2009年11月22日
民間自然環境保全活促進報告書
民間団体等による自然環境保全活動の促進に関する検討会
報告書
1.はじめに
昨年6月に制定された生物多様性基本法(平成20年法律第58号)の前文において、人類と生物多様性に関して次のように述べられている。
「人類は、生物の多様性のもたらす恵沢を享受することにより生存しており、生物の多様性は人類の存続の基盤となっている。また、生物の多様性は、地域における固有の財産として地域独自の文化の多様性をも支えている。」
しかしながら、その人類の存続の基盤となっている生物多様性は、今、人類との関わりがもたらす危機に脅かされている。
「生物の多様性は、人間が行う開発等による生物種の絶滅や生態系の破壊、社会経済情勢の変化に伴う人間の活動の縮小による里山等の劣化、外来種等による生態系のかく乱等の深刻な危機に直面している。」
わが国の生物多様性の現状を見てみると、例えば植生に注目すれば、急峻な山岳地、半島部、島嶼といった人為の入りにくい地域に自然植生が分布し、平地や小起伏の山地では二次林や二次草原などの代償植生や植林地、耕作地の占める割合が高くなるなど、さまざまな段階の生態系が、さまざまな緯度、標高、水環境に立地することにより、非常に豊かな生態系の多様性が存在している。こうした生態系は、わが国の気候や地史と自然へのさまざまな働きかけの結果残されてきた特徴あるものといえるが、現在では広い範囲で失われてきている。
このような状況を踏まえ、国や地方公共団体においては、自然環境保全に関連する各種法律に基づき、さまざまな保護地域を設定し、生物多様性の保全の観点も踏まえてこれらの保護地域を適切に管理しているところであるが、未だ十分な状態であるとはいえず、多様な主体との連携を進めつつ、引き続き積極的に生物多様性の保全に取り組むことが重要である。
そのような国や地方公共団体といった公的主体の取組の一方で、国民からの寄附金を用いて、自然保護のために、身近な自然の豊かな民有地を買い入れて管理を行い、保全を図っていこうとする「ナショナル・トラスト活動」や、企業等が所有地を活用してNGO等との協力により緑地を保全する活動など、民間団体等による生物多様性の保全のための取組が行われてきている。 特に「ナショナル・トラスト活動」に関しては、昭和30年代に活動がスタートした当初は、大規模な開発から自然環境を市民自らの手で守る手段としてその活動が実施されたが、最近では、相続を契機としたやむを得ない土地の売却・開発による自然環境の改変を避けるべくその活動が実施されるなど、引き続きその活動が必要な状況にある。
このような動きを受け、生物多様性基本法第21条第3項において、「国は、事業者、国民又は民間の団体が行う生物の多様性の保全上重要な土地の取得並びにその維持及び保全のための活動その他の生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する自発的な活動が促進されるよう必要な措置を講ずるものとする」との規定が盛り込まれた。
これにより、ナショナル・トラスト活動をはじめ「様々な民間団体(NPO法人を含む。)による活動をより一層推進し国民主導の生物多様性保全のための取組を推進するため、税制優遇措置や関連制度の見直し等の必要な措置を講ずること」*1が国に求められている。
国際的な動きに目を転じると、平成22年(2010年)10月には、愛知県名古屋市において、世界中から7,000人もの参加者が見込まれる「生物多様性条約 第10回締約国会合」(COP10)が開催される。この2010年とは、平成14年の第6回締約国会合で定められた「2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減?させる」という「2010年目標」の目標年であり、COP10では、2010年以降の次期目標の採択が予定されている。
すなわち、COP10は、今後の生物多様性を巡る国際的な動きを方向付ける重要な会議であり、ホスト国であるわが国としても、そのイニシアティブを強力に発揮できるよう、生物多様性の保全に向けたわが国の取り組み姿勢をしっかりとした形で打ち出していく必要がある。
このような状況を踏まえ、本検討会では、わが国における生物多様性の保全を図るため、NGO等の民間団体、企業等が行う生物多様性の保全上重要な土地の取得並びにその維持及び保全等の活動を促進するための方策について検討を行った。本報告が、そのような活動を促進する上で有益なものとなり、引いては、わが国の生物多様性の保全を図る一助となることを強く期待する。
2.民間団体等が行う土地取得等の自然環境保全活動を巡る状況・背景
(1) 生物多様性の保全の基本的考え方
生物多様性条約では、「生物多様性」をすべての生物の間に違いがあることと定義しており、具体的には、「生態系の多様性」、「種の多様性」、「遺伝子の多様性」の3つのレベルでの多様性があるとしている。
生物多様性という差異(変異性)を保全するためには、この3つのレベルにおける構成要素である具体的な「生態系」や「種」、「個体」を保全することが重要であるが、生物はその種のみが単独で存在するのではなく、植物であれば生育に適する土壌や水環境が必要であり、動物であれば餌となる生物の存在が必要である。
つまり、健全で恵み豊かな自然環境の維持が生物多様性の保全に欠くことのできないものであることにかんがみ、生物多様性の保全は、多様な自然環境が地域の自然的社会的条件に応じて保全され、適切に利用されることを旨として行われなければならない。
(2)生物多様性の保全と民間団体等による自然環境保全活動との関係
生物多様性の保全のためには、国土の地域ごとの生物学的特性を示す代表的、典型的な生態系や、多様な生物の生息・生育の場として重要な地域について、対象地域の特性に応じて十分な規模、範囲、適正な配置、規制内容、管理水準、相互の連携の確保された保護地域などの体系を設けていく必要がある。
そのため、国においては自然環境保全法、自然公園法等の法律に基づき、代表的、典型的な生態系等が成立している地域を原生自然環境保全地域、国立公園等に指定し、厳格な行為規制等を実施することにより、生物多様性の保全を図っている。また、地域において相対的に自然性の高い自然環境を保全することは、国土全体を通じて多様な生態系を確保する上で非常に重要であることから、都道府県においても地域固有の生態系や希?野生動植物の生息・生育地を都道府県自然環境保全地域等に指定し、その保全を図っている。これらの地域においては、人の手が入ることを制限することにより保全する区域だけでなく、人の手を加えることによって、自然環境の質や生物多様性が保全される区域がある。
その際、土地所有者の高齢化等により、農業や林業、里山の利用等を通じた人間の働きかけ(適切な維持管理)が行われなくなっている地域については、その土地における自然環境を良好に保つため、民間団体等が土地所有者と協働して、一定程度の維持管理を行うことが重要となっている。
さまざまな人間の働きかけを通じて形成・維持されてきた生態系は、わが国の生物多様性を構成する重要な要素であり、私たち日本人にとってかけがえのない資産である。古来より日本人は、自然を尊重し、自然と共生することを通じて、豊かな感性や美意識をつちかい、多様な文化を形成してきた。例えば、薪炭林や農用林などの二次林や採草地の二次草原は、人間活動に必要なものとして人間の働きかけを受け、そして、その働きかけが継続されることにより維持されてきた。こうした人と自然の関わりが、地域色豊かな食、工芸、祭りなど地域固有の財産ともいうべき文化の根源となるなど、地域の生態系とそれに根ざした文化の多様性は、歴史的時間の中で育まれてきた地域固有の資産である。
わが国における生物多様性の保全のためには、このような文化の多様性をもたらす地域に固有の生態系等を、人間の適切な働きかけを継続させ、地域の特性に応じて保全することが必要である。
わが国国土全体での生物多様性の保全が図られるためには、地域の生態系の保全に関わる地域の住民や民間団体等が主体となって、地域の特性に応じたきめ細かな自然環境保全活動を進めていくことが大切である。こうした取組は、地域ごとのさまざまな経験から生まれた適正な利用や管理のための智恵を活かして行われるべきものであることから、現場で活動している人々が中心となった自主的な活動を尊重し、支援していくことが必要である。
近年、NGO等の民間団体も、それぞれの地域で自然環境保全活動を行ったり、市民参加型のモニタリングを行うなど、わが国の生物多様性を保全するために各地で積極的に幅広い活動を行っており、こうした活動は、行政では十分に行えないものを市民のニーズを捉えて地域に密着して行っているものが多く、地域の特性に応じた生物多様性の保全を進める上で大変重要である。
また、企業においても、日本経済団体連合会が、平成21年3月に「日本経団連生物多様性宣言」を発表し、経済界が生物多様性の保全等に取り組む意義と使命があるとの認識を示したり、大多数の環境報告書に自然環境・生物多様性保全に係る取組が記載されるなど、自然環境・生物多様性の保全に着目した取組が進められており、社会的貢献という点も含めて生物多様性の保全のための活動に対する企業の関心は高まっている。
わが国の生物多様性の保全のためには、わが国に存在するさまざまな生物多様性を、それぞれの特性を活かしながら確実に保全することが重要であり、確実性の観点からは、公的主体が法制度等に基づき保全を行うことが望ましいが、公的主体の能力にも限界があり、また、法制度による保全は一律の基準を設けて行われるため、必ずしも地域におけるNGO、企業、地域住民など多くの主体による取組や保全の要請を反映したものとならない面がある。
国や地方公共団体は、国土の地域ごとの生物学的特性を示す代表的、典型的な生態系や、多様な生物の生息・生育の場として重要な地域について、保護地域制度を活用し、主に人の手が入ることを制限することによって直接その保護を図っている一方で、さまざまな人間の働きかけを通じて維持・保全されてきた生物多様性については、適切な維持管理を継続させ、できる限りその場所の特性に応じた保全が図られるよう、国や地方公共団体はNGO、企業、地域住民など多くの主体が協働して、それぞれの地域において多様な特性を持つ自然環境の保全に関する活動を、地域に根付いたやり方で持続的に進めることができるよう、経済的措置を含めた制度や社会的な評価の仕組みを充実することが必要である。
なお、主に人の手が入ることを制限することによって保護が図られる地域についても、代表的、典型的な生態系等を維持・再生するために、土地の取得を行う民間団体等による自然環境保全活動が行われており、このような活動の支援も必要である。
3.民間団体等が行う土地の取得等の自然環境保全活動に関する現状及び課題
(1)民間団体等が行う土地の取得等の自然環境保全活動の現状
<民間団体等の自然環境保全活動の現状>
生物多様性基本法に位置付けられている「事業者、国民又は民間の団体が行う生物の多様性の保全上重要な土地の取得並びにその維持及び保全のための活動その他の生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する自発的な活動」についてはさまざまなものが考えられるが、「第三次生物多様性国家戦略」(平成19年11月閣議決定)においては、国民からの寄附金を用いて、自然保護のために自然の豊かな民有地を買い入れて、管理を行い、保全を図っていこうとする「ナショナル・トラスト活動」や、企業が所有地を活用してNGOなどとの協力により緑地を保全する活動が挙げられている。
自然環境保全を目的としたナショナル・トラスト活動とは、「広く国民から寄附金、会費等を募り、又は贈与等を受け、土地、建築物の買い取り、地上権の設定、所有者との契約などによりその管理権を取得して自然環境や歴史的環境を保全することを目的とする活動」*2とされており、昭和30年代後半から全国各地にて行われている活動である。ナショナル・トラスト活動の具体的な形態としては、?活動の対象となる土地の所有権を買い取ったり、その所有権を譲り受ける“所有型”が基本的な活動形態であるが、地価の高騰等の影響を受け、?所有権の移転を伴わずに、地上権を設定したり、土地所有者との間で賃貸借等の契約を結ぶことにより、活動の対象となる土地の管理権を取得する“協定型(非所有型)”も活動形態の一つに位置付けられており、前者に関して9,150ha、後者に関して1,220haの土地が保全されている*3。このような活動は、各地域における自然環境に価値を見出し、その保全を行うことを通じて、地域におけるさまざまな生態系や種の持続的な保全・利用を可能とするものである。また、さまざまな者が民間団体への寄附やボランティアとして維持管理に参画することを通じて、それぞれの行える範囲での自然環境保全の実施を促進することに
つながっている。
このナショナル・トラスト活動が最初に行われたのは、古都鎌倉である。鎌倉の鶴岡八幡宮の裏山にある御谷おやつに業者が宅地造成を計画したことに対し、地元の住民を中心に反対運動が起こり、土地買い取りの運動が行われた。また、和歌山県田辺市の天神崎においても、同様に、開発業者が別荘地造成を計画していることに対し、土地買い取りの運動に発展していった。当初は、このように、開発により自然環境が破壊されることを未然に防止することを目的に、大規模な開発から自然環境を市民自らの手で守る手段としてナショナル・トラスト活動が行われた。しかし最近では、相続が発生した際に相続人が高額な相続税を支払うことができないため、土地等を売却して現金化せざるを得ず、その結果として、その土地等が開発業者等により改変されることとなり、その土地における自然環境が保全されなかったという事例が増加しており、このような改変を避けるべく、ナショナル・トラスト活動が行われるというケースが増えてきている。
このような活動の歴史を持つナショナル・トラスト活動であるが、その活動を実施する民間団体の数は増加傾向にあり、団体数は約50団体、面積は約1万haに及んでいるが、その活動が活発に拡大しているとは言い難い。
「土地問題に対する国民の意識に関する調査」*4の結果をみると、土地を預貯金や株式などに比べて有利な資産であると思っている者と思わない者の割合は、平成10年以前は前者が後者を大きく上回っていたが、平成10年以降はほぼ同数の割合となるなど、土地に対する国民の意識は、近年大きく変容している。また、土地所有者の高齢化や過疎化が進み、土地の維持管理を行うことが難しいといった理由により、その所有する土地を、自ら維持管理し続けるのではなく、地方公共団体等に贈与をすることにより適切に保全し続けようとする動きも増加する傾向にある。
しかしながら、地方公共団体においても、維持管理の負担を懸念して土地の寄贈を積極的に受ける傾向には無く、結果として、自然環境の保全等を目的としてナショナル・トラスト活動を行う民間団体等に対し、土地を寄附しようとする者からの相談も増えているといった状況にある。
<企業所有地における民間団体等の自然環境保全活動の現状>
わが国には広大な森林や都市部の土地等を所有している企業も?なくない。このような企業が所有する土地は、そもそも福利厚生施設や研究施設、工場等の敷地として確保されたケースが多いが、わが国の経済状況等により企業活動に直接利用されてこなかった結果、生物多様性の保全上良好な状態が維持されている山林等の土地として残っている状況にある。このよ
うな“自然環境の豊かな土地(森林、緑地等)の面積は約92万ha*5を超えている”とする調査結果もあり、こうした土地も積極的に保全の枠組みに取り込んでいくことが必要である。
近年、国民意識の変化、環境配慮の浸透等を背景として、企業の社会的責任(CSR)に対する関心が高まっており、CSR活動を実施する企業が急速に増加している。この活動の一つとして、前述した企業の所有地を積極的に活用する例が増えてきている。
具体的には、生物多様性の保全に対する意識の高まりや、地球温暖化問題に関連して森林がCO2の吸収源として認識されていること等を背景として、土地の所有者である企業が、その土地を保全しようとする意思を表明し、民間団体等と協働するなどして、森林の保全や里山の管理といったその所有する土地における自然環境そのものを保全する事例が見られるようになってきている。
しかし、そのような取組は全国的に進展しているという状況にはなく、こうした活動による保全がより効果的に行われるように誘導することが必要である。
(2)民間団体等が行う土地の取得等の自然環境保全活動を促進する上での課題
生物多様性が認められ、民間団体等が行う自然環境保全活動による保全が望ましい土地は、地価が高い都市近郊から地価の安い中山間地までさまざまな地域に存在している。現状においては、自然環境保全を目的としたナショナル・トラスト活動が活発に拡大しているという状況にはなく、また、企業の所有地における自然環境保全の取組についても十分に進展しているとまでは言えないが、それには、次のような課題が存在すると考えられる。
1)民間団体等による土地の取得・保全
? 土地の譲渡に伴う課題
ア)譲渡所得の税制優遇措置に係る課題
都市緑地法(昭和48年法律第72号)に基づく緑地管理機構(NPO法人は除く。)に譲渡した特別緑地保全地区内の土地については、譲渡所得について2,000万円の特別控除が認められる等の税制上の優遇措置があるが、土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等へ譲渡する場合についてはそのような優遇措置がないため、民間団体等への譲渡により土地の保全を行おうとする土地所有者の行動を支援することにつながっていない。
イ)みなし譲渡課税の非課税措置に係る課題
個人である土地所有者が、その所有する土地における自然環境の保全等を図ろうとして、土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等にその土地を低額又は無償で譲渡しようとする場合であっても、税制上の取扱いでは、土地は寄附時の時価で譲渡があったものとみなされ、土地の取得時から寄附時までの値上がり益に対して所得税が課税される(みなし譲渡課税)。また土地所有者が法人である場合も、寄附時の時価で譲渡があったこととして課税が行われる。特に、地価が高く値上がりの程度も大きい都市近郊においては当該課税が土地を寄附する所有者の重い負担となる。このため、このような民間団体等への土地の低額又は無償での譲渡が進まず、当該土地における自然環境の保全が図られない状況にある。
このみなし譲渡課税に関し、公益社団法人及び公益財団法人(以下「公益法人」という。)等に土地の寄附を行う場合、その寄附が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することなどの要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは、当該土地に係る譲渡所得税を非課税とする特別措置が設けられている(租税特別措置法第40条)。
しかしながら、この特別措置は、寄附をした日から4ヶ月以内に贈与者が国税庁長官の承認の申請を行い、国税庁長官から要件を満たすとして承認を受けて初めて、その適用がなされることとなる。よって、土地所有者が土地を贈与する時点では非課税になるという確証はないことから、本特例措置を活用した民間団体等への土地の贈与も進んでいない。
なお、公益法人制度改革前においては、上述の税制優遇措置の対象となる特定公益増進法人の認定に関しては、「すぐれた自然環境の保全のためその自然環境の保存及び活用に関する業務を行うことを主たる目的とする法人」(所得税法施行令第217条)という類型が設けられ、主務官庁の許可により認定されていたが、この類型に基づく認定団体は4団体にとどまっていた。公益法人制度改革により、公益法人の認定基準として「地球環境の保全又は自然環境の保護及び整備を目的とする事業」(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第2条別表第十六号)という類型が設けられ、平成20年12月から施行されている。
ウ)相続財産の寄附に関する非課税措置の手続きに係る課題
相続が発生した際、相続人が自然環境保全活動を行う民間団体等に対し相続財産である土地や現金を寄附する場合、それらの相続財産が相続税の課税対象外となるのは、
?民間団体等が公益法人や認定NPO法人、独立行政法人等である場合に限られており、
?これらの法人に寄附を行う場合であっても、相続税の申告期限内(通常、相続人の死亡の日から10ヶ月以内)に寄附を行わなければならないこととされている。
しかし実際には、相続財産を整理し、相続財産の贈与についての全相続人の意思決定を行った上で、維持管理まで任せられる適切な民間団体等へ贈与するといった一連の手続を、この申告期間内に行うことが困難なケースも多く、これらの民間団体等への寄附が進んでいない。
エ)地方公共団体への土地の寄附に係る課題
土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等に対し土地を寄附する場合とは異なり、地方公共団体に土地を寄附する場合は、当該土地に係る譲渡所得税は非課税となるため、土地所有者においては、このような民間団体等ではなく地方自治体に対し土地の寄附を行うインセンティブが働くこととなる。しかしながら、行財政状況の厳しい近年では、維持管理が必要となる土地の寄附を受けることを拒む地方公共団体も?なくない。こうした場合には、地方公共団体が土地の寄附を受け入れつつ、自然環境保全活動を行う民間団体等に土地の維持管理を委託するという手法が考えられるが、その際にはその維持管理費用をいかにして調達・確保するかが問題となる。
? 民間団体等の課題
ア)維持管理の確実性に係る課題
その他、土地所有者が、その所有する土地における自然環境の保全等を図るため、土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等にその土地を寄附すること等を検討している場合、当該民間団体等が、土地所有者の意思を達成しようとして、長期にわたり土地の保全を行うかどうか、適切に維持管理を行うこととなるのかどうかについて確実な保証がないことから、土地所有者も安心して当該民間団体等へ贈与等を行うことができる状況にはない。
イ)土地の購入価格に係る課題
土地等の不動産の時価評価は、その土地を最も有効に利用する方法に基づいて算定するという考え方がある。このため、土地を取得しようとする者が、土地における自然環境の保全を目的として、土地を改変することなく、管理のみ行うことを予定している場合であっても、同様に、その土地が最も有効に利用される方法に基づいて算定されることとなる。
また、開発業者等は、土地取得後の期待収益(土地を運用することにより回収が可能な費用)を加味して土地の購入価格を提示する一方、民間団体等は、そもそも財政基盤が脆弱であり、土地の恒久的な保全のために取得する土地には期待収益が発生しえないことから、期待収益を加味した土地の購入価格を提示することができない。加えて、将来その取得を行う可能性が高い近隣の土地に係る地価の高騰を誘発しないために適正な価格以上では土地を購入しないケースも多いことから、民間団体等は当該土地を落札することができていない。
これらの理由により、土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等は、土地の取得等を行おうとする際、高額な実勢価格を負担しなければならない場合が生ずるが、実際には負担することができず、結果として、土地を取得することが困難となる場合が多い。
ウ)土地取得後の固定資産税等負担に係る課題
また、仮に土地を取得することができたとしても、当該土地に係る固定資産税等の税負担が将来にわたり長期間生ずることとなる。しかし、当該土地において自然環境保全活動を行おうとする民間団体等は、?その土地における自然環境を保全するため、土地を改変することなく管理のみを行い、取得した土地から収益を得ることを予定していないこと、?その主な収入が会費、寄附金等であり財政的に脆弱であることから、固定資産税等の税負担が民間団体等にとって大きな負担となり、円滑な活動の実施に支障を及ぼす可能性がある。
2)民間団体等による土地の維持・保全(土地の取得は伴わない)
? 土地の保全契約による機会費用の逸失等の負担に係る課題
土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等と土地所有者とが、その所有する土地の保全のための契約を締結する場合、土地所有者はその土地の転売等を、一定の期間、自発的に行わないこととなる。
しかしながら、現状としては、これらの保全のための契約は法制度等に基づくものでなく当事者間の任意契約である場合が多いため、土地所有者に対する税制上の優遇措置等は講じられていない。また、この保全のための契約を賃貸借契約とする場合であっても、会費、寄附金等を主たる収入としている民間団体等が十分な賃料を支払うことは難しい。
このため、保全により発生する機会費用の逸失、及び契約期間中の当該土地に係る固定資産税等の税負担について、土地所有者の十分な理解を得られず、結果として、このような保全のための契約が締結されにくい状況にある。
? 民間団体等の信頼性に係る課題
また土地所有者が、これらの民間団体等との間で、その所有する土地の保全のための契約を締結しようとする場合であっても、契約の相手方となる民間団体等に関して十分な情報を持っておらず、当該民間団体等との間で協働関係を構築し、土地の維持管理を任せることに不安を感じたり、維持管理の方針等について土地所有者と民間団体等との間で認識の共有を行うことができないため、契約の締結に至らない場合がある。
? 土地の保全契約の継続性に係る課題
土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等と土地所有者とが、その所有する土地の保全のための契約を締結している場合は、当該契約は当事者間の任意契約であることが多いことから、その土地所有者が亡くなり相続が発生したときは、保全契約が継続されるかどうかは相続人の意思に左右されることとなり、安定的に長期にわたり当該土地の自然環境の保全を図ることが困難である。
3)民間団体等の運営基盤
? 民間団体等の財政的安定性に係る課題
土地の取得等の自然環境保全活動を自立的に、継続して実施するためには、そのための資金を安定的に確保する必要がある。
しかしながら、土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等は、その主な収入が会費、寄附金等であることから、必ずしも安定的に十分な資金を確保できている状況にはない。また、自然環境保全活動そのものやその活動の意義、その活動を行う民間団体等についての認知度が低いため、全国民的な理解と協力の下に自然環境保全活動が積極的に推進されているとは言い難い状況である。
? 自然環境の管理水準に係る課題
民間団体等が土地の管理を行う際、その管理の程度として、その土地において維持されている自然環境を引き続き適切に維持しようとするケースと、そのような土地において保全すべき自然環境が既に回復を要する状態にありその回復を図るケースが想定される。しかし、それぞれのケースにおいて、どのような水準で管理を行うべきか、民間団体等にとっては必ずしも明らかではないため、適切な管理が行われない場合がある。
? 民間団体等のスタッフ体制に係る課題
また、土地の取得等の自然環境保全活動を民間団体等が行う場合、不動産鑑定、土地の測量、契約、登記、税制等のさまざまな専門知識が必要となる。この他にも、活動の対象となる土地についての情報収集、土地の確保に向けた土地所有者との交渉等、民間団体等が行う必要のある事務も多岐にわたっている。
しかしながら、会費や寄附金等で運営するこのような民間団体等では、財政的に、そのような専門知識を有するスタッフを雇用することは難しく、また、専従のスタッフを配置することも困難な状況にある。
4.具体的な施策の考え方
上記の課題に対処するためには、促進すべき自然環境保全活動を公的機関が認定し、認定された活動に対して税制優遇を始めとする各種の支援措置を与えることが有効であると考えられる。この考え方に基づいて、国、地方公共団体及び民間団体等が、それぞれの責務にしたがって活動を促進するための仕組みを整えることが必要である。
(1)基本的な考え方
国や地方公共団体は、国土の地域ごとの生物学的特性を示す代表的、典型的な生態系や、多様な生物の生息・生育の場として重要な地域について保護地域制度を活用し、主に人の手が入ることを制限することによって直接その保護を図る。ただし、これらの地域でも、民間団体等により生態系の維持・再生のための活動が行われており、これらへの支援は必要である。
一方、さまざまな人間の働きかけを通じて維持・保全されてきた生態系については、国や地方公共団体は、できる限りその場所の特性に応じた保全が図られるよう、NGO、企業、地域住民など多くの主体の参画を促し、それらの活動を支援するため、経済的措置を含めた制度や社会的な評価の仕組みを充実することが必要である。
(2)自然環境保全活動の促進にあたっての各主体の責務
<国>
民間団体等が行う土地の取得等の自然環境保全活動の促進に当たり、国は、これらの促進をすることについてわが国の生物多様性の保全上どのような意義があるか、わが国の生物多様性の保全の観点から民間団体等によりどのような活動が行われることが望ましいか、この促進に当たっての基本的な方向性は何か、この促進のために国、地方公共団体、民間団体等がどのような連携を行っていくべきか等の基本的な考え方について、まず明らかにする必要がある。
その上で、民間団体等が行うこれらの自然環境保全活動を促進するために、民間団体等の活動状況の情報発信を国民に対して行う等の各種措置を積極的に講ずべきである。
<地方公共団体>
地方公共団体は、わが国における生物多様性の保全を図るため、国が定める基本的な考え方に基づき、地方公共団体の管轄する区域において行われる、民間団体等による土地の取得等の自然環境保全活動の促進に関する基本的な方針を定めるべきである。
また、国が行う各種措置に合わせて、民間団体等が行う土地の取得等の自然環境保全活動を促進するための各種措置を自ら講ずる必要がある。
<民間団体等>
民間団体等は、自然環境保全活動の対象となる土地における自然環境が良好に保たれるため、地域の自然的社会的条件に応じて、自然環境保全活動を長期間にわたり継続して実施することを旨として、その活動に取り組むべきである。
併せて、自らが行う土地の取得等の自然環境保全活動が、わが国における生物多様性の保全に資する取組であり、大変重要な位置にあること、この自然環境保全活動を行う原資となる資金の確保等のために、活動の意義や活動がもたらす成果等を広く一般の方々に知らしめることを通じて、多くの人々に、活動に直接的に参加し、又は、寄附金の支出等資金面での援助により間接的に参加してもらい、自然環境の保全に向けた共通の目的を持ってもらうことにより、社会をよりよい方向に変革していくことができることを、明確に認識する必要がある。企業においても、事業活動の一環として自然環境保全活動に自ら取り組む、又は他の民間団体の活動を支援することが望まれる。
そのような認識を持った上で、土地の取得等の自然環境保全活動を実践するとともに、その活動に対する支援を得るための努力を講じていくことが大変重要である。
(3)自然環境保全活動を進める上での基本的な仕組み
上記で言及した各主体の責務に基づき、自然環境保全活動の公益性を公的機関が認定し、その社会的信頼性を確保するための以下のような仕組みが考えられる。
国による基本的考え方の策定
各主体がその責務、役割等を認識した上で、民間団体等が行う土地の取得等の自然環境保全活動の促進に取り組むため、国が、民間団体等が行う自然環境保全活動の促進に関する基本的考え方を策定する。
地方公共団体による基本方針の策定
地域の実情に即したきめ細かい自然環境保全活動を支援するため、地方公共団体は、国が定める基本的考え方に基づき、民間団体等による土地の取得等の自然環境保全活動の促進に関する基本的な方針、促進の対象とする民間団体等が行う自然環境保全活動の考え方等を定める「基本方針」を生物多様性基本法の趣旨を踏まえて策定する。なお、基本方針の策定に当たっては、地域住民等の意見も聴くものとする。また、生物多様性基本法に基づく「生物多様性地域戦略」が策定されることが、望ましい。
民間団体等による自然環境保全活動計画の策定
民間団体等は、その行おうとする自然環境保全活動が、より着実に、より継続的、自立的に実施されるよう、活動地域・活動内容を明らかにし、国が定める基本的考え方及び地方公共団体が定める基本方針に照らして適切な、中長期的に持続可能な自然環境保全活動計画を策定するものとする。活動内容としては、土地の取得や、下草刈りや落ち葉かきなどの維持保全活動のほか、環境教育活動等が考えられる。これにより、当該計画に基づいて行われる自然環境保全活動が公益的な側面を有することが明らかとなる。
地方公共団体の長による自然環境保全活動計画の認定
当該計画に基づいて民間団体等が行う自然環境保全活動の公益性を担保するため、地方公共団体の長が当該計画について認定を行うこととする。その認定に当たっては、計画の内容が、国が定める基本的考え方及び地方公共団体が定める基本方針に照らして、自然環境を維持又は回復するために有効かつ適切なものであり、継続性を持って実施される活動であること等を確認するものとする。
その他
地方公共団体は、自然環境保全活動が計画に基づき適切に実施されているかどうかについて把握するため、必要に応じ報告を求めることとする。
また、わが国の生物多様性の保全が長期的に継続して図られるよう、民間団体等が行う自然環境保全活動に係る計画の実施期間はできる限り長期間で設定されること、また実施期間終了後においても、正当な理由がない限り計画を更新することが望ましい。
(4)土地を取得し、保全する活動を促進するための措置
生物多様性の保全のためには、さまざまな自然環境が存在する土地を自立的に、継続して保全することができるよう、その土地を取得することが最も有効な方法である。これまで行われてきているナショナル・トラスト活動においても、その保全の効果から、まずは、対象となる土地の所有権を取得することが目標とされてきたところである。
よって、土地を取得し、保全しようとする民間団体等の自然環境保全活動を強力に促進する必要があり、民間団体等へ土地が寄附されることを促したり、民間団体等が土地を取得しやすくなるための措置を講ずることが重要である。
?信頼性の向上
財政的基盤の弱い民間団体等が、自然環境保全活動として土地の取得等を行おうとする際、実勢価格に見合った十分な対価を支払い、その取得等を行うケースはまれであり、むしろ、土地やその土地における自然環境をできるだけ保全したい、そのような保全を全うできる者に土地を譲り渡したい、といった土地の保全を求める土地所有者から、土地を無償又は低額で譲り受ける場合が多い。
しかしながら、どの民間団体等が土地所有者の想いを着実に、継続的に実現できるものであるかどうかについて、土地の譲渡を検討している土地所有者が一般的に公開されている情報から判断することは必ずしも容易ではない。実際には、土地所有者が適切な譲渡先であると判断することができないため、譲渡が行われず、当該土地が転売される等の結果、土地が改変され、土地やその土地における自然環境の保全が実現されないこととなる場合がある。
このような事態を解消し、所有する土地を保全したいと考える土地所有者が適切な民間団体等に安心して土地を譲り渡すことを可能とするため、自然環境保全活動として土地の取得等を行おうとする民間団体等が、当該土地における自然環境の保全のための活動に関する計画を策定し、当該計画について公的機関の認定を受けることとする等、公的主体が一定の関与を行うことにより、民間団体等の行う自然環境保全活動が適切に、継続的に行われるものかどうか、その結果として土地や土地における自然環境の保全が図られるものかどうかを明らかにすることが必要である。
これにより、土地所有者は、認定を受けた計画に基づき自然環境保全活動を行おうとする民間団体等に対して、土地の譲渡を安心して行うことができることとなり、そのような譲渡が増加する結果、自然環境の保全のための取組が促進されることとなる。
?税制措置
■所得税・法人税(譲渡益に対する課税の問題)
民間団体等が、土地の取得を行い、土地における自然環境の保全を行おうとする場合、会費、寄附金等の収入を基本としている民間団体等が土地所有者に提示できる価格は、比較的低額とならざるを得ない。
このような場合に、土地所有者の譲渡益に課される所得税、法人税について対価の一定額を控除する等の優遇措置を講ずることにより、自然環境の保全を目的に、民間団体等に土地を転売しようとする土地所有者を支援することとなり、その結果として、民間団体等により自然環境の保全が図られることとなる。
■所得税(贈与、遺贈又は著しく低い対価での譲渡を行った場合の課税の問題)
個人である土地所有者がその所有する土地における自然環境の保全のため、当該土地を寄附しようとする場合、ナショナル・トラスト活動を行う民間団体等に贈与、遺贈、又は著しく低い対価での譲渡を行ったときは、時価による譲渡が行われたものとして、土地所有者に対し所得税が課税される(みなし譲渡課税)。
この「みなし譲渡課税」に関しては、公益法人に財産が贈与又は遺贈された際には、その贈与又は遺贈がなかったものとして課税されないこととされているが、そのためには、当該公益法人の当該公益目的事業の用に直接供され、又は供される見込みであることその他の政令で定める要件を満たすものとして「国税庁長官の承認」を個別に受けることが必要とされている。しかしながら、土地所有者が寄附等を行う時点では、非課税となるか否かが明らかではないことから、課税を避けたい土地所有者は、その土地の寄附を行おうとはせず、当該土地における自然環境の保全が図られない可能性がある。
これに関し、
?個別に国税庁長官の承認を得るのではなく、民間団体等が作成する自然環境保全活動に関する計画について公的な認定を受けたことをもって国税庁長官の承認に代えること、
?事前に国税庁長官の承認の可否について確認することを可能とすること、又は、
?一旦寄附を行った後、国税庁長官の承認が得られなかった場合には、当該寄附が行われなかったものとして取り扱われるための更正の請求を認めることを制度的に担保することで、土地所有者が安心して土地を寄附することができるようにすることが必要である。
■法人税(贈与又は著しく低い対価での譲渡を行った場合の課税の問題)
法人である土地所有者がその所有する土地における自然環境の保全のため、当該土地を寄附しようとする場合、ナショナル・トラスト活動を行う民間団体等に贈与又は著しく低い対価での譲渡を行ったときは、時価による譲渡が行われたものとして、土地所有者の譲渡益に対し法人税が課税される。
具体的には、法人である土地所有者が土地を贈与した場合や低額で土地を譲渡した場合、当該土地を時価で売却したという擬制の下で譲渡益が益金に計上され、法人税が課税されることとなる。特に、地価が高く値上がりの程度も大きい都市近郊における含み益の多い土地については、寄附の際に大きな税負担が発生することとなる。
よって、土地の時価相当の寄附があったものとして損金算入を認めれば、土地所有者にとっては、寄附を行おうとする大きなインセンティブとなり得る。
具体的には、寄附に係る一団の土地の価格が単年の寄附金の損金算入限度額を超える場合もあるため、認定計画に基づいて管理される土地を寄附する際、財務大臣の指定する指定寄附金と同様に、その土地の価格の全額を損金算入することができることとしたり、次年度以降に繰り延べてその全額を損金算入できることとする等の措置を検討することが必要である。
なお、土地と併せて維持管理のための財源を寄附する場合には、土地の価格と併せて、その全額の損金算入を認める等により、民間団体等が維持管理を安定的に行う基盤を確保することも必要である。
■相続税
土地の所有者が死亡し、相続が発生した場合、相続税の支払いのために土地を譲渡する等して現金化する事例は特に都市部において顕著に見られる。この場合、相続人が相続税の申告前に、相続により取得した財産を公益法人又は認定NPO法人に贈与したときは、贈与をした財産に係る相続税は非課税とされているが、相続税の申告期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内であり、この期間内に、相続人が一連の手続を行った上で適切な相続財産の贈与先を見つけることが難しい場合もある。
このため、相続人が、自然環境保全活動に関する計画について地方公共団体の認定を受けた公益法人又は認定NPO法人へ土地等の贈与を希望し、真摯に関係者との調整を行っているものについては、申告・納付の期限を延長できるようにし、できるだけ保全が進むように促すことが望ましい。
■固定資産税等
固定資産税は、固定資産の所有者が行政サービスの恩恵を受けていることに着目し、その恩恵の量に応じて課される応益税である。したがって、地方公共団体、国等に無償で貸し付けられた土地が公用又は公共の用に供されている場合には、公益目的で使用されていることに照らし、地方税法により固定資産税及び都市計画税が非課税とされているが、民間団体等が所有権を取得して管理を行っている土地については、特段の税制上の優遇措置は講じられていない。
しかしながら、民間団体等が所有権を取得し、地方公共団体の認定を受けた自然環境保全活動に関する計画に基づいて当該土地の管理を行う場合、当該土地は、当該計画に基づき自然環境の保全のために適切に管理されることとなる。
よって、前述の地方公共団体等に貸し付けられた土地が公用等に供される場合と同様に、民間団体等が土地の所有権を取得し、当該土地について認定計画に基づき適切に管理を行う場合には、その土地の公益的な価値に着目し、固定資産税及び都市計画税に関して税制上の優遇措置を講ずることが適当である。
(5)土地を維持・保全する活動を促進するための措置
土地を所有し続けようとする意識が比較的高いわが国においては、土地の維持・保全等の自然環境保全活動を行おうとする民間団体等が、土地の所有権を取得して当該土地の管理を行う活動のほか、所有権の移転を伴わずに、土地所有者との間で土地の賃貸借契約を締結し、当該土地に係る自然環境保全活動に関する計画に基づき土地の管理を行うことにより、当該土地における自然環境を保全する活動がある。
この場合、民間団体等は、土地の管理権を得るために締結される賃貸借契約等の範囲内での賃料等を負担することによりその土地の保全が可能となることから、対価を支払い、土地の所有権を得る場合に比べればより対応しやすいものとなる。土地所有者においても、その有する土地の所有権を保持したまま自然環境の保全の取組に協力することができることから、一定の期間、その所有する土地における自然環境を保全するための活動が積極的に行われやすくなることとなる。
また、約90万haにのぼるとも言われている企業の所有地に関し、企業側は、適切に管理することによりCO2の吸収源や清らかな水源となる山林等の価値を見直し、その所有地の所有権を保持したまま、昨今求められているCSR活動の一環として所有地における自然環境の保全に積極的に取り組んでいきたいと考えている反面、現下の厳しい経済状況にあっては、所有地の管理に要する費用を支出することがなかなか難しいという実情にある。一方、山林や草原等の自然環境を適切に保全することに関心の高い民間団体等であるものの、活動するための土地を確保できていない場合も多い。
このため、これらの民間団体等が土地所有者である企業との間で一定期間、賃貸借契約等を締結し、その土地に係る管理権を得て管理を行うことにより、このような土地における自然環境の保全を図ることが想定される。
これらの状況を踏まえ、土地を所有し続けようとする意識が比較的高いわが国においては、この形態の自然環境保全活動を積極的に促進する必要があり、そのため、安定的に自然環境が保全されるための措置を講じたり、土地所有者に対し民間団体等への土地の管理権の提供に係るインセンティブを与えることが重要である。
?土地を維持・保全する活動の継続的な実施
この形態の自然環境保全活動が適切に継続して実践されるためには、民間団体等が土地所有者との間で締結する賃貸借契約等が長期間、安定的に保持される必要がある。
このため、例えば、民間団体等が土地所有者との間で自然環境保全活動の対象となる土地について賃貸借契約を締結し、契約に基づく管理権を前提として、その土地を管理するという自然環境保全活動に関する計画を定めて活動を行おうとする場合、その活動の内容を広く一般に公表し、このような計画が自然環境の保全のための活動の促進に重要である旨を公的に認定することにより、新たに、計画の対象である土地の所有者となった者に対しても、その効力を引き続き有効とすること(承継効の付与)や、土地の所有者が正当な理由なく計画の有効期間中に土地の返還を申し出てはならないこととするなど、当該土地等における自然環境の長期にわたる保全が図られるための法的その他の適切な仕組みを検討することが必要である。
?税制措置
■相続税
民間団体等が行う自然環境保全活動に関する計画に関し、その対象である土地について相続が発生した場合においても、当該土地おける自然環境の長期にわたる保全が図られるための法的その他の適切な仕組みとして承継効を付与するとした場合、当該土地の所有権が相続により土地所有者(被相続人)から相続人に移転したとしても、計画の存続期間はその土地の利活用が制限されることとなり、土地の所有権の資産価値は減?することとなる。
このため、賃借権が設定されている土地等の取扱いに照らし、当該土地に係る相続税に関して、その課税の対象となる相続財産の評価額について一定の減額が行われることが適当である。
また、こうした形態での自然環境保全活動の実施の安定性を長期に渡って確保できるよう、賃借権と比較して長期に設定できる地上権又は地役権に関して、自然環境の保全を目的として設定することの可能性について検討することが必要である。
その上で、設定された権利の内容に応じて、相続税の課税の対象となる土地の価格の減価を認めることを可能とすることが必要である。
■固定資産税等
固定資産税は、固定資産の所有者が行政サービスの恩恵を受けていることに着目し、その恩恵の量に応じて課される応益税である。したがって、地方公共団体、国等に無償で貸し付けられた土地が公用又は公共の用に供されている場合には、公益目的で使用されていることに照らし、地方税法により固定資産税及び都市計画税が非課税とされているが、民間団体等が管理権を得て管理を行っている土地については、特段の税制上の優遇措置は講じられていない。
しかしながら、民間団体等が土地所有者との間で賃貸借契約等を締結し、地方公共団体の認定を受けた自然環境保全活動に関する計画に基づいて当該土地の管理を行う場合、当該土地は、当該計画に基づき自然環境の保全のために適切に管理されることとなる。
よって、前述の地方公共団体等に貸し付けられた土地が公用等に供される場合と同様に、民間団体等が土地所有者との間で締結した賃貸借契約等の対象となる土地について認定計画に基づき適切に管理を行う場合には、その土地が公益目的で使用されていると捉え、固定資産税及び都市計画税に関して税制上の優遇措置を講ずることが適当である。
(6)土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等の運営基盤の強化等
ナショナル・トラスト活動等の自然環境保全活動を行う民間団体等は、公益法人やNPO、任意団体である場合が多いことから、活動のための資金が十分ではなく、事務局についても十分なスタッフを雇用することができないなど、その運営基盤は大変脆弱である。
わが国における生物多様性の保全のためには、さまざまな土地における自然環境を自立的に、継続して保全することができることが重要であり、そのためには、その保全を担う民間団体等が、自立的に、継続して活動できることが前提となることから、そのために必要となる措置を講ずる必要がある。
?資金の確保
民間団体等が土地の取得等の自然環境保全活動を実践するためには、まず、その活動のための資金の確保が重要である。
ナショナル・トラスト活動を行う公益法人、NPO等の民間団体については、その主な収入源は、会員からの会費や個人・企業からの寄附金、公的主体や他の民間団体からの各種助成金、自主的な事業から得られる収入や、公的団体等からの事業の受託による収入等である。このような民間団体は、その本来的な活動をより自立的に実施するため、まずは、会員からの会費、個人・企業からの寄附金といった収入を基本として自然環境保全活動のための資金を確保する必要がある。
人類共通の財産である生物の多様性を確保し、そのもたらす恵沢を将来にわたり享受するためには、ナショナル・トラスト活動を継続的に長期にわたり実施することが重要であり、土地の購入資金や民間団体等の活動資金に充てるべく、長期間継続的に寄附金の拠出等の支援を得る必要がある。
このため、まず、民間団体等が行う土地の取得等の自然環境保全活動自体についての理解を得ることが必要である。一時的な資金の提供ではなく、継続して資金を提供してもらうためには、わが国で顕著に見られる“気が向いたときに募金を行う”といった形の寄附では不十分である。長期間、継続的に寄附金の拠出等の支援を行ってもらうため、民間団体等が行う土地の取得等の自然環境保全活動について説明し、共感してもらうこと、そして寄附金を拠出した結果について興味を持ってもらうことがポイントとなる。このための取組として、ホームページや会報などを用いて活動状況を報告する等、積極的に情報公開することはもとより、寄附金を支出した方々の個々の行動が、直接的にどのように民間団体等の自然環境保全活動に結びついたのかについて、よりきめ細かく伝えていく必要がある。
また、寄附のしやすさを向上させることが必要である。平成12年12月に経済企画庁国民生活局が発表した「平成12年度 国民生活選好度調査 −ボランティアと国民生活−」では、寄附をしている世帯の寄附額は、調査対象となった世帯数のうち約半数の世帯で一月当たり500円以下となっており、1,000円以下の世帯が21%、5,000円以下の世帯が22%となっている。このような状況を踏まえ、寄附を受ける場合の寄附金の額の設定に当たっては、例えば1,000円や500円単位とするなど、細かく寄附することができるようにするなどの工夫が必要である。
このほか、寄附のしやすさの一助として、他の団体との連携を模索することも想定される。有名な事例として、富士ゼロックスにおいて平成3年から実施されている「端数倶楽部」というものがある。これは、富士ゼロックスで働く人々や退職者によって構成され、自発的、自主的に運営されている社会貢献活動団体が、希望者の給与や賞与の端数部分(100円未満)を天引きして寄附する仕組みであり、これまで約2億円もの額の寄附を行っている。
寄附金の支出の方法についても、これまでは郵便局や銀行での振込が用いられる場合が多かったが、寄附を行おうとする者がより簡便に寄附することができるよう、インターネットや携帯電話の活用、クレジットカードやコンビニ決済の導入等を行うことも考えられる。
より確実に多額の寄附を得るため、例えば、企業と連携を図ることも考えられる。アサヒビールが、売上げに応じて各都道府県に自然環境保全等のための資金を寄附するとのキャンペーンを行い、約2ヶ月の間に約2億2,000万円の寄附に相当する売上に達するなど、近年、企業がその売上の一部を自然環境保全活動等へ寄附することを表明することで売上が伸びる事例も報告されている。土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等についても、売上げに応じて寄附を行うといった取組を行おうとする企業と連携を行うことにより、活動資金を確保することが可能となることから、そのような連携を行いやすくすることが必要である。
このように、民間団体等がさまざまな工夫を行うことにより、継続的に安定した会費収入や寄附金収入を受けることができるよう、そのような取組への支援について検討する必要がある。
なお、前述したような取組を行うことは、単に民間団体等が活動資金を得て、その活動を長期間、継続的に実施しやすくすることをもたらすだけではなく、さまざまな人々が、これらの民間団体等がどのような考え方の下にどのような自然環境保全活動を行っているかを知り、その趣旨に賛同して会員となり会費を支払う、寄附金を出す、つまり、“多くの人々に自然環境の保全に向けた共通の目的を持ってもらうこととなり、社会をよりよい方向に変革していく”ことにもつながるものである。民間団体等においては、そのことを念頭に置いてその活動に対する支援を得るための努力を講じていくことも重要である。
?税制措置
土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等の運営基盤の強化のためには、まず、適正な事業活動の実施や情報公開により会員や寄附者の理解を得るためのさまざまな取組を実施する必要がある。そして、そのような取組を補完するものとして、寄附金がより確保しやすくなるための税制上の優遇措置が考えられる。
例えば、現在、国や地方公共団体に対して寄附金を支払った場合、確定申告により一定額が所得から控除され所得税が還付されたり、寄附金の全額が損金に算入できることとされている。このほか、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものと認められた公益法人や独立行政法人等に対して寄附金を支払った場合にも、同様の優遇措置が受けられることとされている。
また、NPO法人についても、その活動資金を外部から受けやすくすることで、その活動を支援することを目的とする「認定NPO法人制度」という寄附金に係る税制上の優遇措置が講じられ、平成13年から施行されている。この「認定NPO法人」とは、一定の要件を満たすものとして国税庁長官の認定を受けたNPO法人を指しており、累次の税制改正により認定要件の緩和等も行われているが、平成21年7月現在で95法人(特定非営利活動法人法に基づき認証されているNPO法人は37,562法人(平成21年5月末現在))にとどまっており、NPO法人の実態を踏まえた更なる見直しが必要ではないかとの問題提起がある。*6
このような状況を踏まえ、土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等を支援することにより、わが国における生物多様性の保全を図るため、まず、民間団体等のうち旧民法第34条に基づく公益法人であって、公益法人改革後の公益法人への移行期間にあるものについては、できる限り公益認定を得て税制上の優遇措置を受けることができるよう、その認定に向けた支援について検討する必要がある。
また、公益法人や認定NPO法人に限らず、一定の公的な認定を受けた自然環境保全活動計画に基づいて自然環境保全活動を行う民間団体等について、当該自然環境保全活動に係る寄附金に関する税制上の優遇措置やみなし寄附金制度を適用できるようにする必要がある。
?情報の共有
民間団体等が土地の管理を行う際、その管理の程度として、その土地において維持されている自然環境を引き続き適切に維持したり、既に回復を要する自然環境について回復を図ることが想定されるが、自然環境保全分野の専門家を雇う財政的基盤を必ずしも持たない民間団体等にとっては、どのような水準で管理を行うべきか必ずしも明らかではなく、適切な管理が行われない場合には、自然環境が適切に保全されず、結果として、生物多様性の保全が図られないこととなるおそれがある。
このため、例えば、土地の種類等に応じて、その土地における自然環境の保全のための維持管理に関するノウハウや技術手法を整理し、民間団体等に情報提供することが必要である。
土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等が、その活動を着実に、自立して継続的に行うためには、土地の取得に係る不動産鑑定、相続時に土地等の寄附を受ける場合の税務上の手続、寄附金等に係る税制上の優遇措置、自然環境の保全の観点からの土地の維持管理に要する専門知識など、さまざまな専門的な知見が必要となる。また、会員や寄附金を受けた者に対して行う民間団体等の活動の実施状況に関する情報の提供や、新たな会員や寄附金の獲得、活動の対象となる土地についての情報収集や土地の確保に向けた土地所有者との交渉等、民間団体等が行う必要がある事務も多岐にわたっている。
しかしながら、土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等については、同一の目的を有する地域の住民等が民間団体等を立ち上げて自ら事務局として活動を行う事例が多く、また活動に必要となる資金が不足するため、不動産鑑定等の専門家を確保することが難しく、必要十分な数の職員を雇用できるような状況には無い。
このため、例えば、不動産鑑定や相続、税制等の土地に関わる専門家との連携を確保した支援センター機能を有する組織を設け、土地の取得等の自然環境保全活動を行おうとする、又は行っている民間団体等が随時相談できるようにしたり、当該組織が、過去の相談事例を整理し、これらの民間団体等がアクセスできるように情報発信することが必要である。
また、支援センター機能を有する組織が、民間団体等が情報発信するためのホームページ作成等を技術的に支援したり、遺産相続の手続の具体的内容、寄附金の額の増大のための工夫等、それぞれの民間団体等が実際に経験し、蓄積したノウハウについて収集・整理し、他の民間団体等に良好事例として情報提供することも必要である。
?共通認識の醸成
民間団体等が、土地の所有権を得たり、賃貸借契約等により土地の管理権を得るなどして、当該土地の維持管理を行おうとする場合、自然環境が適切に保全されるためには、地域の特性に応じた適切な維持管理を実施することが必要である。また、土地所有者や地域住民と維持管理のあり方について認識を共有し、相互に連携して取り組むことも大変重要である。
このため、その前提としての市民・土地所有者への普及啓発のほか、必要に応じ、土地所有者や地域住民、自然環境に関する専門知識を有する者等が維持管理のあり方について意見交換できる場や、自然環境保全の方向性の合意を図るワークショップの場を設定することが望ましい。そして、そのような場の設定が進むための支援について検討することが必要である。
5.中長期的な課題
今回の検討は、生物多様性基本法において、民間の団体等が行う生物多様性の保全のための重要な取組の一つである「ナショナル・トラスト活動」等を推進するため、税制優遇措置等を講ずることとされたこと、平成22年10月に、わが国において生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の開催が予定されていること等の生物多様性の保全に向けた諸要請を踏まえ、早急に実施すべき措置について検討してきたところであり、その検討の結果については、当面講ずべき措置として4.までにおいて取りまとめたところである。
しかしながら、本検討会としては、わが国における生物多様性の保全が真に図られるためには、生物多様性基本法で記された「自発的な活動」が十分に促進されるよう、さらにドラスティックな措置を講ずる必要があると考える。このため、以下に掲げる事項について、引き続き検討を続けるべきと考える。
(1)長期的に土地の取得等の自然環境保全活動を行う仕組み
イギリスにおけるナショナル・トラスト法においては、「譲渡不能の原則」という仕組みがある。具体的には、同法に基づき設立された「ナショナル・トラスト」に対して、その保存の対象となる資産である土地、建物等について「譲渡不能」と宣言する機会が与えられており、この宣言を受けた資産は、売却あるいは担保に供されることはなく、また、国会の特別の議決がある場合を除き、強制収用されないこととされている。
わが国においても、生物多様性の保全を図るため、日本国憲法第29条第3項において「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」と規定されていることを踏まえつつ、英国のナショナル・トラストのように、ナショナル・トラスト活動を行う民間団体等がその所有する土地、建物等について将来にわたり保全し続けることを表明したときは、当該土地、建物等については売却や担保に供されず、また国会の議決があるなど特別の場合を除き、当該土地、建物等が強制収用されないこととする仕組みの可能性を検討することが必要である。
(2)土地の取得等の自然環境保全活動を行う主体の抜本的強化
イギリスにおいては、ナショナル・トラスト法に基づいて、国民の利益のために、美しい土地等を恒久的に保存することを目的とした法人である「ナショナル・トラスト」が設立されるとともに、この法人に対し、譲渡不能を宣言する権利が付与されたり、ナショナル・トラストに寄贈等された資産について税制上の優遇措置が講じられるなど、さまざまな特権が設けられ、その取組の推進が図られている。
わが国においても、土地の取得等の自然環境保全活動を、長期間、継続して実施し続けるため、またその活動への支援措置を講じやすくするため、英国におけるナショナル・トラストのように、自然環境保全活動の対象となっている土地等の資産を、個々の民間団体等が所有するのではなく、例えば、特定の法律により設立される法人が取りまとめて所有することも検討すべきである。なお、その土地等の維持管理に当たっては、当該特定の団体が、各地域において自然環境保全活動を行う民間団体等と協定などを締結し、当該民間団体等が維持管理に取り組むことが考えられる。
(3)土地における自然環境を保全するための新たな権利の設定
わが国においては、土地の所有権ほど強力ではないものの、土地を一定の目的の下に使用する権利として「地役権」がある。この「地役権」とは、一般的には、要役地(便益を受ける側の土地)と承役地(要役地の便益のために利用される土地)の間で設定される“付随地役権”と言われる権利である。
一方、米国においては、土地環境を保全する目的に反する活動を制限することができる権利として「保全地役権(Conservation Easement)」がある。これは地役権の一種であるが、わが国における地役権と異なり、人の便益のために他人の土地を利用する権利とされており、承役地の有無にかかわらず、土地の所有者と行政機関や公益法人等の契約により設定することが可能である。
わが国においても、民間団体等が自然環境保全活動としてより積極的に土地の保全を行うことができるよう、米国の「保全地役権」を参考に、これまで認められている “付随地役権”に限らず、人の便益のために他人の土地を利用する権利と捉える新たな地役権を設けることを検討すべきであると考える。
(4)自然環境保全活動の対象となる土地における自然環境に係る情報の整備等
わが国に存在する自然環境の基本情報については、自然環境保全基礎調査等により、縮尺5万分の1の植生図等が整備されており、また平成11年度からは、2万5千分の1の植生図への全面改訂が順次実施されている。
しかし、これまでわが国において行われてきた、自然環境保全を目的としたナショナル・トラスト活動では、数ヘクタールの土地が対象となる場合が多く、必ずしも十分な精度の情報は得られていない。
今回検討を行った民間団体等による自然環境保全活動を促進する仕組みをより充実させ、又は、その対象となっているような小規模の自然環境までを保全する措置等を検討するためには、そのような自然環境に関するより精度の高い基礎的な情報を整備することが必要である。
また、わが国における生物多様性が適切に保全されるためには、そもそも、わが国にどのような生物多様性が存在しているかといった基本的なデータが整備される必要がある。生物多様性基本法においては、地方公共団体は生物多様性地域戦略を策定するように努めることとされているところであるが、生物多様性に関する基本的なデータが整備されることにより、よりよい地域戦略が策定されることが期待される。
http://www.env.go.jp/nature/national-trust/conf_ncaco/rep0909.pdf
報告書
1.はじめに
昨年6月に制定された生物多様性基本法(平成20年法律第58号)の前文において、人類と生物多様性に関して次のように述べられている。
「人類は、生物の多様性のもたらす恵沢を享受することにより生存しており、生物の多様性は人類の存続の基盤となっている。また、生物の多様性は、地域における固有の財産として地域独自の文化の多様性をも支えている。」
しかしながら、その人類の存続の基盤となっている生物多様性は、今、人類との関わりがもたらす危機に脅かされている。
「生物の多様性は、人間が行う開発等による生物種の絶滅や生態系の破壊、社会経済情勢の変化に伴う人間の活動の縮小による里山等の劣化、外来種等による生態系のかく乱等の深刻な危機に直面している。」
わが国の生物多様性の現状を見てみると、例えば植生に注目すれば、急峻な山岳地、半島部、島嶼といった人為の入りにくい地域に自然植生が分布し、平地や小起伏の山地では二次林や二次草原などの代償植生や植林地、耕作地の占める割合が高くなるなど、さまざまな段階の生態系が、さまざまな緯度、標高、水環境に立地することにより、非常に豊かな生態系の多様性が存在している。こうした生態系は、わが国の気候や地史と自然へのさまざまな働きかけの結果残されてきた特徴あるものといえるが、現在では広い範囲で失われてきている。
このような状況を踏まえ、国や地方公共団体においては、自然環境保全に関連する各種法律に基づき、さまざまな保護地域を設定し、生物多様性の保全の観点も踏まえてこれらの保護地域を適切に管理しているところであるが、未だ十分な状態であるとはいえず、多様な主体との連携を進めつつ、引き続き積極的に生物多様性の保全に取り組むことが重要である。
そのような国や地方公共団体といった公的主体の取組の一方で、国民からの寄附金を用いて、自然保護のために、身近な自然の豊かな民有地を買い入れて管理を行い、保全を図っていこうとする「ナショナル・トラスト活動」や、企業等が所有地を活用してNGO等との協力により緑地を保全する活動など、民間団体等による生物多様性の保全のための取組が行われてきている。 特に「ナショナル・トラスト活動」に関しては、昭和30年代に活動がスタートした当初は、大規模な開発から自然環境を市民自らの手で守る手段としてその活動が実施されたが、最近では、相続を契機としたやむを得ない土地の売却・開発による自然環境の改変を避けるべくその活動が実施されるなど、引き続きその活動が必要な状況にある。
このような動きを受け、生物多様性基本法第21条第3項において、「国は、事業者、国民又は民間の団体が行う生物の多様性の保全上重要な土地の取得並びにその維持及び保全のための活動その他の生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する自発的な活動が促進されるよう必要な措置を講ずるものとする」との規定が盛り込まれた。
これにより、ナショナル・トラスト活動をはじめ「様々な民間団体(NPO法人を含む。)による活動をより一層推進し国民主導の生物多様性保全のための取組を推進するため、税制優遇措置や関連制度の見直し等の必要な措置を講ずること」*1が国に求められている。
国際的な動きに目を転じると、平成22年(2010年)10月には、愛知県名古屋市において、世界中から7,000人もの参加者が見込まれる「生物多様性条約 第10回締約国会合」(COP10)が開催される。この2010年とは、平成14年の第6回締約国会合で定められた「2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減?させる」という「2010年目標」の目標年であり、COP10では、2010年以降の次期目標の採択が予定されている。
すなわち、COP10は、今後の生物多様性を巡る国際的な動きを方向付ける重要な会議であり、ホスト国であるわが国としても、そのイニシアティブを強力に発揮できるよう、生物多様性の保全に向けたわが国の取り組み姿勢をしっかりとした形で打ち出していく必要がある。
このような状況を踏まえ、本検討会では、わが国における生物多様性の保全を図るため、NGO等の民間団体、企業等が行う生物多様性の保全上重要な土地の取得並びにその維持及び保全等の活動を促進するための方策について検討を行った。本報告が、そのような活動を促進する上で有益なものとなり、引いては、わが国の生物多様性の保全を図る一助となることを強く期待する。
2.民間団体等が行う土地取得等の自然環境保全活動を巡る状況・背景
(1) 生物多様性の保全の基本的考え方
生物多様性条約では、「生物多様性」をすべての生物の間に違いがあることと定義しており、具体的には、「生態系の多様性」、「種の多様性」、「遺伝子の多様性」の3つのレベルでの多様性があるとしている。
生物多様性という差異(変異性)を保全するためには、この3つのレベルにおける構成要素である具体的な「生態系」や「種」、「個体」を保全することが重要であるが、生物はその種のみが単独で存在するのではなく、植物であれば生育に適する土壌や水環境が必要であり、動物であれば餌となる生物の存在が必要である。
つまり、健全で恵み豊かな自然環境の維持が生物多様性の保全に欠くことのできないものであることにかんがみ、生物多様性の保全は、多様な自然環境が地域の自然的社会的条件に応じて保全され、適切に利用されることを旨として行われなければならない。
(2)生物多様性の保全と民間団体等による自然環境保全活動との関係
生物多様性の保全のためには、国土の地域ごとの生物学的特性を示す代表的、典型的な生態系や、多様な生物の生息・生育の場として重要な地域について、対象地域の特性に応じて十分な規模、範囲、適正な配置、規制内容、管理水準、相互の連携の確保された保護地域などの体系を設けていく必要がある。
そのため、国においては自然環境保全法、自然公園法等の法律に基づき、代表的、典型的な生態系等が成立している地域を原生自然環境保全地域、国立公園等に指定し、厳格な行為規制等を実施することにより、生物多様性の保全を図っている。また、地域において相対的に自然性の高い自然環境を保全することは、国土全体を通じて多様な生態系を確保する上で非常に重要であることから、都道府県においても地域固有の生態系や希?野生動植物の生息・生育地を都道府県自然環境保全地域等に指定し、その保全を図っている。これらの地域においては、人の手が入ることを制限することにより保全する区域だけでなく、人の手を加えることによって、自然環境の質や生物多様性が保全される区域がある。
その際、土地所有者の高齢化等により、農業や林業、里山の利用等を通じた人間の働きかけ(適切な維持管理)が行われなくなっている地域については、その土地における自然環境を良好に保つため、民間団体等が土地所有者と協働して、一定程度の維持管理を行うことが重要となっている。
さまざまな人間の働きかけを通じて形成・維持されてきた生態系は、わが国の生物多様性を構成する重要な要素であり、私たち日本人にとってかけがえのない資産である。古来より日本人は、自然を尊重し、自然と共生することを通じて、豊かな感性や美意識をつちかい、多様な文化を形成してきた。例えば、薪炭林や農用林などの二次林や採草地の二次草原は、人間活動に必要なものとして人間の働きかけを受け、そして、その働きかけが継続されることにより維持されてきた。こうした人と自然の関わりが、地域色豊かな食、工芸、祭りなど地域固有の財産ともいうべき文化の根源となるなど、地域の生態系とそれに根ざした文化の多様性は、歴史的時間の中で育まれてきた地域固有の資産である。
わが国における生物多様性の保全のためには、このような文化の多様性をもたらす地域に固有の生態系等を、人間の適切な働きかけを継続させ、地域の特性に応じて保全することが必要である。
わが国国土全体での生物多様性の保全が図られるためには、地域の生態系の保全に関わる地域の住民や民間団体等が主体となって、地域の特性に応じたきめ細かな自然環境保全活動を進めていくことが大切である。こうした取組は、地域ごとのさまざまな経験から生まれた適正な利用や管理のための智恵を活かして行われるべきものであることから、現場で活動している人々が中心となった自主的な活動を尊重し、支援していくことが必要である。
近年、NGO等の民間団体も、それぞれの地域で自然環境保全活動を行ったり、市民参加型のモニタリングを行うなど、わが国の生物多様性を保全するために各地で積極的に幅広い活動を行っており、こうした活動は、行政では十分に行えないものを市民のニーズを捉えて地域に密着して行っているものが多く、地域の特性に応じた生物多様性の保全を進める上で大変重要である。
また、企業においても、日本経済団体連合会が、平成21年3月に「日本経団連生物多様性宣言」を発表し、経済界が生物多様性の保全等に取り組む意義と使命があるとの認識を示したり、大多数の環境報告書に自然環境・生物多様性保全に係る取組が記載されるなど、自然環境・生物多様性の保全に着目した取組が進められており、社会的貢献という点も含めて生物多様性の保全のための活動に対する企業の関心は高まっている。
わが国の生物多様性の保全のためには、わが国に存在するさまざまな生物多様性を、それぞれの特性を活かしながら確実に保全することが重要であり、確実性の観点からは、公的主体が法制度等に基づき保全を行うことが望ましいが、公的主体の能力にも限界があり、また、法制度による保全は一律の基準を設けて行われるため、必ずしも地域におけるNGO、企業、地域住民など多くの主体による取組や保全の要請を反映したものとならない面がある。
国や地方公共団体は、国土の地域ごとの生物学的特性を示す代表的、典型的な生態系や、多様な生物の生息・生育の場として重要な地域について、保護地域制度を活用し、主に人の手が入ることを制限することによって直接その保護を図っている一方で、さまざまな人間の働きかけを通じて維持・保全されてきた生物多様性については、適切な維持管理を継続させ、できる限りその場所の特性に応じた保全が図られるよう、国や地方公共団体はNGO、企業、地域住民など多くの主体が協働して、それぞれの地域において多様な特性を持つ自然環境の保全に関する活動を、地域に根付いたやり方で持続的に進めることができるよう、経済的措置を含めた制度や社会的な評価の仕組みを充実することが必要である。
なお、主に人の手が入ることを制限することによって保護が図られる地域についても、代表的、典型的な生態系等を維持・再生するために、土地の取得を行う民間団体等による自然環境保全活動が行われており、このような活動の支援も必要である。
3.民間団体等が行う土地の取得等の自然環境保全活動に関する現状及び課題
(1)民間団体等が行う土地の取得等の自然環境保全活動の現状
<民間団体等の自然環境保全活動の現状>
生物多様性基本法に位置付けられている「事業者、国民又は民間の団体が行う生物の多様性の保全上重要な土地の取得並びにその維持及び保全のための活動その他の生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する自発的な活動」についてはさまざまなものが考えられるが、「第三次生物多様性国家戦略」(平成19年11月閣議決定)においては、国民からの寄附金を用いて、自然保護のために自然の豊かな民有地を買い入れて、管理を行い、保全を図っていこうとする「ナショナル・トラスト活動」や、企業が所有地を活用してNGOなどとの協力により緑地を保全する活動が挙げられている。
自然環境保全を目的としたナショナル・トラスト活動とは、「広く国民から寄附金、会費等を募り、又は贈与等を受け、土地、建築物の買い取り、地上権の設定、所有者との契約などによりその管理権を取得して自然環境や歴史的環境を保全することを目的とする活動」*2とされており、昭和30年代後半から全国各地にて行われている活動である。ナショナル・トラスト活動の具体的な形態としては、?活動の対象となる土地の所有権を買い取ったり、その所有権を譲り受ける“所有型”が基本的な活動形態であるが、地価の高騰等の影響を受け、?所有権の移転を伴わずに、地上権を設定したり、土地所有者との間で賃貸借等の契約を結ぶことにより、活動の対象となる土地の管理権を取得する“協定型(非所有型)”も活動形態の一つに位置付けられており、前者に関して9,150ha、後者に関して1,220haの土地が保全されている*3。このような活動は、各地域における自然環境に価値を見出し、その保全を行うことを通じて、地域におけるさまざまな生態系や種の持続的な保全・利用を可能とするものである。また、さまざまな者が民間団体への寄附やボランティアとして維持管理に参画することを通じて、それぞれの行える範囲での自然環境保全の実施を促進することに
つながっている。
このナショナル・トラスト活動が最初に行われたのは、古都鎌倉である。鎌倉の鶴岡八幡宮の裏山にある御谷おやつに業者が宅地造成を計画したことに対し、地元の住民を中心に反対運動が起こり、土地買い取りの運動が行われた。また、和歌山県田辺市の天神崎においても、同様に、開発業者が別荘地造成を計画していることに対し、土地買い取りの運動に発展していった。当初は、このように、開発により自然環境が破壊されることを未然に防止することを目的に、大規模な開発から自然環境を市民自らの手で守る手段としてナショナル・トラスト活動が行われた。しかし最近では、相続が発生した際に相続人が高額な相続税を支払うことができないため、土地等を売却して現金化せざるを得ず、その結果として、その土地等が開発業者等により改変されることとなり、その土地における自然環境が保全されなかったという事例が増加しており、このような改変を避けるべく、ナショナル・トラスト活動が行われるというケースが増えてきている。
このような活動の歴史を持つナショナル・トラスト活動であるが、その活動を実施する民間団体の数は増加傾向にあり、団体数は約50団体、面積は約1万haに及んでいるが、その活動が活発に拡大しているとは言い難い。
「土地問題に対する国民の意識に関する調査」*4の結果をみると、土地を預貯金や株式などに比べて有利な資産であると思っている者と思わない者の割合は、平成10年以前は前者が後者を大きく上回っていたが、平成10年以降はほぼ同数の割合となるなど、土地に対する国民の意識は、近年大きく変容している。また、土地所有者の高齢化や過疎化が進み、土地の維持管理を行うことが難しいといった理由により、その所有する土地を、自ら維持管理し続けるのではなく、地方公共団体等に贈与をすることにより適切に保全し続けようとする動きも増加する傾向にある。
しかしながら、地方公共団体においても、維持管理の負担を懸念して土地の寄贈を積極的に受ける傾向には無く、結果として、自然環境の保全等を目的としてナショナル・トラスト活動を行う民間団体等に対し、土地を寄附しようとする者からの相談も増えているといった状況にある。
<企業所有地における民間団体等の自然環境保全活動の現状>
わが国には広大な森林や都市部の土地等を所有している企業も?なくない。このような企業が所有する土地は、そもそも福利厚生施設や研究施設、工場等の敷地として確保されたケースが多いが、わが国の経済状況等により企業活動に直接利用されてこなかった結果、生物多様性の保全上良好な状態が維持されている山林等の土地として残っている状況にある。このよ
うな“自然環境の豊かな土地(森林、緑地等)の面積は約92万ha*5を超えている”とする調査結果もあり、こうした土地も積極的に保全の枠組みに取り込んでいくことが必要である。
近年、国民意識の変化、環境配慮の浸透等を背景として、企業の社会的責任(CSR)に対する関心が高まっており、CSR活動を実施する企業が急速に増加している。この活動の一つとして、前述した企業の所有地を積極的に活用する例が増えてきている。
具体的には、生物多様性の保全に対する意識の高まりや、地球温暖化問題に関連して森林がCO2の吸収源として認識されていること等を背景として、土地の所有者である企業が、その土地を保全しようとする意思を表明し、民間団体等と協働するなどして、森林の保全や里山の管理といったその所有する土地における自然環境そのものを保全する事例が見られるようになってきている。
しかし、そのような取組は全国的に進展しているという状況にはなく、こうした活動による保全がより効果的に行われるように誘導することが必要である。
(2)民間団体等が行う土地の取得等の自然環境保全活動を促進する上での課題
生物多様性が認められ、民間団体等が行う自然環境保全活動による保全が望ましい土地は、地価が高い都市近郊から地価の安い中山間地までさまざまな地域に存在している。現状においては、自然環境保全を目的としたナショナル・トラスト活動が活発に拡大しているという状況にはなく、また、企業の所有地における自然環境保全の取組についても十分に進展しているとまでは言えないが、それには、次のような課題が存在すると考えられる。
1)民間団体等による土地の取得・保全
? 土地の譲渡に伴う課題
ア)譲渡所得の税制優遇措置に係る課題
都市緑地法(昭和48年法律第72号)に基づく緑地管理機構(NPO法人は除く。)に譲渡した特別緑地保全地区内の土地については、譲渡所得について2,000万円の特別控除が認められる等の税制上の優遇措置があるが、土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等へ譲渡する場合についてはそのような優遇措置がないため、民間団体等への譲渡により土地の保全を行おうとする土地所有者の行動を支援することにつながっていない。
イ)みなし譲渡課税の非課税措置に係る課題
個人である土地所有者が、その所有する土地における自然環境の保全等を図ろうとして、土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等にその土地を低額又は無償で譲渡しようとする場合であっても、税制上の取扱いでは、土地は寄附時の時価で譲渡があったものとみなされ、土地の取得時から寄附時までの値上がり益に対して所得税が課税される(みなし譲渡課税)。また土地所有者が法人である場合も、寄附時の時価で譲渡があったこととして課税が行われる。特に、地価が高く値上がりの程度も大きい都市近郊においては当該課税が土地を寄附する所有者の重い負担となる。このため、このような民間団体等への土地の低額又は無償での譲渡が進まず、当該土地における自然環境の保全が図られない状況にある。
このみなし譲渡課税に関し、公益社団法人及び公益財団法人(以下「公益法人」という。)等に土地の寄附を行う場合、その寄附が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することなどの要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは、当該土地に係る譲渡所得税を非課税とする特別措置が設けられている(租税特別措置法第40条)。
しかしながら、この特別措置は、寄附をした日から4ヶ月以内に贈与者が国税庁長官の承認の申請を行い、国税庁長官から要件を満たすとして承認を受けて初めて、その適用がなされることとなる。よって、土地所有者が土地を贈与する時点では非課税になるという確証はないことから、本特例措置を活用した民間団体等への土地の贈与も進んでいない。
なお、公益法人制度改革前においては、上述の税制優遇措置の対象となる特定公益増進法人の認定に関しては、「すぐれた自然環境の保全のためその自然環境の保存及び活用に関する業務を行うことを主たる目的とする法人」(所得税法施行令第217条)という類型が設けられ、主務官庁の許可により認定されていたが、この類型に基づく認定団体は4団体にとどまっていた。公益法人制度改革により、公益法人の認定基準として「地球環境の保全又は自然環境の保護及び整備を目的とする事業」(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第2条別表第十六号)という類型が設けられ、平成20年12月から施行されている。
ウ)相続財産の寄附に関する非課税措置の手続きに係る課題
相続が発生した際、相続人が自然環境保全活動を行う民間団体等に対し相続財産である土地や現金を寄附する場合、それらの相続財産が相続税の課税対象外となるのは、
?民間団体等が公益法人や認定NPO法人、独立行政法人等である場合に限られており、
?これらの法人に寄附を行う場合であっても、相続税の申告期限内(通常、相続人の死亡の日から10ヶ月以内)に寄附を行わなければならないこととされている。
しかし実際には、相続財産を整理し、相続財産の贈与についての全相続人の意思決定を行った上で、維持管理まで任せられる適切な民間団体等へ贈与するといった一連の手続を、この申告期間内に行うことが困難なケースも多く、これらの民間団体等への寄附が進んでいない。
エ)地方公共団体への土地の寄附に係る課題
土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等に対し土地を寄附する場合とは異なり、地方公共団体に土地を寄附する場合は、当該土地に係る譲渡所得税は非課税となるため、土地所有者においては、このような民間団体等ではなく地方自治体に対し土地の寄附を行うインセンティブが働くこととなる。しかしながら、行財政状況の厳しい近年では、維持管理が必要となる土地の寄附を受けることを拒む地方公共団体も?なくない。こうした場合には、地方公共団体が土地の寄附を受け入れつつ、自然環境保全活動を行う民間団体等に土地の維持管理を委託するという手法が考えられるが、その際にはその維持管理費用をいかにして調達・確保するかが問題となる。
? 民間団体等の課題
ア)維持管理の確実性に係る課題
その他、土地所有者が、その所有する土地における自然環境の保全等を図るため、土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等にその土地を寄附すること等を検討している場合、当該民間団体等が、土地所有者の意思を達成しようとして、長期にわたり土地の保全を行うかどうか、適切に維持管理を行うこととなるのかどうかについて確実な保証がないことから、土地所有者も安心して当該民間団体等へ贈与等を行うことができる状況にはない。
イ)土地の購入価格に係る課題
土地等の不動産の時価評価は、その土地を最も有効に利用する方法に基づいて算定するという考え方がある。このため、土地を取得しようとする者が、土地における自然環境の保全を目的として、土地を改変することなく、管理のみ行うことを予定している場合であっても、同様に、その土地が最も有効に利用される方法に基づいて算定されることとなる。
また、開発業者等は、土地取得後の期待収益(土地を運用することにより回収が可能な費用)を加味して土地の購入価格を提示する一方、民間団体等は、そもそも財政基盤が脆弱であり、土地の恒久的な保全のために取得する土地には期待収益が発生しえないことから、期待収益を加味した土地の購入価格を提示することができない。加えて、将来その取得を行う可能性が高い近隣の土地に係る地価の高騰を誘発しないために適正な価格以上では土地を購入しないケースも多いことから、民間団体等は当該土地を落札することができていない。
これらの理由により、土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等は、土地の取得等を行おうとする際、高額な実勢価格を負担しなければならない場合が生ずるが、実際には負担することができず、結果として、土地を取得することが困難となる場合が多い。
ウ)土地取得後の固定資産税等負担に係る課題
また、仮に土地を取得することができたとしても、当該土地に係る固定資産税等の税負担が将来にわたり長期間生ずることとなる。しかし、当該土地において自然環境保全活動を行おうとする民間団体等は、?その土地における自然環境を保全するため、土地を改変することなく管理のみを行い、取得した土地から収益を得ることを予定していないこと、?その主な収入が会費、寄附金等であり財政的に脆弱であることから、固定資産税等の税負担が民間団体等にとって大きな負担となり、円滑な活動の実施に支障を及ぼす可能性がある。
2)民間団体等による土地の維持・保全(土地の取得は伴わない)
? 土地の保全契約による機会費用の逸失等の負担に係る課題
土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等と土地所有者とが、その所有する土地の保全のための契約を締結する場合、土地所有者はその土地の転売等を、一定の期間、自発的に行わないこととなる。
しかしながら、現状としては、これらの保全のための契約は法制度等に基づくものでなく当事者間の任意契約である場合が多いため、土地所有者に対する税制上の優遇措置等は講じられていない。また、この保全のための契約を賃貸借契約とする場合であっても、会費、寄附金等を主たる収入としている民間団体等が十分な賃料を支払うことは難しい。
このため、保全により発生する機会費用の逸失、及び契約期間中の当該土地に係る固定資産税等の税負担について、土地所有者の十分な理解を得られず、結果として、このような保全のための契約が締結されにくい状況にある。
? 民間団体等の信頼性に係る課題
また土地所有者が、これらの民間団体等との間で、その所有する土地の保全のための契約を締結しようとする場合であっても、契約の相手方となる民間団体等に関して十分な情報を持っておらず、当該民間団体等との間で協働関係を構築し、土地の維持管理を任せることに不安を感じたり、維持管理の方針等について土地所有者と民間団体等との間で認識の共有を行うことができないため、契約の締結に至らない場合がある。
? 土地の保全契約の継続性に係る課題
土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等と土地所有者とが、その所有する土地の保全のための契約を締結している場合は、当該契約は当事者間の任意契約であることが多いことから、その土地所有者が亡くなり相続が発生したときは、保全契約が継続されるかどうかは相続人の意思に左右されることとなり、安定的に長期にわたり当該土地の自然環境の保全を図ることが困難である。
3)民間団体等の運営基盤
? 民間団体等の財政的安定性に係る課題
土地の取得等の自然環境保全活動を自立的に、継続して実施するためには、そのための資金を安定的に確保する必要がある。
しかしながら、土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等は、その主な収入が会費、寄附金等であることから、必ずしも安定的に十分な資金を確保できている状況にはない。また、自然環境保全活動そのものやその活動の意義、その活動を行う民間団体等についての認知度が低いため、全国民的な理解と協力の下に自然環境保全活動が積極的に推進されているとは言い難い状況である。
? 自然環境の管理水準に係る課題
民間団体等が土地の管理を行う際、その管理の程度として、その土地において維持されている自然環境を引き続き適切に維持しようとするケースと、そのような土地において保全すべき自然環境が既に回復を要する状態にありその回復を図るケースが想定される。しかし、それぞれのケースにおいて、どのような水準で管理を行うべきか、民間団体等にとっては必ずしも明らかではないため、適切な管理が行われない場合がある。
? 民間団体等のスタッフ体制に係る課題
また、土地の取得等の自然環境保全活動を民間団体等が行う場合、不動産鑑定、土地の測量、契約、登記、税制等のさまざまな専門知識が必要となる。この他にも、活動の対象となる土地についての情報収集、土地の確保に向けた土地所有者との交渉等、民間団体等が行う必要のある事務も多岐にわたっている。
しかしながら、会費や寄附金等で運営するこのような民間団体等では、財政的に、そのような専門知識を有するスタッフを雇用することは難しく、また、専従のスタッフを配置することも困難な状況にある。
4.具体的な施策の考え方
上記の課題に対処するためには、促進すべき自然環境保全活動を公的機関が認定し、認定された活動に対して税制優遇を始めとする各種の支援措置を与えることが有効であると考えられる。この考え方に基づいて、国、地方公共団体及び民間団体等が、それぞれの責務にしたがって活動を促進するための仕組みを整えることが必要である。
(1)基本的な考え方
国や地方公共団体は、国土の地域ごとの生物学的特性を示す代表的、典型的な生態系や、多様な生物の生息・生育の場として重要な地域について保護地域制度を活用し、主に人の手が入ることを制限することによって直接その保護を図る。ただし、これらの地域でも、民間団体等により生態系の維持・再生のための活動が行われており、これらへの支援は必要である。
一方、さまざまな人間の働きかけを通じて維持・保全されてきた生態系については、国や地方公共団体は、できる限りその場所の特性に応じた保全が図られるよう、NGO、企業、地域住民など多くの主体の参画を促し、それらの活動を支援するため、経済的措置を含めた制度や社会的な評価の仕組みを充実することが必要である。
(2)自然環境保全活動の促進にあたっての各主体の責務
<国>
民間団体等が行う土地の取得等の自然環境保全活動の促進に当たり、国は、これらの促進をすることについてわが国の生物多様性の保全上どのような意義があるか、わが国の生物多様性の保全の観点から民間団体等によりどのような活動が行われることが望ましいか、この促進に当たっての基本的な方向性は何か、この促進のために国、地方公共団体、民間団体等がどのような連携を行っていくべきか等の基本的な考え方について、まず明らかにする必要がある。
その上で、民間団体等が行うこれらの自然環境保全活動を促進するために、民間団体等の活動状況の情報発信を国民に対して行う等の各種措置を積極的に講ずべきである。
<地方公共団体>
地方公共団体は、わが国における生物多様性の保全を図るため、国が定める基本的な考え方に基づき、地方公共団体の管轄する区域において行われる、民間団体等による土地の取得等の自然環境保全活動の促進に関する基本的な方針を定めるべきである。
また、国が行う各種措置に合わせて、民間団体等が行う土地の取得等の自然環境保全活動を促進するための各種措置を自ら講ずる必要がある。
<民間団体等>
民間団体等は、自然環境保全活動の対象となる土地における自然環境が良好に保たれるため、地域の自然的社会的条件に応じて、自然環境保全活動を長期間にわたり継続して実施することを旨として、その活動に取り組むべきである。
併せて、自らが行う土地の取得等の自然環境保全活動が、わが国における生物多様性の保全に資する取組であり、大変重要な位置にあること、この自然環境保全活動を行う原資となる資金の確保等のために、活動の意義や活動がもたらす成果等を広く一般の方々に知らしめることを通じて、多くの人々に、活動に直接的に参加し、又は、寄附金の支出等資金面での援助により間接的に参加してもらい、自然環境の保全に向けた共通の目的を持ってもらうことにより、社会をよりよい方向に変革していくことができることを、明確に認識する必要がある。企業においても、事業活動の一環として自然環境保全活動に自ら取り組む、又は他の民間団体の活動を支援することが望まれる。
そのような認識を持った上で、土地の取得等の自然環境保全活動を実践するとともに、その活動に対する支援を得るための努力を講じていくことが大変重要である。
(3)自然環境保全活動を進める上での基本的な仕組み
上記で言及した各主体の責務に基づき、自然環境保全活動の公益性を公的機関が認定し、その社会的信頼性を確保するための以下のような仕組みが考えられる。
国による基本的考え方の策定
各主体がその責務、役割等を認識した上で、民間団体等が行う土地の取得等の自然環境保全活動の促進に取り組むため、国が、民間団体等が行う自然環境保全活動の促進に関する基本的考え方を策定する。
地方公共団体による基本方針の策定
地域の実情に即したきめ細かい自然環境保全活動を支援するため、地方公共団体は、国が定める基本的考え方に基づき、民間団体等による土地の取得等の自然環境保全活動の促進に関する基本的な方針、促進の対象とする民間団体等が行う自然環境保全活動の考え方等を定める「基本方針」を生物多様性基本法の趣旨を踏まえて策定する。なお、基本方針の策定に当たっては、地域住民等の意見も聴くものとする。また、生物多様性基本法に基づく「生物多様性地域戦略」が策定されることが、望ましい。
民間団体等による自然環境保全活動計画の策定
民間団体等は、その行おうとする自然環境保全活動が、より着実に、より継続的、自立的に実施されるよう、活動地域・活動内容を明らかにし、国が定める基本的考え方及び地方公共団体が定める基本方針に照らして適切な、中長期的に持続可能な自然環境保全活動計画を策定するものとする。活動内容としては、土地の取得や、下草刈りや落ち葉かきなどの維持保全活動のほか、環境教育活動等が考えられる。これにより、当該計画に基づいて行われる自然環境保全活動が公益的な側面を有することが明らかとなる。
地方公共団体の長による自然環境保全活動計画の認定
当該計画に基づいて民間団体等が行う自然環境保全活動の公益性を担保するため、地方公共団体の長が当該計画について認定を行うこととする。その認定に当たっては、計画の内容が、国が定める基本的考え方及び地方公共団体が定める基本方針に照らして、自然環境を維持又は回復するために有効かつ適切なものであり、継続性を持って実施される活動であること等を確認するものとする。
その他
地方公共団体は、自然環境保全活動が計画に基づき適切に実施されているかどうかについて把握するため、必要に応じ報告を求めることとする。
また、わが国の生物多様性の保全が長期的に継続して図られるよう、民間団体等が行う自然環境保全活動に係る計画の実施期間はできる限り長期間で設定されること、また実施期間終了後においても、正当な理由がない限り計画を更新することが望ましい。
(4)土地を取得し、保全する活動を促進するための措置
生物多様性の保全のためには、さまざまな自然環境が存在する土地を自立的に、継続して保全することができるよう、その土地を取得することが最も有効な方法である。これまで行われてきているナショナル・トラスト活動においても、その保全の効果から、まずは、対象となる土地の所有権を取得することが目標とされてきたところである。
よって、土地を取得し、保全しようとする民間団体等の自然環境保全活動を強力に促進する必要があり、民間団体等へ土地が寄附されることを促したり、民間団体等が土地を取得しやすくなるための措置を講ずることが重要である。
?信頼性の向上
財政的基盤の弱い民間団体等が、自然環境保全活動として土地の取得等を行おうとする際、実勢価格に見合った十分な対価を支払い、その取得等を行うケースはまれであり、むしろ、土地やその土地における自然環境をできるだけ保全したい、そのような保全を全うできる者に土地を譲り渡したい、といった土地の保全を求める土地所有者から、土地を無償又は低額で譲り受ける場合が多い。
しかしながら、どの民間団体等が土地所有者の想いを着実に、継続的に実現できるものであるかどうかについて、土地の譲渡を検討している土地所有者が一般的に公開されている情報から判断することは必ずしも容易ではない。実際には、土地所有者が適切な譲渡先であると判断することができないため、譲渡が行われず、当該土地が転売される等の結果、土地が改変され、土地やその土地における自然環境の保全が実現されないこととなる場合がある。
このような事態を解消し、所有する土地を保全したいと考える土地所有者が適切な民間団体等に安心して土地を譲り渡すことを可能とするため、自然環境保全活動として土地の取得等を行おうとする民間団体等が、当該土地における自然環境の保全のための活動に関する計画を策定し、当該計画について公的機関の認定を受けることとする等、公的主体が一定の関与を行うことにより、民間団体等の行う自然環境保全活動が適切に、継続的に行われるものかどうか、その結果として土地や土地における自然環境の保全が図られるものかどうかを明らかにすることが必要である。
これにより、土地所有者は、認定を受けた計画に基づき自然環境保全活動を行おうとする民間団体等に対して、土地の譲渡を安心して行うことができることとなり、そのような譲渡が増加する結果、自然環境の保全のための取組が促進されることとなる。
?税制措置
■所得税・法人税(譲渡益に対する課税の問題)
民間団体等が、土地の取得を行い、土地における自然環境の保全を行おうとする場合、会費、寄附金等の収入を基本としている民間団体等が土地所有者に提示できる価格は、比較的低額とならざるを得ない。
このような場合に、土地所有者の譲渡益に課される所得税、法人税について対価の一定額を控除する等の優遇措置を講ずることにより、自然環境の保全を目的に、民間団体等に土地を転売しようとする土地所有者を支援することとなり、その結果として、民間団体等により自然環境の保全が図られることとなる。
■所得税(贈与、遺贈又は著しく低い対価での譲渡を行った場合の課税の問題)
個人である土地所有者がその所有する土地における自然環境の保全のため、当該土地を寄附しようとする場合、ナショナル・トラスト活動を行う民間団体等に贈与、遺贈、又は著しく低い対価での譲渡を行ったときは、時価による譲渡が行われたものとして、土地所有者に対し所得税が課税される(みなし譲渡課税)。
この「みなし譲渡課税」に関しては、公益法人に財産が贈与又は遺贈された際には、その贈与又は遺贈がなかったものとして課税されないこととされているが、そのためには、当該公益法人の当該公益目的事業の用に直接供され、又は供される見込みであることその他の政令で定める要件を満たすものとして「国税庁長官の承認」を個別に受けることが必要とされている。しかしながら、土地所有者が寄附等を行う時点では、非課税となるか否かが明らかではないことから、課税を避けたい土地所有者は、その土地の寄附を行おうとはせず、当該土地における自然環境の保全が図られない可能性がある。
これに関し、
?個別に国税庁長官の承認を得るのではなく、民間団体等が作成する自然環境保全活動に関する計画について公的な認定を受けたことをもって国税庁長官の承認に代えること、
?事前に国税庁長官の承認の可否について確認することを可能とすること、又は、
?一旦寄附を行った後、国税庁長官の承認が得られなかった場合には、当該寄附が行われなかったものとして取り扱われるための更正の請求を認めることを制度的に担保することで、土地所有者が安心して土地を寄附することができるようにすることが必要である。
■法人税(贈与又は著しく低い対価での譲渡を行った場合の課税の問題)
法人である土地所有者がその所有する土地における自然環境の保全のため、当該土地を寄附しようとする場合、ナショナル・トラスト活動を行う民間団体等に贈与又は著しく低い対価での譲渡を行ったときは、時価による譲渡が行われたものとして、土地所有者の譲渡益に対し法人税が課税される。
具体的には、法人である土地所有者が土地を贈与した場合や低額で土地を譲渡した場合、当該土地を時価で売却したという擬制の下で譲渡益が益金に計上され、法人税が課税されることとなる。特に、地価が高く値上がりの程度も大きい都市近郊における含み益の多い土地については、寄附の際に大きな税負担が発生することとなる。
よって、土地の時価相当の寄附があったものとして損金算入を認めれば、土地所有者にとっては、寄附を行おうとする大きなインセンティブとなり得る。
具体的には、寄附に係る一団の土地の価格が単年の寄附金の損金算入限度額を超える場合もあるため、認定計画に基づいて管理される土地を寄附する際、財務大臣の指定する指定寄附金と同様に、その土地の価格の全額を損金算入することができることとしたり、次年度以降に繰り延べてその全額を損金算入できることとする等の措置を検討することが必要である。
なお、土地と併せて維持管理のための財源を寄附する場合には、土地の価格と併せて、その全額の損金算入を認める等により、民間団体等が維持管理を安定的に行う基盤を確保することも必要である。
■相続税
土地の所有者が死亡し、相続が発生した場合、相続税の支払いのために土地を譲渡する等して現金化する事例は特に都市部において顕著に見られる。この場合、相続人が相続税の申告前に、相続により取得した財産を公益法人又は認定NPO法人に贈与したときは、贈与をした財産に係る相続税は非課税とされているが、相続税の申告期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内であり、この期間内に、相続人が一連の手続を行った上で適切な相続財産の贈与先を見つけることが難しい場合もある。
このため、相続人が、自然環境保全活動に関する計画について地方公共団体の認定を受けた公益法人又は認定NPO法人へ土地等の贈与を希望し、真摯に関係者との調整を行っているものについては、申告・納付の期限を延長できるようにし、できるだけ保全が進むように促すことが望ましい。
■固定資産税等
固定資産税は、固定資産の所有者が行政サービスの恩恵を受けていることに着目し、その恩恵の量に応じて課される応益税である。したがって、地方公共団体、国等に無償で貸し付けられた土地が公用又は公共の用に供されている場合には、公益目的で使用されていることに照らし、地方税法により固定資産税及び都市計画税が非課税とされているが、民間団体等が所有権を取得して管理を行っている土地については、特段の税制上の優遇措置は講じられていない。
しかしながら、民間団体等が所有権を取得し、地方公共団体の認定を受けた自然環境保全活動に関する計画に基づいて当該土地の管理を行う場合、当該土地は、当該計画に基づき自然環境の保全のために適切に管理されることとなる。
よって、前述の地方公共団体等に貸し付けられた土地が公用等に供される場合と同様に、民間団体等が土地の所有権を取得し、当該土地について認定計画に基づき適切に管理を行う場合には、その土地の公益的な価値に着目し、固定資産税及び都市計画税に関して税制上の優遇措置を講ずることが適当である。
(5)土地を維持・保全する活動を促進するための措置
土地を所有し続けようとする意識が比較的高いわが国においては、土地の維持・保全等の自然環境保全活動を行おうとする民間団体等が、土地の所有権を取得して当該土地の管理を行う活動のほか、所有権の移転を伴わずに、土地所有者との間で土地の賃貸借契約を締結し、当該土地に係る自然環境保全活動に関する計画に基づき土地の管理を行うことにより、当該土地における自然環境を保全する活動がある。
この場合、民間団体等は、土地の管理権を得るために締結される賃貸借契約等の範囲内での賃料等を負担することによりその土地の保全が可能となることから、対価を支払い、土地の所有権を得る場合に比べればより対応しやすいものとなる。土地所有者においても、その有する土地の所有権を保持したまま自然環境の保全の取組に協力することができることから、一定の期間、その所有する土地における自然環境を保全するための活動が積極的に行われやすくなることとなる。
また、約90万haにのぼるとも言われている企業の所有地に関し、企業側は、適切に管理することによりCO2の吸収源や清らかな水源となる山林等の価値を見直し、その所有地の所有権を保持したまま、昨今求められているCSR活動の一環として所有地における自然環境の保全に積極的に取り組んでいきたいと考えている反面、現下の厳しい経済状況にあっては、所有地の管理に要する費用を支出することがなかなか難しいという実情にある。一方、山林や草原等の自然環境を適切に保全することに関心の高い民間団体等であるものの、活動するための土地を確保できていない場合も多い。
このため、これらの民間団体等が土地所有者である企業との間で一定期間、賃貸借契約等を締結し、その土地に係る管理権を得て管理を行うことにより、このような土地における自然環境の保全を図ることが想定される。
これらの状況を踏まえ、土地を所有し続けようとする意識が比較的高いわが国においては、この形態の自然環境保全活動を積極的に促進する必要があり、そのため、安定的に自然環境が保全されるための措置を講じたり、土地所有者に対し民間団体等への土地の管理権の提供に係るインセンティブを与えることが重要である。
?土地を維持・保全する活動の継続的な実施
この形態の自然環境保全活動が適切に継続して実践されるためには、民間団体等が土地所有者との間で締結する賃貸借契約等が長期間、安定的に保持される必要がある。
このため、例えば、民間団体等が土地所有者との間で自然環境保全活動の対象となる土地について賃貸借契約を締結し、契約に基づく管理権を前提として、その土地を管理するという自然環境保全活動に関する計画を定めて活動を行おうとする場合、その活動の内容を広く一般に公表し、このような計画が自然環境の保全のための活動の促進に重要である旨を公的に認定することにより、新たに、計画の対象である土地の所有者となった者に対しても、その効力を引き続き有効とすること(承継効の付与)や、土地の所有者が正当な理由なく計画の有効期間中に土地の返還を申し出てはならないこととするなど、当該土地等における自然環境の長期にわたる保全が図られるための法的その他の適切な仕組みを検討することが必要である。
?税制措置
■相続税
民間団体等が行う自然環境保全活動に関する計画に関し、その対象である土地について相続が発生した場合においても、当該土地おける自然環境の長期にわたる保全が図られるための法的その他の適切な仕組みとして承継効を付与するとした場合、当該土地の所有権が相続により土地所有者(被相続人)から相続人に移転したとしても、計画の存続期間はその土地の利活用が制限されることとなり、土地の所有権の資産価値は減?することとなる。
このため、賃借権が設定されている土地等の取扱いに照らし、当該土地に係る相続税に関して、その課税の対象となる相続財産の評価額について一定の減額が行われることが適当である。
また、こうした形態での自然環境保全活動の実施の安定性を長期に渡って確保できるよう、賃借権と比較して長期に設定できる地上権又は地役権に関して、自然環境の保全を目的として設定することの可能性について検討することが必要である。
その上で、設定された権利の内容に応じて、相続税の課税の対象となる土地の価格の減価を認めることを可能とすることが必要である。
■固定資産税等
固定資産税は、固定資産の所有者が行政サービスの恩恵を受けていることに着目し、その恩恵の量に応じて課される応益税である。したがって、地方公共団体、国等に無償で貸し付けられた土地が公用又は公共の用に供されている場合には、公益目的で使用されていることに照らし、地方税法により固定資産税及び都市計画税が非課税とされているが、民間団体等が管理権を得て管理を行っている土地については、特段の税制上の優遇措置は講じられていない。
しかしながら、民間団体等が土地所有者との間で賃貸借契約等を締結し、地方公共団体の認定を受けた自然環境保全活動に関する計画に基づいて当該土地の管理を行う場合、当該土地は、当該計画に基づき自然環境の保全のために適切に管理されることとなる。
よって、前述の地方公共団体等に貸し付けられた土地が公用等に供される場合と同様に、民間団体等が土地所有者との間で締結した賃貸借契約等の対象となる土地について認定計画に基づき適切に管理を行う場合には、その土地が公益目的で使用されていると捉え、固定資産税及び都市計画税に関して税制上の優遇措置を講ずることが適当である。
(6)土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等の運営基盤の強化等
ナショナル・トラスト活動等の自然環境保全活動を行う民間団体等は、公益法人やNPO、任意団体である場合が多いことから、活動のための資金が十分ではなく、事務局についても十分なスタッフを雇用することができないなど、その運営基盤は大変脆弱である。
わが国における生物多様性の保全のためには、さまざまな土地における自然環境を自立的に、継続して保全することができることが重要であり、そのためには、その保全を担う民間団体等が、自立的に、継続して活動できることが前提となることから、そのために必要となる措置を講ずる必要がある。
?資金の確保
民間団体等が土地の取得等の自然環境保全活動を実践するためには、まず、その活動のための資金の確保が重要である。
ナショナル・トラスト活動を行う公益法人、NPO等の民間団体については、その主な収入源は、会員からの会費や個人・企業からの寄附金、公的主体や他の民間団体からの各種助成金、自主的な事業から得られる収入や、公的団体等からの事業の受託による収入等である。このような民間団体は、その本来的な活動をより自立的に実施するため、まずは、会員からの会費、個人・企業からの寄附金といった収入を基本として自然環境保全活動のための資金を確保する必要がある。
人類共通の財産である生物の多様性を確保し、そのもたらす恵沢を将来にわたり享受するためには、ナショナル・トラスト活動を継続的に長期にわたり実施することが重要であり、土地の購入資金や民間団体等の活動資金に充てるべく、長期間継続的に寄附金の拠出等の支援を得る必要がある。
このため、まず、民間団体等が行う土地の取得等の自然環境保全活動自体についての理解を得ることが必要である。一時的な資金の提供ではなく、継続して資金を提供してもらうためには、わが国で顕著に見られる“気が向いたときに募金を行う”といった形の寄附では不十分である。長期間、継続的に寄附金の拠出等の支援を行ってもらうため、民間団体等が行う土地の取得等の自然環境保全活動について説明し、共感してもらうこと、そして寄附金を拠出した結果について興味を持ってもらうことがポイントとなる。このための取組として、ホームページや会報などを用いて活動状況を報告する等、積極的に情報公開することはもとより、寄附金を支出した方々の個々の行動が、直接的にどのように民間団体等の自然環境保全活動に結びついたのかについて、よりきめ細かく伝えていく必要がある。
また、寄附のしやすさを向上させることが必要である。平成12年12月に経済企画庁国民生活局が発表した「平成12年度 国民生活選好度調査 −ボランティアと国民生活−」では、寄附をしている世帯の寄附額は、調査対象となった世帯数のうち約半数の世帯で一月当たり500円以下となっており、1,000円以下の世帯が21%、5,000円以下の世帯が22%となっている。このような状況を踏まえ、寄附を受ける場合の寄附金の額の設定に当たっては、例えば1,000円や500円単位とするなど、細かく寄附することができるようにするなどの工夫が必要である。
このほか、寄附のしやすさの一助として、他の団体との連携を模索することも想定される。有名な事例として、富士ゼロックスにおいて平成3年から実施されている「端数倶楽部」というものがある。これは、富士ゼロックスで働く人々や退職者によって構成され、自発的、自主的に運営されている社会貢献活動団体が、希望者の給与や賞与の端数部分(100円未満)を天引きして寄附する仕組みであり、これまで約2億円もの額の寄附を行っている。
寄附金の支出の方法についても、これまでは郵便局や銀行での振込が用いられる場合が多かったが、寄附を行おうとする者がより簡便に寄附することができるよう、インターネットや携帯電話の活用、クレジットカードやコンビニ決済の導入等を行うことも考えられる。
より確実に多額の寄附を得るため、例えば、企業と連携を図ることも考えられる。アサヒビールが、売上げに応じて各都道府県に自然環境保全等のための資金を寄附するとのキャンペーンを行い、約2ヶ月の間に約2億2,000万円の寄附に相当する売上に達するなど、近年、企業がその売上の一部を自然環境保全活動等へ寄附することを表明することで売上が伸びる事例も報告されている。土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等についても、売上げに応じて寄附を行うといった取組を行おうとする企業と連携を行うことにより、活動資金を確保することが可能となることから、そのような連携を行いやすくすることが必要である。
このように、民間団体等がさまざまな工夫を行うことにより、継続的に安定した会費収入や寄附金収入を受けることができるよう、そのような取組への支援について検討する必要がある。
なお、前述したような取組を行うことは、単に民間団体等が活動資金を得て、その活動を長期間、継続的に実施しやすくすることをもたらすだけではなく、さまざまな人々が、これらの民間団体等がどのような考え方の下にどのような自然環境保全活動を行っているかを知り、その趣旨に賛同して会員となり会費を支払う、寄附金を出す、つまり、“多くの人々に自然環境の保全に向けた共通の目的を持ってもらうこととなり、社会をよりよい方向に変革していく”ことにもつながるものである。民間団体等においては、そのことを念頭に置いてその活動に対する支援を得るための努力を講じていくことも重要である。
?税制措置
土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等の運営基盤の強化のためには、まず、適正な事業活動の実施や情報公開により会員や寄附者の理解を得るためのさまざまな取組を実施する必要がある。そして、そのような取組を補完するものとして、寄附金がより確保しやすくなるための税制上の優遇措置が考えられる。
例えば、現在、国や地方公共団体に対して寄附金を支払った場合、確定申告により一定額が所得から控除され所得税が還付されたり、寄附金の全額が損金に算入できることとされている。このほか、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものと認められた公益法人や独立行政法人等に対して寄附金を支払った場合にも、同様の優遇措置が受けられることとされている。
また、NPO法人についても、その活動資金を外部から受けやすくすることで、その活動を支援することを目的とする「認定NPO法人制度」という寄附金に係る税制上の優遇措置が講じられ、平成13年から施行されている。この「認定NPO法人」とは、一定の要件を満たすものとして国税庁長官の認定を受けたNPO法人を指しており、累次の税制改正により認定要件の緩和等も行われているが、平成21年7月現在で95法人(特定非営利活動法人法に基づき認証されているNPO法人は37,562法人(平成21年5月末現在))にとどまっており、NPO法人の実態を踏まえた更なる見直しが必要ではないかとの問題提起がある。*6
このような状況を踏まえ、土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等を支援することにより、わが国における生物多様性の保全を図るため、まず、民間団体等のうち旧民法第34条に基づく公益法人であって、公益法人改革後の公益法人への移行期間にあるものについては、できる限り公益認定を得て税制上の優遇措置を受けることができるよう、その認定に向けた支援について検討する必要がある。
また、公益法人や認定NPO法人に限らず、一定の公的な認定を受けた自然環境保全活動計画に基づいて自然環境保全活動を行う民間団体等について、当該自然環境保全活動に係る寄附金に関する税制上の優遇措置やみなし寄附金制度を適用できるようにする必要がある。
?情報の共有
民間団体等が土地の管理を行う際、その管理の程度として、その土地において維持されている自然環境を引き続き適切に維持したり、既に回復を要する自然環境について回復を図ることが想定されるが、自然環境保全分野の専門家を雇う財政的基盤を必ずしも持たない民間団体等にとっては、どのような水準で管理を行うべきか必ずしも明らかではなく、適切な管理が行われない場合には、自然環境が適切に保全されず、結果として、生物多様性の保全が図られないこととなるおそれがある。
このため、例えば、土地の種類等に応じて、その土地における自然環境の保全のための維持管理に関するノウハウや技術手法を整理し、民間団体等に情報提供することが必要である。
土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等が、その活動を着実に、自立して継続的に行うためには、土地の取得に係る不動産鑑定、相続時に土地等の寄附を受ける場合の税務上の手続、寄附金等に係る税制上の優遇措置、自然環境の保全の観点からの土地の維持管理に要する専門知識など、さまざまな専門的な知見が必要となる。また、会員や寄附金を受けた者に対して行う民間団体等の活動の実施状況に関する情報の提供や、新たな会員や寄附金の獲得、活動の対象となる土地についての情報収集や土地の確保に向けた土地所有者との交渉等、民間団体等が行う必要がある事務も多岐にわたっている。
しかしながら、土地の取得等の自然環境保全活動を行う民間団体等については、同一の目的を有する地域の住民等が民間団体等を立ち上げて自ら事務局として活動を行う事例が多く、また活動に必要となる資金が不足するため、不動産鑑定等の専門家を確保することが難しく、必要十分な数の職員を雇用できるような状況には無い。
このため、例えば、不動産鑑定や相続、税制等の土地に関わる専門家との連携を確保した支援センター機能を有する組織を設け、土地の取得等の自然環境保全活動を行おうとする、又は行っている民間団体等が随時相談できるようにしたり、当該組織が、過去の相談事例を整理し、これらの民間団体等がアクセスできるように情報発信することが必要である。
また、支援センター機能を有する組織が、民間団体等が情報発信するためのホームページ作成等を技術的に支援したり、遺産相続の手続の具体的内容、寄附金の額の増大のための工夫等、それぞれの民間団体等が実際に経験し、蓄積したノウハウについて収集・整理し、他の民間団体等に良好事例として情報提供することも必要である。
?共通認識の醸成
民間団体等が、土地の所有権を得たり、賃貸借契約等により土地の管理権を得るなどして、当該土地の維持管理を行おうとする場合、自然環境が適切に保全されるためには、地域の特性に応じた適切な維持管理を実施することが必要である。また、土地所有者や地域住民と維持管理のあり方について認識を共有し、相互に連携して取り組むことも大変重要である。
このため、その前提としての市民・土地所有者への普及啓発のほか、必要に応じ、土地所有者や地域住民、自然環境に関する専門知識を有する者等が維持管理のあり方について意見交換できる場や、自然環境保全の方向性の合意を図るワークショップの場を設定することが望ましい。そして、そのような場の設定が進むための支援について検討することが必要である。
5.中長期的な課題
今回の検討は、生物多様性基本法において、民間の団体等が行う生物多様性の保全のための重要な取組の一つである「ナショナル・トラスト活動」等を推進するため、税制優遇措置等を講ずることとされたこと、平成22年10月に、わが国において生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の開催が予定されていること等の生物多様性の保全に向けた諸要請を踏まえ、早急に実施すべき措置について検討してきたところであり、その検討の結果については、当面講ずべき措置として4.までにおいて取りまとめたところである。
しかしながら、本検討会としては、わが国における生物多様性の保全が真に図られるためには、生物多様性基本法で記された「自発的な活動」が十分に促進されるよう、さらにドラスティックな措置を講ずる必要があると考える。このため、以下に掲げる事項について、引き続き検討を続けるべきと考える。
(1)長期的に土地の取得等の自然環境保全活動を行う仕組み
イギリスにおけるナショナル・トラスト法においては、「譲渡不能の原則」という仕組みがある。具体的には、同法に基づき設立された「ナショナル・トラスト」に対して、その保存の対象となる資産である土地、建物等について「譲渡不能」と宣言する機会が与えられており、この宣言を受けた資産は、売却あるいは担保に供されることはなく、また、国会の特別の議決がある場合を除き、強制収用されないこととされている。
わが国においても、生物多様性の保全を図るため、日本国憲法第29条第3項において「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」と規定されていることを踏まえつつ、英国のナショナル・トラストのように、ナショナル・トラスト活動を行う民間団体等がその所有する土地、建物等について将来にわたり保全し続けることを表明したときは、当該土地、建物等については売却や担保に供されず、また国会の議決があるなど特別の場合を除き、当該土地、建物等が強制収用されないこととする仕組みの可能性を検討することが必要である。
(2)土地の取得等の自然環境保全活動を行う主体の抜本的強化
イギリスにおいては、ナショナル・トラスト法に基づいて、国民の利益のために、美しい土地等を恒久的に保存することを目的とした法人である「ナショナル・トラスト」が設立されるとともに、この法人に対し、譲渡不能を宣言する権利が付与されたり、ナショナル・トラストに寄贈等された資産について税制上の優遇措置が講じられるなど、さまざまな特権が設けられ、その取組の推進が図られている。
わが国においても、土地の取得等の自然環境保全活動を、長期間、継続して実施し続けるため、またその活動への支援措置を講じやすくするため、英国におけるナショナル・トラストのように、自然環境保全活動の対象となっている土地等の資産を、個々の民間団体等が所有するのではなく、例えば、特定の法律により設立される法人が取りまとめて所有することも検討すべきである。なお、その土地等の維持管理に当たっては、当該特定の団体が、各地域において自然環境保全活動を行う民間団体等と協定などを締結し、当該民間団体等が維持管理に取り組むことが考えられる。
(3)土地における自然環境を保全するための新たな権利の設定
わが国においては、土地の所有権ほど強力ではないものの、土地を一定の目的の下に使用する権利として「地役権」がある。この「地役権」とは、一般的には、要役地(便益を受ける側の土地)と承役地(要役地の便益のために利用される土地)の間で設定される“付随地役権”と言われる権利である。
一方、米国においては、土地環境を保全する目的に反する活動を制限することができる権利として「保全地役権(Conservation Easement)」がある。これは地役権の一種であるが、わが国における地役権と異なり、人の便益のために他人の土地を利用する権利とされており、承役地の有無にかかわらず、土地の所有者と行政機関や公益法人等の契約により設定することが可能である。
わが国においても、民間団体等が自然環境保全活動としてより積極的に土地の保全を行うことができるよう、米国の「保全地役権」を参考に、これまで認められている “付随地役権”に限らず、人の便益のために他人の土地を利用する権利と捉える新たな地役権を設けることを検討すべきであると考える。
(4)自然環境保全活動の対象となる土地における自然環境に係る情報の整備等
わが国に存在する自然環境の基本情報については、自然環境保全基礎調査等により、縮尺5万分の1の植生図等が整備されており、また平成11年度からは、2万5千分の1の植生図への全面改訂が順次実施されている。
しかし、これまでわが国において行われてきた、自然環境保全を目的としたナショナル・トラスト活動では、数ヘクタールの土地が対象となる場合が多く、必ずしも十分な精度の情報は得られていない。
今回検討を行った民間団体等による自然環境保全活動を促進する仕組みをより充実させ、又は、その対象となっているような小規模の自然環境までを保全する措置等を検討するためには、そのような自然環境に関するより精度の高い基礎的な情報を整備することが必要である。
また、わが国における生物多様性が適切に保全されるためには、そもそも、わが国にどのような生物多様性が存在しているかといった基本的なデータが整備される必要がある。生物多様性基本法においては、地方公共団体は生物多様性地域戦略を策定するように努めることとされているところであるが、生物多様性に関する基本的なデータが整備されることにより、よりよい地域戦略が策定されることが期待される。
http://www.env.go.jp/nature/national-trust/conf_ncaco/rep0909.pdf
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