2009年11月07日
日本経団連生物多様性宣言の勉強
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日本経団連生物多様性宣言
2009年3月17日
(社)日本経済団体連合会
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<前文>
1.日本経団連の取り組み
日本経団連は、1991年の「経団連地球環境憲章」、2003年の「活力と魅力溢れる日本を目指して」で示した「環境立国」の理念等に基づいて、人類の豊かな未来のために地球環境問題に積極的に取り組んでいる。
自然保護の分野においては、経済活動と自然環境の共栄を目指して、1992年に「経団連自然保護基金および同運営協議会(当時)」を設立し、自然保護活動の啓発・普及と、アジア太平洋地域を中心とするNGOの自然保護プロジェクト支援を開始し、基金設立以来、支援総数は約800件に達している。また、2003年には「日本経団連自然保護宣言」(以下「自然保護宣言」という)を発表して、一層の啓発および活動の推進を図ってきた。
2.生物多様性の危機
1992年にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)において、「気候変動枠組条約」とともに、「生物多様性条約」が採択された。しかしながら、生物多様性については、計測したり実感したりすることが難しいため、その重要性に対する認識はいまだ十分とは言えない。
人類は生物多様性から計り知れない自然の恵みを受けており、生物多様性が損なわれれば、将来の生活文化をはじめ、水や食料、貧困などの諸問題に多大な影響をもたらす恐れがある。社会経済活動が生物多様性に様々な負荷を与えてきた事実を認識し、すべての人々と組織が、持てる叡智を結集、協力して、生物多様性の危機に立ち向かわなければならない。
3.私たちの決意
私たちは、「自然保護宣言」に基づいて、生物多様性の保全を重視した自然保護活動を推進してきた。今こそ、生物多様性が将来の持続可能な社会にとって重要な基盤であることをより深く認識し、国際社会の一員として、すべての人々との間で役割と責任を分かち合い、連携・協力して生物多様性に資する行動を一層推進する決意である。
そこで、生物多様性の保全、生物資源の持続可能な利用、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を目指して、さらに積極的に取り組んでいくため、「自然保護宣言」に掲げた生物多様性への取り組みを進化させた「生物多様性宣言」をここに定める。
なお、この宣言および行動指針については、今後、進捗状況を把握するとともに、必要に応じて改善を図っていく。
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<宣言>
1.自然の恵みに感謝し、自然循環と事業活動との調和を志す
私たちは、生物多様性が生み出す自然の恵み(生態系サービス)に大きく依存している事実に感謝する心を養い、地球誕生以来営まれてきた大気、水、土、生物を含む自然循環機能と事業活動との調和を目指し、自然との共生を志す。
2.生物多様性の危機に対してグローバルな視点を持ち行動する
私たちは、国境を越えた生態系サービスの恩恵を受けていることを改めて認識するとともに、生物多様性が損なわれつつあるという危機感をすべての人々と共有し、グローバルな視点に基づきつつ、多様な地域性にも配慮して生物多様性の保全を図る。
さらに、遺伝資源の利用にあたっては、生物多様性条約の理念を尊重するとともに、遺伝資源を次世代につなぐよう努める。
3.生物多様性に資する行動に自発的かつ着実に取り組む
私たちは、自らの社会的責任の大きさを自覚し、事業活動に伴う生物多様性への影響低減や、生物多様性の実質的な保全につながる社会貢献活動に、自発的かつ着実に取り組む。取り組みにあたっては、個々の経営内容や経営理念に応じて、持てる経営資源を活用し、創意工夫を凝らして行動するよう心掛ける。
4.資源循環型経営を推進する
私たちは、省資源、省エネルギー、3R等の活動を通じて、限りある地球の資源を繰り返し利用する資源循環型の社会風土の形成に努め、生物多様性や気候変動の問題解決につながる経営をより一層推進する。
5.生物多様性に学ぶ産業、暮らし、文化の創造を目指す
私たちは、奥深く計り知れない自然の摂理と、伝統や先人の叡智を学ぶとともに、生物多様性にとって低負荷な事業活動や環境技術の開発を促進することによって、経営革新を図り、持続可能な産業、暮らし、文化の創造を目指す。
6.国内外の関係組織との連携、協力に努める
私たちは、生物多様性への取り組みをより実効あるものにするため、国内外のあらゆる関係者との間で生物多様性に関する認識の共有を図り、連携、協力を積極的に推進する。
7.生物多様性を育む社会づくりに向け率先して行動する
私たちは、生物多様性に関する深い認識のもとに、社会とのコミュニケーションを図りつつ、率先して生物多様性に対する社会的責任を果たすことにより、持続可能な地球社会のために貢献する。
私たちは、以上の7原則を尊重し、生物多様性のために一層固い決意で取り組むことをここに宣言する。
行動指針
※ 本行動指針は、「宣言」を受けて、言行一致した的確な行動をとるための手引書として作成したものであり、宣言の内容をより具体化した以下の各項目について、解説や例示を加えて発表する。なお、行動にあたっては、各企業が独自の経営資源を活用し、創意工夫を凝らすことが望ましく、企業の行動基準を定めたものではない。
1.自然の恵みに感謝し、自然循環と事業活動との調和を志す
1−1 生物多様性や自然の恵み(生態系サービス)の重要性を認識し、経営の基本に反映させる。
1−2 生物多様性に配慮するよう、経営者はビジョンを確立し、リーダーシップを発揮する。
2.生物多様性の危機に対してグローバルな視点を持ち行動する
2−1 事業計画の立案等にあたっては、関係する国内外の生態系、地域社会に及ぼす影響などに配慮する。
2−2 遺伝資源の利用にあたっては、提供者と利用者がともに利益を享受できるよう努める。
3.生物多様性に資する行動に自発的かつ着実に取り組む
3−1 自らの事業活動による生物多様性への影響の把握・分析、及び事業の進め方の改善に努める。
3−2 実質的に生物多様性保全に資する事業活動に努め、生物多様性の経済的評価に基づく取引やオフセット等の利用は慎重に行う。
3−3 自らの事業活動に関わらない生物多様性問題についても、社会貢献活動として取り組む。
4.資源循環型経営を推進する
4−1 自らの事業活動はもとより、商品・サービスのライフサイクルにも着目した省資源、省エネルギー、3R(リデュース、リユース、リサイクル)を、継続的に推進する。
5.生物多様性に学ぶ産業・暮らし・文化の創造を目指す
5−1 自然の摂理と伝統に学ぶ技術開発を推進し、生活文化のイノベーションを促す。
5−2 生物多様性保全に寄与する技術の開発、普及に努める。
5−3 既に自然の恵みが損なわれている地域において事業活動を行う場合には、生物多様性の回復を促すよう努める。
6.国内外の関係組織との連携・協力に努める
6−1 NGO、教育・研究機関、地方自治体等とのコミュニケーションの拡充、連携・協力に努める。
6−2 生物多様性への取組みに関する情報の適切な発信、及び共有を図る。
7.生物多様性を育む社会づくりに向け率先して行動する
7−1 従業員に対する自然環境教育を、地域社会、NGO 等と連携して、積極的に実施する。
7−2 社会全体の生物多様性を育む意識の向上に努める。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2009/026.html
日本経団連 生物多様性宣言
行動指針とその手引き
2009年4月21日
日本経団連 自然保護協議会
日本経団連 生物多様性宣言
行動指針とその手引き
行動指針の趣旨と目的
本行動指針は、「日本経団連生物多様性宣言」を受けて、私たちが具体的な行動に取り組む際の道しるべとして提示するものである。さらに、本行動指針には、そのような行動をとる「ねらい」(理由)、実施にあたっての「留意点」、そして、自然保護協議会が実施した「企業活動アンケート調査」により得られた「活動例」なども掲載した「行動指針の手引き」を付している。
生物多様性の諸課題に関わる際に、各事業体が、業種や規模等、経営内容に応じて的確な行動をとるための手引書として活用されることを期待するものであり、行うべき最低基準やこれを行えば十分という基準を定めたものではない。
また、生物多様性は自然保護や気候変動、資源循環等と密接な関係にあり、自然保護活動や地球温暖化対策等が生物多様性にも寄与する場合が多いので、既に実施しているそうした取り組みを「生物多様性」の視点から再定義してみることも有効な行動につながると考える。
なお、19ページの図表は、生物多様性と市民生活や経済活動との関連性、及び「企業活動アンケート調査」をもとに、一般的な事業領域における現状分析の方法と生物多様性に資する改善プランの立案例について整理したものであり、自らの事業領域において自主的に生物多様性に配慮した実務へと改善する際の参考として示したものである。
日本経団連生物多様性宣言
2009年3月17日
(社)日本経済団体連合会
<前 文>
1.日本経団連の取り組み
日本経団連は、1991年の「経団連地球環境憲章」、2003年の「活力と魅力溢れる日本を目指して」で示した「環境立国」の理念等に基づいて、人類の豊かな未来のために地球環境問題に積極的に取り組んでいる。
自然保護の分野においては、経済活動と自然環境の共栄を目指して、1992年に「経団連自然保護基金および同運営協議会(当時)」を設立し、自然保護活動の啓発・普及と、アジア太平洋地域を中心とするNGOの自然保護プロジェクト支援を開始し、基金設立以来、支援総数は約800件に達している。また、2003年には「日本経団連自然保護宣言」(以下「自然保護宣言」という)を発表して、一層の啓発および活動の推進を図ってきた。
2.生物多様性の危機
1992年にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)において、「気候変動枠組条約」とともに、「生物多様性条約」が採択された。しかしながら、生物多様性については、計測したり実感したりすることが難しいため、その重要性に対する認識はいまだ十分とは言えない。
人類は生物多様性から計り知れない自然の恵みを受けており、生物多様性が損なわれれば、将来の生活文化をはじめ、水や食料、貧困などの諸問題に多大な影響をもたらす恐れがある。社会経済活動が生物多様性に様々な負荷を与えてきた事実を認識し、すべての人々と組織が、持てる叡智を結集、協力して、生物多様性の危機に立ち向かわなければならない。
3.私たちの決意
私たちは、「自然保護宣言」に基づいて、生物多様性の保全を重視した自然保護活動を推進してきた。今こそ、生物多様性が将来の持続可能な社会にとって重要な基盤であることをより深く認識し、国際社会の一員として、すべての人々との間で役割と責任を分かち合い、連携・協力して生物多様性に資する行動を一層推進する決意である。
そこで、生物多様性の保全、生物資源の持続可能な利用、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を目指して、さらに積極的に取り組んでいくため、「自然保護宣言」に掲げた生物多様性への取り組みを進化させた「生物多様性宣言」をここに定める。
なお、この宣言および行動指針については、今後、進捗状況を把握するとともに、必要に応じて改善を図っていく。
<宣 言>
1.自然の恵みに感謝し、自然循環と事業活動との調和を志す
私たちは、生物多様性が生み出す自然の恵み(生態系サービス)に大きく依存している事実に感謝する心を養い、地球誕生以来営まれてきた大気、水、土、生物を含む自然循環機能と事業活動との調和を目指し、自然との共生を志す。
2.生物多様性の危機に対してグローバルな視点を持ち行動する
私たちは、国境を越えた生態系サービスの恩恵を受けていることを改めて認識するとともに、生物多様性が損なわれつつあるという危機感をすべての人々と共有し、グローバルな視点に基づきつつ、多様な地域性にも配慮して生物多様性の保全を図る。
さらに、遺伝資源の利用にあたっては、生物多様性条約の理念を尊重するとともに、遺伝資源を次世代につなぐよう努める。
3.生物多様性に資する行動に自発的かつ着実に取り組む
私たちは、自らの社会的責任の大きさを自覚し、事業活動に伴う生物多様性への影響低減や、生物多様性の実質的な保全につながる社会貢献活動に、自発的かつ着実に取り組む。取り組みにあたっては、個々の経営内容や経営理念に応じて、持てる経営資源を活用し、創意工夫を凝らして行動するよう心掛ける。
4.資源循環型経営を推進する
私たちは、省資源、省エネルギー、3R等の活動を通じて、限りある地球の資源を繰り返し利用する資源循環型の社会風土の形成に努め、生物多様性や気候変動の問題解決につながる経営をより一層推進する。
5.生物多様性に学ぶ産業、暮らし、文化の創造を目指す
私たちは、奥深く計り知れない自然の摂理と、伝統や先人の叡智を学ぶとともに、生物多様性にとって低負荷な事業活動や環境技術の開発を促進することによって、経営革新を図り、持続可能な産業、暮らし、文化の創造を目指す。
6.国内外の関係組織との連携、協力に努める
私たちは、生物多様性への取り組みをより実効あるものにするため、国内外のあらゆる関係者との間で生物多様性に関する認識の共有を図り、連携、協力を積極的に推進する。
7.生物多様性を育む社会づくりに向け率先して行動する
私たちは、生物多様性に関する深い認識のもとに、社会とのコミュニケーションを図りつつ、率先して生物多様性に対する社会的責任を果たすことにより、持続可能な地球社会のために貢献する。
私たちは、以上の7原則を尊重し、生物多様性のために一層固い決意で取り組むことをここに宣言する。
行 動 指 針
目 次
1.自然の恵みに感謝し、自然循環と事業活動との調和を志す
1−1 生物多様性や自然の恵み(生態系サービス)の重要性を認識し、経営の基本に反映させる。 1
1−2 生物多様性に配慮するよう、経営者はビジョンを確立し、リーダーシップを発揮する。 2
2.生物多様性の危機に対してグローバルな視点を持ち行動する
2−1 事業計画の立案等にあたっては、関係する国内外の生態系、地域社会に及ぼす影響などに配慮する。 3
2−2 遺伝資源の利用にあたっては、提供者と利用者がともに利益を享受できるよう努める。 4
3.生物多様性に資する行動に自発的かつ着実に取り組む
3−1 自らの事業活動による生物多様性への影響の把握・分析、及び事業の進め方の改善に努める。 5
3−2 実質的に生物多様性保全に資する事業活動に努め、生物多様性の経済的評価に基づく取引やオフセット等の利用は慎重に行う。 7
3−3 自らの事業活動に関わらない生物多様性問題についても、社会貢献活動として取り組む。 8
4.資源循環型経営を推進する
4−1 自らの事業活動はもとより、商品・サービスのライフサイクルにも着目した省資源、省エネルギー、3R(リデュース、リユース、リサイクル)を、継続的に推進する。 9
5.生物多様性に学ぶ産業・暮らし・文化の創造を目指す
5−1 自然の摂理と伝統に学ぶ技術開発を推進し、生活文化のイノベーションを促す。 11
5−2 生物多様性保全に寄与する技術の開発、普及に努める。 12
5−3 既に自然の恵みが損なわれている地域において事業活動を行う場合には、生物多様性の回復を促すよう努める。 13
6.国内外の関係組織との連携・協力に努める
6−1 NGO、教育・研究機関、地方自治体等とのコミュニケーションの拡充、連携・協力に努める。 14
6−2 生物多様性への取組みに関する情報の適切な発信、及び共有を図る。 16
7.生物多様性を育む社会づくりに向け率先して行動する
7−1 従業員に対する自然環境教育を、地域社会、NGO等と連携して、積極的に実施する。 17
7−2 社会全体の生物多様性を育む意識の向上に努める。 18
行動指針の手引き
1.自然の恵みに感謝し、自然循環と事業活動との調和を志す
1−1 生物多様性、及びそれが生み出す自然の恵み(生態系サービス)の重要性を認識し、経営に反映させる。
(ねらい)
◎ 事業活動は、生物多様性1からの恩恵(生態系サービス2)を受けて成り立っている一方で、自然環境あるいは生態系3に影響を及ぼしている(下記のほか、P19の図表を参照)。
(生態系サービス利用の例)
・原材料に生物資源(木材、パルプ、繊維(植物、動物)、皮革、ゴム、油(植物、動物)、微生物など)を利用する場合
・生物資源の生産に関与する場合(農林水産畜産業、養殖業、それらの輸出入業など)
・上記のほか、水の利用(飲料原料としての天然水、水運や水力発電、冷却水としての利用など)、大気浄化機能の利用(大気への汚染物質や温室効果ガスの放出など)、自然の美しさの利用(エコツーリズムなど)も生態系サービスを利用していると考えられる。
(生態系へ影響を与える例)
・事業場の建設・立地に際しての建設地における影響
・原材料の調達に際しての原材料生産地・輸送ルートにおける影響
・汚染物・廃棄物の放出・処理などに伴う影響
したがって、私たちは自然や自然の恵みに対して敬意を払いつつ、それらと上手に付き合う事業と暮らしのあり方を模索し創造することが求められている。すなわち、生物多様性の保全と生態系サービスの持続可能な利用4という理念を経営の基本にすえた事業活動を展開する必要がある。
(留意点)
◎ 我が国の先人たちが培ってきた自然感、例えば、「山川草木悉有仏性」5の思想などは、生物多様性の考え方にも通じるといわれており、経営にあたって参考となる。
自然の摂理は奥深く計り知れないものであり、完全に理解することは不可能で、人間活動が社会に及ぼす影響(特に、遠い将来や遠い地域に対して)について、確実に予測することは難しいことにも注意。
(活動例)
○ 経営理念、経営方針、環境方針等に、生物多様性に関する事項を盛り込む。
? 環境方針において「生物多様性」への配慮に言及する
? 生物多様性に関する方針、指針を策定する
? 自然資源を取り扱う企業が調達方針の中で生物多様性への取り組みに言及する
1−2 生物多様性に配慮するよう、経営者はビジョンを確立し、リーダーシップを発揮する。
(ねらい)
◎ 生物多様性への配慮を経営に反映させるという考え方を組織内に周知徹底し、定着させるには、トップダウンによることが効果的である。すなわち、経営者は、「生物多様性の保全」と「生態系サービスの持続可能な利用」を経営の根幹にすえるとの決意を見える形で示し、率先垂範により、組織内各層における意識の啓発・向上に励む必要がある。
(留意点)
◎ 経営トップの取り組みについては、「企業行動憲章」ならびに「企業行動憲章 実行の手引き(第5版)」を参考とすることが期待される。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/cgcb/tebiki.pdf
(活動例)
1. 経営方針等の展開、及びその進捗管理に際して、経営者が生物多様性も重視する。
? 生物多様性に関する目標を設定する
? 生物多様性に関する事項をトップダウンで事業計画に盛り込む
? 生物多様性に関する取り組み状況を把握する
2. 生物多様性への配慮について、経営者は、機会ある毎に、従業員等に対しメッセージの発信、意見交換を行う。
? 社内報、イントラネット、掲示板等 へのトップメッセージの掲載
? 年頭挨拶、入社式、経営会議、訓示 等 の定期的な発言機会の活用
? 生物多様性に関する組織体制の整備
? 中長期計画(5ヵ年計画など)への反映
? 生物多様性に係る従業員ボランティアなどへの参加
※ そのほか、社外向けの意見表明、商品開発そのものを通じてもメッセージを発信することができる。
2.生物多様性の危機に対してグローバルな視点を持ち行動する
2−1 事業計画の立案等にあたっては、関係する国内外の生態系、地域社会に及ぼす影響などに配慮する。
(ねらい)
(1) 昨今の事業活動は、国境を越えた生態系サービスに多くを依存しているため、事業活動が及ぼす生態系への影響について、国内はもとより海外にも目を向ける必要がある。
動植物由来の原材料を海外から輸入するような場合には、海外の自然の恵みを利用している。海外農作物の輸入も、農作物を育てるために使用した海外の水や土(養分)も同時に利用(輸入)していることにほかならない。
(2) 関連する各地域に暮らす人々の固有の生活や伝統・文化・習慣への影響も考慮する必要がある。
ここでいう生活や伝統・文化・習慣への影響とは、開発等に伴う生態系サービスへの影響によって、ある地域で営まれている特有の生活のしかたや文化が継続できないか、継続しにくくなることを指している。
(留意点)
◎ 生物多様性の保全と生態系サービスの持続可能な利用を推進するためには、単に、自然保護や資源管理のみを目的とする事業運営や施策では十分ではない場合も多い。それは、生物多様性問題が、広く、現地における生活環境や貧困、食料供給などの諸問題と関係しているためである。したがって、関連地域に住む人々の暮らし・文化等が維持され守られるような取り組みが必要である。
(活動例)
? 海外の環境保全活動、特に地域コミュニティの生活向上も同時に行っているNGO等のプロジェクトへの資金援助
? 海外事業所や現地法人を通じた、海外の森林保全活動や生物行動調査等への参画
? 事業活動に水を使用するため、近隣地にて地下水を涵養する森林造成等の取り組みを実施
? 自社技術(製品)を活用した、海外の環境保全活動への協力(灌漑技術や高吸収性樹脂を砂漠の植林に活用するなど)
2−2 遺伝資源の利用と利益の配分にあたっては、提供者と利用者がともに利益を享受できるよう努める。
(ねらい)
◎ 生物多様性条約6では、生物多様性の保全及び持続可能な利用に加え、「遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)」7も主目的の一つにされ、遺伝資源に対する保有国の主権的権利が認められている。したがって、私たちが遺伝資源を利用するにあたっては、遺伝資源の利用から得られた利益の衡平な配分に、注意を払う必要がある。
(留意点)
(1) 国際的な取り決めや原産国の法令を調査し、遵守することが求められる。国際的な取り決めとしては、遺伝資源からの利益配分についての当事者間の契約等に関する「ボン・ガイドライン」8、遺伝子組み換え生物の取り扱いに関する「カルタヘナ議定書」9がある。
(2) 遺伝資源に関して、生物多様性に配慮した事業活動を行うためには、経済産業省及び(財)バイオインダストリー協会が作成した「遺伝資源へのアクセス手引き」及び「生物資源へのアクセスと利益配分 企業のためのガイド」(WEB版)が参考になる。
「遺伝資源へのアクセス手引き」
http://www.mabs.jp/information/oshirase/pdf/iden_tebiki.pdf
「生物資源へのアクセスと利益配分 企業のためのガイド」(WEB版)
http://www.mabs.jp/
また、遺伝資源等を利用した発明の特許出願については下記参照。
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/kokusai/kokusai2/living_thing_meeting.htm
(活動例)
? 遺伝資源へのアクセスに際し、保有国の国内法に基づき、契約相手方以外の当事者(政府など)からも「事前の情報に基づく同意(PIC)」を得る
? 利益配分について、利益が発生しない場合も含め配分する利益に関する考え方を確認のうえ、合意を図る
? 遺伝素材を日本に移動させるため、「素材移転契約」を締結する −4−
3.生物多様性に資する行動に自発的かつ着実に取り組む
3−1 自らの事業活動による生物多様性への影響の把握・分析、及び事業の進め方の改善に努める。
(ねらい)
◎ 事業活動は、生物多様性の恩恵(生態系サービス)を享受して成り立っている一方で、自然環境あるいは生態系に影響を及ぼしている。(1−1参照)
したがって、事業活動が将来にわたって持続可能であるためには、生態系への悪影響の回避はもとより、生態系サービスの利用状況や生態系への影響の程度を、適時・適切に管理するための取り組みが不可欠である。
(留意点)
(1) 新たな事業を開始する前に行う影響の予測、及び事業開始後のモニタリングを適切に実施する。
事業活動による生物多様性への影響の把握・分析を行うには、部門別に業務内容を分解して検討する方法がある(P19の図表を参照)。
自然の奥深く計り知れないメカニズム(不確実性の高い対象)への対処に際しては、以下の2つの戦略手法を重視することが必要である。
?予防的対応:謙虚に慎重に行動すること(例:科学的証拠が完全でない場合でも対策を先送りせず、知見の充実に努めつつ早めに対策を講じる)
?順応的管理:モニタリングとフィードバック・PDCAサイクルを実施すること(=試行錯誤による管理。例:生態系の変化をモニタリングし、その結果に応じて管理や利用の方法を見直す)
(2) 数値目標を設定する場合には、指標と実際の生物多様性への影響の程度の関連性に配慮し、目標達成が目的化しないよう留意する。
(3) 事業活動を行う地域の法令の遵守についても、把握・分析、改善の取り組みの範囲に含める必要がある。
(4) 事業活動に多数の事業者(取引先等)が関係して行う場合については、自らの生物多様性への取り組み姿勢やサプライチェーン全体での取り組みの必要性を理解、認識してもらったうえで、必要に応じて、取引先に生物多様性への配慮を求めていくことが望ましい(ただし、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」にならないよう注意が必要)。
サプライチェーンを構成する各当事者が、それぞれの生物多様性に配慮して、責任ある調達と供給を行い、チェーンがつながることで、全体として生物多様性に配慮することが可能になる。
生物多様性との関わりを考える場合には、とりわけ、最上流の原料調達部分の実態把握が重要となることが多い。サプライチェーン上に多数の当事者(中小・零細企業も少なくない)が、グローバルな範囲に存在しており、原料の流通経路を正確に把握することが困難な場合には、各当事者に対し、可能な範囲で、生物多様性への配慮を求め、チェーンをつなぐよう努めることが望ましい。
(5) 生物資源の調達に関しては、その調達方法が生物多様性に配慮しているかどうかを、第三者が評価し証明する制度(森林認証、水産資源認証など)を利用する方法もある。
(活動例)
1. 事業活動を行う地域における環境への影響の調査・予測・評価を行い、当該地域に生息する希少動物の保全対策を実施
? 海底のドライアップ工事の際、取り残される生物をキャッチ&リリース
? 事業所構内の工事区域に生育していた野草を構内自然林へ移植
? 動物の移動用通路やビオトープの整備等、多自然型工法の採用
? 猛禽類に影響を与えないような防音工法の採用
2. 環境影響の調査・予測・評価を簡便に行える手法の開発
3. 設備の縮小化、地下化等による地表の改変面積をできるだけ小さくするよう配慮した設計
4. 自社施設や社有林の管理
? 専門家等と協力して稀少植物(キンラン、サイハランなど)を移植保全
? 周辺植生に配慮した緑化
? 伐採しない範囲を設定
? ビオトープ等、生物が棲める環境を整備
5. 建設物の機能と地域生態系保全を両立させた設計・施工・モニタリング
? 動物の移動用通路やビオトープの整備等、多自然型工法の採用
? 設計改善により、多自然型調整池を建設。建設後モニタリング継続
6. グリーン調達の推進
? グリーン調達に関する規程を定め、サプライヤーに提示
? CSR調達の管理項目に生物多様性に関する事項を盛り込み
? 現地生態系や現地住民生活への影響に関する「認証」を得られた製品の利用を定めた「調達規定」を自社・関連会社に展開
3−2 実質的に生物多様性保全に資する事業活動に努め、生物多様性の経済的評価に基づく取引や代替手段、オフセット等の利用は慎重に行う。
(ねらい)
◎ 生態系サービスの価値を経済的に評価したり、それを応用して、生物多様性を経済的取引の対象としたり、あるいは代替手段やオフセットとして活用したりすることが、国際的に議論されている。
しかしながら、生物多様性の場合は、どの地域においても、地域特有の生物や生態系があり、原則として代替ができない点に特徴があるので(“多様性”)、経済的手法を利用した結果、実質的に現地の生物多様性が保全されることになるのかどうかについて、慎重に検討する必要がある。
例えば、他の地域には生息していない種(固有種)は、当該地域の生態系に依存しているため、他の地域においては生息できない場合が多く(移植・代替ができない)、絶滅しやすい(多様性が損なわれる)と言われており、経済的手法によっては決して代替(回復)できないことを認識する必要がある。
(留意点)
(1) 持続可能な利用を進めるためには、極力自然への影響を小さくすることを前提に代替手段が許容される余地があるが、それが行き過ぎないよう、現地の生物多様性の保全に実質的に貢献できる活動に優先的に取り組まなければならない。
(2) 代替手段によらなければならない場合には、その手段をとることによる環境への影響等について検討するため、専門家の意見を聞くなどして、慎重に実施することが重要である。
(活動例)
? 事業所建設のためやむを得ず埋め立てる池周辺の生態系保全のため、付近に代替池を設置し、移植、放流
? 事業所建設のためやむを得ず伐採する森林の生態系保全のため、近隣に、既存の植生回復を行う
? 事業所近隣でNGO等が行っている同一生態系サービスに関するプロジェクトを支援する
(参考)
・経済的評価の試みの例:The Economics of Ecosystems & Biodiversity (TEEB) −7−
3−3 自らの事業活動に関わらない生物多様性問題についても、社会貢献活動として取り組む。
(ねらい)
◎ 事業活動における環境影響のマネジメントにとどまらず、事業活動と直接の関係は無くとも、企業の社会的責任の観点から、NGO等と協働して、生物多様性保全に貢献する活動に積極的に取り組む必要がある。
(留意点)
(1) 取り組みには、経済的支援、人的貢献、場の提供など、あらゆる形態が考えられるので、自社の強みを生かした活動を展開する。
(2) ただし、その活動が、真に地域社会や環境(生物多様性保全)に貢献しているかを常に検証する必要がある。
検証が十分でない場合に発生が懸念される事象
・ 植林を実施したが、樹種の選定や植林後の管理が適切でなかったことから成林せず、荒地のまま放置されている例。
・ 開発した新商品の原料は、天然林を違法に伐採した土地で栽培されていた例。
(3) 特に、「絶滅危惧種」あるいは「侵略的外来生物」との関わりが生じた場合には、以下の観点から、適切な対応が望まれる。
侵略的外来生物への配慮が十分でないために発生した事象
・ 緑化材料として大量導入された植物が、地域の河川敷に侵入して草原化し、在来の動植物の生息・生育場所を奪い、侵略的外来生物となった例。
・ 西日本の社有地で育てたホタルを、東日本の社有地に設置されていたビオトープに放したところ、当該地域のホタルと光り方が異なり、生態系に撹乱を起こした例。
(活動例)
1. 周辺環境の保全活動への直接的な貢献
? 森林整備作業への協力(従業員や家族のボランティアなど)
? NGOと協力して地域特有の環境(山、湖、サンゴ礁など)を守るための活動
? 工場周辺地域の公園化、地域への開放
? 社有地や「企業の森」における森林生態系保全活動
? 市役所と連携した、社有地における「地元めだか」の飼育と放流
? 市民団体やNGOと協働した里山保全活動
? 従業員とその家族による植林ボランティアの奨励
? 河川や海岸の清掃活動
2. 啓発活動を通じた貢献
○ 環境をテーマとした啓発イベントの実施(写真コンクール、絵本作品募集 等)
3. 事業活動と保全活動(金銭支援)との連動させた貢献
? 特定商品の売り上げの一部を自然保護関係団体に寄付
? 企業ホームページにおける「ワンクリック募金」 −8−
4.資源循環型経営を推進する
4−1 自らの事業活動はもとより、商品・サービスのライフサイクルにも着目した省資源、省エネルギー、3R(リデュース、リユース、リサイクル)を、継続的に推進する。
(ねらい)
(1) 天然資源はいまや限界が見え始めており、これからの時代は、自然から享受する資源を賢く使い(ワイズユース)、次の世代に持続的に引き継いでいく叡智(資源の有効利用、循環利用)が求められている。3R10など資源の有効利用のための方策は、以前から取り組まれてきたが、生物多様性の観点からも、生物資源の枯渇防止や自然環境悪化の抑制に資する方策として、継続的・積極的に取り組む必要がある。
天然資源のうち、生物資源(木材、食品など)については、ワイズユースすることが直接、資源枯渇防止につながることは明確である。
鉱物資源(化石燃料、金属など)についても、資源調査や採掘に際して自然林の伐採を伴うなど、周辺環境への影響は避けられないのであるから、鉱物資源のワイズユースもまた、生物多様性に資する取り組みと言える。
(2) また、自然の営みこそが資源の循環利用の手本であり、自然の資源循環(水・土の養分循環系や大気・水の循環系、食物連鎖など)を活かし、それを妨げることのないような事業活動や暮らしが実現するように努めることが必要である。
(留意点)
(1) 資源の有効利用を考える際には、自社の事業活動(行程)だけでなく、商品・サービスのライフサイクル全体における効率(例:使用時の効率、廃棄や再利用のしやすさなど)を考えることが重要である。
(2) 資源の有効利用、リサイクル等の技術・ノウハウは、ESCO事業のように、他社へ提供することでビジネスとして活用することもできる。
(3) 自然循環を利用した再生可能な自然エネルギーは、エネルギー密度の低さから効率的な利用が困難な面もあるが、グリーン電力認証制度のように使い勝手のよい仕組みも生まれている。
(4) バイオエネルギーの利用拡大については、場合によっては広大な土地の開発、単一品種の大規模栽培をもたらすことがあり、さらには食料問題とトレードオフの関係になることもあるので、エネルギー確保の視点だけではなく、生物多様性への影響を見極めて慎重に取り組む必要がある。
(活動例)
1. 3Rの推進による産業廃棄物最終処分量削減への取り組み
○ 産業廃棄物の最終処分量を、1990年度比75%削減するという第1次目標については、2002年度に8年前倒して目標を達成した。2007年には第2次目標86%削減にまで引き上げ、2007年度の実績は85.3%の削減となっている(日本経団連環境自主行動計画(循環型社会形成編))。
2. 世界最高水準のエネルギー効率の実現に向けた取り組み
○ 環境自主行動計画〔温暖化対策編〕の実施。
3. 資源循環を図りながら事業活動にも資する取り組み事例
? 省エネルギーのノウハウを活用するESCO事業
? 高い生分解性のある商品など環境対応商品の開発と普及の推進
? 廃熱回収、再利用によるエネルギー効率の向上
? 工場排水のリサイクルや中水利用
? 地域における古紙回収事業システムの構築
? アルミ缶回収システム
? 製品等の解体容易化
? リサイクルが容易な製品設計
? 間伐材や木くずの利活用
? てんぷら油の回収、燃料化の取り組み
? スマートラッピング&マイバッグ推奨
? 容器の軽量化
? 修理による再利用の推進
? 工程見直しによる歩留まりの改善
(参考)
・環境自主行動計画〔循環型社会形成編〕−2008年度フォローアップ調査結果− 日本経済団体連合会
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2009/022/index.html
・環境自主行動計画〔温暖化対策編〕−毎年度フォローアップ調査結果(概要版、個別業種版) 日本経済団体連合会
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/index07.html
5.生物多様性に学ぶ産業・暮らし・文化の創造を目指す
5−1 自然の摂理と伝統に学ぶ技術開発を推進し、生活文化のイノベーションを促す。
(ねらい)
◎ 自然資源を持続可能に利用しながら、豊かな社会を実現していくためには、私たちの暮らし方(ライフスタイル)を、省エネで(化石燃料に頼らず)快適なものへと転換することが必要である。
その際、資源の循環利用、効率活用の手本となりうる自然の営み(例:生物の構造や機能)そのものを見極めることによって、技術開発のヒントになることがある。また、エネルギーの大量消費をしていなかった時代の先人たちの暮らし方といった伝統の中にも、無理のない省エネで快適に暮らすヒントが隠れている。
このような自然の仕組みや伝統の中に埋もれている知恵を見出し、最先端の技術に活かすことが、生活文化のイノベーションにつながる。
(留意点)
◎ バイオテクノロジーの活用にあたっては、作成生物等の管理を適切に行うとともに、使用目的、取組内容、管理方法等に係る情報を積極的に開示することにより、バイオテクノロジーに関する社会の理解を深めるよう努める
(活動例)
1. バイオミミクリー(生物機能の応用)
? 絹糸の新繊維への応用
? モルフォチョウの羽の構造の発色技術への応用
? フクロウの羽やカワセミのくちばしの形の新幹線の空気抵抗低減への応用
? カタツムリの殻の構造を汚れにくい建材技術への応用
? ハスの葉の微細構造の撥水技術への応用
2. 先人の暮らし方の知恵
? 風通しのよい和風建築構造
? 洗い張りという衣類のリサイクルシステム
? 打ち水、すだれ等の涼をとる工夫
? 里山における持続可能な利用
? 農林畜産循環型農家経営(例:江戸時代の三富新田の開発)
5−2 生物多様性保全に寄与する技術の開発、普及に努める。
(ねらい)
◎ 豊かな社会を実現していくためには、生物多様性に低負荷な技術開発と、それを社会的に応用して根づかせることが不可欠である。そうすることによって、将来にわたる自然資源の持続可能な利用につながる。
(留意点)
(1) 開発した技術の社会への適用にあたっては、技術のもたらす副次的な影響についてもできるだけ予測し、配慮する。
(2) 開発した技術については、途上国への技術供与など、国際協力を積極的に行うことが必要で、国際的な生物多様性問題に貢献するものとなる。
(活動例)
? 有害物質の無害化等、汚染防止技術の開発
? 汚染予防のためのプロセス見直しの技術の向上
? 省エネルギー、エネルギー効率向上、3Rのための技術開発
? 高効率機器などの環境負荷を小さくする商品開発
? 高性能触媒の開発
? 化石燃料や薪・炭等に頼らない新エネルギーに関する技術開発
? 廃棄物の再資源化技術の開発
? 廃棄物を活用した磯やけ防止施肥技術の開発
? バイオプラスチック等低環境負荷材料の開発
? 二酸化炭素固定技術の開発
? 遺伝資源を有効に活用するバイオテクノロジー開発
? 農作物の増産、効率的な養殖等、第一次産業に関する技術開発
? 植物の移植手法の開発
? 虫を殺さない防虫対策技術の開発
? 水質に関する技術開発(水質浄化、超純水、海水の淡水化など)
? 自社技術を活用した砂浜清掃車の開発
? 環境教育に関する教材・ノウハウの開発
? 新しい金融サービスを通じた社会のイノベーション
(参考)
・地球温暖化防止対策事例集 CO2排出削減900のヒント<2006年度改訂版>
日本経済団体連合会
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2007/029.html
5−3 既に自然の恵みが損なわれている地域において事業活動を行う場合には、生物多様性の回復を促すよう努める。
(ねらい)
◎ 事業所周辺において生物多様性が損なわれている場合には、関係者と協力して再生・回復に取り組むことが期待される。既に自然の恵みが損なわれている地域の典型例は「都市」である。人口の多くが都市に住んでいる現実を考えると、都市に住む人々のために生態系サービスの創出に努めることは極めて重要である。また、都市に限らず、人の営みと自然の恵みが支え合う共生的な地域社会をつくりあげることも、宣言のいう、新たな産業・暮らし・文化の創造にほかならない。
(留意点)
(1) 自然再生に取り組む際には、自然の摂理に則った、かつ自然に学ぶ低負荷な環境技術に基づくことが重要である。植樹する場合の樹種選定にあたっても、周辺の植生に熟知した専門家の意見も聞くなどして慎重に行うことが重要である。
(2) 生物多様性の劣化、分断、喪失がみられる地域において、その再生・回復を図るには、緑地等のネットワーク化(コリドー(回廊)の形成など)を図ることも有効な手段となる。
(活動例)
? 都市域における生態系ネットワーク評価技術の開発と再開発事業への応用
? 周辺に生息する生きものに適した緑地環境の造成
? 周辺の植生を考慮した工場緑化、ビオトープ造り
? 周辺の植生を考慮した住宅地の緑化、屋上緑化、公園整備
? 開発時の緑地確保と提供後の維持管理
? 分断された緑地をつなぐ緑地配置計画
? 小動物用道路横断通路の設置 −13−
6.国内外の関係組織との連携・協力に努める
6−1 NGO、教育・研究機関、地方自治体等とのコミュニケーションの拡充、連携・協力に努める。
(ねらい)
◎ 生物多様性問題は、広域的かつ多様であり、かつ、科学的なばかりでなく社会的な問題とも密接に関連している極めて複雑な問題である。したがって、その解決のためには、一企業あるいは産業界だけの力では十分なことをなし得ず、多種多様な人材・組織が情報を共有して、連携・協力・機能補完しあい、社会全体で取り組むことによってはじめてこの問題の解決の可能性が高まる。
(留意点)
(1) 生物多様性の現状や課題を把握するには、世界各地域での生物多様性保全に実際に取り組んでいるNGOや教育・研究機関との連携により、その知見を参考にすることが有効である。
(2) 地方公共団体やNGOは、地域の生物多様性に関する情報を持っており、事業所開設等の際には、地方公共団体や地元の関係者と事前に協議することが、予防的アプローチとして有益である。
(3) 生物多様性保全活動は、長期にわたる継続的な活動が必要となるのが一般的であり、活動の継続性確保のために、地域住民の参加・協力を得ることがその成否に重要な影響を与える場合が多い。したがって、住民参加による意識向上とともに、地域社会や住民にとってのメリット(経済的利益、地域の活性化など)が実感できる取り組みが重要である。
(4) 企業の側からは、金銭的支援にとどまらず、専門性を活かした人的協力や情報提供、技術支援など、多様な支援や協働により、パートナーシップの強化に努めることが望ましい。
金銭的支援を行う場合には、金銭の使われ方にも注意を払い、目的意識を持つことが大切である。例えば、支援先組織の人材育成に資する目的で支援を行うことにより、専門家の育成につながり、ひいてはそのノウハウを利用するという協働関係が形作られる。
(5) このような様々な分野の連携が、新しい事業領域の開拓、新たな産業の創出につながる場合もある。
(活動例)
1. 他企業との連携事例
? 地域の企業と協働した保全活動の実施
? 他社主催行事への従業員ボランティア派遣
2. NGOとの連携事例
? 企業の持つ技術力による支援
? NGOへの出向など人的支援
? 日本経団連自然保護協議会が行う「交流会」や「活動報告会」への参加を契機とする連携
? 企業が設立した基金や日本経団連自然保護基金による支援
3. 地方公共団体や国の地方事務所との連携事例
? 公有林の間伐ボランティアへの参加
? 地方公共団体主催の自然保護事業への参画
? 「企業の森」づくりへの協力
4. お客さまとの連携事例
? 環境配慮製品の開発や使用推奨(例:森林認証紙など)
? マッチングギフトの実施
? どんぐりをお客さまに配り、育ててもらった苗木をNGOに提供し植林
5. サプライチェーンとの連携事例
○ グリーン調達規程の制定等による協力要請
6. 従業員との連携事例
○ 従業員ボランティア活動のメニュー提供
7. 環境配慮商品が買いやすくなるような社会制度・ビジネスモデルの開発
○ 生き物を育む農法として認められた生産者のコメを販売
6−2 生物多様性への取組みに関する情報の適切な発信、及び共有を図る。
(ねらい)
◎ 生物多様性への取り組みは、多くの当事者による参画が必要であること、また、どのような場合にどのような取り組みが効果的かといった知見が確立しておらず、各当事者が創意工夫に基づき、試行錯誤しているのが現状である。したがって、取り組み事例や知見などは、失敗事例も含め、情報を共有することにより、コミュニケーションの広がりを促し、相互に学びあうことが必要である。同時に、関係者の声に耳を傾け、自らに対する期待やニーズを把握し、それを経営に生かしていくことも重要である。
(留意点)
(1) 日常のコミュニケーション等を通じて、受け手が必要とする情報を把握し、発信する情報の適切な選択に努める。
(2) 多様な受け手を想定し、受け手にとってわかりやすい情報発信に努める。
(3) 2010年に名古屋で開催される生物多様性条約第10回締約国会議に向けて、海外、特に途上国でも導入できるような事例について、効果的に国際的な情報発信を進める。
(4) 生物多様性保全に配慮した認証制度のもとでの商品・製品の提供は、消費者に生物多様性保全に関する情報発信をする手段にもなる。
(活動例)
? 企業報告書(「環境報告書」「CSR報告書」「サステナビリティ報告書」等)や企業ホームページによる開示
? CMなどマスコミを活用した広告
? 主催イベントを通じた広告・宣伝
? 事業所内ビオトープなどの見学者の受け入れ
? 国際会議や地域行事等、他者主催イベントへの参加
? 生物多様性保全の観点からお勧めできる商品の営業活動
? 生物多様性に関する信頼できる認証制度の活用
? 環境の日(6/5)、生物多様性の日(5/22)などの活用
? NGO主催会合での企業の研究成果発表
7.生物多様性を育む社会づくりに向け率先して行動する
7−1 従業員に対する自然環境教育を、地域社会、NGO等と連携して、積極的に実施する。
(ねらい)
◎ 持続可能な事業活動のためには、生物多様性に配慮した事業活動を継続的に実施するとともに、生物多様性の保全に寄与する方向へ事業を変革する必要がある。最も重要なのは、生物多様性への配慮という意識を持って事業に取り組める人材の育成である。
(留意点)
(1) 事業活動の環境影響(環境負荷)に関する教育と連携をしつつ、生物多様性そのものに関する教育も行うことが望ましい。
・ 事業活動に伴う環境影響が、事業活動にどのように影響し(リスク)、そのリスクを顕在化させないために、自社がどのような努力を行っているかについて認識させる研修
・ 自社の事業活動が国の内外の生態系サービスにどの知度依存しているか認識させる研修
・ 自社事業場の立地地域における社会的役割(地域への影響と貢献)に関する理解を深める研修
・ 自然そのものの体験を通じて、各人の持つ自然観に訴えかけ、生態系サービスに関する認識を深める研修 など
(2) 生物多様性の保全には、事業活動のみならず、社内の各組織、従業員の家族、個人がそれぞれの持ち場において、実際に行動を起こすことが必要である。したがって、環境教育で培った知識等を実際の行動に結びつけるためのきっかけを提供するような取り組みも望まれる。
自らの実践活動、自らの自然体験を通して受け止めたことについて、自ら考えたり、話し合い共有したりすることによって、自らの行動のあり方を見直させる機会を提供する研修 など
(活動例)
? セミナーの開催
? e−ラーニングやイントラネットを活用した知識教育
? 自然体験や農業・林業体験を通じた環境意識醸成
? アンケートへの回答を通じて各自のライフスタイルを見直すきっかけを提供
? 社内報等を通じた定期的、継続的な情報提供
? 環境を題材とした映像の上映会
? 従業員の環境ボランティアリーダーを育成 −17−
7−2 社会全体の生物多様性に関する意識の向上に努める。
(ねらい)
◎ 生物多様性は、一事業者のみの取り組みでは限界があり、地域のあらゆる関係者が取り組んで、初めて解決する問題である。したがって、生物多様性に配慮する社会を推進するためには、事業者の行動と共に、市民が生物多様性に一致協力できるようにすることが必要である。
生物多様性の認識は、国際的にも低いと言われていることから、従業員教育により育成した人材等も活用しつつ、従業員以外の地元の関係者等とともに、生物多様性に関する意識の向上に努め、生物多様性と調和のとれた社会づくりに向けた風土づくりにも努力・貢献する必要がある。
(留意点)
(1) 地方公共団体などと連携して、生物多様性への配慮の効果やメリットが身近にわかるように、また市民にインセンティブが与えられるような社会風土の構築に努める。
(2) 多様な主体の連携の環に、自然の恵みを最も端的に享受している農林水産業の分野の人たちを巻き込んでいくこと(例:農商工連携)も有意義である。
(活動例)
1. 従業員以外への啓発
? 従業員の家族: 社有林を活用した親子環境教室など
? お客さま: 商品の体験利用と一体化した環境配慮商品の販売促進
? サプライチェーン:グリーン調達
? 若年層: 小学校カリキュラムと一体となった環境講座など
? 協力企業: 発注仕様書の見直しなど
? グループ企業: グループ経営としての環境配慮型事業の推進
2. その他
? 地元農産品を活用した新商品開発や販路開拓への協力
? 社有林における生きもの調査
? 生物多様性に関する特集記事の特集
(参考)
・農商工連携については農林水産省HPも参照
http://www.maff.go.jp/j/soushoku/sanki/nosyoko/index.html
市民生活と経済活動における生物多様性連環図
経済活動における事業領域の現状分析と改善プランの立案
現状分析(生態系負荷側面の確認)→そのリスク予知→改善プラン立案
事業領域・部門
現状分析の項目 と 改善の方向
改善プランの例示
原材料立地
エネルギー立地
アセスメント、事前に利害関係者と対話(生態系の予防的・順応的管理のために)
生態系保全マネージメントプログラムの樹立
社有地管理
社有地を生物多様性資源地域として調査
環境教育用地に活用
工場・事業所 立地
事業・工事での負荷を検証、工場・事業所周辺地の影響(森林・海洋等希少種、絶滅危惧種、保護指定地等)
製造・工法改善、水源の森・里山育成管理、地域文化に配慮、地元NGOとの協働
営業・流通
グリーン調達、認証製品優先利用、トレーサビリティ、遺伝資源の衡平な配分、消費者保護・信頼・安全性、取引先との連携
森林水産物認証(緑の循環SGEC、SFC・MFC)、有機食品検査認証、
研究開発
自然や伝統に学ぶ低負荷環境技術、遺伝子問題、遺伝資源の衡平な配分
自然再生・復元、ボン・ガイドライン遵守、バイオセーフティ
金融・財務
環境配慮の投融資選択、環境ファンド、格付けインデックス
生態系保全ファンド
総務人事
環境教育の向上、地域利害関係者との交流
環境リーダー研修
環境管理
社内モニタリング、従業員と市民への啓発
生態系モニター、 LCA
CSR管理
社会的責任経営、地域社会に貢献
NGOと協働、ボランティア
広報・宣伝
環境コミュニケーション
社内外への広報
上記連環図は、生物多様性条約(1992年採択)に掲げられた生物多様性の価値と、
「ミレニアム生態系評価」(国連:2005年報告)の生態系サービスを参考に作図した。
経 済
生 活
環 境
科 学
福 利
厚 生
文 化
芸 術
教 育
生物多様性の保全
生態系・種・遺伝子
持続可能な
利用
生態系サービス(自然のめぐみ) 生活物資供給(衣食住、燃料、水、遺伝資源、バイオ医化学)
調節浄化機能(大気・水質浄化、気象緩和、天災緩衝機能、疫病予防)
文 化 創 造 (情緒、審美観、エコツーリズム)
自然循環系の維持(要素循環系、水循環系、光合成・物質生成)
市 民
社 会
遺伝資源利用と衡平な配分
生 物 多 様 性 条 約
1 生物多様性
多種多様な生物が関わりあいながら存在していること。生物多様性条約では、次の3つのレベルで捉えられている。
?種内の多様性:同じ種であっても、生息環境により形質等に違いがあること
?種間の多様性:様々な種の生物がいること
?生態系の多様性:複数の生物が関わりあうシステム(生態系)は、地域環境に応じて多様であること
2 生態系サービス
人類が生態系から得られる恵みのこと。2005年の国連の「ミレニアム生態系評価」報告書(Millennium Ecosystem Assessment; MA)では、生態系サービスを以下のように分類して説明している。
・供給サービス:生態系から得られる素材や製品(食料、淡水、木材、繊維等)
・調節サービス:生態系が自然のプロセスを制御することから得られる恵み(気候調節、疾病予防、水土保全、天災緩和等)
・文化的サービス:生態系から得られる非物質的な恵み(景観、審美観等)
・基盤サービス:他のサービスを維持するための自然の循環プロセス(栄養塩循環、光合成、水循環等)
3 生態系
一定地域における生物間の相互関係とそれを取り巻く非生物的環境の間の相互関係を総合的にとらえた概念。大まかには、生産者(植物)、消費者(動物)、分解者(微生物)に区分され、分解者から生産者に渡る間は、非生物的プロセスとなる。生物間の相互関係には、捕食、被食、競争、共生、寄生、その他様々な関係があり、実際は複雑かつ多様である。
4 持続可能な利用
生物多様性の長期的な減少をもたらさない方法及び速度で生物多様性の構成要素を利用し、もって、現在及び将来の世代の必要及び願望を満たすように生物の多様性の可能性を維持すること。(生物多様性条約第2条)
5 山川草木悉有仏性(さんせんそうもくしつうぶっしょう)
全ての自然の中に仏性(仏の心)が宿っているという考え方。自然の中でわれわれが生かされているという日本人の自然観に通じるものと言われており、里山や鎮守の森など、自然に対する畏敬の念、感謝の念とともに自然の恵みを受けてきた先人たちの生き方の基盤にこの考え方があったと考えられている。山川草木悉皆成仏(さんせんそうもくしっかいじょうぶつ)ともいう。
6 生物多様性条約
【条約の目的】(生物多様性条約第1条参照)
?地球上の多様な生物をその生息環境とともに保全すること
?生物多様性の構成要素(生物、生態系、遺伝資源)を持続可能であるように利用すること
?遺伝資源の利用から生ずる利益を公正かつ衡平に配分すること
【締約国】190か国と欧州共同体(09年2月現在)。日本は93年締結。米国は未締結。
【締約国会議】2年に1回程度の頻度で開催されている。
○「2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」という、いわゆる2010年目標が採択(第6回会議、2002年ハーグ(オランダ))
○民間部門の参画を促す決議(第8回会議、2006年クリチバ(ブラジル))
○2010年10月には第10回締約国会議が愛知県名古屋市において開催予定。2010年目標の達成状況の評価、2010年以降の目標設定、遺伝資源の利用・配分、企業の取り組みのあり方等に関する議論が行われる見込み。
7 遺伝資源へのアクセスと利益配分(Access to genetic resources and Benefit Sharing(ABS))
海外遺伝資源を利用(アクセス)し、なんらかの利益をあげた場合には、遺伝資源の提供者に対し、公正に利益配分を行う必要がある旨の考え方。途上国に環境保護インセンティブを与え、先進国の遺伝資源へのアクセスを確保するため、生物多様性条約の目的の一つとして盛り込まれた。
8 ボン・ガイドライン
遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する各国政府の立案及び当事者間が相互に合意する条件(契約)を作成する際のガイドライン。人を除くすべての遺伝資源、関連する伝統的知識及びそれらの利用から生じる利益が対象。利用者は当該国の同意を受けることや、利用者と提供者が契約等を締結し利益配分等を決定すること等が規定。2002年4月COP6で採択。
9 カルタヘナ議定書
現代のバイオテクノロジーにより改変された生物(Living Modified Organism(LMO))が生物の多様性の保全及び持続可能な利用に及ぼす可能性のある悪影響を防止するための措置(LMOが国境を越える際の手続き等)を規定しており、生物多様性条約第19条3に基づく交渉において作成されたもの。2000年1月にモントリオールで開催された生物多様性条約特別締約国会議再開会合において採択。わが国については、2003年11月21日締結、2004年2月19日発効。
10 3R
「リデュース(reduce:廃棄物の発生抑制)」「リユース(re-use:再使用)」「リサイクル(recycle:再資源化)」をいい、副産物の有効利用も含まれる。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2009/026/koudoushishin.pdf
日本経団連生物多様性宣言
2009年3月17日
(社)日本経済団体連合会
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<前文>
1.日本経団連の取り組み
日本経団連は、1991年の「経団連地球環境憲章」、2003年の「活力と魅力溢れる日本を目指して」で示した「環境立国」の理念等に基づいて、人類の豊かな未来のために地球環境問題に積極的に取り組んでいる。
自然保護の分野においては、経済活動と自然環境の共栄を目指して、1992年に「経団連自然保護基金および同運営協議会(当時)」を設立し、自然保護活動の啓発・普及と、アジア太平洋地域を中心とするNGOの自然保護プロジェクト支援を開始し、基金設立以来、支援総数は約800件に達している。また、2003年には「日本経団連自然保護宣言」(以下「自然保護宣言」という)を発表して、一層の啓発および活動の推進を図ってきた。
2.生物多様性の危機
1992年にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)において、「気候変動枠組条約」とともに、「生物多様性条約」が採択された。しかしながら、生物多様性については、計測したり実感したりすることが難しいため、その重要性に対する認識はいまだ十分とは言えない。
人類は生物多様性から計り知れない自然の恵みを受けており、生物多様性が損なわれれば、将来の生活文化をはじめ、水や食料、貧困などの諸問題に多大な影響をもたらす恐れがある。社会経済活動が生物多様性に様々な負荷を与えてきた事実を認識し、すべての人々と組織が、持てる叡智を結集、協力して、生物多様性の危機に立ち向かわなければならない。
3.私たちの決意
私たちは、「自然保護宣言」に基づいて、生物多様性の保全を重視した自然保護活動を推進してきた。今こそ、生物多様性が将来の持続可能な社会にとって重要な基盤であることをより深く認識し、国際社会の一員として、すべての人々との間で役割と責任を分かち合い、連携・協力して生物多様性に資する行動を一層推進する決意である。
そこで、生物多様性の保全、生物資源の持続可能な利用、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を目指して、さらに積極的に取り組んでいくため、「自然保護宣言」に掲げた生物多様性への取り組みを進化させた「生物多様性宣言」をここに定める。
なお、この宣言および行動指針については、今後、進捗状況を把握するとともに、必要に応じて改善を図っていく。
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<宣言>
1.自然の恵みに感謝し、自然循環と事業活動との調和を志す
私たちは、生物多様性が生み出す自然の恵み(生態系サービス)に大きく依存している事実に感謝する心を養い、地球誕生以来営まれてきた大気、水、土、生物を含む自然循環機能と事業活動との調和を目指し、自然との共生を志す。
2.生物多様性の危機に対してグローバルな視点を持ち行動する
私たちは、国境を越えた生態系サービスの恩恵を受けていることを改めて認識するとともに、生物多様性が損なわれつつあるという危機感をすべての人々と共有し、グローバルな視点に基づきつつ、多様な地域性にも配慮して生物多様性の保全を図る。
さらに、遺伝資源の利用にあたっては、生物多様性条約の理念を尊重するとともに、遺伝資源を次世代につなぐよう努める。
3.生物多様性に資する行動に自発的かつ着実に取り組む
私たちは、自らの社会的責任の大きさを自覚し、事業活動に伴う生物多様性への影響低減や、生物多様性の実質的な保全につながる社会貢献活動に、自発的かつ着実に取り組む。取り組みにあたっては、個々の経営内容や経営理念に応じて、持てる経営資源を活用し、創意工夫を凝らして行動するよう心掛ける。
4.資源循環型経営を推進する
私たちは、省資源、省エネルギー、3R等の活動を通じて、限りある地球の資源を繰り返し利用する資源循環型の社会風土の形成に努め、生物多様性や気候変動の問題解決につながる経営をより一層推進する。
5.生物多様性に学ぶ産業、暮らし、文化の創造を目指す
私たちは、奥深く計り知れない自然の摂理と、伝統や先人の叡智を学ぶとともに、生物多様性にとって低負荷な事業活動や環境技術の開発を促進することによって、経営革新を図り、持続可能な産業、暮らし、文化の創造を目指す。
6.国内外の関係組織との連携、協力に努める
私たちは、生物多様性への取り組みをより実効あるものにするため、国内外のあらゆる関係者との間で生物多様性に関する認識の共有を図り、連携、協力を積極的に推進する。
7.生物多様性を育む社会づくりに向け率先して行動する
私たちは、生物多様性に関する深い認識のもとに、社会とのコミュニケーションを図りつつ、率先して生物多様性に対する社会的責任を果たすことにより、持続可能な地球社会のために貢献する。
私たちは、以上の7原則を尊重し、生物多様性のために一層固い決意で取り組むことをここに宣言する。
行動指針
※ 本行動指針は、「宣言」を受けて、言行一致した的確な行動をとるための手引書として作成したものであり、宣言の内容をより具体化した以下の各項目について、解説や例示を加えて発表する。なお、行動にあたっては、各企業が独自の経営資源を活用し、創意工夫を凝らすことが望ましく、企業の行動基準を定めたものではない。
1.自然の恵みに感謝し、自然循環と事業活動との調和を志す
1−1 生物多様性や自然の恵み(生態系サービス)の重要性を認識し、経営の基本に反映させる。
1−2 生物多様性に配慮するよう、経営者はビジョンを確立し、リーダーシップを発揮する。
2.生物多様性の危機に対してグローバルな視点を持ち行動する
2−1 事業計画の立案等にあたっては、関係する国内外の生態系、地域社会に及ぼす影響などに配慮する。
2−2 遺伝資源の利用にあたっては、提供者と利用者がともに利益を享受できるよう努める。
3.生物多様性に資する行動に自発的かつ着実に取り組む
3−1 自らの事業活動による生物多様性への影響の把握・分析、及び事業の進め方の改善に努める。
3−2 実質的に生物多様性保全に資する事業活動に努め、生物多様性の経済的評価に基づく取引やオフセット等の利用は慎重に行う。
3−3 自らの事業活動に関わらない生物多様性問題についても、社会貢献活動として取り組む。
4.資源循環型経営を推進する
4−1 自らの事業活動はもとより、商品・サービスのライフサイクルにも着目した省資源、省エネルギー、3R(リデュース、リユース、リサイクル)を、継続的に推進する。
5.生物多様性に学ぶ産業・暮らし・文化の創造を目指す
5−1 自然の摂理と伝統に学ぶ技術開発を推進し、生活文化のイノベーションを促す。
5−2 生物多様性保全に寄与する技術の開発、普及に努める。
5−3 既に自然の恵みが損なわれている地域において事業活動を行う場合には、生物多様性の回復を促すよう努める。
6.国内外の関係組織との連携・協力に努める
6−1 NGO、教育・研究機関、地方自治体等とのコミュニケーションの拡充、連携・協力に努める。
6−2 生物多様性への取組みに関する情報の適切な発信、及び共有を図る。
7.生物多様性を育む社会づくりに向け率先して行動する
7−1 従業員に対する自然環境教育を、地域社会、NGO 等と連携して、積極的に実施する。
7−2 社会全体の生物多様性を育む意識の向上に努める。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2009/026.html
日本経団連 生物多様性宣言
行動指針とその手引き
2009年4月21日
日本経団連 自然保護協議会
日本経団連 生物多様性宣言
行動指針とその手引き
行動指針の趣旨と目的
本行動指針は、「日本経団連生物多様性宣言」を受けて、私たちが具体的な行動に取り組む際の道しるべとして提示するものである。さらに、本行動指針には、そのような行動をとる「ねらい」(理由)、実施にあたっての「留意点」、そして、自然保護協議会が実施した「企業活動アンケート調査」により得られた「活動例」なども掲載した「行動指針の手引き」を付している。
生物多様性の諸課題に関わる際に、各事業体が、業種や規模等、経営内容に応じて的確な行動をとるための手引書として活用されることを期待するものであり、行うべき最低基準やこれを行えば十分という基準を定めたものではない。
また、生物多様性は自然保護や気候変動、資源循環等と密接な関係にあり、自然保護活動や地球温暖化対策等が生物多様性にも寄与する場合が多いので、既に実施しているそうした取り組みを「生物多様性」の視点から再定義してみることも有効な行動につながると考える。
なお、19ページの図表は、生物多様性と市民生活や経済活動との関連性、及び「企業活動アンケート調査」をもとに、一般的な事業領域における現状分析の方法と生物多様性に資する改善プランの立案例について整理したものであり、自らの事業領域において自主的に生物多様性に配慮した実務へと改善する際の参考として示したものである。
日本経団連生物多様性宣言
2009年3月17日
(社)日本経済団体連合会
<前 文>
1.日本経団連の取り組み
日本経団連は、1991年の「経団連地球環境憲章」、2003年の「活力と魅力溢れる日本を目指して」で示した「環境立国」の理念等に基づいて、人類の豊かな未来のために地球環境問題に積極的に取り組んでいる。
自然保護の分野においては、経済活動と自然環境の共栄を目指して、1992年に「経団連自然保護基金および同運営協議会(当時)」を設立し、自然保護活動の啓発・普及と、アジア太平洋地域を中心とするNGOの自然保護プロジェクト支援を開始し、基金設立以来、支援総数は約800件に達している。また、2003年には「日本経団連自然保護宣言」(以下「自然保護宣言」という)を発表して、一層の啓発および活動の推進を図ってきた。
2.生物多様性の危機
1992年にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)において、「気候変動枠組条約」とともに、「生物多様性条約」が採択された。しかしながら、生物多様性については、計測したり実感したりすることが難しいため、その重要性に対する認識はいまだ十分とは言えない。
人類は生物多様性から計り知れない自然の恵みを受けており、生物多様性が損なわれれば、将来の生活文化をはじめ、水や食料、貧困などの諸問題に多大な影響をもたらす恐れがある。社会経済活動が生物多様性に様々な負荷を与えてきた事実を認識し、すべての人々と組織が、持てる叡智を結集、協力して、生物多様性の危機に立ち向かわなければならない。
3.私たちの決意
私たちは、「自然保護宣言」に基づいて、生物多様性の保全を重視した自然保護活動を推進してきた。今こそ、生物多様性が将来の持続可能な社会にとって重要な基盤であることをより深く認識し、国際社会の一員として、すべての人々との間で役割と責任を分かち合い、連携・協力して生物多様性に資する行動を一層推進する決意である。
そこで、生物多様性の保全、生物資源の持続可能な利用、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を目指して、さらに積極的に取り組んでいくため、「自然保護宣言」に掲げた生物多様性への取り組みを進化させた「生物多様性宣言」をここに定める。
なお、この宣言および行動指針については、今後、進捗状況を把握するとともに、必要に応じて改善を図っていく。
<宣 言>
1.自然の恵みに感謝し、自然循環と事業活動との調和を志す
私たちは、生物多様性が生み出す自然の恵み(生態系サービス)に大きく依存している事実に感謝する心を養い、地球誕生以来営まれてきた大気、水、土、生物を含む自然循環機能と事業活動との調和を目指し、自然との共生を志す。
2.生物多様性の危機に対してグローバルな視点を持ち行動する
私たちは、国境を越えた生態系サービスの恩恵を受けていることを改めて認識するとともに、生物多様性が損なわれつつあるという危機感をすべての人々と共有し、グローバルな視点に基づきつつ、多様な地域性にも配慮して生物多様性の保全を図る。
さらに、遺伝資源の利用にあたっては、生物多様性条約の理念を尊重するとともに、遺伝資源を次世代につなぐよう努める。
3.生物多様性に資する行動に自発的かつ着実に取り組む
私たちは、自らの社会的責任の大きさを自覚し、事業活動に伴う生物多様性への影響低減や、生物多様性の実質的な保全につながる社会貢献活動に、自発的かつ着実に取り組む。取り組みにあたっては、個々の経営内容や経営理念に応じて、持てる経営資源を活用し、創意工夫を凝らして行動するよう心掛ける。
4.資源循環型経営を推進する
私たちは、省資源、省エネルギー、3R等の活動を通じて、限りある地球の資源を繰り返し利用する資源循環型の社会風土の形成に努め、生物多様性や気候変動の問題解決につながる経営をより一層推進する。
5.生物多様性に学ぶ産業、暮らし、文化の創造を目指す
私たちは、奥深く計り知れない自然の摂理と、伝統や先人の叡智を学ぶとともに、生物多様性にとって低負荷な事業活動や環境技術の開発を促進することによって、経営革新を図り、持続可能な産業、暮らし、文化の創造を目指す。
6.国内外の関係組織との連携、協力に努める
私たちは、生物多様性への取り組みをより実効あるものにするため、国内外のあらゆる関係者との間で生物多様性に関する認識の共有を図り、連携、協力を積極的に推進する。
7.生物多様性を育む社会づくりに向け率先して行動する
私たちは、生物多様性に関する深い認識のもとに、社会とのコミュニケーションを図りつつ、率先して生物多様性に対する社会的責任を果たすことにより、持続可能な地球社会のために貢献する。
私たちは、以上の7原則を尊重し、生物多様性のために一層固い決意で取り組むことをここに宣言する。
行 動 指 針
目 次
1.自然の恵みに感謝し、自然循環と事業活動との調和を志す
1−1 生物多様性や自然の恵み(生態系サービス)の重要性を認識し、経営の基本に反映させる。 1
1−2 生物多様性に配慮するよう、経営者はビジョンを確立し、リーダーシップを発揮する。 2
2.生物多様性の危機に対してグローバルな視点を持ち行動する
2−1 事業計画の立案等にあたっては、関係する国内外の生態系、地域社会に及ぼす影響などに配慮する。 3
2−2 遺伝資源の利用にあたっては、提供者と利用者がともに利益を享受できるよう努める。 4
3.生物多様性に資する行動に自発的かつ着実に取り組む
3−1 自らの事業活動による生物多様性への影響の把握・分析、及び事業の進め方の改善に努める。 5
3−2 実質的に生物多様性保全に資する事業活動に努め、生物多様性の経済的評価に基づく取引やオフセット等の利用は慎重に行う。 7
3−3 自らの事業活動に関わらない生物多様性問題についても、社会貢献活動として取り組む。 8
4.資源循環型経営を推進する
4−1 自らの事業活動はもとより、商品・サービスのライフサイクルにも着目した省資源、省エネルギー、3R(リデュース、リユース、リサイクル)を、継続的に推進する。 9
5.生物多様性に学ぶ産業・暮らし・文化の創造を目指す
5−1 自然の摂理と伝統に学ぶ技術開発を推進し、生活文化のイノベーションを促す。 11
5−2 生物多様性保全に寄与する技術の開発、普及に努める。 12
5−3 既に自然の恵みが損なわれている地域において事業活動を行う場合には、生物多様性の回復を促すよう努める。 13
6.国内外の関係組織との連携・協力に努める
6−1 NGO、教育・研究機関、地方自治体等とのコミュニケーションの拡充、連携・協力に努める。 14
6−2 生物多様性への取組みに関する情報の適切な発信、及び共有を図る。 16
7.生物多様性を育む社会づくりに向け率先して行動する
7−1 従業員に対する自然環境教育を、地域社会、NGO等と連携して、積極的に実施する。 17
7−2 社会全体の生物多様性を育む意識の向上に努める。 18
行動指針の手引き
1.自然の恵みに感謝し、自然循環と事業活動との調和を志す
1−1 生物多様性、及びそれが生み出す自然の恵み(生態系サービス)の重要性を認識し、経営に反映させる。
(ねらい)
◎ 事業活動は、生物多様性1からの恩恵(生態系サービス2)を受けて成り立っている一方で、自然環境あるいは生態系3に影響を及ぼしている(下記のほか、P19の図表を参照)。
(生態系サービス利用の例)
・原材料に生物資源(木材、パルプ、繊維(植物、動物)、皮革、ゴム、油(植物、動物)、微生物など)を利用する場合
・生物資源の生産に関与する場合(農林水産畜産業、養殖業、それらの輸出入業など)
・上記のほか、水の利用(飲料原料としての天然水、水運や水力発電、冷却水としての利用など)、大気浄化機能の利用(大気への汚染物質や温室効果ガスの放出など)、自然の美しさの利用(エコツーリズムなど)も生態系サービスを利用していると考えられる。
(生態系へ影響を与える例)
・事業場の建設・立地に際しての建設地における影響
・原材料の調達に際しての原材料生産地・輸送ルートにおける影響
・汚染物・廃棄物の放出・処理などに伴う影響
したがって、私たちは自然や自然の恵みに対して敬意を払いつつ、それらと上手に付き合う事業と暮らしのあり方を模索し創造することが求められている。すなわち、生物多様性の保全と生態系サービスの持続可能な利用4という理念を経営の基本にすえた事業活動を展開する必要がある。
(留意点)
◎ 我が国の先人たちが培ってきた自然感、例えば、「山川草木悉有仏性」5の思想などは、生物多様性の考え方にも通じるといわれており、経営にあたって参考となる。
自然の摂理は奥深く計り知れないものであり、完全に理解することは不可能で、人間活動が社会に及ぼす影響(特に、遠い将来や遠い地域に対して)について、確実に予測することは難しいことにも注意。
(活動例)
○ 経営理念、経営方針、環境方針等に、生物多様性に関する事項を盛り込む。
? 環境方針において「生物多様性」への配慮に言及する
? 生物多様性に関する方針、指針を策定する
? 自然資源を取り扱う企業が調達方針の中で生物多様性への取り組みに言及する
1−2 生物多様性に配慮するよう、経営者はビジョンを確立し、リーダーシップを発揮する。
(ねらい)
◎ 生物多様性への配慮を経営に反映させるという考え方を組織内に周知徹底し、定着させるには、トップダウンによることが効果的である。すなわち、経営者は、「生物多様性の保全」と「生態系サービスの持続可能な利用」を経営の根幹にすえるとの決意を見える形で示し、率先垂範により、組織内各層における意識の啓発・向上に励む必要がある。
(留意点)
◎ 経営トップの取り組みについては、「企業行動憲章」ならびに「企業行動憲章 実行の手引き(第5版)」を参考とすることが期待される。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/cgcb/tebiki.pdf
(活動例)
1. 経営方針等の展開、及びその進捗管理に際して、経営者が生物多様性も重視する。
? 生物多様性に関する目標を設定する
? 生物多様性に関する事項をトップダウンで事業計画に盛り込む
? 生物多様性に関する取り組み状況を把握する
2. 生物多様性への配慮について、経営者は、機会ある毎に、従業員等に対しメッセージの発信、意見交換を行う。
? 社内報、イントラネット、掲示板等 へのトップメッセージの掲載
? 年頭挨拶、入社式、経営会議、訓示 等 の定期的な発言機会の活用
? 生物多様性に関する組織体制の整備
? 中長期計画(5ヵ年計画など)への反映
? 生物多様性に係る従業員ボランティアなどへの参加
※ そのほか、社外向けの意見表明、商品開発そのものを通じてもメッセージを発信することができる。
2.生物多様性の危機に対してグローバルな視点を持ち行動する
2−1 事業計画の立案等にあたっては、関係する国内外の生態系、地域社会に及ぼす影響などに配慮する。
(ねらい)
(1) 昨今の事業活動は、国境を越えた生態系サービスに多くを依存しているため、事業活動が及ぼす生態系への影響について、国内はもとより海外にも目を向ける必要がある。
動植物由来の原材料を海外から輸入するような場合には、海外の自然の恵みを利用している。海外農作物の輸入も、農作物を育てるために使用した海外の水や土(養分)も同時に利用(輸入)していることにほかならない。
(2) 関連する各地域に暮らす人々の固有の生活や伝統・文化・習慣への影響も考慮する必要がある。
ここでいう生活や伝統・文化・習慣への影響とは、開発等に伴う生態系サービスへの影響によって、ある地域で営まれている特有の生活のしかたや文化が継続できないか、継続しにくくなることを指している。
(留意点)
◎ 生物多様性の保全と生態系サービスの持続可能な利用を推進するためには、単に、自然保護や資源管理のみを目的とする事業運営や施策では十分ではない場合も多い。それは、生物多様性問題が、広く、現地における生活環境や貧困、食料供給などの諸問題と関係しているためである。したがって、関連地域に住む人々の暮らし・文化等が維持され守られるような取り組みが必要である。
(活動例)
? 海外の環境保全活動、特に地域コミュニティの生活向上も同時に行っているNGO等のプロジェクトへの資金援助
? 海外事業所や現地法人を通じた、海外の森林保全活動や生物行動調査等への参画
? 事業活動に水を使用するため、近隣地にて地下水を涵養する森林造成等の取り組みを実施
? 自社技術(製品)を活用した、海外の環境保全活動への協力(灌漑技術や高吸収性樹脂を砂漠の植林に活用するなど)
2−2 遺伝資源の利用と利益の配分にあたっては、提供者と利用者がともに利益を享受できるよう努める。
(ねらい)
◎ 生物多様性条約6では、生物多様性の保全及び持続可能な利用に加え、「遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)」7も主目的の一つにされ、遺伝資源に対する保有国の主権的権利が認められている。したがって、私たちが遺伝資源を利用するにあたっては、遺伝資源の利用から得られた利益の衡平な配分に、注意を払う必要がある。
(留意点)
(1) 国際的な取り決めや原産国の法令を調査し、遵守することが求められる。国際的な取り決めとしては、遺伝資源からの利益配分についての当事者間の契約等に関する「ボン・ガイドライン」8、遺伝子組み換え生物の取り扱いに関する「カルタヘナ議定書」9がある。
(2) 遺伝資源に関して、生物多様性に配慮した事業活動を行うためには、経済産業省及び(財)バイオインダストリー協会が作成した「遺伝資源へのアクセス手引き」及び「生物資源へのアクセスと利益配分 企業のためのガイド」(WEB版)が参考になる。
「遺伝資源へのアクセス手引き」
http://www.mabs.jp/information/oshirase/pdf/iden_tebiki.pdf
「生物資源へのアクセスと利益配分 企業のためのガイド」(WEB版)
http://www.mabs.jp/
また、遺伝資源等を利用した発明の特許出願については下記参照。
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/kokusai/kokusai2/living_thing_meeting.htm
(活動例)
? 遺伝資源へのアクセスに際し、保有国の国内法に基づき、契約相手方以外の当事者(政府など)からも「事前の情報に基づく同意(PIC)」を得る
? 利益配分について、利益が発生しない場合も含め配分する利益に関する考え方を確認のうえ、合意を図る
? 遺伝素材を日本に移動させるため、「素材移転契約」を締結する −4−
3.生物多様性に資する行動に自発的かつ着実に取り組む
3−1 自らの事業活動による生物多様性への影響の把握・分析、及び事業の進め方の改善に努める。
(ねらい)
◎ 事業活動は、生物多様性の恩恵(生態系サービス)を享受して成り立っている一方で、自然環境あるいは生態系に影響を及ぼしている。(1−1参照)
したがって、事業活動が将来にわたって持続可能であるためには、生態系への悪影響の回避はもとより、生態系サービスの利用状況や生態系への影響の程度を、適時・適切に管理するための取り組みが不可欠である。
(留意点)
(1) 新たな事業を開始する前に行う影響の予測、及び事業開始後のモニタリングを適切に実施する。
事業活動による生物多様性への影響の把握・分析を行うには、部門別に業務内容を分解して検討する方法がある(P19の図表を参照)。
自然の奥深く計り知れないメカニズム(不確実性の高い対象)への対処に際しては、以下の2つの戦略手法を重視することが必要である。
?予防的対応:謙虚に慎重に行動すること(例:科学的証拠が完全でない場合でも対策を先送りせず、知見の充実に努めつつ早めに対策を講じる)
?順応的管理:モニタリングとフィードバック・PDCAサイクルを実施すること(=試行錯誤による管理。例:生態系の変化をモニタリングし、その結果に応じて管理や利用の方法を見直す)
(2) 数値目標を設定する場合には、指標と実際の生物多様性への影響の程度の関連性に配慮し、目標達成が目的化しないよう留意する。
(3) 事業活動を行う地域の法令の遵守についても、把握・分析、改善の取り組みの範囲に含める必要がある。
(4) 事業活動に多数の事業者(取引先等)が関係して行う場合については、自らの生物多様性への取り組み姿勢やサプライチェーン全体での取り組みの必要性を理解、認識してもらったうえで、必要に応じて、取引先に生物多様性への配慮を求めていくことが望ましい(ただし、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」にならないよう注意が必要)。
サプライチェーンを構成する各当事者が、それぞれの生物多様性に配慮して、責任ある調達と供給を行い、チェーンがつながることで、全体として生物多様性に配慮することが可能になる。
生物多様性との関わりを考える場合には、とりわけ、最上流の原料調達部分の実態把握が重要となることが多い。サプライチェーン上に多数の当事者(中小・零細企業も少なくない)が、グローバルな範囲に存在しており、原料の流通経路を正確に把握することが困難な場合には、各当事者に対し、可能な範囲で、生物多様性への配慮を求め、チェーンをつなぐよう努めることが望ましい。
(5) 生物資源の調達に関しては、その調達方法が生物多様性に配慮しているかどうかを、第三者が評価し証明する制度(森林認証、水産資源認証など)を利用する方法もある。
(活動例)
1. 事業活動を行う地域における環境への影響の調査・予測・評価を行い、当該地域に生息する希少動物の保全対策を実施
? 海底のドライアップ工事の際、取り残される生物をキャッチ&リリース
? 事業所構内の工事区域に生育していた野草を構内自然林へ移植
? 動物の移動用通路やビオトープの整備等、多自然型工法の採用
? 猛禽類に影響を与えないような防音工法の採用
2. 環境影響の調査・予測・評価を簡便に行える手法の開発
3. 設備の縮小化、地下化等による地表の改変面積をできるだけ小さくするよう配慮した設計
4. 自社施設や社有林の管理
? 専門家等と協力して稀少植物(キンラン、サイハランなど)を移植保全
? 周辺植生に配慮した緑化
? 伐採しない範囲を設定
? ビオトープ等、生物が棲める環境を整備
5. 建設物の機能と地域生態系保全を両立させた設計・施工・モニタリング
? 動物の移動用通路やビオトープの整備等、多自然型工法の採用
? 設計改善により、多自然型調整池を建設。建設後モニタリング継続
6. グリーン調達の推進
? グリーン調達に関する規程を定め、サプライヤーに提示
? CSR調達の管理項目に生物多様性に関する事項を盛り込み
? 現地生態系や現地住民生活への影響に関する「認証」を得られた製品の利用を定めた「調達規定」を自社・関連会社に展開
3−2 実質的に生物多様性保全に資する事業活動に努め、生物多様性の経済的評価に基づく取引や代替手段、オフセット等の利用は慎重に行う。
(ねらい)
◎ 生態系サービスの価値を経済的に評価したり、それを応用して、生物多様性を経済的取引の対象としたり、あるいは代替手段やオフセットとして活用したりすることが、国際的に議論されている。
しかしながら、生物多様性の場合は、どの地域においても、地域特有の生物や生態系があり、原則として代替ができない点に特徴があるので(“多様性”)、経済的手法を利用した結果、実質的に現地の生物多様性が保全されることになるのかどうかについて、慎重に検討する必要がある。
例えば、他の地域には生息していない種(固有種)は、当該地域の生態系に依存しているため、他の地域においては生息できない場合が多く(移植・代替ができない)、絶滅しやすい(多様性が損なわれる)と言われており、経済的手法によっては決して代替(回復)できないことを認識する必要がある。
(留意点)
(1) 持続可能な利用を進めるためには、極力自然への影響を小さくすることを前提に代替手段が許容される余地があるが、それが行き過ぎないよう、現地の生物多様性の保全に実質的に貢献できる活動に優先的に取り組まなければならない。
(2) 代替手段によらなければならない場合には、その手段をとることによる環境への影響等について検討するため、専門家の意見を聞くなどして、慎重に実施することが重要である。
(活動例)
? 事業所建設のためやむを得ず埋め立てる池周辺の生態系保全のため、付近に代替池を設置し、移植、放流
? 事業所建設のためやむを得ず伐採する森林の生態系保全のため、近隣に、既存の植生回復を行う
? 事業所近隣でNGO等が行っている同一生態系サービスに関するプロジェクトを支援する
(参考)
・経済的評価の試みの例:The Economics of Ecosystems & Biodiversity (TEEB) −7−
3−3 自らの事業活動に関わらない生物多様性問題についても、社会貢献活動として取り組む。
(ねらい)
◎ 事業活動における環境影響のマネジメントにとどまらず、事業活動と直接の関係は無くとも、企業の社会的責任の観点から、NGO等と協働して、生物多様性保全に貢献する活動に積極的に取り組む必要がある。
(留意点)
(1) 取り組みには、経済的支援、人的貢献、場の提供など、あらゆる形態が考えられるので、自社の強みを生かした活動を展開する。
(2) ただし、その活動が、真に地域社会や環境(生物多様性保全)に貢献しているかを常に検証する必要がある。
検証が十分でない場合に発生が懸念される事象
・ 植林を実施したが、樹種の選定や植林後の管理が適切でなかったことから成林せず、荒地のまま放置されている例。
・ 開発した新商品の原料は、天然林を違法に伐採した土地で栽培されていた例。
(3) 特に、「絶滅危惧種」あるいは「侵略的外来生物」との関わりが生じた場合には、以下の観点から、適切な対応が望まれる。
侵略的外来生物への配慮が十分でないために発生した事象
・ 緑化材料として大量導入された植物が、地域の河川敷に侵入して草原化し、在来の動植物の生息・生育場所を奪い、侵略的外来生物となった例。
・ 西日本の社有地で育てたホタルを、東日本の社有地に設置されていたビオトープに放したところ、当該地域のホタルと光り方が異なり、生態系に撹乱を起こした例。
(活動例)
1. 周辺環境の保全活動への直接的な貢献
? 森林整備作業への協力(従業員や家族のボランティアなど)
? NGOと協力して地域特有の環境(山、湖、サンゴ礁など)を守るための活動
? 工場周辺地域の公園化、地域への開放
? 社有地や「企業の森」における森林生態系保全活動
? 市役所と連携した、社有地における「地元めだか」の飼育と放流
? 市民団体やNGOと協働した里山保全活動
? 従業員とその家族による植林ボランティアの奨励
? 河川や海岸の清掃活動
2. 啓発活動を通じた貢献
○ 環境をテーマとした啓発イベントの実施(写真コンクール、絵本作品募集 等)
3. 事業活動と保全活動(金銭支援)との連動させた貢献
? 特定商品の売り上げの一部を自然保護関係団体に寄付
? 企業ホームページにおける「ワンクリック募金」 −8−
4.資源循環型経営を推進する
4−1 自らの事業活動はもとより、商品・サービスのライフサイクルにも着目した省資源、省エネルギー、3R(リデュース、リユース、リサイクル)を、継続的に推進する。
(ねらい)
(1) 天然資源はいまや限界が見え始めており、これからの時代は、自然から享受する資源を賢く使い(ワイズユース)、次の世代に持続的に引き継いでいく叡智(資源の有効利用、循環利用)が求められている。3R10など資源の有効利用のための方策は、以前から取り組まれてきたが、生物多様性の観点からも、生物資源の枯渇防止や自然環境悪化の抑制に資する方策として、継続的・積極的に取り組む必要がある。
天然資源のうち、生物資源(木材、食品など)については、ワイズユースすることが直接、資源枯渇防止につながることは明確である。
鉱物資源(化石燃料、金属など)についても、資源調査や採掘に際して自然林の伐採を伴うなど、周辺環境への影響は避けられないのであるから、鉱物資源のワイズユースもまた、生物多様性に資する取り組みと言える。
(2) また、自然の営みこそが資源の循環利用の手本であり、自然の資源循環(水・土の養分循環系や大気・水の循環系、食物連鎖など)を活かし、それを妨げることのないような事業活動や暮らしが実現するように努めることが必要である。
(留意点)
(1) 資源の有効利用を考える際には、自社の事業活動(行程)だけでなく、商品・サービスのライフサイクル全体における効率(例:使用時の効率、廃棄や再利用のしやすさなど)を考えることが重要である。
(2) 資源の有効利用、リサイクル等の技術・ノウハウは、ESCO事業のように、他社へ提供することでビジネスとして活用することもできる。
(3) 自然循環を利用した再生可能な自然エネルギーは、エネルギー密度の低さから効率的な利用が困難な面もあるが、グリーン電力認証制度のように使い勝手のよい仕組みも生まれている。
(4) バイオエネルギーの利用拡大については、場合によっては広大な土地の開発、単一品種の大規模栽培をもたらすことがあり、さらには食料問題とトレードオフの関係になることもあるので、エネルギー確保の視点だけではなく、生物多様性への影響を見極めて慎重に取り組む必要がある。
(活動例)
1. 3Rの推進による産業廃棄物最終処分量削減への取り組み
○ 産業廃棄物の最終処分量を、1990年度比75%削減するという第1次目標については、2002年度に8年前倒して目標を達成した。2007年には第2次目標86%削減にまで引き上げ、2007年度の実績は85.3%の削減となっている(日本経団連環境自主行動計画(循環型社会形成編))。
2. 世界最高水準のエネルギー効率の実現に向けた取り組み
○ 環境自主行動計画〔温暖化対策編〕の実施。
3. 資源循環を図りながら事業活動にも資する取り組み事例
? 省エネルギーのノウハウを活用するESCO事業
? 高い生分解性のある商品など環境対応商品の開発と普及の推進
? 廃熱回収、再利用によるエネルギー効率の向上
? 工場排水のリサイクルや中水利用
? 地域における古紙回収事業システムの構築
? アルミ缶回収システム
? 製品等の解体容易化
? リサイクルが容易な製品設計
? 間伐材や木くずの利活用
? てんぷら油の回収、燃料化の取り組み
? スマートラッピング&マイバッグ推奨
? 容器の軽量化
? 修理による再利用の推進
? 工程見直しによる歩留まりの改善
(参考)
・環境自主行動計画〔循環型社会形成編〕−2008年度フォローアップ調査結果− 日本経済団体連合会
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2009/022/index.html
・環境自主行動計画〔温暖化対策編〕−毎年度フォローアップ調査結果(概要版、個別業種版) 日本経済団体連合会
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/index07.html
5.生物多様性に学ぶ産業・暮らし・文化の創造を目指す
5−1 自然の摂理と伝統に学ぶ技術開発を推進し、生活文化のイノベーションを促す。
(ねらい)
◎ 自然資源を持続可能に利用しながら、豊かな社会を実現していくためには、私たちの暮らし方(ライフスタイル)を、省エネで(化石燃料に頼らず)快適なものへと転換することが必要である。
その際、資源の循環利用、効率活用の手本となりうる自然の営み(例:生物の構造や機能)そのものを見極めることによって、技術開発のヒントになることがある。また、エネルギーの大量消費をしていなかった時代の先人たちの暮らし方といった伝統の中にも、無理のない省エネで快適に暮らすヒントが隠れている。
このような自然の仕組みや伝統の中に埋もれている知恵を見出し、最先端の技術に活かすことが、生活文化のイノベーションにつながる。
(留意点)
◎ バイオテクノロジーの活用にあたっては、作成生物等の管理を適切に行うとともに、使用目的、取組内容、管理方法等に係る情報を積極的に開示することにより、バイオテクノロジーに関する社会の理解を深めるよう努める
(活動例)
1. バイオミミクリー(生物機能の応用)
? 絹糸の新繊維への応用
? モルフォチョウの羽の構造の発色技術への応用
? フクロウの羽やカワセミのくちばしの形の新幹線の空気抵抗低減への応用
? カタツムリの殻の構造を汚れにくい建材技術への応用
? ハスの葉の微細構造の撥水技術への応用
2. 先人の暮らし方の知恵
? 風通しのよい和風建築構造
? 洗い張りという衣類のリサイクルシステム
? 打ち水、すだれ等の涼をとる工夫
? 里山における持続可能な利用
? 農林畜産循環型農家経営(例:江戸時代の三富新田の開発)
5−2 生物多様性保全に寄与する技術の開発、普及に努める。
(ねらい)
◎ 豊かな社会を実現していくためには、生物多様性に低負荷な技術開発と、それを社会的に応用して根づかせることが不可欠である。そうすることによって、将来にわたる自然資源の持続可能な利用につながる。
(留意点)
(1) 開発した技術の社会への適用にあたっては、技術のもたらす副次的な影響についてもできるだけ予測し、配慮する。
(2) 開発した技術については、途上国への技術供与など、国際協力を積極的に行うことが必要で、国際的な生物多様性問題に貢献するものとなる。
(活動例)
? 有害物質の無害化等、汚染防止技術の開発
? 汚染予防のためのプロセス見直しの技術の向上
? 省エネルギー、エネルギー効率向上、3Rのための技術開発
? 高効率機器などの環境負荷を小さくする商品開発
? 高性能触媒の開発
? 化石燃料や薪・炭等に頼らない新エネルギーに関する技術開発
? 廃棄物の再資源化技術の開発
? 廃棄物を活用した磯やけ防止施肥技術の開発
? バイオプラスチック等低環境負荷材料の開発
? 二酸化炭素固定技術の開発
? 遺伝資源を有効に活用するバイオテクノロジー開発
? 農作物の増産、効率的な養殖等、第一次産業に関する技術開発
? 植物の移植手法の開発
? 虫を殺さない防虫対策技術の開発
? 水質に関する技術開発(水質浄化、超純水、海水の淡水化など)
? 自社技術を活用した砂浜清掃車の開発
? 環境教育に関する教材・ノウハウの開発
? 新しい金融サービスを通じた社会のイノベーション
(参考)
・地球温暖化防止対策事例集 CO2排出削減900のヒント<2006年度改訂版>
日本経済団体連合会
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2007/029.html
5−3 既に自然の恵みが損なわれている地域において事業活動を行う場合には、生物多様性の回復を促すよう努める。
(ねらい)
◎ 事業所周辺において生物多様性が損なわれている場合には、関係者と協力して再生・回復に取り組むことが期待される。既に自然の恵みが損なわれている地域の典型例は「都市」である。人口の多くが都市に住んでいる現実を考えると、都市に住む人々のために生態系サービスの創出に努めることは極めて重要である。また、都市に限らず、人の営みと自然の恵みが支え合う共生的な地域社会をつくりあげることも、宣言のいう、新たな産業・暮らし・文化の創造にほかならない。
(留意点)
(1) 自然再生に取り組む際には、自然の摂理に則った、かつ自然に学ぶ低負荷な環境技術に基づくことが重要である。植樹する場合の樹種選定にあたっても、周辺の植生に熟知した専門家の意見も聞くなどして慎重に行うことが重要である。
(2) 生物多様性の劣化、分断、喪失がみられる地域において、その再生・回復を図るには、緑地等のネットワーク化(コリドー(回廊)の形成など)を図ることも有効な手段となる。
(活動例)
? 都市域における生態系ネットワーク評価技術の開発と再開発事業への応用
? 周辺に生息する生きものに適した緑地環境の造成
? 周辺の植生を考慮した工場緑化、ビオトープ造り
? 周辺の植生を考慮した住宅地の緑化、屋上緑化、公園整備
? 開発時の緑地確保と提供後の維持管理
? 分断された緑地をつなぐ緑地配置計画
? 小動物用道路横断通路の設置 −13−
6.国内外の関係組織との連携・協力に努める
6−1 NGO、教育・研究機関、地方自治体等とのコミュニケーションの拡充、連携・協力に努める。
(ねらい)
◎ 生物多様性問題は、広域的かつ多様であり、かつ、科学的なばかりでなく社会的な問題とも密接に関連している極めて複雑な問題である。したがって、その解決のためには、一企業あるいは産業界だけの力では十分なことをなし得ず、多種多様な人材・組織が情報を共有して、連携・協力・機能補完しあい、社会全体で取り組むことによってはじめてこの問題の解決の可能性が高まる。
(留意点)
(1) 生物多様性の現状や課題を把握するには、世界各地域での生物多様性保全に実際に取り組んでいるNGOや教育・研究機関との連携により、その知見を参考にすることが有効である。
(2) 地方公共団体やNGOは、地域の生物多様性に関する情報を持っており、事業所開設等の際には、地方公共団体や地元の関係者と事前に協議することが、予防的アプローチとして有益である。
(3) 生物多様性保全活動は、長期にわたる継続的な活動が必要となるのが一般的であり、活動の継続性確保のために、地域住民の参加・協力を得ることがその成否に重要な影響を与える場合が多い。したがって、住民参加による意識向上とともに、地域社会や住民にとってのメリット(経済的利益、地域の活性化など)が実感できる取り組みが重要である。
(4) 企業の側からは、金銭的支援にとどまらず、専門性を活かした人的協力や情報提供、技術支援など、多様な支援や協働により、パートナーシップの強化に努めることが望ましい。
金銭的支援を行う場合には、金銭の使われ方にも注意を払い、目的意識を持つことが大切である。例えば、支援先組織の人材育成に資する目的で支援を行うことにより、専門家の育成につながり、ひいてはそのノウハウを利用するという協働関係が形作られる。
(5) このような様々な分野の連携が、新しい事業領域の開拓、新たな産業の創出につながる場合もある。
(活動例)
1. 他企業との連携事例
? 地域の企業と協働した保全活動の実施
? 他社主催行事への従業員ボランティア派遣
2. NGOとの連携事例
? 企業の持つ技術力による支援
? NGOへの出向など人的支援
? 日本経団連自然保護協議会が行う「交流会」や「活動報告会」への参加を契機とする連携
? 企業が設立した基金や日本経団連自然保護基金による支援
3. 地方公共団体や国の地方事務所との連携事例
? 公有林の間伐ボランティアへの参加
? 地方公共団体主催の自然保護事業への参画
? 「企業の森」づくりへの協力
4. お客さまとの連携事例
? 環境配慮製品の開発や使用推奨(例:森林認証紙など)
? マッチングギフトの実施
? どんぐりをお客さまに配り、育ててもらった苗木をNGOに提供し植林
5. サプライチェーンとの連携事例
○ グリーン調達規程の制定等による協力要請
6. 従業員との連携事例
○ 従業員ボランティア活動のメニュー提供
7. 環境配慮商品が買いやすくなるような社会制度・ビジネスモデルの開発
○ 生き物を育む農法として認められた生産者のコメを販売
6−2 生物多様性への取組みに関する情報の適切な発信、及び共有を図る。
(ねらい)
◎ 生物多様性への取り組みは、多くの当事者による参画が必要であること、また、どのような場合にどのような取り組みが効果的かといった知見が確立しておらず、各当事者が創意工夫に基づき、試行錯誤しているのが現状である。したがって、取り組み事例や知見などは、失敗事例も含め、情報を共有することにより、コミュニケーションの広がりを促し、相互に学びあうことが必要である。同時に、関係者の声に耳を傾け、自らに対する期待やニーズを把握し、それを経営に生かしていくことも重要である。
(留意点)
(1) 日常のコミュニケーション等を通じて、受け手が必要とする情報を把握し、発信する情報の適切な選択に努める。
(2) 多様な受け手を想定し、受け手にとってわかりやすい情報発信に努める。
(3) 2010年に名古屋で開催される生物多様性条約第10回締約国会議に向けて、海外、特に途上国でも導入できるような事例について、効果的に国際的な情報発信を進める。
(4) 生物多様性保全に配慮した認証制度のもとでの商品・製品の提供は、消費者に生物多様性保全に関する情報発信をする手段にもなる。
(活動例)
? 企業報告書(「環境報告書」「CSR報告書」「サステナビリティ報告書」等)や企業ホームページによる開示
? CMなどマスコミを活用した広告
? 主催イベントを通じた広告・宣伝
? 事業所内ビオトープなどの見学者の受け入れ
? 国際会議や地域行事等、他者主催イベントへの参加
? 生物多様性保全の観点からお勧めできる商品の営業活動
? 生物多様性に関する信頼できる認証制度の活用
? 環境の日(6/5)、生物多様性の日(5/22)などの活用
? NGO主催会合での企業の研究成果発表
7.生物多様性を育む社会づくりに向け率先して行動する
7−1 従業員に対する自然環境教育を、地域社会、NGO等と連携して、積極的に実施する。
(ねらい)
◎ 持続可能な事業活動のためには、生物多様性に配慮した事業活動を継続的に実施するとともに、生物多様性の保全に寄与する方向へ事業を変革する必要がある。最も重要なのは、生物多様性への配慮という意識を持って事業に取り組める人材の育成である。
(留意点)
(1) 事業活動の環境影響(環境負荷)に関する教育と連携をしつつ、生物多様性そのものに関する教育も行うことが望ましい。
・ 事業活動に伴う環境影響が、事業活動にどのように影響し(リスク)、そのリスクを顕在化させないために、自社がどのような努力を行っているかについて認識させる研修
・ 自社の事業活動が国の内外の生態系サービスにどの知度依存しているか認識させる研修
・ 自社事業場の立地地域における社会的役割(地域への影響と貢献)に関する理解を深める研修
・ 自然そのものの体験を通じて、各人の持つ自然観に訴えかけ、生態系サービスに関する認識を深める研修 など
(2) 生物多様性の保全には、事業活動のみならず、社内の各組織、従業員の家族、個人がそれぞれの持ち場において、実際に行動を起こすことが必要である。したがって、環境教育で培った知識等を実際の行動に結びつけるためのきっかけを提供するような取り組みも望まれる。
自らの実践活動、自らの自然体験を通して受け止めたことについて、自ら考えたり、話し合い共有したりすることによって、自らの行動のあり方を見直させる機会を提供する研修 など
(活動例)
? セミナーの開催
? e−ラーニングやイントラネットを活用した知識教育
? 自然体験や農業・林業体験を通じた環境意識醸成
? アンケートへの回答を通じて各自のライフスタイルを見直すきっかけを提供
? 社内報等を通じた定期的、継続的な情報提供
? 環境を題材とした映像の上映会
? 従業員の環境ボランティアリーダーを育成 −17−
7−2 社会全体の生物多様性に関する意識の向上に努める。
(ねらい)
◎ 生物多様性は、一事業者のみの取り組みでは限界があり、地域のあらゆる関係者が取り組んで、初めて解決する問題である。したがって、生物多様性に配慮する社会を推進するためには、事業者の行動と共に、市民が生物多様性に一致協力できるようにすることが必要である。
生物多様性の認識は、国際的にも低いと言われていることから、従業員教育により育成した人材等も活用しつつ、従業員以外の地元の関係者等とともに、生物多様性に関する意識の向上に努め、生物多様性と調和のとれた社会づくりに向けた風土づくりにも努力・貢献する必要がある。
(留意点)
(1) 地方公共団体などと連携して、生物多様性への配慮の効果やメリットが身近にわかるように、また市民にインセンティブが与えられるような社会風土の構築に努める。
(2) 多様な主体の連携の環に、自然の恵みを最も端的に享受している農林水産業の分野の人たちを巻き込んでいくこと(例:農商工連携)も有意義である。
(活動例)
1. 従業員以外への啓発
? 従業員の家族: 社有林を活用した親子環境教室など
? お客さま: 商品の体験利用と一体化した環境配慮商品の販売促進
? サプライチェーン:グリーン調達
? 若年層: 小学校カリキュラムと一体となった環境講座など
? 協力企業: 発注仕様書の見直しなど
? グループ企業: グループ経営としての環境配慮型事業の推進
2. その他
? 地元農産品を活用した新商品開発や販路開拓への協力
? 社有林における生きもの調査
? 生物多様性に関する特集記事の特集
(参考)
・農商工連携については農林水産省HPも参照
http://www.maff.go.jp/j/soushoku/sanki/nosyoko/index.html
市民生活と経済活動における生物多様性連環図
経済活動における事業領域の現状分析と改善プランの立案
現状分析(生態系負荷側面の確認)→そのリスク予知→改善プラン立案
事業領域・部門
現状分析の項目 と 改善の方向
改善プランの例示
原材料立地
エネルギー立地
アセスメント、事前に利害関係者と対話(生態系の予防的・順応的管理のために)
生態系保全マネージメントプログラムの樹立
社有地管理
社有地を生物多様性資源地域として調査
環境教育用地に活用
工場・事業所 立地
事業・工事での負荷を検証、工場・事業所周辺地の影響(森林・海洋等希少種、絶滅危惧種、保護指定地等)
製造・工法改善、水源の森・里山育成管理、地域文化に配慮、地元NGOとの協働
営業・流通
グリーン調達、認証製品優先利用、トレーサビリティ、遺伝資源の衡平な配分、消費者保護・信頼・安全性、取引先との連携
森林水産物認証(緑の循環SGEC、SFC・MFC)、有機食品検査認証、
研究開発
自然や伝統に学ぶ低負荷環境技術、遺伝子問題、遺伝資源の衡平な配分
自然再生・復元、ボン・ガイドライン遵守、バイオセーフティ
金融・財務
環境配慮の投融資選択、環境ファンド、格付けインデックス
生態系保全ファンド
総務人事
環境教育の向上、地域利害関係者との交流
環境リーダー研修
環境管理
社内モニタリング、従業員と市民への啓発
生態系モニター、 LCA
CSR管理
社会的責任経営、地域社会に貢献
NGOと協働、ボランティア
広報・宣伝
環境コミュニケーション
社内外への広報
上記連環図は、生物多様性条約(1992年採択)に掲げられた生物多様性の価値と、
「ミレニアム生態系評価」(国連:2005年報告)の生態系サービスを参考に作図した。
経 済
生 活
環 境
科 学
福 利
厚 生
文 化
芸 術
教 育
生物多様性の保全
生態系・種・遺伝子
持続可能な
利用
生態系サービス(自然のめぐみ) 生活物資供給(衣食住、燃料、水、遺伝資源、バイオ医化学)
調節浄化機能(大気・水質浄化、気象緩和、天災緩衝機能、疫病予防)
文 化 創 造 (情緒、審美観、エコツーリズム)
自然循環系の維持(要素循環系、水循環系、光合成・物質生成)
市 民
社 会
遺伝資源利用と衡平な配分
生 物 多 様 性 条 約
1 生物多様性
多種多様な生物が関わりあいながら存在していること。生物多様性条約では、次の3つのレベルで捉えられている。
?種内の多様性:同じ種であっても、生息環境により形質等に違いがあること
?種間の多様性:様々な種の生物がいること
?生態系の多様性:複数の生物が関わりあうシステム(生態系)は、地域環境に応じて多様であること
2 生態系サービス
人類が生態系から得られる恵みのこと。2005年の国連の「ミレニアム生態系評価」報告書(Millennium Ecosystem Assessment; MA)では、生態系サービスを以下のように分類して説明している。
・供給サービス:生態系から得られる素材や製品(食料、淡水、木材、繊維等)
・調節サービス:生態系が自然のプロセスを制御することから得られる恵み(気候調節、疾病予防、水土保全、天災緩和等)
・文化的サービス:生態系から得られる非物質的な恵み(景観、審美観等)
・基盤サービス:他のサービスを維持するための自然の循環プロセス(栄養塩循環、光合成、水循環等)
3 生態系
一定地域における生物間の相互関係とそれを取り巻く非生物的環境の間の相互関係を総合的にとらえた概念。大まかには、生産者(植物)、消費者(動物)、分解者(微生物)に区分され、分解者から生産者に渡る間は、非生物的プロセスとなる。生物間の相互関係には、捕食、被食、競争、共生、寄生、その他様々な関係があり、実際は複雑かつ多様である。
4 持続可能な利用
生物多様性の長期的な減少をもたらさない方法及び速度で生物多様性の構成要素を利用し、もって、現在及び将来の世代の必要及び願望を満たすように生物の多様性の可能性を維持すること。(生物多様性条約第2条)
5 山川草木悉有仏性(さんせんそうもくしつうぶっしょう)
全ての自然の中に仏性(仏の心)が宿っているという考え方。自然の中でわれわれが生かされているという日本人の自然観に通じるものと言われており、里山や鎮守の森など、自然に対する畏敬の念、感謝の念とともに自然の恵みを受けてきた先人たちの生き方の基盤にこの考え方があったと考えられている。山川草木悉皆成仏(さんせんそうもくしっかいじょうぶつ)ともいう。
6 生物多様性条約
【条約の目的】(生物多様性条約第1条参照)
?地球上の多様な生物をその生息環境とともに保全すること
?生物多様性の構成要素(生物、生態系、遺伝資源)を持続可能であるように利用すること
?遺伝資源の利用から生ずる利益を公正かつ衡平に配分すること
【締約国】190か国と欧州共同体(09年2月現在)。日本は93年締結。米国は未締結。
【締約国会議】2年に1回程度の頻度で開催されている。
○「2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」という、いわゆる2010年目標が採択(第6回会議、2002年ハーグ(オランダ))
○民間部門の参画を促す決議(第8回会議、2006年クリチバ(ブラジル))
○2010年10月には第10回締約国会議が愛知県名古屋市において開催予定。2010年目標の達成状況の評価、2010年以降の目標設定、遺伝資源の利用・配分、企業の取り組みのあり方等に関する議論が行われる見込み。
7 遺伝資源へのアクセスと利益配分(Access to genetic resources and Benefit Sharing(ABS))
海外遺伝資源を利用(アクセス)し、なんらかの利益をあげた場合には、遺伝資源の提供者に対し、公正に利益配分を行う必要がある旨の考え方。途上国に環境保護インセンティブを与え、先進国の遺伝資源へのアクセスを確保するため、生物多様性条約の目的の一つとして盛り込まれた。
8 ボン・ガイドライン
遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する各国政府の立案及び当事者間が相互に合意する条件(契約)を作成する際のガイドライン。人を除くすべての遺伝資源、関連する伝統的知識及びそれらの利用から生じる利益が対象。利用者は当該国の同意を受けることや、利用者と提供者が契約等を締結し利益配分等を決定すること等が規定。2002年4月COP6で採択。
9 カルタヘナ議定書
現代のバイオテクノロジーにより改変された生物(Living Modified Organism(LMO))が生物の多様性の保全及び持続可能な利用に及ぼす可能性のある悪影響を防止するための措置(LMOが国境を越える際の手続き等)を規定しており、生物多様性条約第19条3に基づく交渉において作成されたもの。2000年1月にモントリオールで開催された生物多様性条約特別締約国会議再開会合において採択。わが国については、2003年11月21日締結、2004年2月19日発効。
10 3R
「リデュース(reduce:廃棄物の発生抑制)」「リユース(re-use:再使用)」「リサイクル(recycle:再資源化)」をいい、副産物の有効利用も含まれる。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2009/026/koudoushishin.pdf
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│生物多様性