改正土壌汚染対策法の解説
土壌汚染対策法の一部を改正する法律案(第171回国会内閣提出第59号)については、衆議院においてその一部が修正された上で、4月17日、参議院において可決され、成立したところであり、4月24日、土壌汚染対策法の一部を改正する法律(平成21年法律第23号)として公布され、平成22年4月1日に施行の予定である(平成21年政令第245号)。
本稿では、法案提出の契機となった土壌汚染対策の現状と課題について触れた上で、本法による改正後の土壌汚染対策法(以下「新法」という。)について説明する。
なお、新法の条文、新旧対照表等は、環境省ホームページ* に掲載されているので、御参照いただきたい。
1 現状と課題
昨年12月、中央環境審議会会長から環境大臣に対し、「今後の土壌汚染対策の在り方について」の答申がなされ、この中で、土壌汚染対策の現状と課題として、
? 法に基づかない自主的な調査による土壌汚染の発見が増加しており、このような土壌汚染地については、情報が開示され、適切かつ確実に管理・対策を進めることが必要
? 最近の土壌汚染対策としては、健康被害のおそれの有無にかかわらず掘削除去が選択されることが多いが、掘削除去は汚染の拡散のリスクを伴うものであることから、汚染の程度等に応じて必要な対策の基準を明確化し、指定区域を健康被害のおそれの有無に応じて分類することが必要
? 汚染土壌の不適正処理の事例が発見されており、汚染土壌の適正処理の確保が必要
との指摘を受けたところである。
環境省は、これを踏まえて土壌汚染対策法を改正することとし、そのための法案を国会に提出した。
2 新法の概要
以下、新法について、主要な条項を解説する。条項については、特に断りがない限り、新法の条項である。
(1)土壌汚染状況調査
? 第3条第1項ただし書の確認を受けた土地の利用方法の変更時の届出義務
第3条第1項ただし書の確認の制度は、土地の利用の方法からみて健康被害が生ずるおそれがない旨の都道府県知事の確認を受けた場合に同項の土壌汚染状況調査・報告義務を免れることとするものである。しかしながら、当該確認を受けた土地の利用の方法が変更されることにより、当該土地の所有者や従業員以外の者が立ち入ることが可能となり、健康被害が生じるおそれがある場合もあり得る。
このため、当該確認を受けた土地の所有者等に対し、当該土地の利用の方法を変更する前に、変更後の土地の利用の方法を届け出させるとともに(第3条第4項)、都道府県知事は、変更後の土地の利用の方法からみて健康被害が生ずるおそれがないと認められない場合には、当該確認を取り消すこととした(同条第5項)。この取消しにより、当該土地の所有者等は、改めて同条第1項の調査・報告義務を負うこととなる。
? 土壌汚染のおそれがある土地の形質が変更される場合の調査命令
土地の形質の変更は、それが行われる土地に土壌汚染が存在する場合には、掘削工事に伴う汚染土壌の飛散、汚染土壌が帯水層に接することによる地下水汚染の発生をもたらし得るものであるし、掘削された汚染土壌が搬出されて埋立材に利用されることがあるなど、汚染の拡散のリスクを伴うものである。一方、現行法においては、指定区域外における土地の形質の変更について、何ら規制がない。
このため、土地の形質の変更(当該変更に係る部分の面積が環境省令で定める規模以上のものに限る。)をしようとする者は、当該形質の変更に着手する日の30日前までに、当該形質の変更の場所、着手予定日等を都道府県知事に届け出なければならないこととし(第4条第1項。ただし、後述する形質変更時要届出区域内における土地の形質の変更については、適用しない。第13条)、都道府県知事は、当該届出を受けた場合において、その土地が特定有害物質によって汚染されているおそれがあるものとして環境省令で定める基準に該当すると認めるときは、その土地の所有者等に対し、土壌汚染状況調査・報告を命ずることとした(第4条第2項)。
なお、「土地が特定有害物質によって汚染されているおそれがあるものとして環境省令で定める基準」としては、
?有害物質使用特定施設に係る工場又は事業場の敷地である土地又は敷地であった土地、
?特定有害物質が土壌に漏洩した土地、
?法に基づかない自主的な調査により汚染が確認されている土地、等を想定している。
(2)区域の指定等
土壌汚染により健康被害が生ずるおそれの有無にかかわらず一定の基準を超過する土壌汚染地を一律に指定区域に指定する現行制度の下においては、指定区域は健康被害が生ずるおそれがあり、危険な区域であるという安全サイドに立った判断が行われることにより、必ずしも汚染の除去等の措置を講ずる必要のない区域においても、掘削除去が行われることが多い。しかし、掘削除去は、大量の汚染土壌の搬出を伴うため、環境リスクの観点から望ましいものではない。
このため、一定の基準を超過する土壌汚染が存在する土地を、健康被害が生ずるおそれの有無に応じて分類して指定するとともに、健康被害が生ずるおそれのある区域については、都道府県知事が健康被害の防止の観点から最低限必要な措置を明示することとした。
? 要措置区域
都道府県知事は、土壌汚染状況調査の結果、土地の土壌の特定有害物質による汚染状態が環境省令で定める基準に適合せず、かつ、当該土地に人の立入りがあったり、当該土地又はその周辺の土地において地下水が飲用に供されている等、当該汚染により健康被害が生ずるおそれがある場合には、当該土地の区域を、要措置区域として指定することとした(第6条第1項)。都道府県知事は、要措置区域の指定をした場合には、当該土地の所有者等又は汚染原因者に対し、汚染の除去等の措置を講ずべきことを指示するものとし(第7条第1項)、この指示をするときは、講ずべき措置及びその理由等を示さなければならないこととした(同条第2項)。
この指示を受けた者は、指示された汚染の除去等の措置又はこれと同等以上の効果を有すると認められる汚染の除去等の措置を講ずる義務を負い(同条第3項)、都道府県知事は、この義務の不履行があれば、履行すべきことを命ずることができることとした(同条第4項)。
要措置区域内においては、都道府県知事から指示を受けた者が行う汚染の除去等の措置に伴うもの等を除き、土地の形質の変更を禁止することとした(第9条)。
? 形質変更時要届出区域
都道府県知事は、土壌汚染状況調査の結果、土地の土壌の特定有害物質による汚染状態が環境省令で定める基準に適合しないが、当該汚染により健康被害が生ずるおそれがない場合には、当該土地の区域を、形質変更時要届出区域として指定することとした(第11条第1項)。形質変更時要届出区域内については、土地の形質の変更を行うことによる新たな環境リスクの発生を防止するため、現行法第9条と同様に、土地の形質の変更時の届出等を義務付けることとした(第12条)。
(3) 指定の申請
現在では、土地取引等の際に広く自主的な調査が行われ、土壌汚染が発見されているが、このような法に基づかない調査により発見された土壌汚染地は、指定区域に指定されることはなく、法の規制の下で管理がなされていなかった。
このため、土地の所有者等は、自主的に土壌の汚染の状況について調査した結果、一定の基準を超過する土壌汚染が存在すると思料するときは、都道府県知事に対し、要措置区域又は形質変更時要届出区域(以下「要措置区域等」という。)として指定することを申請することができることとした(第14条第1項)。都道府県知事は、当該申請に係る調査が公正に、かつ、第3条第1項の環境省令で定める方法により行われたものであると認めるときは、当該自主的な調査を法に基づく調査とみなし、当該調査の結果に基づき、当該土地の区域を要措置区域等に指定することができることとした(同条第3項)。
(4) 汚染土壌の搬出等に関する規制
? 汚染土壌の搬出時の届出
要措置区域等内の土地の土壌(環境省令で定める方法により調査した結果、汚染状態が(2)?の環境省令で定める基準に適合すると都道府県知事が認めたものを除く。以下「汚染土壌」という。)を当該要措置区域等外へ搬出しようとする者は、都道府県知事に、当該搬出に着手する日の14日前までに、当該汚染土壌の汚染状態、体積、運搬の方法、当該汚染土壌を処理する施設の所在地等を届け出なければならないこととした(第16条第1項)。都道府県知事は、届出の内容が?に違反していると認めるときは、計画の変更を命ずることができることとした(同条第4項)。なお、非常災害のために必要な応急措置として当該搬出を行う場合や汚染土壌を試験研究の用に供するために当該搬出を行う場合には、届出の対象外とするが(同条第1項ただし書)、前者については事後届出が必要であることとした(同条第3項)。
? 搬出汚染土壌の運搬及び処理
搬出した汚染土壌を要措置区域等外において運搬する者は、環境省令で定める基準に従って運搬しなければならないこととした(第17条)。
また、汚染土壌を搬出する者は、自らが?の許可を受けた者(以下「汚染土壌処理業者」という。)であって当該汚染土壌を自ら処理する場合等を除き、当該汚染土壌の処理を汚染土壌処理業者に委託しなければならないこととした(第18条第1項)。
? 措置命令
都道府県知事は、汚染土壌を運搬した者が?に違反した場合、又は汚染土壌を要措置区域等外へ搬出した者が?に違反した場合において、汚染土壌の特定有害物質による汚染の拡散の防止のため必要があると認めるときは、これらの者に対し、当該汚染土壌の適正な運搬及び処理のための措置その他必要な措置を命ずることができることとした(第19条)。
? 管理票
汚染土壌を要措置区域等外へ搬出する者がその汚染土壌の運搬又は処理を他人に委託する場合には、当該者は、管理票を用いて、当該汚染土壌が適正に運搬、処理されたことを確認しなければならないこととした(第20条)。また、虚偽の管理票が交付されること等により、汚染土壌の運搬及び処理の確認に支障が生じることとなることから、虚偽の管理票の交付等を禁止することとした(第21条)。
? 汚染土壌処理業
汚染土壌の処理を業として行おうとする者は、汚染土壌の処理の事業の用に供する施設(以下「汚染土壌処理施設」という。)ごとに、当該汚染土壌処理施設の所在地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならないこととした(第22条第1項)。また、汚染土壌の処理が確実に行われることを担保するため、都道府県知事は、
1) 汚染土壌処理施設及び申請者の能力が、事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるものであること
2) この法律又はこの法律に基づく処分に違反し、刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者であること等の欠格事由に該当しないこと
に適合しているときでなければ、許可してはならないこととした(同条第3項)。汚染土壌処理業の許可については、5年間の有効期間を設け、更新を受けなければ失効することとした(同条第4項)。
さらに、汚染土壌処理業者は、環境省令で定める基準に従って汚染土壌の処理を行い(同条第6項)、汚染土壌処理施設に汚染土壌の処理に関する記録を備え置き、利害関係者に閲覧させ(同条第8項)、汚染土壌処理施設における事故が発生したときにその旨を届け出る(同条第9項)義務を負うこととした。
また、都道府県知事は、汚染土壌処理業者により処理基準に適合しない汚染土壌の処理が行われたと認めるときは、当該汚染土壌処理業者に対し、当該汚染土壌の処理の方法の変更その他必要な措置を講ずべきことを命ずることができることとした(第24条)。都道府県知事は、汚染土壌処理業者が1)又は2)に適合しなくなったとき等に該当する場合には、その許可を取り消し、又は1年以内の期間を定めて、その事業の全部又は一部の停止を命ずることができることとした(第25条)。
また、汚染土壌の処理の事業を廃止し、又は当該事業の許可が取り消された汚染土壌処理業者は、汚染土壌処理施設の特定有害物質による汚染の拡散の防止その他必要な措置を講じなければならないこととし(第27条第1項)、都道府県知事は、当該廃止した事業の用に供した汚染土壌処理施設の特定有害物質による汚染により、健康被害が生ずるおそれがあると認めるときは、当該施設を事業の用に供した者に対し、当該汚染の除去、当該汚染の拡散の防止その他必要な措置を講ずべきことを命ずることができることとした(同条第2項)。
なお、汚染土壌処理業の許可の申請手続を行うために必要となる申請書の様式及び記載事項並びに添付書類及び図面のほか、当該許可の基準、汚染土壌の処理に関する基準等について定めた、汚染土壌処理業の許可の申請の手続等に関する省令(平成21年環境省令第10号)が平成21年10月22日に制定・公布されたので、こちらも併せて御参照いただきたい* 。
(5) 指定調査機関
? 指定の更新
指定調査機関の指定に5年間の有効期間を設け、更新を受けなければ失効することとした(第32条第1項)。環境大臣は、この更新の際に、指定調査機関が経理的基礎及び技術的能力を有するか否か等を確認し、基準に適合していると認められない指定調査機関は、更新を受けられないこととした(同条第2項により準用される第31条)。
? 技術管理者の設置
指定調査機関は、土壌汚染状況調査等に精通した技術者として環境省令で定める基準に適合するものを技術管理者として選任し、土壌汚染状況調査等に従事する他の者の監督を技術管理者にさせなければならないこととした(第33条及び第34条)。また、指定調査機関が技術管理者の選任義務に違反した場合には、環境大臣は、その指定を取り消すことができることとした(第42条第2号)。
(6) 都道府県知事による土壌汚染に関する情報の収集、整理、保存及び提供等
都道府県知事は、当該都道府県の区域内の土地の土壌の特定有害物質による汚染の状況に関する情報を収集し、整理し、保存し、及び適切に提供するよう努めることとした(第61条第1項)。この規定により、土壌汚染の状況に関する調査や講じられた汚染の除去等の措置(いずれも法に基づくものであると否とを問わない。)に関する情報等が収集されることになり、第4条第2項や第5条第1項の命令が適切に行われること等が期待される。
また、都道府県知事は、公園等の公共施設や学校、卸売市場等の公益的施設等を設置しようとする者に対し、当該施設を設置しようとする土地の土壌汚染のおそれの有無を把握させるよう努めることとした(同条第2項)。
(7) 施行期日、経過措置
? 施行期日
本法は、平成22年4月1日までの間において政令で定める日から施行するが(附則第1条本文)、汚染土壌処理業の許可を受けようとする者は、本法の施行前においても、第22条第2項に準じてその申請を行うことができることとし、この規定は、公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとされた(附則第1条ただし書、附則第2条)。
これらの施行期日については、土壌汚染対策法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(平成21年政令第245号)により、それぞれ、平成22年4月1日及び平成21年10月23日と定められた。
? 経過措置
現行法の指定区域は、本法施行後、形質変更時要届出区域とみなし(附則第4条)、現行法の指定区域台帳は、形質変更時要届出区域の台帳とみなすこととした(附則第5条)。現行法の指定調査機関は、本法施行日に、新法第3条第1項の指定を受けたものとみなすこととした(附則第10条)。
以上が新法の概要である。環境省としては、引き続き、省令の改正等所要の準備を行い、新法の円滑な施行を図っていくこととしている。
http://blogs.yahoo.co.jp/atcmdk/51014082.html