基本方針を示し、河川流域を構成する地方公共団体は、流域連合を結成し、流域別水循環計画に基づいてこれらの基本的施策を講じるものとする。
(1)流域治水対策の推進
想定した規模の洪水をダム等洪水調節施設と河道で処理するという従来の治水から、河川流域全体で洪水対策を行う流域治水へと転換する。流域治水の推進のためには、浸水危険区域、遊水可能区域、水と緑の涵養区域などの土地利用計画を公表し、土地利用の適正な規制と誘導を図ることが不可欠になる。
国民ひとリー人がこうして、流域治水に参加することになる。
(2)水環境管理の適正化及び水循環系の再生と保全
水環境管理の要諦は、河川管理と水環境管理の統合及びこれに伴う水環境基準と排水基準の適正化の推進である。同時に多様な生物の棲息・生育環境の再生・保全や河川の自然回帰と復元、環境用水の確保とその維持を図る。さらに水循環系の再生と地下水の保全のために、雨水の浸透・貯留機能の保全・回復あるいは雨水の利用を進める。
(3)第二者機関による公正な水環境監視
縦割の所管部門がそれぞれ水質監視を行うこれまでの監視体制から脱却し、公正な第二者機関が排水源の放流水質及び受容水域の水環境の諸側面(水量、水質、生態系など)を監視する。
(4)利水システムの合理化の促進
過剰な水利用を誘発したこれまでの利水システムを改め、節水型都市及び産業の倉J出????に努め、新規水資源開発の抑制に向けた構造転換を図る。
(5)地下水の保全と利用の適正化の推進
地下水の保全と利用の適正化を図るため、同一地下水盆における地下水情報の共有化、モニタリング体制、緊急時体制を整備すると共に、地下水の涵養と保全の対策を進める。
地方公共団体は、条例の定めるところにより、地下水涵養区域の設定、地下水利用適正化計画の策定及び地下水汚染防止区域の設定を行うことができる。また、条例の定めるところにより、地下水採取料を徴収することができる。
(6)河川と森林との統合管理の推進
河川管理と森林管理の統合によつて、放置林による山地災害や洪水時の大量の流木流出による被害拡大の防止対策を推進する。また地球温暖化は水循環系を撹乱させる元凶であるため、二酸化炭素吸収源としての森林の役割その他の森林の多面的機能を維持拡大させる措置を講じる。
(7)農地の保全と活用
農地を遊水地として保全し、冠水補償を実施する。休耕農地に湛水し、地下水の涵養及び生物多様性保全のためのビオトープとして活用することについて一定の補償を実施する。
(8)水道及び水循環保全施設の流域圏統合経営の推進
水道及び下水道・浄化槽。し尿処理施設等の水循環保全施設は、流域圏ベースの広域経営を可能にすることによつて経営の合理化とサービスの向上を図るとともに、処理水準の高度化を推進し、水環境の更なる清浄を確保する。
(9)老朽化施設の更新と機能の向上並びに異常渇水や震災などに備える非常時対応
戦後60数年を通じて莫大な公共投資が進められた。今後は、これらの資産の更新と機能の向上が大きな課題となるため、アセットアセスメントを進め、合理的な更新と機能の向上に努める。
(10)財政制度の見直し ・
国は、従来の財政処置の方式を抜本的に再検討し、事業の円滑な推進が可能なように地方公共団体とも協議しつつ、財政制度を再構築する。流域連合の財源は、分担金、賦課金、課徴金、原因者負担金、水循環目的税、地下水使用料等で構成される。
(11)科学技術の振興及び国際協調の推進
縦割体制の下では、技術体系も歪みを生じ、合理性を欠く結果となっている。今後は横につながる道正代誉技術が志向される。また、後発開発途上国の支援を抜本的に見直し、強化する。
3.山紫水明の国づくり〜行政組織の再編と流域住民との協働
水循環系を再生し、山紫水明の国づくりを推進するためには、前述の基本理念に則り、これまでの制度と組織を抜本的に改革し、中央政府の権限を大幅に地方政府に委譲するとともに、地方公共団体を越えた河川流域ベースの体制に構築し直さなければならない。さらに、水が国民ひとリー人の生命の源であり、国民の共同資源としての公共水であるという視点から、流域住民が水循環に関わる様々な意思決定に参画するシステムの構築もまた必要不可欠であり、勇断を持って
推進しなければならない。
(1)中央政府の行政組織の再編
改革案としては、三案が考えられる。
[案1]
水循環庁の創設は、最も適切であろう。内閣府の外局として水循環庁を創設すれば、水行政に関わる全ての行政部門を一挙に統合し、整理合理化を断行できる。なお、この場合においても、「水循環庁」は、全国的視点で行うことが求められる政策の企画、調整等に権限を限定し、Я在???、国土交通省その他の省庁が有している権限の多くを「流域連合」に委譲するものとする。
道州制を早期に導入する場合は、道州を超える問題や道州間の調整など限られた重要課題に対
応する
[案2]水循環委員会の設置が考えられる。委員会は独立行政委員会であるが、この場合も[案1]と同じように内閣府の外局となる。委員長などの人事を国会の議決事案とすることで独立性を確保させたい。
(ただし、[案2]には現行法制上、国家行政組織法第3条に基づく委員会が現在の大臣の分担管理原則(国家行政組織法第5条、内閣法第3条)に鑑み、水管理行政になじむか否かの問題が残る。消費者庁の設置に際しても、中立性を確保する行政委員会型組織が遡上に上ったが、最終的に「消費者庁及び消費者委員会」が設けられた。)
[案3]
水循環政策本部の設置は、現段階では現実的と考えられなくも無い。海洋行政分野に有力な事例があるが、水循環行政においては内容的に曖味で、行政改革につながらないと考える。
なお、上記組織とは別に、本法に基づく水循環政策の基本方針の審議、水循環政策の進捗状況その他基本的事項を調査審議するために中央水循兵審議会を設置する。
(2)「流域連合」の設置等、地方公共団体の行政組織の再編
水循環系の保全は、基本理念に基づき流域を一貫して、流域住民に近い所で、流域住民の参加を得て推進すべきである。個々の地方公共団体が個別に行う従来の体制を脱し、流域圏をベースに推進できる行政組織に再構築するため、国は流域連合、同議会の創設を推進するとともに、国の権限を大幅に流域連合に移管する。なお、学識経験者や流域住民の意見を反映させるため、流域水循環審議会を設け、さらに事業推進の透明性を確保するため、流域連合監査機構を設ける。.
[流域連合]
河川流域を構成する地方公共団体(市町村と都道府県)は、基本理念に基づき水循環政策を推進するため、流域圏の統合的管理主体(地方公共団体の連合組織)である流域連合(地方自治法上の広域連合)を設置しなければならない。(注)中央政府の出先地方組織は廃止される。
[流域連合議会]
流域連合に関わる立法機関として予算、組織、人事などに関わる諸議案を議決し、流域水循環条例その他の諸規定を制定するため、地方公共団体及び流域住民代表で構成される流域連合議会を設ける。
[流域水循環審議会]
水循環アセスメント、流域別水循環計画の調査審議、流域連合の水循環政策の進捗状況のチ
ェックや各種の勧告を行うため、流域連合に諮問機関として流域水循環審議会を設ける。
[流域連合監査機構]
流域連合及び同議会の業務監理に当る組織として、地方公共団体代表者及び流域住民代表者
で構成される流域連合監査機構を設ける。同監査機構は、業務監査、情報公開、住民の苦情対応
等にも対応するものとする。
(3)流域住民との協働体制
行政と流域住民ネットワークとが連携,協働して政策形成を行うことが望まれる。このため、両者のパートナーシンプによる協働体制を創出し、地域ガバナンスを確立することが必要である。
水の公共性、コモンズとしての性格及びオーフス条約等を考えれば、当然の措置でもある。このため、流域水循環審議会、流域連合議会、流域連合監査機構には、一定割合の流域住民代表者の参加が前提条件となる。なお、現行河川法に基づく淀川流域委員会は、8月3日をもつて機能停止した。これは、現行河川法の住民参加規定(河川法第16条の2)の曖味さ(住民意見聴取の実施の有無、方法等については河川管理者の裁量に委ねていること)に起因するものである
http://mizuseidokaikaku.com/report/report17_tenpu5.pdf
水循環政策大綱案(原案)と基本法要綱案(原案)にご意見をお寄せください
(2009年10月14日)
水循環基本法研究会の第10回会合(2009年10月9日開催)において、起草委員会でまとめた 「水循環政策大綱案(原案)」と 「水循環基本法要綱案(原案)」を提案いたしました。10月22日まで両原案に対する修正意見をお受けしております。下記2点についてご意見をおまとめいただき、文書にてお送りいただけますようお願いいたします。こちらの回答用紙をご利用ください。
【第1点】
水循環基本法要綱案(原案)の「第六 中央政府の行政組織及びその再編整備―中央政府の行政組織」(6ページ目)において示している3つの案について、どれが適当と考えますか。その理由は何ですか。また、別案がありましたらお示しください。
(案1)
内閣府の外局として水循環庁を設置し、水循環に関わるすべての行政組織を統合する
(案2)
内閣府の外局として、独立した行政委員会(水循環社会推進委員会)を設置し、水循環に関わる基本的な行政を掌握させる
(案3)
水循環政策を推進するため、内閣府に水循環政策本部を設置する
【第2点】
原案に対する修正意見について、該当個所とその対案及び理由をお示しください。
●メールの送付先 qqyg4fv9k★peace.ocn.ne.jp(★印を@に変えてお送りください)
●Faxの送付先 075-722-5295
http://mizuseidokaikaku.com/report/report18.html
ATCグリーンエコプラザセミナーレポート 世界の水問題と日本
■講師
東京大学 生産技術研究所 教授 沖大幹氏
はじめに
世界の水問題は、大きく3種類に分けられます。安全な飲み水(indispensable water)、農業生産、工業生産の水(profitable water)最後に、人と生態系を維持するため、快適に生きるための水(comfortable water)です。1km以内に、1日1人当たり20リットルの水が得られることが、安全な飲み水へのアクセスがあることを意味しますが、世界人口の5分の1は、それがなく、水の確保のためだけに毎日の貴重な時間を費やしています。
これらの3種類の水問題は、質・量も異なれば、貨幣価値も違います。水の様々な側面で懸念事項があるということをお伝えしなければなりません。
農業・工業生産のための水は、今後使用が増えることが懸念されており、地球温暖化が進まなくとも、都市化の進展と人口集中により、洪水・渇水被害は深刻化するでしょう。さらに、数十年後には、水問題は国際的紛争の引き金になるという研究者もいます。
ではまず、水資源は循環資源で、地球上には水がふんだんにあるのに、どうして水不足が生じるのかということをおさらいしましょう。
地球上の水に対して、淡水の占める割合は水全体の約2.5%にすぎず、中でも地下水、氷河などを除いた水資源として利用しやすい淡水は約0.02%しかないため、水不足が生じると説明されることがありますが、そうではありません。
水資源は、ストックではなくフローだと考えるべきです。ある瞬間、世界中の河川の水の総量は、2000 km?に対して、人間が年間使う水は4000 km?だから足りない、という比較の仕方は間違っています。実際は、陸から海へ流れる水の流量の合計は、年間約4万km?。その水循環の一部が、人間の社会の中を通っていると考えなければなりません。では、年間流量のうち、人間が使うのはたったの約10%だから水不足になるわけがないかというと、それも誤りです。
数値モデルによる世界の河川の日流量シミュレーション結果によると、水は、地理的、時間的に偏在することがわかります。極地や、熱帯雨林地帯は年中湿潤なのに対し、砂漠は常に乾燥しており、一方でモンスーン地帯は雨季・乾季で、流量に大きな差があります。全世界の年間流量が足りているからといって、個々の場所で足りているとは限らないのです。
物質の重さ当たりの単価と市場規模について比較してみると、水は、廃品回収の古紙よりもはるかに単価が安いことがわかります。ちなみにミネラルウォーターは嗜好品で、清涼飲料水と同じと考えられるためいわゆる水問題とは切り離して考えるべきでしょう。
ミネラルウォーターは500mlで150円、1m?で30万円ですが、水道水は、1m?で140円〜400円です。都民の水瓶として知られる、奥多摩の小河内ダムの貯水容量1.85億m?の水は、約300億円に相当します。しかし、それは、金塊にすると、たった1m?に過ぎません。つまり、水資源は安くてかさばり、かつ大量に必要なものであり、必要なときに必要な場所、必要な質の水資源がないと、貯蔵、輸送コストが相対的に高すぎて経済的に引き合いません。
21世紀における世界の水資源アセスメント
21世紀の人口増加と経済発展による水需要の変化と、気候変動による水資源賦在量の変化、つまり温暖化による気候変動で使用できる水の量がどう変化するかについて、IPCCで使用しているSRESシナリオに沿って推計した結果をお話したいと思います。
Aは経済行動成長を重視したシナリオ、Bが環境保全を重視したシナリオ。かつ、1はグローバリゼーションが進んだ場合、2は地域化が進んだ場合、という4通りの組み合わせのシナリオで将来推計を行いました。
まず人口の将来展望について、もっとも高くなるのはA2、つまり各地域が交流なく経済発展を目指すと、もっとも人口が増加します。A1B1は共通のカーブを描き、世界的に価値観や技術移転が共通して進む場合、人口は2050年をピークに減少します。地域化、および環境保全重視型のB2シナリオは、人口は増加しますが、指数関数的に増えるわけではなく、ある程度で増加スピードは落ち着くという結果となっています。
このように最近の推計では、人口は増え続けるわけではないというのが一般的になりつつあり、今世紀中に来るであろう環境負荷のピークを乗り切れば、持続可能社会も作れるのではないかと考えています。
次に世界の食料生産と供給についてですが、1960年から2004年の間に、人口は約2倍に増えましたが、その間、農地の面積はわずか10%増に留まっています。しかし、緑の革命と言われる農業分野の技術の発展と、大量の水の使用により、単位面積あたりの収穫量は2.3倍となり、一日一人あたりの摂取カロリーは25%増えています。しかし、そんな中でも現在8億人は飢餓に苦しんでいると言われています。これも水と同様に、物理的な量の問題ではなく、社会における分配の問題でしょう。
工業用水取水量と工業分野のGDPとの関係は、大体線形関係にあります。しかし日本は海外諸国よりも格段に低い取水量を保っており、工業用水の約80%を再生利用しています。
“将来工業用水量”は、“現在工業用水量”*“工業規模増加率”*“用水効率改善係数”により求められます。中国など途上国の工業規模増加は今後も見込まれるため、工業用水の再利用による用水効率改善係数により、将来の工業用水量は大幅に変わってくることが予想されます。
水需要の話をしてきましたが、では、水の供給はどう変化するのでしょうか?これは温暖化の予測となります。
地球温暖化とは気候が変動するということであり、単純に気温が上がるだけでなく、気圧配置が変わり、雨の降り方が変わります。気温上昇による影響と、気候変動による水循環の変化は分けて考える必要があります。
まず温度上昇の直接的影響には、氷河・氷床の融解に伴う流量の一時的増加があります。一見流量が増えていても、それは氷河という水資源の貯金をとりくずしているにすぎず、今世紀末にはやがてなくなって必ず減少します。人間の生活にとっては、流量の一次的な増加ではなく、普段の流量が大切です。氷河がなくなれば、雨が降ったときと、降っていないときの流量の差が非常に大きくなり、ダムを作らなければ、全世界人口の6分の1が深刻な影響を受けると言われています。同時に、水温上昇により水質も変わり、生態系も大きな影響を受けるでしょう。
次に、雨の降り方が変わることによる間接的影響としては、極域と湿潤地帯での水資源の増加、熱帯・亜熱帯乾燥域で減少が予測されています。つまり乾燥域での旱魃地帯がさらに広がり、湿潤地帯においては激しい降水による洪水リスクが増大します。
私は、IPCC第4次報告書第2作業部会、影響評価を調査するグループに参加していました。ほとんどが欧米系なので、水不足の話が中心になりますが、仮にアジアの人がいれば、洪水の話ももっと前面に出ていたと思います。
さらに国交省が行った日本の気候変動予測によると、温暖化が進んだ100年後、雪が雨として降るため、冬の間の河川流出量が増え、同時に雪解けが早まるため、本来、ダム貯水量が満水になるべき代かき期などの需要期に、流量が不足してしまう恐れがあります。
21世紀における深刻な水ストレス下の人口予測のシミュレーションを、先ほどと同様のSRESシナリオで行いました。ここでの水ストレスのある人とは、年によっては渇水で困窮したり、食物生産が落ちて影響を受ける可能性がある状態にある人ということでお考えください。2050年までは、どのシナリオでも水ストレス人口は増えます。しかしそれ以降、A2(経済行動成長重視・地域化)はさらに増えますが、A1、B1では横ばい、あるいは減るという結果になりました。つまり、今後どのような社会になるかによって、必ずしも悲観的な未来ばかりではないと考えられるでしょう。
IPCCでは、prediction(予測)という言葉は使わないように心がけています。人間の力が及ばない天気などの予報とは違い、50年、100年後の未来は、人間社会が今後どの程度温室効果ガスを排出するかという緩和策や、気候変動の悪影響を最小限にしようとする適応策にどの程度取り組むかにより変わります。私たちが行っているのは、ある仮定の下の計算に過ぎません。これらのシミュレーションから、環境配慮型の社会に変えていくことによって、水に困らない社会が出来るということを示すことができればと思います。
将来展望まとめ
21世紀における水需給において、温暖化の影響による逼迫が予想されるのは、地中海沿岸ヨーロッパ、アメリカ西部です。しかしこの地域は、おそらく適応策を講じることができるため、あまり心配の必要はないでしょう。一方、中近東、西・南アジア地域は、社会経済変化、特に経済発展と人口増により逼迫の恐れがあります。また、サハラ以南のアフリカ、中南米は、今後の経済発展や社会の変化により、逼迫が懸念されます。日本にも、これらの脆弱性と気候変動リスクに対する国際的な支援が期待されています。
ヴァーチャルウォーターと、ウォーターフットプリント
食料の輸出入に伴って生じる水資源の量を表す言葉として、ヴァーチャルウォーターとウォーターフットプリントという2種類があります。ヴァーチャルウォーター(仮想水)は、たとえば、食料を輸入するとき、実際使用された水の量は関係なく、自国内で生産するときに必要となる水の量をあらわすのに対し、ウォーターフットプリントは、輸出物質を生産するために実際消費された水の量を指します。
日本人は、1日に一人当たり250リットルの水を使っています。そのうち、飲み水は2〜3リットルにすぎません。その用途は、風呂、トイレなど、ほとんどが洗浄のためであり、水を飲むことすら、体の汚れを運んでもらうという意味では洗浄といえます。つまり、水を使うこととは、水に汚れを運んでもらうことを意味しています。
一方、食料を作るために使っている水は、重さ比で、とうもろこしは食べられる量の2000倍です。大豆は2500倍、米は3600倍、牛肉は約2万倍もの水が必要となります。これらのデータに基づき計算すると、日本が海外から輸入している主要な食料を日本で作った場合は、約年間640億トンの水が必要であり、日本国内の農業用水570億トンと同じくらいの量の水を海外から輸入していることになります。
その輸入品目の内訳は、家畜の飼料となるとうもろこし、大豆、小麦、牛肉、豚肉などが大半を占めます。つまり食料の輸入の大半は、肉食のためのものなのです。輸入してから肉にするか、肉として輸入するかの違いに過ぎません。
私たちが1日に使っている水は、飲み水が2〜3リットル、それに対して水道水は約200〜300リットル、一方、食料のために使用されている水は2000リットル〜3000リットルです。実は一番、たくさんの量が必要なのは、食料生産のための水です。水不足が起こったときは、飲み水不足の前に、食料不足が起こることが容易に想像できます。
ヴァーチャルウォーターの各地域間の貿易をみると、オーストラリア、アメリカから、北アフリカや中近東の取引が顕著です。水が少なく石油を持つ国が、食料という形で水を買っています。水をヴァーチャルウォーターに、つまり食料という形にすれば、重さが1000分の1になります。世界で水危機が起こったときは、食料として水を動かせば輸送コストがかからず経済的です。現在も、水は戦略物質として食料という形で世界をめぐっており、その流れを握っているのは、アメリカ、カナダ、オーストラリア、フランスという限られた国々です。これらの国はG8など世界でも力を持っています。
しかしヴァーチャルウォーターでは、実際その国でどのくらいの量の水が使われたか、また取水源も特定できません。それを推計できるのが、ウォーターフットプリントです。
取水源とされる水の中には天水(雨水)と灌漑水があります。灌漑水の中には、河川水と、ダム・貯水池・ため池、そして、非循環型の地下水(化石水)があります。
私たち東京大学は、国立環境研究所との共同研究により、全世界的な農地の水利用量を、作物の種類や作付けの時期・場所などから計算、またダムの働きや規模も考慮して取水源を推定する全球統合水資源モデルを開発しました。
まず、世界の農地の水消費量、地下水取水量について、推定値と、近年の研究による統計結果と比較したところ、大きな違いはなく、まずまず妥当な結果となりました。
そうして算出した日本のウォーターフットプリントは、年間427億トン。一方ヴァーチャルウォーターは年間約627億トンです。水効率が良い国で生産したものを、水効率が悪い国が輸入するため、ウォーターフットプリントはヴァーチャルウォーターよりも少なくなります。その取水源は、灌漑水起源が73億トンで、全体の20%弱に過ぎず、ウォーターフットプリントの8割は、雨水起源だということがわかりました。しかし、灌漑水の中でも29億トンの水は、河川水、ため池などの灌漑水では足りず、非循環の地下水(化石水)を利用していると考えられます。
品目別の水源をみてみると、牛肉の大半は雨水起源となりました。これは家畜は牧草を食べて育つためだと考えられます。一方、米は中規模貯水池が使われ、大豆、小麦などは、灌漑水では足りず、非循環地下水を比較的多く(全体の約10〜15%程度)使っていることがわかりました。
ヴァーチャルウォーターは、日本では、水資源問題への一般認識を高めるためにもよく利用されますが、実際は、より現実的な水資源アセスメントや、将来の食料需給の推定に利用される概念です。しかし、問題は、他の生産手段の制約を考えていないことです。例えば日本が飼料用穀物を大量に輸入しているのは、牧草を大量に育てる土地が不足しているためであり、水不足の中近東とは理由が異なっています。他の制約による食料輸入にVWが入ってきてしまっていることになります。
まとめ
持続可能な社会を作るためには、水だけ切り離すのではなく、食料とエネルギーと水は、三位一体で考えなければいけません。本日お話しましたように、ヴァーチャルウォータートレードにより、水不足の地域で食料を輸入することは、食料を生産するための水を大幅に節約でき、逆に、食料を作るときは多くの水が使われています。またエネルギーと水は海水淡水化、水力発電によりお互いを生み出すことが出来ます。一方、食物をバイオ燃料などのエネルギーにすることもでき、そして大量のエネルギーがなければ食料は作れません。これら3つはそれぞれがチェンジャブルな関係にあり、少ない方を補うことができます。広い視点から持続可能を捉えるためには、これらを一体化して考えなければなりません。
中国には、「飲水思源」という言葉があります。水を飲むときにはその井戸を掘った人を忘れるなという意味だそうですが、それに倣い、これからは「飲食思水」、食べ物を食べるときには、水は簡単にどこでも手に入るものではなく、食べ物を作るときにたくさん水が使われているということを思い出していただければと思います。
ご清聴ありがとうございました。
http://www.ecoplaza.gr.jp/event/eco_seminar_report/report/200501/index.html
前文
水は、「生命」の基本である。地球上の水は、海洋と太陽エネルギーによつて絶えず循環を繰り返し、多様な生命に思恵を与え続けてきた。
現代においては、水循環系は人間の営為によって不断に直接的・問接的に影響を受けるという点で社会的システムであると言えよう。私たちは、地球上に人為的影響を受けない水循県系は最早存在しないことに深く思いを致し、改変された水循環系を持続可能なシステムに再生する努力を払わなければならない。
国上の70パーセントが森林で覆われ水に恵まれたわが国でも、かつての高度経済成長にともなう国上開発と都市化、工業化、さらに生活の利便性の追求による水循環系への直接的影響によって、生態系保全を伴う水循環系は撹乱され、国土保全力を極度に弱めてきた。
地球温暖化は、このような直接的影響と相侯つて水循乗系の大変動を誘発させ、異常な洪水や極端な渇水をもたらし、生命と生活を脅かす。化学物質による水の汚染は、微量であっても食物連鎖・生物濃縮によつて生命の危険を増大させ、とくに胎児への悪影響に警告が発せられている。
日本人が様々な水の脅威を克服し、日本の水を大切にし、日本の水を飲み、日本の水を使うようにするためには、水循環系に影響を与える人間の営為そのものを適正に制御することによつて、撹乱された水循環系を水量、水質、生態系の面から持続可能なシステムに再構築し、健全な水循環型社会を創出して、それを将来世代に継承しなければならない。このため、水循環基本法を制定することにした。
第一 総則・目的
この法律は、健全で持続可能な水循環型社会の形成について基本理念を定め、並びに国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにするとともに、水循環総合基本方針の策定その他の水循環型社会の形成に関する施策の基本となる事項を定めることにより、水循環型社会の形成に関する統合的水管理施策を総合的かつ計画的に推進し、もつて現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに、将来の世代に健全な国上を継承することを目的とする。
,定義(注:今後さらに検討を重ねる。必要語句を追加する。)
〈水循環〉
水循環とは、人間の営為の影響を受けつつ地表水及び地下水となり、蒸発し再び降水となり、あるいは地表での滞留や貯留、土壌への浸透など様々な過程を経て絶えず繰り返す水の循県の過程を言う。
〈統合的水管理〉
統合的水管理とは、現在の縦割型水管理を排し、河川流域を一貫した地表水及び地下水の水量管理、水質管理、生態系管理及び水環境管理を統合した総合的な水管理を言う。
〈河川流域〉
河川流域とは、河川及びその集水域を媒介として、森林、農村、都市、海が結ばれたまとまりのある国上の単位を言う。
(水環境〉
統合的水管理によつて形成され、将来の世代に継承され、国民の全てがその思恵を享受する水の環境で、水量、水質、生態系の面から持統可能な水循環系によつてもたらされたものを言う。
第二 基本理念
(1)地表水及び地下水は公共水であること
地表水及び地下水は、共に公共水であり、流域別水循環計画に基づいて統合的に管理されなければならない。
(2)水循環保全義務と水環境享受権
現在の国民は、現在及び将来の国民のために、持続可能な水循環系を保持する義務を担う。現在及び将来の国民は、水量、水質、生態系の面から持続可能な水循環系によつてもたらされる健全な水環境の思恵を享受する基本的権利を有する。
(3)流域圏の統合的管理
水循環管理は、河川流域を原則的単位として統合的かつ地域主権的に行われなければならない。河川流域を構成する地方公共団体は、相互に協力し、河川及び河川流域を上流の森林や農地から河日沿岸域までを含めて統合的かつ地域主権的に管理する主体である「流域連合」を組織しなければならない。ここで、流域圏の範囲については、複数河川流域に亘る広域生活圏においては当該の全河川流域を包含したものとする。
(4)持続可能な水循環型社会の再生と将来世代への継承
持続可能な水循環型社会の形成は、健全な国土とその上に生活する国民の健康で文化的な生活と幸福追求に不可欠である。このため、これを再生し、将来世代に継承しなければならない。
(5)持続可能な水循環系保全のための公平な役割分担
持続的な水循環系の保全のための行動は、国民、事業者、地方公共団体(流域連合)、国等によつて公平な役割分担の下に行われなければならない。
(6)拡大汚染者責任の原則
通常の生活者が処理処分できない有害物質の生産者、通常の生活者の排出する各種の感染症の原因となる病原菌やウイルス、微量な医薬品や有害化学物質を含む排水の処理に当る事業者及び地方公共団体は、汚染防止について第一次的な責任を有する。
(7)未然防止と予防原則
水循環によつて生じる悪影響は、未然に防止されなければならない。このためには、科学的知見の充実を図るとともに、予防原則の適用を躊躇してはならない。
第二 関係者の責務等・国の責務
国は、「第二 基本理念」にのっとり、水循環の道正化に関する基本的かつ総合的な施策の基本方針を策定し、その推進に努める責務を有する。また、流域連合の自主性を尊重することを前提とした上で、流域連合による河川及び河川流域の管理が基本理念に則していないと判断される場合は必要な処置を勧告することができる。
・地方公共団体の責務
地方公共団体は、基本理念にのつとり、国の定める基本方針に基づき、流域連合を組織し、互いに協力して、施策を策定し、及び実施する責務を有する9地方公共団体は、この際、流域内の事業者及び住民の意見を聞かなければならない。
・事業者の責務
事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動に当つては、水循環系の支障とならないよう必要な措置を講じなければならない。支障が生じた場合は、その責は事業者に帰すものとする。
・国民の責務
国民は、基本理念を共有するとともに、水循環系への支障を防止するため、その日常生活に伴う水循乗系を撹乱する恐れのある負荷の低減に努めなければならない。また、国民は、水循環系の適正化に自ら努めるとともに、国及び地方公共団体が実施する施策の推進に主体的に参加する責務を有する。
・関係者相互の連携及び協力
国、地方公共団体、事業者、国民及び水循環系に関わる非営利公益団体その他の関係者は、基本理念の実現を図るため、相互に連携を図りながら協力することに努めなければならない。
このために情報公開の徹底を期すとともに、広く情報が利用されるように広報活動を強化する。
・水循環の日
事業者及び国民の間に広く水循環系の再生と保全についての関心と理解を深めるとともに、積極的に活動を行う意欲を高めるため、O月○ 日を水循環の口とする。
・法制上の措置等
国は、この法律の目的を達成するため、必要な関係法令の制定又は改正を行わなければならない。さらに国は、縦割の制度と組織を廃し、水循環系の道正化に関する施策を実施するため必要な財政上及び金融上の措置その他の措置を講じなければならない。また、地方公共団体においても縦割の制度と組織を廃するために必要な措置を行わなければならない。
・年次報告等
政府は、毎年、国会に基本方針の実施状況を報告し、その促進に必要な措置を明らかにした文書を提出しなければならない。また、国会に報告した内容及び提出した文書を公表する。
第四 基本方針口基本計画等
・水循環総合基本方針
国は、基本理念に基づき「第五基本的施策」の基礎となり、流域連合が策定する「流域別水循環計画」の前提となる基本方針を策定し、流域連合が円滑に実施できるよう支援・調整しなければならない。
基本方針には、基本的施策の推進に関する方針その他の必要な事項を定め、閣議の決定を求め、決定後遅滞無く公表するとともに国会に報告するものとする。
,流域別水循環計画
「流域連合」は、国の基本方針に基づき、河川流域毎に水循環アセスメントを行い、流域別水循環計画を当該流域に適合した最上位計画として策定する。
計画の策定から決定までのプロセスは、下記の通りである。
流域を構成する地方公共団体によつて結成された「流域連合」が「流域水循環審議会」に計画策定を諮問する。計画策定に当つては、流域住民の意見を聞き、誠実に対応しなければならない。流域連合は、答申された計画案を「流域連合議会」に諮り、議決を得て決定する。
第五 基本的施策
国は、下記の基本的施策に関する基本方針を示し、河川流域を構成する地方公共団体は、流域連合を結成し、流域別水循環計画に基づいてこれらの基本的施策を講じるものとする。
(1)流域治水対策の推進
想定した規模の洪水をダム等洪水調節施設と河道で処理するという従来の治水から、森林や農地による保水、流域による貯留、土地利用に応じた浸水の受け入れによる洪水氾濫の分散、河川、下水道、農業用水路等の一体的整備等、河川流域全体で洪水対策を行う流域治水へと転換する。
このため、河川法で想定されている基本高水流量等の設定に基づく治水計画を根本的に見直す。 流域治水へ転換することによつて、河川堤防のかさ上げとダム建設への過度な依存体制が克服でき、今後は、緑のダムとしての森林の持つ保水機能や土砂流出防止機能の活用、保水型・耐水型都市の再生、公園緑地や田畑の持つ遊水機能の活用、さらに雨水の地下浸透、滞留や貯留の計画的推進、水と緑の豊かなネットワーク都市の再生を進めることになる。
流域治水の推進のためには、浸水危険区域、遊水可能区域、水と緑の酒養区域などの土地利用計画を公表し、農業政策や都市計画とあいまった土地利用の適正な規制と誘導を図ることが不可欠になる。国民ひとリー人がこうして、流域治水に参加することになる。
(2)水環境管理の道正化及び水循環系の再生と保全
水環境管理の要諦は、河川管理と水環境管理の統合及びこれに伴う水環境基準と排水基準の適正化の推進である。これまでの縦割制度の下で達成されなかった両者の統合と諸基準の全面的改正を進め、同時に多様な生物の棲息・生育環境の再生・保全やギ硼十1の自然回帰と復元、環境用水の確保とその維持を図る。
さらに水循兵系の再生と地下水の保全のために、雨水の浸透・貯留機能の保全・回復あるいは雨水の利用を進める。何人も、水循環を妨げ、雨水の地下浸透を阻害する行為を行つてはならず、このために適切な土地不1用規制を図る。
(3)第二者機関による公正な水環境監視
縦割の所管部門がそれぞれ水質監視を行うこれまでの監視体制から脱却し、公正な第二者機関が排水源の放流水質及び受容水域の水環境の諸側面(水量、水質、生態系など)を監視する。
この第二者機関が違反者に対する是正勧告権を持つと同時に、法的な処置を講じることを可能にする。
(4)利水システムの合理化の促進
過剰な水利用を誘発したこれまでの利水システムを改め、節水型都市及び産業の創出に努め、新規水資源開発の抑制に向けた構造転換を図る。さらに、農業用水を含めた水利用合理化総合計画の策定、水利権転用(工業用水、農業用水)、水融通の促進、水利用量削減目標設定、水利権システムの整備(譲渡契約の認可主体=流域連合)などを進める。さらに、利水システムの一環として、 雨水利用及び下水処理水の再利用等の促進を図る。
(5)地下水の保全と利用の適正化の推進
地下水の保全と利用の適正化を図るため、同一地下水盆における地下水情報の共有化、モニタリング体制、緊急時体制を整備すると共に、地下水の涵養と保全のため、都市の公園や緑地、農地や森林などを有効に活用する。地方公共団体は、条例の定めるところにより、地下水利用適正化計画の策定、地下水酒養区域及び地下水汚染防止区域の設定並びに地下水採取料の徴収を行うことができる。
(6)河川と森林との統合管理の推進
河川管理と森林管理の統合は、水循環系の健全化の視点から極めて重要である。両者の統合によつて、放置林による山地災害や洪水時の大量の流木流出による被害拡大の防止対策を推進する。
また、地球温暖化は水循県系を撹乱させる元凶であるため、二酸化炭素吸収源としての森林の役割その他の森林の多面的機能を維持拡大させる措置を講じる。これらの対策を進めるために森林の所有者以外の者が管理行為を行うことが出来るようにし、併せて所得補償制度を導入する。
また、水源地域の土地の外国資本に封する売却を禁止する処置を採る。
(7)農地の保全と活用
農地を遊水地として保全し、冠水補償を実施する。体耕農地に湛水し、地下水の涵養及び生物多様性保全のためのビオトープとして活用することについて一定の補償を実施する。
(8)水道及び水循宋保全施設の流域圏統合経営の推進
水道及び下水道・浄化槽・し尿処理施設等の水循環保全施設は、排水源におけるきめ細かな対応とともに、流域圏ベースの広域経営を可能にすることによって経営の合理化とサービス水準の向上を図るとともに、処理水準の高度化を推進し、水環境の更なる清浄を確保する。このため、本来同一の機能を果す下水道、浄化槽、し尿処理等の施設は、一体的に整備と管理を進める。
さらに、これらの施設は、流域住民全ての生活に不可欠な社会的共通資本であることに鑑み、社会的事業としてその設置から維持管理までを含め、一貫した経営の合理化を進める。
(9)老朽化施設の更新と機能の向上並びに異常渇水や震災などに備える非常時対応
戦後60数年、経済復興期、高度経済成長期、安定成長期を通じて莫大な公共投資が進められた結果、治水施設、水資源施設、水道施設及び水循環保全施設等の社会的ストックは膨大な資産となって現在それなりに役割を果している。
今後は、これらの資産の更新と機能の向上が大きな課題となるため、アセットアセスメントを進め、合理的な更新と機能の向上に努める。
さらに、今後予想される異常な渇水や大震災に対応する非常時の水供給、水環境保全対策、環境衛生対策
を進める。
(10)財政制度の見直し
国は、従来の財政処置の方式を抜本的に再検討し、流域連合の創設及び同連合による事業の円滑な推進が可能なように地方公共団体とも協議しつつ、財政制度を再構築する。
流域連合の財源は、分担金、賦課金、課徴金、原因者負担金、水循環目的税、地下水使用料等で構成される。
(11)科学技術の振興及び国際協調の推進
水循環の適正化という視点での技術開発は、ハード、ソフト両面で研究課題が山積している。 縦割体制の下では、技術体系も歪みを生じ、合理性を欠く結果となる。今後は横につながる適正技術が志向される。国際援助においてもかかる技術が望まれるが、この面ではわが国は後進的と言える。
また、後発開発途上国の支援体制を抜本的に見直し、強化する。
第六 中央政府の行政組織及びその再編整備
・中央政府の行政組織
(案1)水循環庁の設置
内閣府の外局として水循環庁を設置し、水循環に関わる全ての行政組織を統合する。(水循環庁設置法を新たに制定)
水循環庁は、基本理念にのっとり、水循環社会の実現に向けて基本的施策の推進のための全ての事務を所掌する。水循環庁は、この任務の達成のため、水循環に関わる現行の個別制度の全てを所管し、統合的水管理体制に移行させる。
ただし、「水循環庁」は、将来の道州制の導入も踏まえ、全国的視野で行うことが求められる政策の企画、調整等に権限を限定し、政策の実施権限の多くを広域連合である「流域連合」に委譲することとする。
(問題点)
・関係各省庁及び族議員の抵抗が予想される。
・抜本的な行政改革になるので、実現可能性を危惧し、消極に流れる恐れがある。
(案2)水循環社会推進委員会の設置
内閣府の外局として、独立した行政委員会を設置し、水循環に関わる基本的な行政を所掌させる。(水循環社会推進委員会設置法を新たに
中央政府に於ける水行政の権能を大胆に簡素化させ、中央政府に残される基本的権限のみを所掌する体制を想定した場合、独立行政委員会の設置は適切であると考えられる。なお、委員長及び委員の人事を国会の承認案件とすることで、独立性を保持するものとする。
(問題点)基本的に(案1)と同じ。
道州制が導入された場合、中央政府が所掌する行政権能の範囲
(注)現行法制上、独立行政委員会は、内閣から一定の独立性の確保が求められる行政事務を処理する場合に設置されている。大臣の分担管理の原則(国家行政組織法第5条、内閣法第3条)に鑑み、水管理行政がこれになじむか否かという問題がある。
(案3)水循環政策本部の設置
水循環政策を推進するため、内閣府に水循秦政策本部を設置する。(内閣府設置法の改正)本部は、水循環政策の推進に関する基本方針の作成及びその実施に関すること、関係行政機関の総合調整にかんすること、その他水循環施策で重要なものの企画、立案及び総合調整に当る。
(問題点)
・縦割制度・体制の打破に限界がある。(現行の制度、組織がそのまま残る)
・結果的に関係各省の出向者によつて組織され、現状と変わらない。
・道州制が導入された場合でも縦割制度と体制とが温存される可能性が高い。
・中央水循環審議会
上記組織とは別に、本法に基づく水循環政策の基本方針の審議、水循環政策の進捗状況その他基本的事項を調査審議するために中央水循環審議会を設置する。なお、審議会は、学識経験者及び国民の代表によつて構成される。(設置法による規定が必要)
第七 「流城連合」の設置等、地方公共団体の行政組織及びその再編整備
・流域連合
河川流域を構成する地方公共団体(市町村と都道府県)は、基本理念に基づき水循環政策を推進するため、河川流域の統合的管理主体(地方公共団体の連合組織)である流域連合を設置しなければならない。(注)中央政府の出先地方組織は廃止される。
国は、速やかに流域連合を結成するよう、関係する地方公共団体に勧告することができる。
・流域連合議会
流域連合に関わる立法機関として予算、組織、人事などに関わる諸議案を議決し、流域水循環条例その他の諸規定を制定するため、地方公共団体及び流域住民代表で構成される流域連合議会を設ける。
・流域水循環審議会
水循環アセスメント、流域別水循環計画の調査審議、流域連合の水循環政策の進捗状況のチェックや各種の勧告を行うため、流域連合に諮問機関として流域水循環審議会を設ける。
・流域連合監理・監査
流域連合及び同議会の業務監理に当る組織として、地方公共団体代表者及び流域住民代表者で構成される流域連合監査機構を設ける。同監査機構は、業務監査、情報公開、住民の苦情対応等にも対応するものとする。
第八 流増住民との協働・流域住民との協働体制/・情報公開と監査への参加
行政と流域住民ネットワークは、連携・協働して政策形成を行うことが望まれる。このため、両者のパートナーシップによる協働体制を倉J出し、地域ガバナンスを確立することが必要であり、水の公共性、コモンズとしての性格及びオーフス条約等を考えれば、当然の措置でもある。
このため、流域水循環審議会、流域連合議会、流域連合監査機構には、一定割合の流域住民代表者の参加が前提条件となる。なお、現行河川法に基づく淀川流域委員会は、8月3日をもつて機能停止した。これは、現行河川法の住民参加規定(河川法第16条の2)の曖昧さ(住民の意見聴取の実施の有無、方法等については河川管理者の裁量に委ねていること)に起因するものである。
第九 雑則
・原状回復命令等
水循乗に悪影響を及ばす行為により、現実に支障が生じた場合、原因者の負担において支障の回復・軽減の措置を講じることを命令し、命令の牌怠、不履行に対しては間接強制、汚染者負担の原則の適用を可能とする制度を設ける。
第十 付則
この法律は、公布の日から施行する。ただし、流域連合など第七、第人に関わる規定は、公布の日から起算して三年を超えない範囲内で、政令で定める日から施行する。
http://mizuseidokaikaku.com/report/report17_tenpu6.pdf
水循環政策大綱案(原案)
1.水循環型社会の再生と将来世代への継承
水は、「生命」の基本である。地球上の水は、海洋と太陽エネルギーによつて絶えず循環を繰り返えし、多様な生命に恩恵を与え続けてきた。
現代においては、水循環系は人間の営為によつて不断に直接的・聞接的に影響を受けているという点で社会的システムであると言えよう。私たちは、地球上に人為的影響を受けない水循環系は最早存在しないことに深く思いを致し、改変された水循環系を持続可能なシステムに再生する努力を払わなければならない。
国上の70パーセントが森林で覆われ水に恵まれたわが国でも、かつての高度経済成長に伴う国上開発、都市化、工業化、さらに生活の利便性の追求による水循環系への直接的影響によつて、生態系保全を伴う水循環系は撹乱され、国土保全力を極度に弱めてきた。
地球温暖化は、このような直接的影響と相侯って水循環系の大変動を誘発させ、異常な洪水や極端な渇水をもたらし、生命と生活を脅かす。化学物質による水の汚染は、微量であつても食物連鎖・生物濃縮によつて生命の危険を増大させ、とくに胎児への悪影響に警告が発せられている。
日本人が様々な水の脅威を克服し、日本の水を大切にし、日本の水を飲み、日本の水を使うようにするためには、水循環系に悪影響を与える人間の営為そのものを適正に制御することによつて、境乱された水循環系を水量、水質、生態系の面から持続可能なシステムに再構築し、健全な水循環型社会の創出を期さなければならない。そこで、水循環系の統合的管理体制を構築し、持統可能な水循兵型社会を創出して、それを将来世代に継承するために水循秦政策大綱を定める。
2.水循環基本法の制定
(1)水循環政策の基本理念
水は、生命の根源であるにもかかわらず、河川等の公共水域の表流水のみを公水とし、その他の水は土地に付随した水として私水と位置づけられてきた。さらに水は、様々な管理者の下で局時的局所的な個別管理に委ねられてきた。河川水が公水であると位置づけられていても、あたかも河サII管理者の私物であるかのように扱われ、そこには国民の姿が全く見えない。 水循環系が歪められ、寸断され、破綻した理由は、一にかかる制度にあつた。
水は、地表水も地下水も水循環系によつて結ばれた一体の存在であり、生命の根源であるという意味において、現在と将来の人々の生存に不可欠な共同資源である。このような水は、水循環系の全ての過程を一体として統合的に管理されなければならない。 全ての人々は、このために水循環系を守る義務を担うべきものである。
この視点に立ち、水循環政策の基本理念は、次の七つの原則的な考え方で構成される。
(1)地表水及び地下水は公共水であること
地表水及び地下水は、共に公共水であり、統合的に管理されなければならない。
(2)水循環保全義務と水環境享受権
現在の国民は、現在及び将来の国民のために、持続可能な水循環系を保持する義務を担う。現在及び将来の国民は、持統可能な水循環系によつてもたらされる健全な水環境の恩恵を享受する基本的権利を有する。
(3)流域圏の統合的管理
水管理は、河)「1流域を原則的単位として統合的かつ地域主権的に行われなければならない。河川流域を構成する地方公共団体は、相互に協力し、河川及び河川流域を上流の森林や農地から河口沿岸域までを含めて統合的かつ地域主権的に管理する主体である「流域連合」を組織しなければならない。
(4)持統可能な水循環型社会の再生と将来世代への継承
持続可能な水循秦型社会の形成は、健全な国土とその上に生活する国民の健康で文化的な生活と幸福の追求に不可欠である。このため、これを再生し、将来世代に継承しなければならない。
(5)持続可能な水循環系保全のための公平な役割分担
持続的な水循環系の保全のための行動は、国民、事業者、地方公共団体(流域連合)、国等によつて、公平な役割分担の下に行われなければならない。
(6)拡大汚染者責任の原則
通常の生活者が処理できない有害物質の生産者、通常の生活者の排出する病原菌やタイルス、微量な医薬品や有害化学物質を含む排水の処理に当る事業者及び地方公共団体は、一次的汚染防止責任を負う。
(7)未然防止と予防原則
水循乗によつて生じる悪影響は、未然に防止されなければならない。このためには、科学的知見の充実を図るとともに、予防原則の適用を躊踏してはならない。
(2)水循環墓本法の制定
わが国の水行政は、これまで経済成長や生活の利便性の向上という観点に立って、水循環系の部分毎に異なる事業制度と組織体制の下で対症療法的に進められて来た。このため、もつばら個別的事業法が存在するのみで、前項の基本理念を定めた基本法は制定されていない。
そこで、水循環基本法を制定し、健全で持続可能な水循環型社会の形成について基本理念を定め、並びに国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにするとともに、基本方針の策定その他の水循環
型社会の形成に関する施策の基本となる事項を定めることにより、統合的水管理施策を総合的かつ計画的に推進し、もつて現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに、将来の世代に健全な国上を継承する制度的処置を講じるものである。
(3〕水循環に関する主要施策
国は、下記の基本的施策に関する基本方針を示し、河川流域を構成する地方公共団体は、流域連合を結成し、流域別水循環計画に基づいてこれらの基本的施策を講じるものとする。
(1)流域治水対策の推進
想定した規模の洪水をダム等洪水調節施設と河道で処理するという従来の治水から、河川流域全体で洪水対策を行う流域治水へと転換する。流域治水の推進のためには、浸水危険区域、遊水可能区域、水と緑の涵養区域などの土地利用計画を公表し、土地利用の適正な規制と誘導を図ることが不可欠になる。
国民ひとリー人がこうして、流域治水に参加することになる。
(2)水環境管理の適正化及び水循環系の再生と保全
水環境管理の要諦は、河川管理と水環境管理の統合及びこれに伴う水環境基準と排水基準の適正化の推進である。同時に多様な生物の棲息・生育環境の再生・保全や河川の自然回帰と復元、環境用水の確保とその維持を図る。さらに水循環系の再生と地下水の保全のために、雨水の浸透・貯留機能の保全・回復あるいは雨水の利用を進める。
(3)第二者機関による公正な水環境監視
縦割の所管部門がそれぞれ水質監視を行うこれまでの監視体制から脱却し、公正な第二者機関が排水源の放流水質及び受容水域の水環境の諸側面(水量、水質、生態系など)を監視する。
(4)利水システムの合理化の促進
過剰な水利用を誘発したこれまでの利水システムを改め、節水型都市及び産業の倉J出????に努め、新規水資源開発の抑制に向けた構造転換を図る。
(5)地下水の保全と利用の適正化の推進
地下水の保全と利用の適正化を図るため、同一地下水盆における地下水情報の共有化、モニタリング体制、緊急時体制を整備すると共に、地下水の涵養と保全の対策を進める。
地方公共団体は、条例の定めるところにより、地下水涵養区域の設定、地下水利用適正化計画の策定及び地下水汚染防止区域の設定を行うことができる。また、条例の定めるところにより、地下水採取料を徴収することができる。
(6)河川と森林との統合管理の推進
河川管理と森林管理の統合によつて、放置林による山地災害や洪水時の大量の流木流出による被害拡大の防止対策を推進する。また地球温暖化は水循環系を撹乱させる元凶であるため、二酸化炭素吸収源としての森林の役割その他の森林の多面的機能を維持拡大させる措置を講じる。
(7)農地の保全と活用
農地を遊水地として保全し、冠水補償を実施する。休耕農地に湛水し、地下水の涵養及び生物多様性保全のためのビオトープとして活用することについて一定の補償を実施する。
(8)水道及び水循環保全施設の流域圏統合経営の推進
水道及び下水道・浄化槽。し尿処理施設等の水循環保全施設は、流域圏ベースの広域経営を可能にすることによつて経営の合理化とサービスの向上を図るとともに、処理水準の高度化を推進し、水環境の更なる清浄を確保する。
(9)老朽化施設の更新と機能の向上並びに異常渇水や震災などに備える非常時対応
戦後60数年を通じて莫大な公共投資が進められた。今後は、これらの資産の更新と機能の向上が大きな課題となるため、アセットアセスメントを進め、合理的な更新と機能の向上に努める。
(10)財政制度の見直し ・
国は、従来の財政処置の方式を抜本的に再検討し、事業の円滑な推進が可能なように地方公共団体とも協議しつつ、財政制度を再構築する。流域連合の財源は、分担金、賦課金、課徴金、原因者負担金、水循環目的税、地下水使用料等で構成される。
(11)科学技術の振興及び国際協調の推進
縦割体制の下では、技術体系も歪みを生じ、合理性を欠く結果となっている。今後は横につながる道正代誉技術が志向される。また、後発開発途上国の支援を抜本的に見直し、強化する。
3.山紫水明の国づくり〜行政組織の再編と流域住民との協働
水循環系を再生し、山紫水明の国づくりを推進するためには、前述の基本理念に則り、これまでの制度と組織を抜本的に改革し、中央政府の権限を大幅に地方政府に委譲するとともに、地方公共団体を越えた河川流域ベースの体制に構築し直さなければならない。さらに、水が国民ひとリー人の生命の源であり、国民の共同資源としての公共水であるという視点から、流域住民が水循環に関わる様々な意思決定に参画するシステムの構築もまた必要不可欠であり、勇断を持って
推進しなければならない。
(1)中央政府の行政組織の再編
改革案としては、三案が考えられる。
[案1]
水循環庁の創設は、最も適切であろう。内閣府の外局として水循環庁を創設すれば、水行政に関わる全ての行政部門を一挙に統合し、整理合理化を断行できる。なお、この場合においても、「水循環庁」は、全国的視点で行うことが求められる政策の企画、調整等に権限を限定し、Я在???、国土交通省その他の省庁が有している権限の多くを「流域連合」に委譲するものとする。
道州制を早期に導入する場合は、道州を超える問題や道州間の調整など限られた重要課題に対
応する
[案2]水循環委員会の設置が考えられる。委員会は独立行政委員会であるが、この場合も[案1]と同じように内閣府の外局となる。委員長などの人事を国会の議決事案とすることで独立性を確保させたい。
(ただし、[案2]には現行法制上、国家行政組織法第3条に基づく委員会が現在の大臣の分担管理原則(国家行政組織法第5条、内閣法第3条)に鑑み、水管理行政になじむか否かの問題が残る。消費者庁の設置に際しても、中立性を確保する行政委員会型組織が遡上に上ったが、最終的に「消費者庁及び消費者委員会」が設けられた。)
[案3]
水循環政策本部の設置は、現段階では現実的と考えられなくも無い。海洋行政分野に有力な事例があるが、水循環行政においては内容的に曖味で、行政改革につながらないと考える。
なお、上記組織とは別に、本法に基づく水循環政策の基本方針の審議、水循環政策の進捗状況その他基本的事項を調査審議するために中央水循兵審議会を設置する。
(2)「流域連合」の設置等、地方公共団体の行政組織の再編
水循環系の保全は、基本理念に基づき流域を一貫して、流域住民に近い所で、流域住民の参加を得て推進すべきである。個々の地方公共団体が個別に行う従来の体制を脱し、流域圏をベースに推進できる行政組織に再構築するため、国は流域連合、同議会の創設を推進するとともに、国の権限を大幅に流域連合に移管する。なお、学識経験者や流域住民の意見を反映させるため、流域水循環審議会を設け、さらに事業推進の透明性を確保するため、流域連合監査機構を設ける。.
[流域連合]
河川流域を構成する地方公共団体(市町村と都道府県)は、基本理念に基づき水循環政策を推進するため、流域圏の統合的管理主体(地方公共団体の連合組織)である流域連合(地方自治法上の広域連合)を設置しなければならない。(注)中央政府の出先地方組織は廃止される。
[流域連合議会]
流域連合に関わる立法機関として予算、組織、人事などに関わる諸議案を議決し、流域水循環条例その他の諸規定を制定するため、地方公共団体及び流域住民代表で構成される流域連合議会を設ける。
[流域水循環審議会]
水循環アセスメント、流域別水循環計画の調査審議、流域連合の水循環政策の進捗状況のチ
ェックや各種の勧告を行うため、流域連合に諮問機関として流域水循環審議会を設ける。
[流域連合監査機構]
流域連合及び同議会の業務監理に当る組織として、地方公共団体代表者及び流域住民代表者
で構成される流域連合監査機構を設ける。同監査機構は、業務監査、情報公開、住民の苦情対応
等にも対応するものとする。
(3)流域住民との協働体制
行政と流域住民ネットワークとが連携,協働して政策形成を行うことが望まれる。このため、両者のパートナーシンプによる協働体制を創出し、地域ガバナンスを確立することが必要である。
水の公共性、コモンズとしての性格及びオーフス条約等を考えれば、当然の措置でもある。このため、流域水循環審議会、流域連合議会、流域連合監査機構には、一定割合の流域住民代表者の参加が前提条件となる。なお、現行河川法に基づく淀川流域委員会は、8月3日をもつて機能停止した。これは、現行河川法の住民参加規定(河川法第16条の2)の曖味さ(住民意見聴取の実施の有無、方法等については河川管理者の裁量に委ねていること)に起因するものである
http://mizuseidokaikaku.com/report/report17_tenpu5.pdf
水循環政策大綱案(原案)と基本法要綱案(原案)にご意見をお寄せください
(2009年10月14日)
水循環基本法研究会の第10回会合(2009年10月9日開催)において、起草委員会でまとめた 「水循環政策大綱案(原案)」と 「水循環基本法要綱案(原案)」を提案いたしました。10月22日まで両原案に対する修正意見をお受けしております。下記2点についてご意見をおまとめいただき、文書にてお送りいただけますようお願いいたします。こちらの回答用紙をご利用ください。
【第1点】
水循環基本法要綱案(原案)の「第六 中央政府の行政組織及びその再編整備―中央政府の行政組織」(6ページ目)において示している3つの案について、どれが適当と考えますか。その理由は何ですか。また、別案がありましたらお示しください。
(案1)
内閣府の外局として水循環庁を設置し、水循環に関わるすべての行政組織を統合する
(案2)
内閣府の外局として、独立した行政委員会(水循環社会推進委員会)を設置し、水循環に関わる基本的な行政を掌握させる
(案3)
水循環政策を推進するため、内閣府に水循環政策本部を設置する
【第2点】
原案に対する修正意見について、該当個所とその対案及び理由をお示しください。
●メールの送付先 qqyg4fv9k★peace.ocn.ne.jp(★印を@に変えてお送りください)
●Faxの送付先 075-722-5295
http://mizuseidokaikaku.com/report/report18.html
ATCグリーンエコプラザセミナーレポート 世界の水問題と日本
■講師
東京大学 生産技術研究所 教授 沖大幹氏
はじめに
世界の水問題は、大きく3種類に分けられます。安全な飲み水(indispensable water)、農業生産、工業生産の水(profitable water)最後に、人と生態系を維持するため、快適に生きるための水(comfortable water)です。1km以内に、1日1人当たり20リットルの水が得られることが、安全な飲み水へのアクセスがあることを意味しますが、世界人口の5分の1は、それがなく、水の確保のためだけに毎日の貴重な時間を費やしています。
これらの3種類の水問題は、質・量も異なれば、貨幣価値も違います。水の様々な側面で懸念事項があるということをお伝えしなければなりません。
農業・工業生産のための水は、今後使用が増えることが懸念されており、地球温暖化が進まなくとも、都市化の進展と人口集中により、洪水・渇水被害は深刻化するでしょう。さらに、数十年後には、水問題は国際的紛争の引き金になるという研究者もいます。
ではまず、水資源は循環資源で、地球上には水がふんだんにあるのに、どうして水不足が生じるのかということをおさらいしましょう。
地球上の水に対して、淡水の占める割合は水全体の約2.5%にすぎず、中でも地下水、氷河などを除いた水資源として利用しやすい淡水は約0.02%しかないため、水不足が生じると説明されることがありますが、そうではありません。
水資源は、ストックではなくフローだと考えるべきです。ある瞬間、世界中の河川の水の総量は、2000 km?に対して、人間が年間使う水は4000 km?だから足りない、という比較の仕方は間違っています。実際は、陸から海へ流れる水の流量の合計は、年間約4万km?。その水循環の一部が、人間の社会の中を通っていると考えなければなりません。では、年間流量のうち、人間が使うのはたったの約10%だから水不足になるわけがないかというと、それも誤りです。
数値モデルによる世界の河川の日流量シミュレーション結果によると、水は、地理的、時間的に偏在することがわかります。極地や、熱帯雨林地帯は年中湿潤なのに対し、砂漠は常に乾燥しており、一方でモンスーン地帯は雨季・乾季で、流量に大きな差があります。全世界の年間流量が足りているからといって、個々の場所で足りているとは限らないのです。
物質の重さ当たりの単価と市場規模について比較してみると、水は、廃品回収の古紙よりもはるかに単価が安いことがわかります。ちなみにミネラルウォーターは嗜好品で、清涼飲料水と同じと考えられるためいわゆる水問題とは切り離して考えるべきでしょう。
ミネラルウォーターは500mlで150円、1m?で30万円ですが、水道水は、1m?で140円〜400円です。都民の水瓶として知られる、奥多摩の小河内ダムの貯水容量1.85億m?の水は、約300億円に相当します。しかし、それは、金塊にすると、たった1m?に過ぎません。つまり、水資源は安くてかさばり、かつ大量に必要なものであり、必要なときに必要な場所、必要な質の水資源がないと、貯蔵、輸送コストが相対的に高すぎて経済的に引き合いません。
21世紀における世界の水資源アセスメント
21世紀の人口増加と経済発展による水需要の変化と、気候変動による水資源賦在量の変化、つまり温暖化による気候変動で使用できる水の量がどう変化するかについて、IPCCで使用しているSRESシナリオに沿って推計した結果をお話したいと思います。
Aは経済行動成長を重視したシナリオ、Bが環境保全を重視したシナリオ。かつ、1はグローバリゼーションが進んだ場合、2は地域化が進んだ場合、という4通りの組み合わせのシナリオで将来推計を行いました。
まず人口の将来展望について、もっとも高くなるのはA2、つまり各地域が交流なく経済発展を目指すと、もっとも人口が増加します。A1B1は共通のカーブを描き、世界的に価値観や技術移転が共通して進む場合、人口は2050年をピークに減少します。地域化、および環境保全重視型のB2シナリオは、人口は増加しますが、指数関数的に増えるわけではなく、ある程度で増加スピードは落ち着くという結果となっています。
このように最近の推計では、人口は増え続けるわけではないというのが一般的になりつつあり、今世紀中に来るであろう環境負荷のピークを乗り切れば、持続可能社会も作れるのではないかと考えています。
次に世界の食料生産と供給についてですが、1960年から2004年の間に、人口は約2倍に増えましたが、その間、農地の面積はわずか10%増に留まっています。しかし、緑の革命と言われる農業分野の技術の発展と、大量の水の使用により、単位面積あたりの収穫量は2.3倍となり、一日一人あたりの摂取カロリーは25%増えています。しかし、そんな中でも現在8億人は飢餓に苦しんでいると言われています。これも水と同様に、物理的な量の問題ではなく、社会における分配の問題でしょう。
工業用水取水量と工業分野のGDPとの関係は、大体線形関係にあります。しかし日本は海外諸国よりも格段に低い取水量を保っており、工業用水の約80%を再生利用しています。
“将来工業用水量”は、“現在工業用水量”*“工業規模増加率”*“用水効率改善係数”により求められます。中国など途上国の工業規模増加は今後も見込まれるため、工業用水の再利用による用水効率改善係数により、将来の工業用水量は大幅に変わってくることが予想されます。
水需要の話をしてきましたが、では、水の供給はどう変化するのでしょうか?これは温暖化の予測となります。
地球温暖化とは気候が変動するということであり、単純に気温が上がるだけでなく、気圧配置が変わり、雨の降り方が変わります。気温上昇による影響と、気候変動による水循環の変化は分けて考える必要があります。
まず温度上昇の直接的影響には、氷河・氷床の融解に伴う流量の一時的増加があります。一見流量が増えていても、それは氷河という水資源の貯金をとりくずしているにすぎず、今世紀末にはやがてなくなって必ず減少します。人間の生活にとっては、流量の一次的な増加ではなく、普段の流量が大切です。氷河がなくなれば、雨が降ったときと、降っていないときの流量の差が非常に大きくなり、ダムを作らなければ、全世界人口の6分の1が深刻な影響を受けると言われています。同時に、水温上昇により水質も変わり、生態系も大きな影響を受けるでしょう。
次に、雨の降り方が変わることによる間接的影響としては、極域と湿潤地帯での水資源の増加、熱帯・亜熱帯乾燥域で減少が予測されています。つまり乾燥域での旱魃地帯がさらに広がり、湿潤地帯においては激しい降水による洪水リスクが増大します。
私は、IPCC第4次報告書第2作業部会、影響評価を調査するグループに参加していました。ほとんどが欧米系なので、水不足の話が中心になりますが、仮にアジアの人がいれば、洪水の話ももっと前面に出ていたと思います。
さらに国交省が行った日本の気候変動予測によると、温暖化が進んだ100年後、雪が雨として降るため、冬の間の河川流出量が増え、同時に雪解けが早まるため、本来、ダム貯水量が満水になるべき代かき期などの需要期に、流量が不足してしまう恐れがあります。
21世紀における深刻な水ストレス下の人口予測のシミュレーションを、先ほどと同様のSRESシナリオで行いました。ここでの水ストレスのある人とは、年によっては渇水で困窮したり、食物生産が落ちて影響を受ける可能性がある状態にある人ということでお考えください。2050年までは、どのシナリオでも水ストレス人口は増えます。しかしそれ以降、A2(経済行動成長重視・地域化)はさらに増えますが、A1、B1では横ばい、あるいは減るという結果になりました。つまり、今後どのような社会になるかによって、必ずしも悲観的な未来ばかりではないと考えられるでしょう。
IPCCでは、prediction(予測)という言葉は使わないように心がけています。人間の力が及ばない天気などの予報とは違い、50年、100年後の未来は、人間社会が今後どの程度温室効果ガスを排出するかという緩和策や、気候変動の悪影響を最小限にしようとする適応策にどの程度取り組むかにより変わります。私たちが行っているのは、ある仮定の下の計算に過ぎません。これらのシミュレーションから、環境配慮型の社会に変えていくことによって、水に困らない社会が出来るということを示すことができればと思います。
将来展望まとめ
21世紀における水需給において、温暖化の影響による逼迫が予想されるのは、地中海沿岸ヨーロッパ、アメリカ西部です。しかしこの地域は、おそらく適応策を講じることができるため、あまり心配の必要はないでしょう。一方、中近東、西・南アジア地域は、社会経済変化、特に経済発展と人口増により逼迫の恐れがあります。また、サハラ以南のアフリカ、中南米は、今後の経済発展や社会の変化により、逼迫が懸念されます。日本にも、これらの脆弱性と気候変動リスクに対する国際的な支援が期待されています。
ヴァーチャルウォーターと、ウォーターフットプリント
食料の輸出入に伴って生じる水資源の量を表す言葉として、ヴァーチャルウォーターとウォーターフットプリントという2種類があります。ヴァーチャルウォーター(仮想水)は、たとえば、食料を輸入するとき、実際使用された水の量は関係なく、自国内で生産するときに必要となる水の量をあらわすのに対し、ウォーターフットプリントは、輸出物質を生産するために実際消費された水の量を指します。
日本人は、1日に一人当たり250リットルの水を使っています。そのうち、飲み水は2〜3リットルにすぎません。その用途は、風呂、トイレなど、ほとんどが洗浄のためであり、水を飲むことすら、体の汚れを運んでもらうという意味では洗浄といえます。つまり、水を使うこととは、水に汚れを運んでもらうことを意味しています。
一方、食料を作るために使っている水は、重さ比で、とうもろこしは食べられる量の2000倍です。大豆は2500倍、米は3600倍、牛肉は約2万倍もの水が必要となります。これらのデータに基づき計算すると、日本が海外から輸入している主要な食料を日本で作った場合は、約年間640億トンの水が必要であり、日本国内の農業用水570億トンと同じくらいの量の水を海外から輸入していることになります。
その輸入品目の内訳は、家畜の飼料となるとうもろこし、大豆、小麦、牛肉、豚肉などが大半を占めます。つまり食料の輸入の大半は、肉食のためのものなのです。輸入してから肉にするか、肉として輸入するかの違いに過ぎません。
私たちが1日に使っている水は、飲み水が2〜3リットル、それに対して水道水は約200〜300リットル、一方、食料のために使用されている水は2000リットル〜3000リットルです。実は一番、たくさんの量が必要なのは、食料生産のための水です。水不足が起こったときは、飲み水不足の前に、食料不足が起こることが容易に想像できます。
ヴァーチャルウォーターの各地域間の貿易をみると、オーストラリア、アメリカから、北アフリカや中近東の取引が顕著です。水が少なく石油を持つ国が、食料という形で水を買っています。水をヴァーチャルウォーターに、つまり食料という形にすれば、重さが1000分の1になります。世界で水危機が起こったときは、食料として水を動かせば輸送コストがかからず経済的です。現在も、水は戦略物質として食料という形で世界をめぐっており、その流れを握っているのは、アメリカ、カナダ、オーストラリア、フランスという限られた国々です。これらの国はG8など世界でも力を持っています。
しかしヴァーチャルウォーターでは、実際その国でどのくらいの量の水が使われたか、また取水源も特定できません。それを推計できるのが、ウォーターフットプリントです。
取水源とされる水の中には天水(雨水)と灌漑水があります。灌漑水の中には、河川水と、ダム・貯水池・ため池、そして、非循環型の地下水(化石水)があります。
私たち東京大学は、国立環境研究所との共同研究により、全世界的な農地の水利用量を、作物の種類や作付けの時期・場所などから計算、またダムの働きや規模も考慮して取水源を推定する全球統合水資源モデルを開発しました。
まず、世界の農地の水消費量、地下水取水量について、推定値と、近年の研究による統計結果と比較したところ、大きな違いはなく、まずまず妥当な結果となりました。
そうして算出した日本のウォーターフットプリントは、年間427億トン。一方ヴァーチャルウォーターは年間約627億トンです。水効率が良い国で生産したものを、水効率が悪い国が輸入するため、ウォーターフットプリントはヴァーチャルウォーターよりも少なくなります。その取水源は、灌漑水起源が73億トンで、全体の20%弱に過ぎず、ウォーターフットプリントの8割は、雨水起源だということがわかりました。しかし、灌漑水の中でも29億トンの水は、河川水、ため池などの灌漑水では足りず、非循環の地下水(化石水)を利用していると考えられます。
品目別の水源をみてみると、牛肉の大半は雨水起源となりました。これは家畜は牧草を食べて育つためだと考えられます。一方、米は中規模貯水池が使われ、大豆、小麦などは、灌漑水では足りず、非循環地下水を比較的多く(全体の約10〜15%程度)使っていることがわかりました。
ヴァーチャルウォーターは、日本では、水資源問題への一般認識を高めるためにもよく利用されますが、実際は、より現実的な水資源アセスメントや、将来の食料需給の推定に利用される概念です。しかし、問題は、他の生産手段の制約を考えていないことです。例えば日本が飼料用穀物を大量に輸入しているのは、牧草を大量に育てる土地が不足しているためであり、水不足の中近東とは理由が異なっています。他の制約による食料輸入にVWが入ってきてしまっていることになります。
まとめ
持続可能な社会を作るためには、水だけ切り離すのではなく、食料とエネルギーと水は、三位一体で考えなければいけません。本日お話しましたように、ヴァーチャルウォータートレードにより、水不足の地域で食料を輸入することは、食料を生産するための水を大幅に節約でき、逆に、食料を作るときは多くの水が使われています。またエネルギーと水は海水淡水化、水力発電によりお互いを生み出すことが出来ます。一方、食物をバイオ燃料などのエネルギーにすることもでき、そして大量のエネルギーがなければ食料は作れません。これら3つはそれぞれがチェンジャブルな関係にあり、少ない方を補うことができます。広い視点から持続可能を捉えるためには、これらを一体化して考えなければなりません。
中国には、「飲水思源」という言葉があります。水を飲むときにはその井戸を掘った人を忘れるなという意味だそうですが、それに倣い、これからは「飲食思水」、食べ物を食べるときには、水は簡単にどこでも手に入るものではなく、食べ物を作るときにたくさん水が使われているということを思い出していただければと思います。
ご清聴ありがとうございました。
http://www.ecoplaza.gr.jp/event/eco_seminar_report/report/200501/index.html
Posted by 大阪水・土壌研究会員 at 23:32│Comments(1)
│地下水汚染
この記事へのコメント
大阪平野の水資源を考える
−大阪周辺の水環境とその有効利用−
大阪平野は優良な地下水腑存地帯です。しかし,被圧地下水の取水量増加に伴う減水圧の伝播による地盤沈下再発の可能性が指摘される一方で,利用が進んでいない不圧地下水では,過去の汚染が残留している上に,水圧上昇による地震時の液状化などの地盤災害が懸念されています。
今回発表いたします研究では,大阪平野の地下水盆全体を包括する地下水流動モデルを作成し,地下水による災害を予防するために,地下水の適正利用量を見積もりました。
また,汚染地下水の浄化法を検討し、適正な利用法を提案します。さらに,湧水などの水環境に関する野外調査やビオトープを用いた水質浄化実験を,市民団体と協力して行うというものです。
地下水は、水の形態の中でも非常に私たちの生活と密接な関係にあり、今回のフィールドである大阪平野ばかりでなく、全国各地での「地下水問題」を解決するために、市民と一体になって同様の活動を展開していくための、第一歩となる研究発表といえます。
日 時: 平成22年1月9日(土)13:00〜17:30
場 所: 大阪産業創造館 4階イベントホール
(大阪府大阪市中央区本町1丁目4番5号)
主 催: (財)日本生命財団
共 催: 大阪市立大学複合先端研究機構
後 援: 環境省、国土交通省、大阪市、大阪府環境農林水産総合研究所
プログラム13:00
開会あいさつ
ニッセイ財団 理事長 石橋 三洋
大阪市立大学複合先端研究機構プロジェクトリーダー 橋本 秀樹
趣旨説明 大阪市立大学大学院 教授 益田 晴恵
13:25〜14:25
報告1 −大阪平野の地下水環境−
「大阪平野の帯水槽と流動性」
大阪市立大学大学院 准教授 三田村 宗樹
「水質から推定した大阪平野の地下水流動系」
大阪市立大学大学院 教授 益田 晴恵
「地盤災害とその予防」
大阪市立大学大学院 准教授 大島 昭彦
14:35〜15:35
報告2 −地下水利用と環境教育−
「汚染とその除去」
大阪市立大学大学院 教授 貫上 佳則
「生物汚染の現状」
大阪市立大学大学院 教授 西川 禎一
「ビオトープとその利用」
大阪市立自然史博物館 学芸員 中条 武司
「冷却装置としての地下水」
大阪市立大学大学院 准教授 鍋島 美奈子
16:00〜17:30
総合討論 −地下水利用の理念−
「環境保全と政策」
進 行
大阪市立大学 特任教授 畑 明郎
コメンテーター
岡山大学 教授 西垣 誠
総合地球環境学研究所 教授 谷口 真人
和歌山大学 理事 平田 健正
近畿大学 准教授 中口 譲
大阪府担当者 守口市立下島小学校教員
17:30〜
閉会の挨拶
大阪市立大学 副学長 唐沢 力
http://www.nihonseimei-zaidan.or.jp/kankyo/06_program.html
○定員 300名(申込締切 12月10日メ切)
○参加料 無料(お申込者には12月中旬以降に参加証をお送りいたします。)
○申し込み方法
こちらの参加申し込み場面に必要事項を入力し、メール送信ください。
または、市販のはがきに(1)住所(2)氏名(3)団体名・役職名(4)電話番号を記入の上、下記住所にお送りください。
○ お申込、お問い合わせ先
〒541-0042 大阪市中央区今橋3-1-7
ニッセイ財団環境問題ワークショップ事務局
TEL(06)6204-4012
e-mail:kankyou@nihonseimei-zaidan.or.jp @は小文字に直してくださいね
http://www.nihonseimei-zaidan.or.jp/kankyo/06_work.html
参考リンク
大阪府水質測定計画に基づく測定結果(地下水)
http://www.epcc.pref.osaka.jp/center_etc/water/keikaku/index5.html
Posted by ATCグリーンエコプラザ水・土壌研 at 2009年11月29日 21:33